フルートとハープ、ともに華やかな組み合わせながら、モーツァルトの手にかかると華美になりすぎず絶妙なバランスで両者の良さを活かしてくれています。優しさ溢れる第2楽章はこの組み合わせだからこそより引き立ちます。個人的には、決してやっつけ仕事だとは思えない素晴らしい作品だと思います。
私がよく聴く演奏は、グラフェナウアーのフルートとマリア・グラーフのハープによる、マリナー盤と、サミュエル・コールズのフルートと吉野直子のハープによる、メニューイン盤です。
マリナー盤は、この曲の持つ華やかさを最良な形で引き出した演奏。モーツァルト演奏の大家による指揮者とその手兵のアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズによる前奏はまさに理想的。瑞々しい音色に颯爽としたテンポ。そして柔らかいホルンが心地よいです。
加えて、グラフェナウアーの軽やかなフルートと、グラーフの品の良いハープがこのオケをバックに気持ち良く泳いでるようで、聴いていて幸せな気分になります。
場面転換のうまさも際立っており、特に、第1楽章中間部でやや憂いを帯びる部分の表現は雰囲気をガラッと変えながらも嫌味がなく実に自然で、うっとりとさせられます。
やや時代錯誤に感じられるライネッケのカデンツァでは、雅やかな雰囲気を壊さぬよう控えめに演奏するバランスの良さも見事。
第2楽章はテンポがやや速めながら、柔らかく広がりのあるフルートが、せかせかした印象を与えません。
終楽章は歯切れの良いフルートと、一歩引いて受け止めるようなハープの掛け合いが楽しいです。中間部のやや曇る部分のハープもいたずらに劇的な雰囲気を出すことなくフッと陰る程度に収める表情付けが素晴らしく、この三者が集まったからこそこの名演が誕生したと思わせるほど。
最初の一音から最後まで期待以上の水準で聴かせてくれる、私にとっては完璧に近い演奏です。
一方のメニューイン盤は、どの楽章も落ち着いているのでやや地味な印象ながら、優秀なオケとフルートとハープの相性の良さと相まって、マリナー盤とはまた違った魅力を持った演奏です。
メニューインの指揮は、本人自身優れたソリストということもあり、ソロにしっかりと合わせていて、安心感があります。室内オケとして確固たる地域を築いたイギリス室内管弦楽団の演奏レベルも高く、安定感のある弦楽器に、ファゴットやオーボエといった管楽器も存在感があり、マリナーのオケに劣らない魅力を持っています。
コールズのソロは自分が全面に出るのではなく、当時若手であった吉野さんを気持ち良く歌わせるような余裕を感じさせるもので、聴いていて微笑ましいです。強く印象に残るような個性こそないものの、技術は冴えており、音色も爽やか。両者が楽しく戯れるようなカデンツァも素敵です。
第2楽章は吉野さんの優しいソロが素敵です。ハープが中心のカデンツァも良いです。
終楽章は雅やかなオケが良いです。さあどうぞ、とでも言うかのようにハープへバトンタッチする表現もとても好き。この楽章でも気心の知れた仲間と楽しく演奏している、といった平和的な雰囲気が支配しており、マリナー盤とはまた違った幸せな気分に浸ることができます。
やや第2楽章が退屈な印象を受けるのと、華やかさを求める方には少々物足りなく感じる演奏かもしれませんが、独自の魅力を持つ名演奏だと思います。
協奏曲の第1番も素敵な演奏です。