今回ご紹介するのは悪女小説です。

 

めちゃくちゃ悪い人間が出てくる話を読みたいなぁと思っていたときに、名乗り出てくれたのが、この中山七里さんの『嗤う淑女』でした。

 

ヒロインは”稀代の悪女”蒲生美智留。本書は美智留に嵌められた人たちが人生を転落していく様を描いた連作短編になっています。

 

天賦の美貌と巧みな話術。被害者は自分で被害に遭っている自覚すらない。むしろ彼らにとって美智留は救世主。

 

さっそくですが、美智留のワルっぷりをご堪能ください。

 

 

 

 

野々宮恭子(13)

 

恭子は従姉妹の美智留とは似ても似つかぬ醜い容姿をしています。それが原因でクラスメイトから酷いイジメを受けており・・・。しかし、ある日同じ学校に美智留が転校して来てから状況はガラっと変わります。なんと美智留が裏で男子を唆し、イジメの主犯者をボコボコして不登校にしてくれたのです。ようやく平和な日々が戻ってきた恭子に、今度は病が訪れます。実は普段から貧血気味だった恭子。授業中にめまいで倒れ、病院に搬送されると、再生不良性貧血と診断され、骨髄移植を勧められます。残念ながら両親の型とは適合せず、ドナーを待つことになった恭子。しかしそこで美智留が自身の骨髄を提供すると言ってくれ、命拾いをします。以来、恭子は美しく優しい美智留を崇拝するようになり・・・・・。

 

 

 

鷺沼紗代(27)

 

紗代は恭子の高校時代の同級生。現在は銀行で働いていますが、職場のストレスから買い物依存症になっています。そうこうしているうち、あっという間に借金が膨れ上がり、ついには自己破産しか道がなくなり・・・。そんなとき、紗代は恭子から生活プランナーの美智留を紹介され、「借金の責任は然るべき相手にとってもらえばいい」とアドバイスされます。その然るべき相手とは、紗代を買い物依存症にした原因、銀行です。美智留は銀行からお金を引き出すとんでもない方法を提案し・・・・。

 

 

 

野々宮広樹(24)

 

広樹は恭子の弟。大学時代89社の採用試験を受けるも玉砕し、現在は実家を手伝う半ニートに。そこへ手続きの不備で新居に住めなくなったという従姉妹の美智留が、少しの間野々宮家に泊まらせてほしいとやって来ます。久しぶりに見る従姉妹の美しさに動揺する広樹に、美智留は「あなたは悪くない」と優しく声をかけてきます。広樹がくすぶっているのは、父親が子離れできていないから。父親を遠ざけない限り息子は一人前にならない。そう美智留から唆された広樹は家族を敵視するようになり・・・。

 

 

 

古巻佳恵(42)

 

大手企業をリストラされた後、作家を目指す無職の夫と、二人の娘を抱え、パートで家計を支えている佳恵。ギリギリの生活を送る中、同僚から生活プランナーの美智留を紹介されます。しかし美智留のアドバイス通りに動いた結果、佳恵は保険金狙いの殺人犯になってしまい・・・。

 

 

そしてラストに「蒲生美智留」本人の章が用意されています。佳恵の事件をもとに黒幕である美智留の存在が発覚。警察が美智留を調べると、出るわ出るわ彼女の周りに起きた過去の不思議な事件。

 

自殺した美智留の父親に、実は何者かに殺された痕跡があったこと。美智留が鷺沼紗代を駅のホームから突き落とした瞬間をカメラがとらえていたこと。他にも証拠こそないものの、どう考えても美智留が相手を唆して犯行に及ばせたとしか思えない事件がたくさんあること。

 

美智留の凄さは、紗代を殺した場面をカメラに撮られた以外、まったく証拠を残さなかったところです(その問題すらクリアしますが)。クライアントには親切丁寧だし、犯罪の無理強いなど絶対にしない。ただ相手から泣きついてくるのを待ち、「こういうことをした人もいた」という例を話すだけ。一見、美智留のアドバイスは正しいように見えて、破滅的。わざと相手の状況が悪化するように仕向けているのです。

 

問題は、そのアドバイス自体には何の落ち度もないこと。「殺せ」という言葉を使わずに、上手に誘導していくのです。

 

「悪女」と言うと男をたぶらかす女のイメージを持つ方が多いと思いますが、美智留はそんなものではありません。もっとゲス。弱くて愚かな人間を狙うハンター。しかも一切自分の手は汚さずに邪魔な人間を排除し、お金儲けをするハンター。

 

周囲からは悪女どころか聖女くらいに思われているところも本物の悪っぽくて鳥肌が立ちます。まるで有吉佐和子の『悪女について』に登場する富小路公子のよう。

 

個人的にオススメなのは「鷺沼紗代」の章ですね。完全犯罪じゃん!!と、恐ろしくなります。

 

ちなみに『嗤う淑女』はシリーズ化されているので、続編もあとで読みたいと思います。

 

皆さんも美智留みたいな人間には騙されないようにしてください。

 

 

以上、『嗤う淑女』のレビューでした!

 

 

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