ミラー! (527)準備
納涼祭。朝から準備している隊員たち。まあ僕は何もする必要がないからね。今日は休み・・・のはずだった。救護担当の医官が体調を崩し、休みを取った。だから僕が急遽救護本部につかないといけない。まあ暇だし、彼女と多分会えないから、遠目でみるだけでもいいかなあ・・・と思い、昼過ぎまで家でゆっくりしていた。
シャワーを浴び、制服へ着替え、自転車に乗っていつもどおりに駐屯地へ向かう。駐屯地へ向かう途中にあるアイスクリームショップ。そうだ、衛生隊員たちに差し入れをしようと、ショップへ寄って、全種類31種類かなあ、ひとつずつ注文して、シュガーコーンもつけてもらう。いつもここで一番でかいサイズのアイスを買って家で食べてたりする。まあいう1リットルくらいあるのかな?アイスは大好物だし。ここは一番好きなハーゲンダッツじゃないけど、いろんな種類があるから、つい帰りによって風呂上りのデザートとして買って帰って、3日であけてしまう。まあその気になれば一気に全部食べる事が出来るけれど、楽しみは取っておくたちなので・・・。
駐屯地へ入る前に、会場となるグランドへ向かう。自転車を停めて、衛生隊の出店の前へ。たくさんの隊員たちが準備中。数足りるかな。ちょっと心配。うちの隊は女の子が多いほうだしね。
「暑いでしょ?これみんなで食べて。」
と、近くにいた女の子に手渡す。みんなは「ありがとうございます!」といって一休み。みんないろんな種類のアイスをじゃんけんをしながら取り合っている。何とか足りてよかった。足りなかったらけんかだからね。こんな数を買ったからちょっと財布が寂しくなった。まあいいけど・・・普段使わないし。
「遠藤一尉。今日はご家族とか彼女来られないんですか?」
「え!1尉彼女できたん?奥さん亡くなられてまだ半年ですやん。」
「嘘やん!やっぱり家柄のいい人は、違うかも・・・。」
ちょっとした騒ぎ。一部の人は僕に結婚前提で付き合っている人がいるって言うことを知っている。もちろん誰かは知らないけど。
「子供たちは東京。彼女はねえ・・・なんというか。今日は会えないかも。仕事でね・・・。」
何でですか!何でですか!って若い陸曹や陸士たちがこの僕に聞いてくる。まあ裏では色々言われていることくらい知っているよ。奥さん亡くなって1年経ってないのに、彼女作っておかしいとかなんとか・・・。この僕をよく思っていない人もいるにはいるからね。あるサイトの掲示板に名前を伏せた状態で書かれていることくらい知っている。あることない事。まあいいたい奴は言っておけばいいよ。
本当であれば、再婚なんてするつもりはなかった。でも子供たちのことを考えて、再婚相手を探していたわけだし、僕の前に現れて、この人ならと思えたのは美里だけだし・・・。美里がいなければ、再婚はしていないと思う。それだけはいえる。
「いつ結婚しはるんですか?再婚。相手の方は初婚?」
「春かな?とりあえず、なくなった妻の1周忌は終えないとね。本当であれば、3年はおきたかったけれど、いろいろ家系的にあるから・・・。相手とはお互い子持ちだしね・・・。いずれ紹介するよ。来年まだここにいたら、記念祭には来て貰うようにするし・・・。じゃあがんばってよ。」
と、その場を離れる。今の勢いではぽろっと美里のことを言ってしまいそうだしね。
ミラー! (526)最後の検診
いつものように検診患者の最後にやってくる未来と彼女。今日が最後だから、東京の病院への報告を兼ねた診断書を作成し、手渡さなければならない。だから今日の診察はいろいろあって時間がかかる。周りは僕らの関係を知らないから、ホント何もないかのように淡々と診察が進んでいく。未来も特に変わったことなく、主治医のいる病院へ引継ぎができそうだ。
「はい、いいですよ。これで終わり。書類は後で渡しますね。」
と、僕は未来の頭を撫でる。
「春希先生、また会える?」
「んん・・・。また会おうね。先生は当分未来君の診察はしないけど、向こうの先生の言うこと聞いて、いい子でいなさいね。」
「うん・・・。」
未来は勘違いしている?もう会えないのかと・・・。なんか悲しそうな表情でこの僕を見る。
「さあ、行きましょ?未来。」
と彼女が未来の手を引き、診察室を出る。僕は書類を書くためにパソコンに向かって半年間の所見やらを書きとめていく。もう未来を患者として診ないだろうね。
今、裁判所に未来のことについての手続き中。あと娘のみくの漢字表記変更手続きも。今日別れると、本当に当分会えないんだよ。彼女は東京へ戻ってしまう。もちろん未来と共に・・・。遠距離恋愛のスタートだ。今度会うときには、未来は正式に僕の子どもとして扱われる。認知され、未来の戸籍の父親欄に僕の名前が載る。美里と僕の子どもとして再スタート。
そんな事を感じながら、パソコンで書いた所見をプリントアウトし、僕の名前のところに印鑑を押し、病院の封筒に入れて封をしてカルテと共に看護師に手渡した。これで臨時の主治医としての役割を果たした。これからは未来の父親としてがんばっていこうと思う。
ミラー! (525)通常生活
通常業務となり、また単身赴任の一人暮らし。食事はまあ駐屯地の食堂で食べているからいいとして、なんか寂しい。婚約者の美里も京都の仕事が終わり、8月いっぱいで東京へ戻るらしいから特に寂しい。僕担当の未来の検診も今月で最後なんだよね・・・。
徐々にだけど、仕事を減らしている彼女。10月から決まっていた映画の降板も決まって、ちょっとした騒ぎになっているみたいだ。だってさ、今年の春から公開されている映画に主演している彼女の評価はとても高く、相当期待されていたみたいだから。これからはCMやモデルの仕事中心にすると宣言したらしいよ。
もちろん結婚の話は表に出ていない。意外なのは、彼女に彼氏がいることさえ世間に知られていないことかな・・・結構彼女と出かけたりしているのにね。
駐屯地の納涼祭があと1週間に迫り、関係者たちは準備で忙しい。僕が所属している衛生隊も、若手中心に出店準備で大忙し。でもお祭り騒ぎが好きなみんなだから別に苦になっていないみたいだ。僕が手配したゲストも何とか決まって、あとは最終打ち合わせを待つのみらしい。すると、担当陸曹が、僕のデスクを訪れた。
「遠藤一尉。本当に感謝しています。盛り上がること間違いなしです。低予算で新人グラドルと、一流女優を呼べるなんて・・・。ありがとうございます!これは実行委員からの差し入れです。」
といって僕に大好きなケーキ&キャラメル1ケースを差し入れてくれた。僕の甘い物好きは有名だからね。ありがたく受け取る。ケーキは僕が在籍している幹部室のおやつとなり、キャラメルは僕が全部貰ってストック。タバコも酒もしない僕の大切な息抜きであるキャラメル。ポケットには必ず入っているんだよね。
ゲストの変更が隊員に知れわたって、もう現場は盛り上がっている。女性隊員は興味ないと思っていたけれど、トレンドリーダーの立花真里菜が来る事にとても嬉しいらしくて、張り切っている。うちの衛生隊女性隊員は当日浴衣を着て売り子をするんだって言って、休日に買いに行こうといってたり、雰囲気はホント盛り上がっている。仕事はどうした?仕事は???立花真里菜こと、僕の婚約者の美里は、この日のために京都でとてもステキな浴衣を新調したらしい。もう一人の女の子の分まで。控え室できちんと着付けからヘアメイクまでするんだって彼女まで張り切っているんだよね。
このイベント出演がなければ、彼女や未来と納涼祭を楽しもうと思っていたのに・・・多分時間はない。彼女によると未来はお姉さんのところへ預けるみたいだしね・・・。多分自宅にも泊まってさえくれないんだろうね。寂しいかも・・・。