ミラー! (535)意外に・・・。
未来が幼稚園へ体験入園。未来はとても楽しそうに毎日いろいろ話してくれた。未来は喘息持ちだから、運動は苦手なんだけど、園児達といっぱい走っても何もなかったと報告を受けた。心臓の病気も快方に向かっているし、そろそろ体力をつけるために、集団生活に入れたほうがいいのかもしれない。僕が主治医であれば、未来に集団生活を勧めるだろう。美紅の通っている幼稚園ではなくても、きっと同じように伸び伸び育ててくれる幼稚園はきっとあるかもしれない。
「パパ、今日ね、未来君がね、いじめっ子の大樹君からね、美紅を守ってくれたんだよ。美紅はね、未来君が大好きなの。パパ、明日で終わりなの?」
「うん・・・しょうがないけど・・・。また明日から、前田のお爺ちゃんのところや、遠藤のおじいちゃんのところのお世話になってね。」
未来と美紅は一緒に並んでご飯を食べながら、寂しそうにしている。明日の夕方にはもうお別れしないといけない。僕だって、最終の飛行機で伊丹に戻らないといけないし・・・。何とか一緒の幼稚園へ通わせてあげたいけれど、いい返事がないわけで・・・。
次の日、未来最後の体験入園日。そろそろ一番小さなクラスの入園願書の配布が始まっている。未来と美紅は仲良く手をつなぎながら、登園。初めての集団生活が心配だったけれど、何とか順応できている未来。やはり美里が撮影所にも連れて行っているからだろうか、少し考え方が大人びている面もあるけれど、でも園では子供らしい生活態度をしている。
先生によると、昨日学院の理事たちがやってきて、じっと未来のことを見ていたらしい。特別入園試験でも受けさせてもらえたらラッキーだよね。今すぐにとは言わないけれど、春の新学年から入園できたらいいのに・・・。未来と美紅を見送ったあと、園長先生に呼び止められる。そして園長室で話をする。
「昨日理事会がありました。」
「はい・・・。」
「丁度月例理事会ですが・・・。未来君のことについての検討会もありまして、昨日の未来君の行動を見られたみたいです。」
といってこの僕に書類を手渡す。内容を確認すると、特別入園試験のお知らせとある。条件もいろいろある。僕と彼女揃っての入園試験とか、入園時点で必ず僕の扶養者になってる事とかその他もろもろ・・・。試験日は1ヵ月後。
「本当に、ここまでもっていくことに大変時間がかかりました。春希君の実のお父様もこの幼稚園ですし、たくさん寄付もしてくださってますからね。未来君は春希君の実子だということも報告しました。いろいろ時間的に大変だと思いますが、チャンスを無駄にしないように・・・・。未来君なら大丈夫ですよ。本当に優しくて春希君に似て正義感がいっぱいで、賢く、いい子です。がんばってくださいね。」
と園長先生が微笑んだ。
幼稚園を出た後、僕は美里に報告。美里はとても喜び、ちゃんとその日はスケジュールを空けるといってくれた。そして僕もこの日は絶対有給をとろう!
ミラー! (534)体験
「僕も幼稚園へ行きたいな・・・。ねえ、ママ。僕も幼稚園へ行きたい。」
苦笑する僕と彼女。すると美紅がこういう。
「未来君、一緒に行こうよ。ねえ、いいでしょ?パパ。」
「え?一緒にいくことはできても、幼稚園の中には入れないよ。」
「どうして?未来君はそうして美紅と同じ幼稚園へいけないの?」
「だってね、未来の幼稚園へ入ってもいいですよって言われてないんだよ。」
悲しそうな瞳で見つめる美紅。最近未来と美紅は、一緒にいる時、よく遊んでいる。仲もいい。本当に一緒に通園させたい。そうだ、美紅の送り迎えの時だけでも、未来を連れて行こう。そうしたら先生の目に留まって少しは可能性が出てくるかもしれない。
そう思い、残りの3日間だけど、美紅の通園に未来を同行させる事にした。もちろん未来は付いてくるだけだよと言い聞かせて。
楽しそうに未来と美紅は手をつないで地下鉄の駅へ向かう。まるで双子のような二人。幼稚園へ着くまで、笑ったりしている二人を見て、本当にどうにかしたいと思った。未来と一緒にいるようになって、美紅は以前の美紅に戻りつつある。幼稚園の教室の前で、未来と美紅は手を振って別れる。本当に名残惜しそうな表情。ついには美紅が別れを悲しんで泣き出した。それに慌てる先生たち。
「どうしたの?美紅ちゃん?」
「山本先生。美紅ね、未来君と遊びたいの。パパがね、未来君はこの幼稚園に入れてもらえないからここでバイバイだって。未来君と一緒に幼稚園へ行けないのなら、美紅も幼稚園へ行かない!」
と、足をばたつかせて、泣き叫んだ。すると未来が美紅の手を引っ張って起こす。
「じゃあね、美紅ちゃん。僕とかえろ。家で一緒に遊ぼうよ。ね?いいでしょ?春希先生。」
んん・・・。どうすればいいか悩んでいる時に、僕の恩師である園長先生がこの騒ぎでやってきた。そして美紅から事情を聞く。
「ま、あなたが未来君?お名前いえるかな?」
「うん!僕は立原未来といいます。3月3日生まれの4歳です。ママの名前は立原美里。パパはいません。春になったら春希先生が僕のパパになるんだって。」
未来の言葉に感心する先生。すると園長先生が微笑みながら言った。
「じゃ、あと3日間、未来君、ここのお友達になる?」
「うん!」
そういうと、園長先生は担任の先生に言って未来を教室へ入れる。
「春希君、とてもいい子ですね。本当あなたの小さいころにそっくりで・・・。3日間あの子の行動を見て、理事長に相談してみましょう。もちろん入園できる確率は低いでしょうけれど・・・。未来君が使うものに関してはこちらでお貸ししますから、ご心配なく、春希君が送り迎えする3日間、未来君をこちらで預かりますね。」
僕は未来の病気のことを十分理解してもらって、お弁当だけ、あとで届けるように伝えて、幼稚園をあとにした。
ミラー! (533)母校へ・・・
8月も終わり、愛しい彼女は未来と共に、東京へ戻って行った。僕は相変わらず仕事三昧。病院と駐屯地を行ったり来たりの生活。また誰もいない家。必然的に何もない限り、昼と夜は駐屯地の食堂でお世話になる。一人暮らしってちょっと寂しいね。でも嬉しい事に、彼女が週に1回宅急便で冷凍したおかずを送ってきてくれる。それをひとつひとつ解凍して大切に食べている。冷凍だからちょっと味は落ちるけれど、彼女の料理はおいしい。料理が上手かった優奈よりも上手かもしれない。彼女は基本、だしはちゃんといちから取って、少々高くても有機野菜とか、国産のものを吟味してくる。今まで未来の病気のためにがんばってきたから出来ることなんだよね。
9月のある日、小学校の参観日を兼ねて、休みをとり、東京へ戻る。今まで仕事が忙しいと言い訳していった事がなかった参観日。優希は朝から張り切って、家を出て行った。参観日へ行く前に、同じ敷地にある幼稚園へ、未来の編入について相談しないといけない。
つい最近、未来の戸籍へ僕の名前が載ったからね。だからその戸籍の書かれた書類を持って、幼稚園へ相談に行く。もちろんアポイントメントは取ってある。
ある部屋に園長先生や学院関係者と共に入り、事情を説明する。できれば、新学年から未来をこの幼稚園へ入れたいと思っているということを伝える。基本的にこの幼稚園は、途中入園を受け付けていない。それを承知の上で、お願いに来た。この幼稚園の園長先生は、僕の恩師でもある。僕がまだ遠藤姓ではなく、弐條姓の頃から知っている先生。
「春希君。気持ちは十分わかります。でもね、一人許すと、他の家庭もってことになるでしょ?一番いいのは1年間、他の幼稚園で見てもらって、小学部をお受験するって言うのがいいと思うわよ。もちろん優希ちゃんも美紅ちゃんもこの学院、そしてあなたも小学部を卒業しているから、子弟枠と言うものがあるし・・・。」
「しかし、未来は一度も集団生活をしていないのです。誰も知らないところに放り込むよりも、仲のいい美紅と同じ幼稚園のほうが・・・。この場だけではなく、学院のほうで検討していただけないでしょうか・・・。一度、未来にも会ってもらえないでしょうか・・・。とても優しくていい子ですから。」
とりあえず、検討しなおし、また連絡するという事で、話をつけた。僕は頭を深々と下げて、幼稚園を後にし、参観日の行われる、小学部へ向かった。