『リスクにあなたは騙される』 | 本だけ読んで暮らせたら

『リスクにあなたは騙される』

『リスクにあなたは騙される』  ダン・ガードナー/著, 田淵健太/訳, ハヤカワ文庫(2014)


名著。

読むべき1冊。


私自身の独断的所感も少々交えて,主だったところを抜き出しておく。



■ヒトは,客観的(理性的な)なリスク認知がなかなかできない。



■感情が先に立つのはヒトの進化の過程で生じたこと。感情は理性とは異なり,意識的に認識することなく働き,予感や直感として,あるいは不安や心配や恐れなどの情動として経験する瞬間判断の源泉である。



■こうした感情・情動による判断システムは,最近数百年のテクノロジーによって変容した現代世界を生きる上で生み出されたものではない。遊動性の集団の中で暮らし,動物を狩ったり植物を採取したりすることによって生き延びなければならなかった環境で(数万年の間で)鍛えられてきた判断システムである。


感情による判断は,単純な経験則の適用である。その経験則とは,何かの例が簡単に思い出されればそれは一般的なものだと自動判定する。また,正しい答えがはっきりせず推測する場合,感情による判断は最も手近にある数字や最近聞いた数字に飛びつくと言われる。理性はそうした感情による判断を調整しようとするが,調整は不十分になりやすく,最終的な推定は最初に連想された値に偏ることになる。


ヒトは,落ち着いていて,冷静で,慎重に考えているときでさえ確率に目を向けているわけではない。理性的な訓練された判断だけが,確率を気に掛けるが,ほとんどのヒトは感情を修正するために理性を働かせる努力をすることに慣れていない。ヒトは自然に直観的判断に従う。


確実性が確率の判断に影響を及ぼす。100%から95%の変化は,65%から60%への変化よりもかなり大きな重みを持ち得る。世の中を動かす現実的判断の色合いは常にグレーであるが,白か黒かで考える傾向がある。


ヒトは,「数字」と「物語」に対して異なる反応を示す。統計上の抽象概念である数字には出来ないやり方でヒトの心を動かすことが出来るのが物語やイメージ。物語やイメージは,数字に欠落している感情に満ちている。


■「予防原則」は,リスク規制に関する実際的な助言を与える原則になっていない。「予防原則」は行動を取ることと取らないこと,その中間を禁じ,身動きのとれない状態にする。予防原則は本来必要とする措置そのものを禁じることになりかねない。