か「」く「」し「」ご「」と「  新潮社

作者 住野よる

 

久しぶりの小説感想です。

大変長くなりそうです。

まずは簡単なあらすじを。

 

五人の高校生の特別でありふれた物語。

五つの章からなり、各話主人公が変わっていきます。

それはとても日常的な物語で、文化祭や修学旅行など

ありふれた高校生活だけど、みんなそれぞれの隠し事をかかえている。

 

やっぱり面白かったです。

 

言葉の掛け合いや言葉選びが素晴らしい。

 

ここからはがんがんネタバレ感想を書いていきます。

 

五人それぞれが、それぞれの形で相手の気持ちを少しだけ知ることのできる能力を持っている。

 

だけど非現実感はそれほどないです。

 

喜んでいるなあとか、怒っているなあとか、

緊張しているなあとか、誰が好きなんだなあとか。

現実にもそれは相手の表情とか行動からある程度分かりえることだし。

 

むしろその能力のせいで複雑にそれぞれの心が乱されます。

 

もっというと、その能力があったからこそ、この物語はより日常的になるのかもしれません。

 

能力と登場人物を簡単に説明します。

 

京くん みんなの頭の上に記号が見える。!や?など感情によって変化します。

 

ミッキー みんなの感情の傾きが分かる。/や\などプラスやマイナスに傾いているのがわかります。

 

パラ みんなの鼓動が見える。鼓動の高鳴りなどがわかります。

 

ヅカ みんなの頭の上にトランプのマークが見える。マークによってそれぞれの感情がわかります。

 

エル みんなの恋心の矢印が見える。だれがだれを想っているのかわかります。

 

ここからは先は私個人の思ったことや、感じたことを書きたいと思います。

「かもしれない」や「だと思う」なんていちいち付けていると読みにくいと思うので、あえて断定的に書き進めます。

読んだ人それぞれの解釈や考え方を生む素晴らしい作品だということをあらためて。

 

 

読み進めている最中、タイトルの隠し事とは能力のことなんだと思っていました。

 

でもそれはもっとたくさんのそれぞれのかくしごとだったんだと読み終わっての感想。

 

能力の次にみんなが隠していたこと、それは恋心。

 

恋心だけにフォーカスをあてるならば、

読み終えた直後の大まかな感想として、京くんとミッキーの恋の物語。

 

でもよくよく考えればみんなそれぞれの恋が生まれていて、

だから最後の章の主人公はエルだったんだなと変に納得。

 

京くんとミッキーの恋心はひとまず置いといて、

パラの矢印はミッキーに向いていました。

 

十年後のみんなにあてた手紙に、エルはパラに対して

「自分の心を押し込めてまで好きな人の幸せを願うパラの幸せを、私も心から願っています」

と書きます。

 

一瞬パラも京くんに矢印が向いていたのかと思いましたが、

パラの章で、彼女はことあるごとにミッキーの事を「愛すべき」相手と語っています。

 

「愛すべき友人」とも言っているので、友としてとも取れますが

パラはことあるごとにヅカにちょっかいをかけます。

理由は、二人がなし崩し的にくっつくことを懸念して。

ヅカを自分に惚れさせてしまおうとたくらみます。

 

パラはヅカが気に入らなかった。

自分と同じ冷たく濁った内面を持っているから。

 

「あんな冷たい心を持つ人間が、三木ちゃんの熱い心を奪うなんて許さない」

とまで思い、修学旅行中は常にヅカと行動をともにします。

 

もう姫を守る騎士のごときパラ。

 

ミッキーの幸せを心から願うパラ。

でも、ヅカを「自分と同じ」と思っているから、

パラ自身も、こんな私がと、その恋心も奥底に隠してしまっているんでしょう。

切ない。

 

そんなヅカも恋をします。

相手はエル。

 

作中、何度もヅカはエルに好意を抱いてる節が見受けられます。

でもエル自身が

「いつか自分に向いた矢印が見れますように」といっているので

矢印が向くほどではなかったのかとも思いましたが、

エルに矢印はがんがん向いていたと思う。

 

なぜ見えなかったか、自分に向いたものは見えないのか、

たぶん自分に向いた矢印は、どの方向からでも正面を向くので矢印として認識できなかったんだと。

 

修学旅行で告白と≒の鈴を渡すという行為を、エルに行おうとしたヅカ。

かつて友情を恋心と勘違いした相手に「次は、勘違いじゃねえよ」と自信を持つヅカ。

 

好きだなあ、ヅカ。

 

後日談を読む限り、エルは自分に向かない矢印のせいでうまく恋ができなかったのだと思うと、またそれも切ない。

 

心に残った言葉をひとつ。

 

「私たちはひとりひとり性格も好みも考え方もまるで違うように、ひとりひとりにそれぞれ別の役割があるんじゃないかって。それぞれが各仕事を与えられて、そうやって皆が支え合ってるんじゃないかって」

 

 

最後に感想というか願いをひとつ。

 

タイトルの最後の括弧はなんで閉じられていないのか。

 

エピロオグの最後、物語の最後も括弧は閉じられていません。

それは彼ら彼女らの物語は続いていくという意味かと。

 

でも五個目の最後の括弧だけだと、最終章のエルの事だけになってしまう。

 

だからタイトルそのものを括弧で囲ってしまおう。

 

「か「」く「」し「」ご「」と「」

 

これで全員の括弧を閉じられなくなりました。

 

そんな素敵な物語でした。

 

同作者の小説感想です↓

 

君の膵臓をたべたい 感想

また、同じ夢を見ていた 感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁ドン!  小学館

作者  佐久間 力

初版発行 2019年5月1日

 

中学時代空気以下の存在だった大野会心は

高校入学初日、誤って転落死しかけたところを

同級生の夏目登姫に救われた。

登姫は世界が注目する天才ボルダリング少女。

登姫に自分のコンプレックスだった痩せ型の体型を褒められた会心は、

新しい自分に出会うため、ボルダリングを志す。

最下位からの人生逆転の壁、登れるか⁉

 

なんとなく知っている程度のボルダリングがテーマの作品で、興味本位で購入。

 

当たりでした。

 

コンプレックスだったがりがりの身体が最大の武器に変わる。

 

そそります。

 

日本代表の夏目登姫を入学させて、在学中に金メダリストにする、

そんな理事長の企みから作られたスポーツクライミング部。

 

その実力がある者だけを育てるということで、初心者には不可能に近い入部テストが用意される。

 

そんな無理難題に、身体的武器と、イメージ力・想像力で挑戦する主人公。

 

登る前に、頭の中でシミュレーションをすることをオブザベーションというらしいです。

 

主人公にはこの能力も携わっていました。

 

そんな逆境という壁を、一つ一つ超えていく姿は見ていて気持ちがいいです。

 

またキャラクターもよく、主人公の友達には、真逆のぽっちゃり体型のザ・いいやつや、

主人公とは違い、オブザべを一切行わず、己の肉体を信じ壁を登っていく、口は悪いけど意外といいやつ。

 

個性的な面々に囲まれ、主人公が成長していく姿が、とても引き込まれます。

 

強豪校との戦いなど今後も熱い展開が待っていそうなこの作品。

 

青春スポーツものはいくつになってもそそられます。

 

 

 

 

事情を知らない転校生がグイグイくる  スクウェア・エニックス

作者 川村 拓  

初版発行  2018年10月22日

 

無知で、素直は、最強だ。

からかわれてる女の子。クスクス笑うクラスメイト。

転校生の高田くんは、そんなクラスの事情は知らない。

だからまっすぐ、彼女に届く。

 

話題の文字に弱いので、ついつい手に取りました。

絵の感じも好きだったので購入。

 

読みはじめてすぐ掴まれました。

 

一ページ目からとてもいい。

 

クラスメイトの西村さんがみんなから死神と呼ばれていると知った主人公は、

「ちくしょう、なんてかっこいいあだ名なんだ」と羨ましがります。

 

その後も、普通とは違うリアクションを見せ続ける主人公がなんとも愛くるしい。

 

純粋というか天然というか、

二人の会話がとても好きになりました。

 

言葉の返し方が絶妙で、からかわれている女の子を助けたいわけではなく。

 

からかっている子たちを否定するわけでもなく。

 

ただただ純粋に思ったことを言っているだけなのに、どんどん救っていく。

 

純粋すぎてたまに、読んでいるこっちが恥ずかしくなるようなことも言ったりして、心が洗われます。

 

個人的には日野くんっていう子が好きになりました。

 

主人公に勝るとも劣らない天然っぷり。みんな素敵個性。

 

全体的にほのぼのとした雰囲気なので読みやすいです。

 

 

 

 

 

着たい服がある  講談社

作者 常喜寝太郎

初版発行 2019年1月23日

 

「ロリータ服を着たい」

それは、女子大生・マミの誰にも言えない秘密だった。

家、学校、職場……社会の中で「自分らしく」あるために、

マミはもがき、傷つき、やがて答えを見つけていく。

 

はい、共感。

 

大なり小なり誰しも思ったことがあるのではないかと思います。

 

全員が全員ではないとは思いますが、服に限らず

キャラじゃないから、言わないでおこうとか、

これが好きなんて恥ずかしいとか、

似たような経験は誰しもあったのではないでしょうか。

 

そんな人は共感できると思います。

 

表紙の女性、主人公なんですが、

絶妙なこれじゃ無い感。

 

友人との待ち合わせに可愛い系のお洋服を着て行くと

「スタイルいいマミはかっこいい服着る義務がある」と

そのスタイルを羨ましがられます。

 

ですが、内心はロリータや可愛いものが大好きな女の子。

 

でもそれは“容姿的に”“キャラじゃない”のです。

 

その内と外のギャップに悩んでしまいます。

 

そんなある日、バイト先にヘルプでやってきたイケメンの小澤くん。

 

彼の服装が、まあ奇抜。

 

“奇抜な服装”で想像するものの数倍は奇抜。

 

当然周りからはドン引きされますが、当の小澤くん、我関せず。

 

「恥ずかしくない?」とか「流行りの服着たらモテるのに」とか言われますが、

「自分の着たい服着る方が一億倍気持ちいいんすよ」

「何着て、どこ行くかは自分で決めます」と一蹴。

 

その姿に、主人公も少しずつ変わっていこうと思い始めます。

 

それにしても小澤くん、身も心もイケメンですよ。奇抜だけど。

 

似合ってないとか、キャラじゃないなんていう価値観は持ち合わせておりません。

自分にも他人にも。素敵人間。

みていて気持ちがいい。自分には出来ないことだから。

 

そんな、共感満載の「着たい服がある」とても楽しめました。

 

 

 

 

 

 

春とみどり  フレックスコミック

作者 深海 紺

初版発行 2019年4月20日

 

人づきあいが苦手で、

どこにいても居場所がないと感じているみどり(31)は

中学時代好きだった親友・つぐみの葬儀で、

つぐみと瓜二つな彼女の娘・春子(14)と出会う。

 

かつて自分に居場所をくれたつぐみ。

今度は自分が春子のために居場所を作ろうと、

みどりは春子を引き取ることを決意するが……

 

 

桜と喪服と遺影に制服。

 

字面で見るとなんとも交わりあいそうにないものが、こんなに綺麗に描かれている衝撃。

 

絵の感じも好きで購入しました。

 

まったく会っていなかった、中学時代の親友の訃報から始まる物語。

 

教室の隅でうつむいてばかりいたみどりのたった一人の友達。

 

その親友に対して、みどりは大好きだったと表現しますが、

この好きは結構強いものだと思いました。

 

居場所をくれた唯一の存在。

それがとても大きなことだったんだと、言葉や表情の端々で感じます。

 

そんなみどりの前に現れた、学生時代のつぐみに瓜二つな娘・春子。

 

葬儀の場で、彼女には身寄りがないことを知り、思わずみどりは

『居場所ならあるよ。私が作ります』と。

一緒に暮らしましょうと言います。

 

恩返しっていう言葉じゃちょっと足りないかな。

 

使命や宿命?

私しかいないっていう強い思いを感じました。

 

でも人前が苦手なみどりは、この大事な場面で声は裏返るし、どもってしまうし。

 

強いのか弱いのか。

 

そんなこんなで二人の生活が始まります。

 

それまで人づきあいが苦手だったみどりは

突然の二人暮らしに四苦八苦。

 

春子がとてもしっかりしていて、

もうどちらが引き取ったのかわからないくらいです。

 

時折思い出されるつぐみとの思い出はどれも素敵で、

自分もそんな風になりたい、ありたいと思うみどりもとても素敵です。

 

そんな凸凹コンビの、共同生活。

 

続きが楽しみです。