ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』ヴィジュアル・詳註つき | 本の虫凪子の徘徊記録

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【初読】  ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』ヴィジュアル・詳註つき 高橋康也・高橋迪訳 河出文庫

 

こちらの訳はまだ読んだことがなかったので、つい衝動買いしてしまいました。新装版は今年が初版発行のようです。
開いてみてまず、紙質の良さに驚きました。文庫本にしては珍しく、白くてやや厚みのある、良い紙が使われています。
挿絵は安定のジョン・テニエル氏です。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

訳は、前にブログで書いた岩波少年文庫のものと比べるとやや堅いような印象を受けます。「DRINK ME」が「ワタシヲノメ」となっていたり、岩波少年文庫版のあのふわふわした感じとは違って、こちらの訳では全体的に文章がハキハキしているように感じられます。岩波少年文庫版の方が馴染み深いせいか、所々違和感を覚える部分もありましたが、とても新鮮で面白かったです。

私の好きな詩「もう年だろうにウィリアムおやじ」は、こちらでは「ウィリアム爺どの」になっています。
以下はその出だしの一節。
【「ウィリアム爺どの いい年齢だべ」
若い息子がいいました
「髪もすっかりまっ白け
なのにしょっちゅう逆立ちばっか――
まともじゃなかんべ その年齢で?」】

ちなみに岩波少年文庫版はというと
【「もう年だろうに ウィリアムおやじ」
若い息子がそう問いかけた
「すっかり白髪になったじゃないか
そのくせ毎日 逆立ちざんまい
年甲斐ないとは考えないか?」】
となっています。
「もう年だろうに」という部分が気に入っているので、この詩に関しては岩波少年文庫版の方が好きですね。

他には新潮文庫版と角川文庫版も読了済みではあるのですが、今は手元にないので比較できませんでした。残念。
こうしてみると、やはり一番最初にどの訳を読むかは結構重要なんだな、と思います。
第十章「エビのカドリール」の章題は思わず二度見しました。「ロブスターのダンス」じゃないんですね。そういえばどこかの訳では「イセエビ」になっていたような気がします。どれだっけ。

これとこの前の章は洒落が多いので、訳者さんは相当苦労されたんじゃないでしょうか。科目の辺りとか特に大変そうです。

本文の下についている注釈は興味深いものが多く、楽しみながら読ませてもらいました。
音だよりの言葉遊びや、成句をもじった洒落が本文中に散りばめられていることが良く分かります。
作者のキャロルを分析するような注釈もいくつか見受けられました。
例えば公爵夫人の赤ちゃんがブタになってしまった場面の注釈では、
【男の赤ん坊をブタに変えたところに、キャロルの男の子嫌いが見てとれる。彼が男の子と仲よくしたときは、たいていその姉妹がお目当てだった。】
と書かれていました。
誤解を招きそうな書き方ですね。何もそんな犯罪者予備軍みたいな言い方しなくても、という気はします。
グリフォンの鳴き声「ヒュイックルルー!」の下に【✳Hjckrrh!】という注釈がついていたのはちょっと面白かったです。
本編後の解説も含めて、大変満足できる内容の一冊でした。挿絵の位置なども良かったと思います。買って正解でした。


余談ですが、訳者のお二人はご夫婦とのこと。夫婦で共著って何だか素敵です。

夫・康也さんはその道ではかなり著名な方のようで、既に鬼籍に入られていますが、ノンセンス文学研究において、今日まで影響を残すような大きな貢献をされていたようです。調べてみてびっくり、だいぶ凄い人でした。

本日も良い読書時間を過ごすことができました。
それでは今日はこの辺で。