現代日本経済の時系列分析 | 批判的頭脳

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創造的破壊を希求し、而して破壊的創造を遂げる。

noteにて、「望月夜の経済学・経済論 第一巻」発売中!

他にも
「中央銀行の存在意義と機能限界」

「「信用創造」(銀行融資による通貨創造)に関する誤解とその修正」

「バブルと長期停滞の関係と対策 / "北欧モデル"の落とし穴」などなど...



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現代日本経済の歴史的経緯について、色々な俗説が蔓延っているという現状がある。

そうした俗説を批判する意図で、現代日本経済時系列分析をやっていこうと思う。まずはバブル期から。
資金循環統計からみた日本経済の動き」で引用されている部門別資金過不足の推移を見ると、1985-1988にかけて家計の資金余剰が低下し、家計借入の増加をうかがわせる。家計資金余剰は後に戻るが、代わりに企業借入が増加する。



「家計資金余剰の低下」というだけなら、単に他の経済主体の負債形成の低下を反映しているだけかもしれないので、一応マネーストック増加率を参照しておく。(日本銀行の主要時系列統計)当然のことかもしれないが、1985-1988は特にMS増加率に低下は無く、どちらかといえば上昇傾向にある。




1986からの家計or企業の負債形成増加にも拘わらず、インフレ率は高くない。(平均的にはむしろ低め)



もう一度資金過不足を見ると、政府が資金余剰側に傾倒している(財政黒字)ことがわかる。





「民間(家計or企業)の負債増加」「その負債増加にも拘わらずインフレ率低迷」「財政が黒字転化」
これらのサインは
バブルと長期停滞の関係と対策
財政"黒字"の危険性
で論じたように、典型的なバブル経済の所見ということになる。
(このブログの内部の記事としては、低成長経済における金融財政政策のトリレンマ  (及び 成長批判のトリレンマ再訪)、およびMMT集中講義②Stock-Flow consistent model、『危機の思想』

「日本銀行の利下げスケジュールが遅すぎた」という(後知恵バイアスじみた)批判があるが、それを仮に認めるとしても、1991年には8%を越えていた政策金利が、1993年には2%台で、1995年には0%台になっていた(参照統計)ので、利下げが多少迅速化しても焼け石に水だったのではないだろうか。




バブル崩壊以降の分析に移る。まず、為替レートに関する注意点。
1995年には円高阻止の為の協調介入が、1998年には『円安』阻止(※アジア通貨危機+日本金融不安による円安)の為の協調介入が行われている。(参照
このことに注意して当時の為替レートを評価しなくてはならない。




批判すべき俗説として「小渕政権による財政出動がマンデルフレミング効果を通じて円高を齎した」というものがあるのだが

1998年からの円高転化は先述した通り、『円安』阻止協調介入の影響が第一にある。



②1998年以降むしろ歳出増加率は低調となる。




上述の2点から、「小渕政権時のMF効果仮説」は棄却されるべきである。
むしろ緊縮財政+輸出減(byアジア通貨危機)→デフレ圧力→円高圧力という経路の方が説得的となるだろう。(特に超低金利経済では、MF効果が"逆転"し得ることを「ケインズ経済学モデル概説」で論じた)(このブログの内部の記事として挙げられるのは、マンデル=フレミング・モデルの妥当性と流動性の罠に関する下手くそなお絵かき


「歳出が増えていなくても、歳入が減っていれば財政拡張的なのでは」という疑問を抱いた方は『均衡財政乗数』について考えて欲しい。
均衡財政乗数の議論に従うと、歳出を減らした分だけ歳入を減らしても、緊縮になる。
「歳入が伸び悩んだため、歳出も増やさなかった」としても似た効果がある。

均衡財政乗数の議論を理解すると、「歳出を減らす」ないし「歳出を増やさない」ことによる効果は、「歳入が減る」ことによる効果よりも比較的大きくなることがわかる。
また、歳入の減少は、経済の停滞によって「事後的・受動的」に起きてくる部分もあるので、そこも注意しなくてはならない。

次に2000年代の回復について。俗説としては「量的緩和の効果である」というものがあるが、インフレ率は低迷したまま、GDPデフレータは右肩下がり、為替レートも大したシフトはない。










2000年代の回復は、素直に「世界的なバブル傾向→輸出増とその波及」と考えた方が良いだろう。(参照

2019年11月19日
以下に示すように、輸出GDP比も、2000年代に10%前後から15%以上にまで増加している。


我が国の通商・経済の変遷と構造変化より)

なお、「輸出増→所得増→輸入増」という経路があるため、輸出の総所得への効果を単純に"純輸出"で測るのは好ましくないことに注意が必要である。



次に、リーマンショック以降の分析に入る。
またぞろ「リーマンショック以降の円高は財政拡大によるマンデルフレミング効果」だの、「日銀の消極的な政策が円高を招いた」だのと色々な俗説があるが、歳出の伸びが低調なのは相も変わらずで、短期金利も結局ゼロに張り付いている。







"穏当"な見方としては、世界的バブル崩壊による海外需要の減少→デフレ圧力→円高圧力と考えるべきだろう。


ただし、「なぜ異次元緩和は失敗に終わったのか」でも補足したように、中央銀行は長期停滞下でも『引き締め能』は持っているため、「引き締め不安払拭」は有効になる。(このことに関するブログ内記事は、異次元緩和の効果と無効果 不況下における金融政策の有用性と無用性
2012-2013年の一時的な円安転化は、中央銀行の拙速な引き締めに対する不安が払拭されたことによる効果と考えるのが穏当と思う。
実際、BEI(予想インフレ率)は、当該時期に一時的に上昇している。(参照





ただし、2014-2015年の円安傾向はBEIの低迷の中で起きている。



BEIの低迷の中での円安傾向ということは、日本の物価(予想)とは関係のないシフトということになる。
最も穏当な見方としては、「海外、特にアメリカの利上げ予想によるもの」となる。
2014年当時のレポートからも、Fedの利上げへの転換が明確に予想されていたことが伺える。

アベノミクス下での雇用と株価については、「リフレ派想定反論集」twitter.com/criticalmind_E…や「雇用増加の下でも賃金が停滞する理由」twitter.com/criticalmind_E…でも述べたが
・雇用増加は人口動態と雇用慣行の合わせ技によるもの
・先進諸国の株価と比較して、日経平均の上昇はさほどでもない。
というのが現状での妥当な分析だと考えている。

(このブログ内での関連記事は、労働需給曲線で考えるアベノミクス





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