リフレ派想定反論集―雇用、為替、株価―(寄稿コラム) | 批判的頭脳

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「なぜ日本は財政破綻しないのか?」

「自由貿易の栄光と黄昏」

「なぜ異次元緩和は失敗に終わったのか」

「「お金」「通貨」はどこからやってくるのか?」などなど……


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「異次元緩和は失敗した」と論ずると、リフレ派界隈からお決まりのように飛んでくる反論として

「雇用は上向いている」「為替は円安シフトした」「株価が上昇に転じている」
という三つの反論が金太郎飴のように飛んでくる。

しかし、そもそもブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が停滞している時点で、いわゆる「リフレレジーム」は瓦解しており、仮に雇用、為替、株価がどれだけ好転しても、それはリフレレジームによるものではないことが明らか……ということで反論は本当は完了するのだが、これを補足する形で「想定反論問答」を行うことにする。

①雇用は上向いている

このとき、お決まりのように持ってくるのが就業者推移なのだが、就業者の構造転換点推定が2012年9月、つまり民主党政権真っ只中であることをいつまでたっても踏まえようとしない。

参考リンク:アベノミクスは雇用・経済のトレンドを反転させたわけではなかった。

また、「雇用は遅行指標である」というリフレ派お得意の文言も、この出来事には適用しようとしないようだ。
「雇用は遅行指標である」というのは正しいのだが、それを受け入れる場合、就業者トレンドの変換は、完全に民主党政権時代に基礎づけられることになる。(銀行貸出や設備投資の推移まで鑑みれば、明らかに民主党政権途中での回復が見られ、それが雇用に波及したと考えるのが保守的で妥当な見解であろう)

また、消費増税以降の雇用推移についても「金融政策の余波である」とリフレ派は論ずるのだが、予想インフレが立ち上がっていない以上、リフレ政策的経路であると論じるのは笑止千万である。

加えて、リフレ派は「総需要追加における雇用回復は実質賃金低下を伴う」という誤謬に陥っている(特に高橋洋一)が、それは理論的にも実証的にも正しくない。

参考:最低賃金の引き上げ、実質賃金の上昇は雇用を悪化させるのか


実際の経路は、総需要回復→企業生産高改善→労働生産性改善→実質賃金上昇&雇用増加というものである。

しかし、実際には実質賃金は大きく低下した。リフレ派は「新規労働者の追加によって見かけ上平均値が下がっただけだ」と主張したが、実質賃金の総計である実質雇用者報酬も極めて抑制的である。

参考:個人消費の動向について

ということは、この雇用改善は、総需要要因のものではないということである。では、何が雇用回復を齎したのか。
私は、団塊定年退職に伴って、中年雇用のウェイトが激減したことに原因を求めた。中年の硬直的高給雇用が減少すると、雇用余地が増加し、就業者が増加することが考えられる。この動きは、政府の政策とは独立に起こることになる。

参考:労働需給曲線で考えるアベノミクス

こうして、雇用の改善を金融政策の成果にこじつけようとする論理は、完全に破綻していることが明らかになった。


②為替は円安シフトした


この点については、「政権交代前後の円安」と「それ以降の円安」で明確に区別する必要がある。
「政権交代前後の円安」は、確かに金融政策の効果を否定できない。
というのは、リフレレジームは「引き締め不安の払拭」という形では効果を発揮し得るからである。

しかし、引き締め不安はいったん払拭されれば、それ以上の追加効果は期待できないし、実際期待インフレ率の上昇は一時的なものに留まり、その後インフレ期待は停滞を余儀なくされることになった。

参考:異次元緩和の効果と無効果

そのため、リフレレジームによる円安シフトは、政権交代前後で完了した。
それ以降の円安は、基本的に日本ではなく外国の金融政策が重要だ。
特に米英では、2014-2015頃には常に利上げの可能性が意識されていた。こうした利上げ予想は、ドル高、ポンド高を予想させ、相対的に円安圧力に働く。(日本のドメスティックな要因とは無関係な円安)

リフレ派はこうした効果を無視しがちである。


③株価が上昇に転じている


②で述べたように、引き締め不安払拭による一時的な総需要増大効果は存在し、当然これは株価にも働く。
しかしそれ以降は、少なくとも金融緩和それ自体による株価の上昇は期待できない。

実際、2013年の一時的なシフト以降、ダウ平均の上昇に比して、日経平均の上昇は極めて大人しく、またユーロ・ストックスとは大差ない推移である。

参考:日経平均
参考:ダウ平均
参考:ユーロ・ストックス

為替の円安化を鑑みても、特別に株価の上昇が加速したという状況ではない。
そもそも株価だけ上がっても意味がなくて、株価が上がり、民間の資金調達能力が改善した結果として、景気回復や経済成長が促されることが望ましいのである。今のところ、雇用面の回復は景気回復に基礎づけられたものではないし、経済成長もいまひとつであるから、「株価の伸びも2013以降はいまいち」「株価上昇の経済的波及もいまいち」という状況である。




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