『天使のゲーム』
ついに出た!
カルロス・ルイス・サフォンの新作。「忘れられた本の墓場」シリーズ四部作のうちの第2弾。
前作『風の影』 から待つこと6年・・・。 待たせるなァ~ ( ̄_ ̄ i)
最初っから言っときますね。お薦めです。読んだ方がいいです。
『風の影』を読んでいない人でも大丈夫です。こちらを先に読んで、後で『風の影』を読んでもいいです。
では、簡単に作品紹介。
時は1917年。場所はバルセロナ。
主人公は作家ダビッド・マルティン。
戦争で心に痛手を受けた父親に育てられ、貧しく暗い子供時代を過ごした彼の唯一の楽しみは、「センペーレと息子書店」に通い、本を読ませてもらうこと。
十代で父親を亡くしたダビッドは一人生きてゆくことになったが、新聞社での雑用仕事を与えられていた。そんな彼に短編を書くチャンスが巡ってきた。彼の短編は好評を博し、1年後に独立し、プロの物語作家としてミステリーの連載を開始する。そして彼は、以前から憧れていた“塔の館”に移り住む・・・。
“塔の館”に暮らし始めてから彼の生活は一変する。
彼の描くミステリを出版する会社とのトラブルに見舞われ、体も変調をきたす。
ダビッドの憔悴した様子を見た書店主センペーレ氏は、彼を「忘れられた本の墓場」へと導く。
ダビッドはそこで『不滅の光』という本と出会う。その本の著者はディエゴ・マルラスカ。D.M.・・・ダビッドとイニシャルを同じくする彼こそは以前の“塔の館”の住人・・・。
体の変調が日に日に進行しているダビッドにある日、謎の編集者アンドレアス・コレッリから“新たな物語”の執筆を依頼される。多額の報酬と「望むもの」を与えると云う・・・。
コレッリの邸宅で一晩ぐっすり眠ったダビッドの前には10万フランが置かれている。しかも、体調も回復している・・・。
コレッリ邸から“塔の館”への帰宅途中。ダビッドが契約している出版社が放火されて経営者が亡くなったという報がもたらされる。すると、ダビッドと前契約出版社との間にあったトラブルは解消することになる。だが、ダビッドの前には刑事たちが現れる・・・。
警察からマークされるダビッドは、“塔の館”の以前の住人であり作家でもあったディエゴ・マルラスカの過去を調べ始める。マルラスカが不審な死を遂げていること、生前のマルラスカを襲った悲劇とその後の奇妙な振る舞い、彼の死に関連する人物たちの行方、などが判明するにつれ、マルラスカと自分との共通点が見つかってくる・・・。
マルラスカの死に囚われるダビッド。物語は佳境を迎える。。。
作者が描く100年前のバルセロナは、常に霧が立ち込めているかのような街であり、そこに暮らす人々の顔は暗く表情に乏しい・・・。
主人公ダビッドが経験する世界はイマジナリーとリアルが交錯・混在している。
物語全体の雰囲気を例えるなら、観客席と舞台の間に薄い紗幕が掛かったまま進行する劇を透かし見ている感じ。“ゴシック”という言葉がピッタリの街と時代と登場人物達。
と、まァー、下巻の途中までは物語世界をじっくり味わってください。
クライマックス以降は一気読み必至ですから。
物語終盤、ダビッドを追ってきた刑事の一言によって読者は驚愕させられる。このたったの一言が、物語全体に敷設されていたギミックを稼働させることになるのだ。
エピローグでは、その仕掛けによってダビッドに一種の安寧が訪れることを知らしめて物語が閉じられ、同時に、読者にもカタルシスがもたらされる。
そして、全文を読み終わった読者は、余韻に浸りながら『天使のゲーム』という書名の意味、その書名に託された物語自体の奥行きの深さに気付く。
さて、この記事では、女性登場人物には敢えて触れずにきたが、二人の女性が主人公ダビッドに大きく関わる。プロット上も重要な役割を担っている。この二人の女性が非常に魅力的に描かれているのも本書の素晴らしいところ。
それと、読んでいる最中、脇役として登場する作中人物の数人にはどこかで出会ったという既視感を持つ。
前作『風の影』を引っ張り出してきてみると、この既視感に納得する。
やはり2つの作品は緩やかに関連している・・・。そうしたことに面白味が見いだせるのも本書のお薦めどころの一つ。