『アイアン・ハウス』
テーマ:ミステリーとか早川書房は、本書を文庫版とポケミス版の2形態で出版している。値段は同じ。文庫は上下2巻構成だが、ポケミスなら1冊で済む。
個人的な好みから云えば、新書形態のポケミス版で読みたいところだが、私の場合、ジョン・ハートの過去作品は文庫で読んできているため、今回も文庫の方がそれらと隣り合わせにして本棚に収納できるので都合が良い。
別段、文庫と新書を隣り合わせにしたっていいのだが、現在の私の本棚の構造上、文庫用と新書用とでは収納高さが異なっており、スペースを有効活用するために、こうした事態が起こる・・・。
・・・どうでもイイ話でしたね。失礼しました。
さて、ジョン・ハートがストーリー・テラーだってことは過去の3作を読んで判っている。どれも高品質の作品だ。
本作品もアッと言う間に読めてしまう。
犯罪組織を抜けると言い出したことから、組織に狙われる羽目となった主人公マイケル。
犯罪組織の一員であり、数々の殺人に手を染めてきたことを隠して付き合っている恋人エレナが狙われることになる。エレナが勤めるニューヨークのレストランが爆破され、多数の死傷者が出る事件が起こる。運良く難を逃れていたエレナを連れ、ひとまずニューヨークからの逃亡を計画するマイケル。
そんなマイケルに掛かってきた電話。組織は、子供の頃別れ別れとなった弟ジュリアンまでを盾に取ろうとしている・・・。
2人を守るために、組織との対決を決意したマイケル。彼は恋人エレナを連れ、弟ジュリアンが暮らす地へと向かう・・・。
マイケルとジュリアンは、ごく幼い頃に親に捨てられ、10歳・9歳になるまでアイアン・ハウスという施設で育てられた。体と精神の弱いジュリアンは、施設の子供達から虐めの対象となっており、マイケルはそんな弟を守る毎日を送っていた。
ある日、彼ら兄弟を引き取ろうと、上院議員夫妻が施設を訪れる。そんな最中、虐めにあっていたジュリアンが相手の一人を殺してしまった。その現場にいち早く駆けつけたマイケル。ジュリアンの体と精神では、捕えられ尋問などされ、さらには収監などされたら死んでしまう。そう考えたマイケルはジュリアンの身代わりになり、上院議員夫人の目前を駆け抜け、施設からの逃亡を図る。
施設から引き取られたジュリアンは、上院議員夫人からの愛情と恵まれた環境の中で育てられ、今は児童書作家として世間から認められるまでになっている。しかし、未だアイアン・ハウスで受けたトラウマを完全に克服するまでには至らず、発達障害による情緒不安定も時折顔を覗かせる・・・。
マイケルが上院議員夫妻とジュリアンの元を訪れた時もまた、ジュリアンは自分の殻の中に閉じこもっている最中だった。精神の奥底では、子供の頃の自分を守ってくれた憧れのマイケルが来てくれたことを理解しているにも拘らず、現実に向き合えないほど、何らかのショックを受けているジュリアン。しかも、マイケルが来宅している最中、ジュリアンは忽然と姿を消した。何故ジュリアンの精神状態は最悪の状態に落ち込んでいるのか?ここ上院議員の邸宅と敷地内で何が起こっているのか?
マイケルの過去と、マイケルが犯罪組織の一員だったことを聞かされ、動揺を隠しきれない恋人エレナは衝動的にマイケルから離れる。そんなエレナを捉えた組織。ジュリアンとエレナ、2人を同時に守らなければならない、という板挟みに会いながら、マイケルは組織との戦いに挑む・・・。
場面展開はスピーディで、数々のアクション・シーンは迫力も迫真さもある。
でも、今までのジョン・ハート作品と比べて何処か物足りなく感じる。 なぜか??
一つには、主人公のマイケルが余りにもスーパーマン過ぎること、そしてマイケルにとって都合のイイ事ばかりが起こること、が挙げられる。リアリティさに欠ける・・・というのかな?
そして、何よりも決定的なのは、エレナの性格描写が貧弱すぎると感じられるのだ。
そもそもこの物語は、恋人エレナに対する想いからマイケルが犯罪組織を抜け出すことに端を発している。にも関わらず、マイクルは何故そこまで彼女に対する想いが強いのか?が伝わってこないのだ。
恋人に対する強い想いについては、コトある毎に2人の会話として描かれてはいる。しかし、彼女がそれほどまでに魅力ある人物なのかが何か特別なエピソードを通して描かれているわけではない。ただ、マイケルが好きになったという前提があるだけなのだ。
つまり私には、マイケルの恋人エレナという人間の魅力が判らなかったのだ。それほどまでの女なのか?と思わずにはいられなかった。
一方で、上院議員夫人アビゲイルが何故ジュリアンをそれほどまでに慈しむのか?については、それがストーリー中の謎の解明を担う要素の一つともなっており、実に良く描けている。
むしろ、このアビゲイルこそが主人公だと云ってもイイくらい彼女は良く描けている。
マイケルがかつて属した犯罪組織との戦い、上院議員宅地内の湖から発見されたアイアン・ハウス出身者の死体とジュリアン失踪の謎、この2つの大きなプロットそれぞれが余りにも複雑な様相を呈しながら展開する。
だからなんだと思う。プロットを複雑にした分、主人公マイケルと弟の養母アビゲイル以外の周辺人物たちの描写が単調になり過ぎたのではないか?という気がしてならないんだ。
これまでのジョン・ハート作品に感じられた、人・家族に対する深い洞察というものが全体を通して足りなかったように思えた。そこが惜しい。ジョン・ハートという高レベル作家の作品ゆえの贅沢な要求かもしれないけど・・・・・。 それでもお薦めなんだけどね。


























