意味深長なオーケストラの一音から心をわしづかみにされるような哀愁を帯びたヴァイオリンの旋律が湧き上がってくる、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。情熱的でありながらもロマンティックな側面もあり、そして最後は華麗に駆け抜ける、ヴァイオリンの魅力を最大限に引き出したこの曲は、古今のヴァイオリン協奏曲の中で群を抜く人気を誇ると評して差し替えないでしょう。
私がよく聴く演奏は、オイストラフとフィラデルフィア管弦楽団との録音と、ヒラリー・ハーンとオスロ・フィルハーモニー管弦楽団との録音です。
オイストラフの演奏は、素晴らしい音色でこの曲の持つドラマティックな側面を余すところなく表現した、まさにこのような演奏で聴きたかったと思わせる、理想的な演奏。一音一音にエネルギー込められた演奏で、ロマンティックな部分でも必要以上に歌い込みすぎず、力強さと気品さを感じます。
特に、表現力の高さは群を抜いており、第2楽章中間の感情のうねりをここまで描いた演奏は、この他に現時点でまだ出会えていません。カデンツァも見事。前半は緊張感があり、やがて過ぎ去った昔を懐かしむような表情を見せ、それを振り切るかのように駆け抜けていく、何かストーリー性を感じさせる構成で、テクニックの高さとともに、この部分だけでも強く印象に残る演奏。
終楽章の演奏も隙がなく、時には飛翔し、またある時には伸びやかに歌ってみせる、スピード感のある華やかな曲想の中にもこれだけの要素が詰まっていたのかと感心させられる演奏です。
オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団のバックも、このオケのゴージャスなサウンドが楽しめる、惚れ惚れとするような演奏です。最初のホルンが浮き上がって聴こえる部分から他の演奏とは一線を画しており、どの部分も弦楽器と管楽器がしっかりとブレンドされた豊かな響きで聴かせ、ここぞという場面での歌い込みは、このオケで聴きたかったと思わせる強い魅力があります。
ただ一方で、情熱的なソロとどっしりしたオケの呼吸が合っておらず、特に終楽章でズレが見受けられ、また、モノラル録音ゆえか、特に第1楽章でソロの後初めてオケが全面的に出てくる大変印象的な場面で音の厚みが感じられなかったり、弦楽器の音にあまり艶を感じなかったりといった録音の技術上の限界を感じる欠点もありますが、それを差し引いてもこの録音の価値は相当高いものがあると思います。
ハーンの演奏は、真っすぐでスピード感のある若々しい演奏がとても印象的。テクニックは冴え、切れ味がありながらも、勢いに任せず一音一音大切に演奏しているのでシャープすぎず、一気に駆け抜けるカデンツァは、爽快感があります。
一方で、第1楽章の優しさ溢れる旋律や第2楽章ではたっぷりと歌い、この曲の持つロマンティックな部分も余すところなく表現できています。
ベルトラン・ド・ビリーとオスロ・フィルハーモニー管弦楽団のバックもソロと同じ方向性の演奏を聴かせてくれ、一体感ではオイストラフ盤を上回ると思います。特に、フルートをはじめとする木管楽器のまろやかな音色が素晴らしいです。
終楽章が少し走り気味で落ち着かない印象を受けてしまうのが少々気になりますが、しっかりとついてくるバックにも助けられ、最後まで聴きごたえのある演奏となっています。

復刻が進まないのが残念
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