『モロー博士の島 他九篇』
第1刷が発行されたのが1993年らしい。本作をあまり書店で見掛けた覚えはなかったのだが,今年になって第7刷が発行されたらしく,たまたま遭遇。で,購入。
2か月ほど前に読んだのだが,この記事を書くにあたって目次を見返してみた。9篇の短編の題名を見てその内容を思い出せるのは表題作を含めて2,3篇だが,冒頭部分を読み返すと全作思い出すことができる。記憶の断片が残ってた??・・・ってことは,2か月前私はこの本をかなり面白く読めていたってことなんだろうな・・・。
表題作の「モロー博士の島」は,昔よく深夜放送(?)で見たB級映画の印象が強い。この原作を読んだ際にも映像が浮かんだ。
巻末では,『ロビンソン・クルーソー』や『ガリヴァー旅行記』といった冒険ユートピア小説とこの「モロー博士の島」を比べていて,先の2作がダーウィン以前であったのに対し,「モロー博士の島」がダーウィン以降であることにより,決定的な違いが生じている,と解説されている。この解説もなかなか面白かった。
『崩れ』
この作品,数カ月以上前に読んだもの。
地質学・防災学の専門家の方から,本書の存在を教えてもらった。
70歳を過ぎてから,山や河川上流域など日本各地の土砂崩壊現場や火山を直接見に行き,そこで感じたモノ・コトをレポートしたのが本書。
そのレポート内容は,文学者である著者独特のエモーショナルなものとなってる。
職業上,自然災害に関するレポートを目にすることはあるが,それらは科学的,技術的な見地から書かれたものがほとんどである。
ノンフィクション作家によるレポートも散見するが,文学者の視点で描かれた自然災害レポートは希少だ。
幸田文という作家が,このような内容のものを書いていたなんて全く知らなかった。
老体にムチ打ち,日本各地の土砂崩壊現場にわざわざ出向いて行ったのはなぜなんだろう?どんな動機があったのだろう?そこが一番知りたいところである。
『理科系のための英文作法』
もうホント,今更!って感じがタップリなんだけど,こんな本を読んだ。
少しでもマシな英語の論文を書けるようになれればと・・・・・。いい歳して,何を今更だよな・・・。
kindleを購入して,電子版で読み終えた最初の本がコレ,ってことで,恥ずかしいけど記録しておく。f^_^;
電子版で読んで良かったと思えるのは,途中判らない英単語が出てきたときに,その単語を指で押さえると,その単語がハイライトされて,直ちにkindleに内蔵されている英和辞典に跳んで,ポップで意味や用法などを表してくれることだ。
おかげで細部に拘ることなく,本筋がスイスイ読めた。
今後,このテの本は電子版で読もっと!
肝心の中身についても目から鱗のコトばかりで,英語論文を書くときには傍らに置いておくべき本になりそうだ。
日本語の文章を書くときにも役に立つ内容が満載。お薦めです。
『大陸と海洋の起源』
- ず~っと読みたかったんだ,コレ。
どの書店でも見かけない岩波文庫のなかの一つ。 増刷?復刊?してくれないものの一つ。
ひと月ほど前だったか? 急に思い立って古書店で購入。上巻が1987年発行版,下巻が1983年発行版のものだった。定価だった・・・。
『種の起源』
などと並ぶ科学啓蒙書の古典の一つ。
耐震設計やら耐震診断だのといった業務を行うことも多い職種上,地震の発生起源などについてもソコソコの知識を入れとかなきゃならない。そうすると必然的にプレート・テクトニクス なんてことにも立ち入らざるを得ない・・・とか,言ってるけど,子供の頃からこのあたりの分野に興味はあったんだ。だぶん。
プレート・テクトニクスが提唱されるだいぶ前から,かつて大陸は大きな一塊で,それが分裂し,移動することを世に知らしめようとしていた人達がいた。そんな人達の中の代表格がヴェーゲナー。本書の出版によって歴史に名を残すことになった。
21世紀初頭の今だから,本書の主張の中に多くの誤りがあることが明らかであるが,大まかな理屈・理論は現在でも充分な説得力を持つ内容である。
まさにオリジナルな学説。
応用の進んだ科学や技術の分野では,あえてオリジナルに触れようとすることって案外少ないんだけど,こういうのを読むと,折に触れて原点に返ることも必要なんだろうな,と思うのであった。
お薦めです。
『天国の囚人』
だいぶ前の読了本で記事にしてないのが幾つもあるのだが,最近読み終えたコチラを先に記事にしてる・・・。
こんなことをしてると,当ブログが読書メモの呈を成さなくなって行くのだが,もうすでに手遅れか。。。
ルイス・サフォンの「忘れられた本の墓場」シリーズの第3弾。
第1作『風の影』 と第2作『天使のゲーム』 では,主人公が異なり,また二つの物語の時代も違っていて,2作がシリーズものであることを意識する必要もなく,独立した作品としても読めた。
本作も含めて,ここまでの3作は,お互いに連関していながらも,読む順番を気にする必要がないように構成されているようだ。 ・・・ん~っ,見事!
で,本作だが,第1作『風の影』での主人公=ダニエル・センペーレとフェルミン。この二人がまたしても主人公となっている。
本作では,謎の男フェルミンの過去が明かされるが,そこに絡んでくるのが「天国の囚人」こと,ダビッド・マルティン。そう,第2作での主人公である。
フェルミンとダビッド,かつて2人は同じ監獄に収容されていたことがあったのだ。この2人の関係,そして二人を取り巻く人物達が,時を経て,ダニエルにも関係してくる・・・。
そして,すべての作品が連関しだしてくる・・・・。
読み終わって,私の理解(推測)するところでは,シリーズ3作目の本書は,第1作と第2作を繋ぐ要の物語を成しており,それとともに,シリーズを通して流れている謎が何であるのかを整理しているように思える。
おそらくは最終第4作で解明されることになるであろう謎が何なのか? それを読者に再認識してもらうような親切な設計が成されている?(私の勝手な思い込みかもしれない・・・それも最終作で明らかになる。。。)
最終作では,
ダニエル・センペーレとダビッド・マルティンの2人の行く末は?
作家フリアン・カラックスとは?
そして,忘れられた本の墓場とは?
が明らかになるのだろうか????
最終作の訳出はいつなんだろ!? 楽しみです。
『読書狂(ビブリオマニア)の冒険は終わらない!』
大学のゼミ合宿だったり,遠方の出張先での飲み会だったり,日常を過ごす所とは違う何処かで泊まり込みで何かをする合宿・・・。
学生の頃の部活の合宿など,このテのことが割と好きだ。
で,今,モンハン合宿と同じくらいやりたいのがビブリオ・バトル合宿。
自分の好きな本のことや,嫌いな本のことなどを,本好きの仲間と飲みながら夜通しダベルだけ。そんな合宿をやってみたい。
それに近いことを売れっ子ラノベ作家二人がしてる。
ホント,ただの雑談集。でも,こういうのが好きなんです。私。
二人が羅列した本の中で,私が真っ先に読みたいと思ったのが,平凡社の東洋文庫から出てるという,勝海舟のオヤジ小吉の自伝『夢酔独言』。
海舟のオヤジは,案外ダメな奴っぽかったらしくて,そんな人物がなんだか偉そうに子孫に向けて喋ったことを文字にしたものらしい。
大きな書店に行けば,東洋文庫も置いてあるだろう。探してこよっと。
『黒い瞳のブロンド』
今月は,カルロス・ルイス・サフォンの新作とフィリップ・マーロウもののパスティーシュが出るということで楽しみにしていた。
さっそく両方とも読んだ。
サフォンのは,前2作を繋ぐ役割を果たしており,おそらくシリーズの中核をなす作品であり,かなりの謎が明らかになりつつある。・・・といっても,まだまだ深まる謎は多々あり,次回最終作への期待は膨らむばかりだ。
で,マーロウものの方である。。。
- the black-eyed blond (2014)
- 『黒い瞳のブロンド』 ベンジャミン・ブラック/著, 小鷹信光/訳, ハヤカワ・ポケット・ミステリ(2014)
私立探偵フィリップ・マーロウの事務所を一人の美しい女が訪れる・・・。 絶世の美女クレアが持ち込んだ人探しの依頼。 なぜクレアはその男を探すのか? 理由を聞いても今一つ納得できないマーロウ。 だが,美女の依頼とあっては断る理由もない。
- ・・・・・物語の始まりはイメージどおりだ。
事件に巻き込まれるストーリーの展開も,街や人の描写も,チャンドラー・スタイルを踏襲しているように思える。
だが,読み進めていく過程で何か引っ掛かるものがある。 なんだろう?
違和感を抱えながらも読み終える。
特別の面白さはない。 かと言って駄作でもない。
それよりも違和感だ・・・。 どうにも釈然としない読後感だ。
読後しばらくして,風呂に入ってボーっと考えていて浮かび上がってきたのが,以下のようなことだ。
さっきまで読んいた小説の主人公の私立探偵は本当にフィリップ・マーロウだったのか?
マーロウっぽくなかったのでは? そこに違和感があったのでは? なぜマーロウっぽくなかったんだ?
この物語の探偵はやたらと依頼人の女のことばかり考えていた。それもメメしい感情を読者に対してあからさまに撒き散らかしながらだ。
私の記憶の中の“チャンドラーが描いたマーロウ”はそんな男ではなかった・・・はずだ。
過去のフィリップ・マーロウものの記事
『ロング・グッドバイ』 『さよなら、愛しい人』 『リトル・シスター』 『大いなる眠り』
最近の読了本,列挙
2014.10/19記
『大東京ぐるぐる自転車』 伊藤礼/著, ちくま文庫(2014)
『身近な虫たちの華麗な生きかた』 稲垣栄洋/著,小堀文彦/画, ちくま文庫(2014)
2014.10/13記
『特捜部Q 知りすぎたマルコ』
ユッシ・エーズラ・オールスン/著, 吉田薫/訳, ハヤカワポケットミステリ(2014)
『原発事故と放射線のリスク学』
中西準子/著, 日本評論社(2014)
『崩れ』
幸田文/著, 講談社文庫(1994)
『生命誕生』
中沢弘基/著, 講談社現代新書(2014)
『モロー博士の島 他九篇』
H・G・ウェルズ/著, 橋本槇矩・鈴木万里/訳, 岩波文庫(1993)
『大陸と海洋の起源 (上)(下)』
アルフレート・ヴェーゲナー/著, 都城秋穂・紫藤文子/訳, 岩波文庫(1981)
『たとえ傾いた世界でも』
トム・フランクリン&ベス・アン・フェンリー/著, 伏見威蕃/訳, ハヤカワポケットミステリ(2014)
『その女アレックス』
ピエール・ルメートル/著, 橘明美/訳, 文春文庫(2014)
『カルニヴィア2 誘拐』
ジョナサン・ホルト/著, 奥村章子/訳, ハヤカワポケットミステリ(2014)
『原発事故と放射線のリスク学』
- 記事を書くのも久しぶり。
- たしか本書は2カ月以上も前に読んだんだっけ・・・。
- 『原発事故と放射線のリスク学』 中西準子/著, 日本評論社(2014)
あれは確か,環境ホルモンやらダイオキシンの問題がまことしやかに世に流れ,マスコミとそれに踊らされた世間がアタフタしていたのも少しは落ち着いた頃のことだった。
化学物質が人体に及ぼす影響について,ファクト(事実)だけに基づいた分析を行い,健康へのリスクを定量化した 『環境リスク学』 という本を読んで,少しだが蒙を啓かされたのだった・・・。
その著者が中西博士。 かなり信頼の高い科学者。
そんな中西リスク学が,汚染された福島県浜通りの除染事業と住民の方々の帰還・移住問題に切り込んでいる。
この中西博士の提言によれば,除染事業の非効率性と住民の方々の帰還・移住問題が,現在の膠着状態を脱し,前進できるのではないかと思えてくる。
もっと,中西提言を大々的に広めてはどうなのだろう?と思った。
一方,過日読んだ 『リスクにあなたは騙される』 と本書を同時期に読んだからか? ヒトが冷静にリスクを判断できないのも,もっともかなと想いながら読んだ覚えがある・・・。
『整形前夜』
緩やかで,柔らかで,ぬく~いエッセイ集・・・・・の様相を呈している。
多くの読者が多少なりとも日常の生活や社会の仕組みや他人との付き合いに対して違和感を感じることがある。自分だけが違うんだろうか?? という感覚。
そんな,何となく感じている読者の想いを,ホムラは巧く表すことができる。だから,ホムラ・エッセイは受けるのだろう。
だが,ところどころ,意地の悪い視点から世の中を見ている著者が浮かび上がる文章がある。
一般読者が思ってもみなかった,ホムラ独自の感覚を披露する文章がある。
そんな文章には,“社会に上手に溶け込めない”と自らを評しながら,実は社会に溶け込みたいなどと全然思っちゃいない(ように見受けられる)ホムラが垣間見える。
そんな文章がイイ。