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本の虫凪子の徘徊記録

新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【初読】  門馬司/鹿子『満州アヘンスクワッド』1~5 講談社

 

以前から気になっていた漫画です。ようやく購入できました。とりあえず5巻までですが。

 

舞台は戦時中の満州国。
犯罪組織やら関東軍やらが牛耳る裏社会を、一人の日本人青年が密造阿片でのし上がって行こうとするストーリーです。
かなりバイオレンス。『BLACK LAGOON』とかが好きな人に向いていると思います。
主人公は温厚だけど度胸はあるタイプの青年。何やかんやあって悪党をやるハメになっていますが、本人の価値観や倫理観は一般寄りなので、つまるところほぼロックです。まあこっちの方がまだ可愛げがありますが。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

主人公・勇はペストに罹患した母の薬代のため阿片密造に手を染めますが、努力虚しく、母親は亡くなってしまいます。

しかし、それからも妹と弟のため、日本に帰って家族で平穏に暮らすために阿片で稼ぎ続けることに決めます。

高純度の阿片を作ることができる勇。
そして、その共犯者として活躍するのがヒロインの麗華(リーファ)。中国犯罪組織のボスの娘です。
この麗華がもう最高。
チャイナドレス着て峨嵋刺持った黒髪の美女とか、好きになる要素しかないですよね。
計算高くて残酷で、言葉巧みに人を操る生粋の毒婦。演技力も高く、息をするようにハニトラを仕掛けます。処女とか絶対嘘でしょこれ。
笑みが毒々しすぎて、一周回ってもう格好良い。ヒロインがしちゃいけないようなあくどい顔してます。
素の表情は割と少女っぽさがあるあたり、可愛いんですけどね。意外と家庭的だし。

残りの仲間のリンちゃんとバータルは癒やし枠だと思ってます。有能な癒やし枠。

2~4巻にかけてのメインキャラだった李姚莉も好きだったので、帰国してしまったのはちょっと残念でした。良いですよね李香蘭。芯があって強かなところとか、完全にモデルになった彼女そのものだと思います。
 

いやー、面白くて、一気に読み終えてしまいました。
満州国という一つの国の裏で、様々な国家、人種、組織が複雑に絡み合いながら蠢いている様子は、非常に見応えがあります。
殺し屋に追われたり、人身売買に巻き込まれたり、主人公たちも常に命がけ。緊張感のある駆け引きシーンや迫力のあるドンパチ、読んでいるこちらもハラハラドキドキが止まりませんでした。5巻ラスト……!麗華どうなっちゃうの……?

近い内に続きも購入したいと思います。
良い作品に出会えました。

それでは今日はこの辺で。

 

 

 

 

 

 

【再読】  ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』脇明子訳 岩波少年文庫

 

本日もアリス。

こちらは続編の『鏡の国のアリス』になります。作中時代は前作から半年後です。

今作のモチーフは「チェス」。アリスは白のポーンからスタートします。

魅力的なキャラクターが多数登場するのは前作と同様です。

それでは早速、章ごとの感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

1.『鏡のなかのおうち』。アリスが鏡を通り抜けるシーンの挿絵二枚が好きです。時計と花瓶(?)のニヤニヤ笑いが良い。この鏡の国に行く場面、子供の頃はよく真似していました。鏡面を通り抜けられるってロマンがありますよね。同じ理由で、映画『ネバーエンディング・ストーリー』の鏡の門のシーンとかも好きでした。
ちょこちょこ歩き回っているチェスの駒たちも可愛い。
ジャバーウォックは相変わらず不気味でした。チョッキ着てるのに全然可愛くない。暗黒の神話生物みたいな造形してます。怖。

2.『生きている花園』。お喋りで姦しいお花たちは、見栄えは良いですが皆かなりの毒舌です。
その後に登場する赤の女王は普通に良い人です。昔から大好き。会話はあまり通じませんが、少なくとも前作のハートの女王と比べたらマシな方かと。この世界のルール上では常識人の部類なんじゃないでしょうか。
走って喉がカラカラの状態で乾いたビスケットはキツい。下手したら窒息しそうです。

3.『鏡の国の虫たち』。汽車に乗るアリス、からの不思議昆虫図鑑。木馬バエのデザインはセンスあると思います。

話し相手だった蚊は意外と親切でまともでしたし、アリスはもう少し優しい対応をしてあげるべきでした。子鹿は可愛い。
4.『トゥイードルダムとトゥイードルディー』。有名な双子の回です。「セイウチと大工」の詩は少し長いですが、物語性があって面白い。
赤の王様の夢は何となく象徴的。

5.『毛糸と水』。白の女王様は多分滅茶苦茶良い人です。優しそう。アリスにこの世界のルールをざっくりと解説してくれます。鏡の国というだけあって、いくつかの法則が反対になっているんですよね。ただ、それを知ったところでこの世界に順応できるかというと、それは流石に難しそうですが。
その後の、羊のお店とボート漕ぎは特に好きな場面の一つです。絵になります。

6.『ハンプティ・ダンプティ』。表紙の場面。ダムとディー同様、マザー・グースに登場することで有名な卵さん。物凄く尊大です。そして気難しい。
7.『ライオンとユニコーン』。こちらもマザー・グースから。理由は分からないのですが、初めて読んだ時、配ってから切るプラムケーキにツボった記憶があります。何がそんなに面白かったんでしょう、小さい頃の私。
この章で登場するハーネルとボーシャは、前作の三月ウサギと帽子屋本人で良いんでしたっけ?
帽子屋はいっつもお茶飲んでますね。
8.『「それがしみずから考案せしもの」』。ここで登場する白の騎士は、作者の自己投影とも言われているだけあって中々に魅力的で愛らしいキャラクターです。不器用で素っ頓狂で優しい、愉快な人物でした。「タラの目」はちょっと長かったですけど。

9.「アリス女王」。歩兵だったアリスがついに女王に即位しました。前半部分では、赤と白の女王に挟まれてひたすらいじめられています。この三人の問答は面白いですが、理不尽すぎて流石にアリスが少し可哀想。この世界の法則と常識は滅茶苦茶すぎます。
アリス女王を迎える際の「ばんざい三唱 かける三十!」のコーラスは好きな部分です。口に出して言いたくなるフレーズです。その後の場面での、お辞儀する骨つき肉もツボ。
ラストで、パーティーが大混乱の中で幕を下ろす様子は、「夢の終わり」感というか、「あ、目が覚めるな」という覚醒直前のあの感覚を上手く演出している場面だと思います。

10.「ゆすぶって」、11.「目をさますと」。
ちょっとキョトンとした表情のキティが可愛いです。
12.「どっちの夢かしら?」。現実世界に戻って来たアリス。ネコたちを前に、夢の内容を自己分析している姿が印象的でした。

本編語の解説では、作品が書かれた当時のキャロルとアリス・リドル(アリスのモデルになった少女)の関係性や、時代背景などが説明されています。こちらも興味深かったです。
白の騎士の顔が、テニエル氏の自画像だというおまけ情報もあったり。

小さい頃は前作よりもこちらの方が好きだった記憶があります。今はどちらも同じくらい好きですが。
前作同様、何度読んでも楽しめる作品です。

それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

【初読】  ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』ヴィジュアル・詳註つき 高橋康也・高橋迪訳 河出文庫

 

こちらの訳はまだ読んだことがなかったので、つい衝動買いしてしまいました。新装版は今年が初版発行のようです。
開いてみてまず、紙質の良さに驚きました。文庫本にしては珍しく、白くてやや厚みのある、良い紙が使われています。
挿絵は安定のジョン・テニエル氏です。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

訳は、前にブログで書いた岩波少年文庫のものと比べるとやや堅いような印象を受けます。「DRINK ME」が「ワタシヲノメ」となっていたり、岩波少年文庫版のあのふわふわした感じとは違って、こちらの訳では全体的に文章がハキハキしているように感じられます。岩波少年文庫版の方が馴染み深いせいか、所々違和感を覚える部分もありましたが、とても新鮮で面白かったです。

私の好きな詩「もう年だろうにウィリアムおやじ」は、こちらでは「ウィリアム爺どの」になっています。
以下はその出だしの一節。
【「ウィリアム爺どの いい年齢だべ」
若い息子がいいました
「髪もすっかりまっ白け
なのにしょっちゅう逆立ちばっか――
まともじゃなかんべ その年齢で?」】

ちなみに岩波少年文庫版はというと
【「もう年だろうに ウィリアムおやじ」
若い息子がそう問いかけた
「すっかり白髪になったじゃないか
そのくせ毎日 逆立ちざんまい
年甲斐ないとは考えないか?」】
となっています。
「もう年だろうに」という部分が気に入っているので、この詩に関しては岩波少年文庫版の方が好きですね。

他には新潮文庫版と角川文庫版も読了済みではあるのですが、今は手元にないので比較できませんでした。残念。
こうしてみると、やはり一番最初にどの訳を読むかは結構重要なんだな、と思います。
第十章「エビのカドリール」の章題は思わず二度見しました。「ロブスターのダンス」じゃないんですね。そういえばどこかの訳では「イセエビ」になっていたような気がします。どれだっけ。

これとこの前の章は洒落が多いので、訳者さんは相当苦労されたんじゃないでしょうか。科目の辺りとか特に大変そうです。

本文の下についている注釈は興味深いものが多く、楽しみながら読ませてもらいました。
音だよりの言葉遊びや、成句をもじった洒落が本文中に散りばめられていることが良く分かります。
作者のキャロルを分析するような注釈もいくつか見受けられました。
例えば公爵夫人の赤ちゃんがブタになってしまった場面の注釈では、
【男の赤ん坊をブタに変えたところに、キャロルの男の子嫌いが見てとれる。彼が男の子と仲よくしたときは、たいていその姉妹がお目当てだった。】
と書かれていました。
誤解を招きそうな書き方ですね。何もそんな犯罪者予備軍みたいな言い方しなくても、という気はします。
グリフォンの鳴き声「ヒュイックルルー!」の下に【✳Hjckrrh!】という注釈がついていたのはちょっと面白かったです。
本編後の解説も含めて、大変満足できる内容の一冊でした。挿絵の位置なども良かったと思います。買って正解でした。


余談ですが、訳者のお二人はご夫婦とのこと。夫婦で共著って何だか素敵です。

夫・康也さんはその道ではかなり著名な方のようで、既に鬼籍に入られていますが、ノンセンス文学研究において、今日まで影響を残すような大きな貢献をされていたようです。調べてみてびっくり、だいぶ凄い人でした。

本日も良い読書時間を過ごすことができました。
それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

【再読】  Robert Sabuda『Alice’s Adventures in Wonderland』 Little Simon

 

今日も『不思議の国のアリス』です。

仕掛け絵本で有名なロバート・サブダ氏による、飛び出す絵本版になります。

こちらは洋書版ですが、大日本絵画から翻訳版も出ています。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

文章は全て英語。レベルは中三〜高校くらいでしょうか。文法はともかく、単語自体はそこまで難しいものは使われていません。ストーリーを知っている人であれば、単語を拾って感覚で読み進めることができると思います。

中身はこんな感じ。


こちらは白ウサギの家でアリスが巨大化してしまった場面です。作中でもとりわけ仕掛け絵本映えするシーンでした。

立体感が良い感じです。
左の小ページはアオムシさんですね。

どのページも色鮮やかで、左右の小ページにはワクワクするようなギミックが満載です。
色遣いが派手なせいか、全体的に原作とは少し雰囲気が違いますが、こちらはこちらでまた違ったワンダーランド感があって良いです。どちらかというとディズニーアニメのアリスの雰囲気に近いかもしれません。華やかでどぎつい感じです。
そう考えると、原作のテニエル氏の挿絵はかなり繊細ですよね。
ちなみに、原作者・キャロルによる挿絵はちょっと狂気的で、見ていると不安になるタイプの絵です。あくまで個人的な感想ですが。興味がある方はぜひ調べてみて下さい。

それでは、短いですが今日はこの辺で。

 

 

 

 

翻訳版はこちら

 

 

 

【再読】  ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』脇明子訳 岩波少年文庫

 

本日はこちらの作品を再読しました。

イギリス児童文学の古典作品です。

ディズニーアニメ版をはじめとして、映像化作品が多いことでも有名ですね。私はディズニーアニメとティム・バートン制作の映画くらいしか観ていませんが。ちなみに私は、実写版は二作目の『時間の旅』の方が好きです。前作よりもアリスがカッコいい。

では、ここからは原作の感想について。

章ごとに簡単に書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

1.『ウサギ穴に落っこちて』。始まりのこの、長い縦穴をゆっくり落下していくシーンが全編通して一番好きです。壁が全て戸棚になっているのが良い。ここは映像作品で見るとより素敵です。それから、その後の小さいドアや「DRINK ME(ワタシヲノンデ)」の小瓶やらも好き。常識が通用するようなしないような不思議な感覚、この不条理さこそが「夢の世界」という感じがして、のっけからワクワクが止まりません。
ちなみに、小瓶の中身はとても美味しいらしいですが(サクランボのタルト、カスタード、パイナップル、七面鳥の丸焼き、キャンディ、バターをぬった熱々のトーストを混ぜ合わせた味)、正直、全く味の想像がつきません。七面鳥が無ければまだ想像できるかも。どんな物なのか、一度実際に飲んでみたいところです。

2.『涙の池』。ネズミをブチ切れさせるアリスには笑います。喧嘩を売っているとしか思えない。
3.『ドードー競走と長い尾話』。ぺちゃくちゃと好き勝手に話す動物たちが可愛い。Q.「濡れた体を乾かすには?」A.「乾くまで走れ」の乱暴すぎる解決策は結構好きです。
4.『ウサギの家で』。お洒落なウサギ宅の中で巨大化してしまったアリス。ウサギからしたら滅茶苦茶いい迷惑ですよね。可哀想に。この辺りからアリスが順応してきて、何か食べたり飲んだりすれば体のサイズが変わるんだな、と理解し始めます。
5.『アオムシの助言』。このアオムシも良いキャラクターです。キノコの上で水煙管を吸う青い芋虫。こんなに特徴のあるキャラも中々いないと思います。「もう年だろうにウィリアムおやじ」は普通に詩として面白い。一節ごとに一枚ずつ挿絵がついているせいで、無駄に完成度の高い仕様になっています。内容はふざけていますが。

6.『豚とコショウ』。イラストを見ると、カエルと魚の従僕は見た目がかなりグロテスクです。そして公爵夫人は随分と貫禄のあるお顔をしています。表情が凄く険しい。そして顔が大きい。アリスの顔何個分でしょうか。湯婆婆みたいな等身です。
チェシャー・ネコは可愛いですが、ニヤニヤ顔はちょっと不気味です。ネコにしては大きいし。

7.『めちゃくちゃお茶会』。帽子屋と三月ウサギ、ヤマネのトリオは作中でも屈指のイカれっぷりを見せてくれます。アリスと会話のキャッチボールが全然できていない。傍から見ているぶんには愉快ですが、現実にいたら絶対に関わり合いにはなりたくないタイプです。

8.『女王さまのクロケーの会』。トランプの兵隊たちとハートの女王。アリスと聞いて真っ先にこれらを想像する人、多いんじゃないでしょうか。特に「首をはねろ!」が口癖の女王陛下。強烈です。ティム・バートン版のヘレナ・ボナム・カーターはまた違った意味で強烈でしたが。クロケーに使われているフラミンゴとハリネズミはちょっと可哀想。
9.『にせ海亀の身の上話』、10.『ロブスターのダンス』。この二つの章は特に洒落が効いているので、読んでいて楽しいです。グリフォンとにせ海亀のコンビは個人的に好きなキャラクタートップ2です。(内容はともかく)会話自体はまともにしてくれるので、作中キャラの中では割と話しやすい方なのでは。

11.『タルト泥棒はだれ?』。ジャックの裁判のはずが、荒れに荒れてもうしっちゃかめっちゃかです。なぜ帽子屋と料理番を呼んだのか。
12.『アリスの証言』。女王だけでなく、王様の方もだいぶ中身に問題がありますよね。ビックリするほど話が通じない。証拠の詩は何度読んでも意味不明でした。

その後目を覚まし、不思議の国から現実世界へと帰還したアリス。寝起きの彼女の第一声は「あーあ、すごく変てこな夢を見ちゃった!」。夢と現実を混同するタイプの女の子かと思いきや、意外とそんなこともないようで、そのまま割とあっさり日常生活へ戻って行きました。
きっとアリスにとって不思議の国に行くことは、そんなに特別なことでもないんでしょう。
あのハチャメチャで愉快な世界は彼女の心そのもの。不思議の国はいつでもアリスの傍にあるものなのかもしれません。実際、アリスの冒険はこれきりでは終わらないわけですし。

ちょくちょく酷い目に遭うトカゲのビルは可哀想でした。アリスはトカゲ苦手なのかな。

最後は、アリスではなくお姉さんの視点で終わります。お姉さんにつられて、こちらまで少し感傷的な気持ちになる終わり方でした。
訳者あとがきが解説も兼ねているので、そちらも読むことでより一層楽しめると思います。

大人になっても、読み返すたびに楽しめる作品です。
それでは今日はこの辺で。
 

 

 

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