基本的にテンポをかっちりと正確に刻みながらも、ここぞという箇所では劇的な音楽を聞かせるファビオ・ルイージのアプローチは、個人的には端正な演奏を基調とするNHK交響楽団のカラーに合っているのではないかと思っています。

今日の定期公演は、レスピーギの「ローマ三部作」を中心とするプログラムで、このコンビの良さが出る公演になるのではないか、と楽しみしていました。

 

1曲目は、ルイージが初演したパンフィリの「戦いに生きて」。カッコ良く聴こえる闘争の部分や美しさを感じる部分もありますが、大半はボソボソとまだ形にならないような部分が多く、昨今は耳当りの良い旋律を持つ音楽が増え、クラシックとそれ以外の音楽との境界が曖昧になりつつある中、現代音楽の作曲家としてどうあるべきか、この作曲者の「問い」や「迷い」が伝わってくるような曲でした。

ルイージとN響のコンビは、意思表示のはっきりした部分の反応がとても良く聴きごたえがありましたが、曲の大半を占めるまだ形になり切れていない部分の表現がやや単調で、結果として時間が長く感じました。

 

続く「ローマ三部作」は、各曲の持つストーリーが下品にならず、それでいて盛り上げるべき箇所はしっかりと情熱を持って表現され、このコンビの美点が大いに発揮された演奏でした。

 

中でも、ストーリーが分かりやすく各曲のカラーがはっきりとしている「ローマの松」と「ローマの祭り」の演奏が良かったです。

色彩感のあるサウンドで弾けるような子供たちのはしゃぎ声が聞こえてくるような「ボルゲーゼ荘の松」。隠れながらも決して途切れることのない芯の強い祈りの歌が真っすぐで清潔な音色で歌われる「カタコンブ付近の松」。ピアノとクラリネットが美しい、夢見るような「ジャニコロの松」を経て、屈強な古代ローマの兵隊が一糸乱れず整然と進んでいく壮麗な「アッピア街道の松」。

安心して聴くことのできる正確なアンサンブル力に聴き手を熱くさせるような劇的な表現が加わり、この一曲だけでも実に満足度の高い演奏でした。

 

続く「ローマの噴水」は、両端楽章がやや素っ気なく聴こえてしまいましたが、一方で必要以上に音楽を揺らさず、真っすぐと綺麗な音で演奏することを大切にした演奏にも感じました。煌びやかな「朝のトリトンの噴水」と、豪快な「昼のトレヴィの噴水」は、オーケストラが一気に弾け、派手な他の二曲に負けず劣らず劇的な要素がある曲であることを実感させてくれました。

 

そして、最後に演奏された「ローマの祭り」。私もそうでしたが、この曲を一番楽しみになさっていた方も多かったのではないでしょうか。結果としては、オペラ指揮者として多くの実績を積んだルイージの聴かせどころをしっかりと聴かせるテクニックが良く発揮された、良い演奏でした。

勇ましいファンファーレと怯えるような祈りの歌との対比や、周囲が徐々に狂ったように盛り上がる構成がはっきりと伝わってきた「チルチェンセス」。ついにローマが見え巡礼者の興奮が最高潮に達する感動的な「五十年祭」。鮮やかなホルン(どの曲も素晴らしかったです)と中間部の悩まし気な音楽にうっとりとさせられた「十月祭」。そして、羽目を外しすぎずも緩急のある表現で祭の喧騒が十分に表現された「主顕祭」。

欲を言えば、「あの部分の高音と決めて欲しかった」や「もっと爆発的なエネルギーがあれば」等、注文を付けたくなる部分もありましたが、日本で最上級の実力を持つオーケストラとして、期待に違わぬ演奏だったと思います。

 

今日のNHKホールはとてもよくお客さんが入っていて、また、曲目の吸引力なのか若い方も多く見られ、とても嬉しく感じました。今日の演奏に感銘を受け、またコンサートに足を運んでくれるのではないか、そう期待を抱かせるような会心の演奏だったと思います。私としても、このコンビの演奏がよりいっそう楽しみになりました。

「ローマの松」は格調高いケンペ盤が好み