沈黙の町で|あらすじ・感想(ネタバレあり)
奥田英朗さんの『沈黙の町で』のレビューになります。X民にはデスドルの投稿よりもこの本を一冊読むことをオススメします。あらすじ中学2年の男子生徒が部室棟の屋上から転落し死亡した。事故? 自殺? それとも他殺なのか……?やがて生徒がいじめを受けていたことが明らかになり、小さな町に波紋がひろがり始める。朝日新聞朝刊連載時から大反響の問題作、ついに単行本化。テニス部の二年生坂井瑛介 14歳 長身のスポーツマンで、三年の不良グループからも一目置かれている市川健太 13歳 クラスの中心人物で、お調子者藤田一輝 14歳 父親は建設会社の役員で、祖父は県会議員 金子修斗 13歳 藤田と仲が良い名倉祐一 お金持ちで、家のお手伝いさんに「ぼっちゃま」と呼ばれていることから「ちゃま夫」というあだ名がついている←金銭感覚がズレている家庭であることも学校ではイジリの原因になっている→中学二年の名倉祐一が部室の屋上から転落死する。警察は名倉が屋上から近くにある銀杏の木に飛び移ろうとして失敗したのか、それともそれを誰かに強要されて亡くなったのかを入念に調査する。すると、名倉が同じテニス部の二年からいじめられていた事実が発覚。警察は、名倉の死に関連があるとして、少年4人のうち(坂井・藤田を逮捕、市川・金子を児相送り)にした。沈黙の町で (朝日文庫)Amazon(アマゾン)読書ポイント①名倉の背中一面にはつねられた痕と見られる皮下出血の痕があった。警察はこれを4人の少年がやったと自供したため、傷害容疑で逮捕した。しかし、市川と金子は13歳のため、児童相談所へ送られることになり、既に息子が誕生日を迎えていた坂井と藤田の家族は「同じことをしたのになぜ?」と、14歳と13歳の法律の差に困惑する。②事件に関わるすべての人物の視点から物語が描かれている。加害者、警察、被害者遺族、記者、学校関係者、クラスメイトなど。唯一わからないのは、名倉祐一の本心というところが最大のポイント。※ここでは主に被害者と加害者に焦点を当てた感想を書いていきます。詳しい内容は直接本書からご確認くださいm(_ _)m自殺か?事故死か?個人的に自殺は他殺だと思っているので、名倉の死の真相については、最初から他殺or事故死のどちらかであると思いながら読んでいました。以下は私の見解です。名倉の死について名倉は運動神経がなく、男子生徒のほとんどが出来る屋上から銀杏の木への飛び移りに自信がなかった。しかし、それを藤田から強要され、一応断ってはいたものの、その度に男としてのプライドが傷ついていた。他の生徒からの証言や、母親の話によると、名倉は架空の兄弟と会話をすることがあり、かつては精神科に通院していたこともわかっている。また、女子生徒に嫌がらせをしていたため、事件前には「死ね」と怒られていた(これも事件の引き金になっている?)。これはあくまで推測の範囲だか、名倉は幼い頃から心のよりどころを探していたのではないか。そんな時に母親が二回流産していることを知り、いつしか「本当は存在しているはずだった兄弟」へ自分のおもいを寄せるようになったのではないか。しかし、通院によって一度治ったと見られていた症状も、辛いことがあると再発していたことに家族は気づかなかった。もしかすると、事件の日、架空の兄弟と相談した結果、名倉は「飛ぶ」ことになったのかもしれない。もし飛べたら男らしさを証明出来るし、飛べなかったとしても兄弟がいる場所へ行ける。彼はそんな悲しい賭けに出たのではないか。本音以上のことから名倉の死は、他殺であり病死であるとも考えられる。そもそも彼は、老舗の呉服店の一人息子として溺愛&過保護に育てられたことが、同級生から宇宙人扱いされ、浮くキッカケになっていた。正直、私も名倉みたいな子がクラスにいたら、嫌っていたと思う…実は読んでいて一番辛いのはそこだった。普通なら被害者の子を気の毒に思い、同情するはずなのに、彼には100%そう思うことが出来ない自分がいた。さすがにいじめには加担しないと思うが、名倉に暴言を吐かれたり、暴力をふるわれたら、私も他の女子生徒と同じく言い返すし、やり返すと思った。まだ中学生レベルの洞察力しかなければ、なぜ男子にはヘラヘラしているくせに、女子には威張っているんだと頭にきていたと思う。だからこそ、私自身も本書を読んで立派なことは何一つ言えないのだ。弱い者いじめ私には男の気持ちはわかりませんが、女よりも力の差を意識しているんだろうなということは薄らと感じられます。背が低い、細い、運動音痴、声が高いなどオスとして、わかりやすく「弱い」とイメージできる個体に対してのからかいや、見下し方が半端じゃないなと思いました。また、それを周囲に見せつけることで自身の力を保持しているようにも感じました。(一方、名倉の叔父は体を大きくしただけの名倉に見えた。ただそれだけであんなに威張れるのかと思うと、もし名倉の見た目が大人びていたら、いじめられっ子ではなく、不良たちを取り巻きにしたモンスターになっていた可能性が高い)(メモ)男子 上下関係 縦社会 序列重視女子 横並び社会 目立つと浮く 協調性重視食物連鎖名倉をいじめていた藤田は、逆に小学生時代はいじめられっ子で不登校だった。しかし、中学では自分より格下の名倉を率先していじめている。同じく名倉も自分より弱い女子や、サラリーマン家庭の子を見下しており、弱い者いじめは連鎖していた。さらに男子生徒全体、特に部活動内では、先輩後輩の上下関係が激しく管理され、時にはペナルティとして暴力行為が正当化されていた。いじめと伝統を履き違えている本書を読んでいると、いじめられていたのは名倉だけでなく、テニス部の全員だと思った。しかし、本人たちにその自覚はなく、三年からのシゴキを加害行為だとは受け止めていなかった。そのため名倉に対しての行為もいじめだとは思っていないように見えた。私からすると、テニス部の三年も二年に対してかなり酷いことをしていたと思う…坂井たちが同級生の井上からされていたこともいじめだと思う…しかし、男の世界ではこれをいじめと言ったら頭のおかしな奴になってしまうようだった。空気が読めない、ノリが悪い、そんなふうになってしまうのだろうか。嫌がらせを嫌がらせと理解できずに洗脳される恐怖は、どこかカルトに似ていると思った。中学生の難しさ名倉の母親の気持ちを思うと、切なすぎて言葉になりません。大切な一人息子を亡くしただけでも辛いのに、そんな息子がクラスメイトから宇宙人扱いされ、女子からも暴言、暴力の被害を受けたと訴えられ、嫌われていたなんて…親としてあまりにも辛すぎます。そして、そんな残酷なことを名倉の母親に伝えられる中学生の「正義感」に恐ろしさを感じました。聞き取りの難しさ中学生相手の聞き取りには、刑事たちも頭を抱えていた。 当初、警察は少年たちに口裏合わせされる前に手を打とうとして、まずは傷害容疑で逮捕し、そこから殺人罪に持ち込もうとしていたが、聞き取りに手こずってしまい失敗に終わる。改めて中学生と接し、少年事件の厄介さを実感した。彼らは語彙が乏しい上に、気持ちの伝え方も知らない。誤解を与えそうな言葉を平気で吐き、重要なことなのに省いたりする。(略)少年はうそもつくが、それ以上に伝達能力が低いため、事実をぼかすことがある。彼らは羅針盤のない船のようなものだ。波に漂い、どこにでも流されてしまう。(P369)些細なことに怯えたり、重要なことを省いたりする。優先させるものが大人とは根本的に違うのだ。(P447〜448)親がすべていくら体は大きいと言っても中身は中学生。まだ親の言葉に効力がある年齢でもあった。特に坂井は母親から口すっぱく言われていた「男は言い訳するな。一生を通じて助け合える仲間を作りなさい」という教えを忠実に守って生きていた。それ故に、いじめの首謀者とされていた彼は、間違った正義感から仲間を庇っていじめの責任を取ろうとしていた。おまえのうそのおかげで、どれだけの人が迷惑をこうむったかわかるか?(略)世の中はな、ひとつのうそで大混乱するんだぞ(P471)おまえは完全に男らしさをはき違えている。言い訳しないのが男らしいと、思い込んでいるのかもしれないが、そんなものは身勝手なヒロイズムだぞ中学生は、命の尊さも、人生の意義も、人の気持ちも、自分の気持ちさえも、ちゃんとわかってはいないのだ(P472)唯一の救いだったのは、あらゆる大人たちが醜さを見せる中で、校長だけは名倉家の気持ちを優先しようと決心してくれたことです。当たり前ですが、「(名倉の人生は終わってしまい、もう同級生のように思い出を作れない)わたしは、そのことを第一に考えたいし、学校の責任者として償いたい」と、加害者生徒の親に言い切った校長のこの言葉にはグッとくるものがありました。感想今、とても複雑な心境です。結局はどうすればよかったのか。いじめられっ子の名倉は、何度も正義のヒーロー坂井に助けられては彼を裏切ってきました。その度に周囲からは「助けてもらったのに感謝もしない最低なやつ」という烙印を押されてきました。うーん、中学生にはわからないですよね。名倉的には毎回坂井に助けてもらうこと自体が恥だったのでしょうね。だから「助けようか?」と聞かれれば「別に」としか言えなくなってしまうし、同級生からは恩知らずなやつに見えてしまったのでしょう。そのうち坂井も腹が立ってきて、名倉がいじめられているのを見ても自業自得だと思ってしまったわけで…ただ名倉を見捨ててからは、自分も彼をパシリにしたり、一回つねってしまったので完全な白とは言えない。だからいじめの罪を認めることにした。そこまでは正しいです。しかし、坂井の監視下が弱まってからは、テニス部の後輩や女子生徒まで名倉を攻撃するようになりました。確かに坂井も名倉を傷つけた。ただ、それとこれは別。他の人がした暴力の痕まで自分で罪を被るのは愚かだし、責任の取り方を間違っていると思いました。名倉も名倉で弱い後輩に気絶ごっこを仕掛けて復讐されたり、井上から助けてくれた坂井を先生に売ったり、つまり自分から問題を作っているから嫌われてしまうのですが、よく考えるとこの行動も男子間にある問題をわざと大事にしてやろうと計画していたようにも見えるんですよね。ただ、名倉が卑怯なのは、元凶になっているボスをチクるのは怖いから、優しい坂井に擦りつけちゃおう的な狡さがあったところ。いじめられつつも、(坂井や市川などの)優しい子や人気者ではなく、(不良の井上や性格の悪い藤田など)いじめっ子に憧れている、名倉のこういうところがよくわかりませんでした。一番複雑だったのは、名倉をいじめた後輩を坂井が注意したときに、その行為自体が自分たち先輩がやってきたことの真似であることに気づいたシーンです。いじめは連鎖する、自分は人のことを言える立場ではない。この出来事もあり、坂井はすべての罪を被ろうとしたのだと思いました。残念なこと坂井たちの携帯から名倉の携帯にパシリの指示メールを送信していたのは井上だった。井上は親から携帯の使用を禁止されていたため、よく勝手に人の携帯を使って遊んでいた。警察はそのメールを見て、坂井たちが日常的に名倉をパシリに使っていたと見ていたが、坂井が井上を庇っていたため、なかなか真実が明るみに出なかった。これについて坂井は、自分も名倉から当たり前のように飲み物を受け取っていたため(金持ちの名倉が買ってくれることに違和感を持たなかった罪)、パシリにしていたと言われれば、井上と同罪だと思っていたとのこと。しかし彼に対しては、同罪の者を庇うのは罪ではないのか?という疑問も。また、名倉の背中にあった皮下出血の痕は、つねったと名乗り出た者の人数と回数が合っていない。実際は名倉に蹴られた女子生徒とその仲間もやっていたが、彼女たちは最後まで知らんぷりをしていたどころか、罪悪感を抱いていたのかすらもわからない。もしかすると、いまだに「私は名倉に傷つけられた」という被害者意識のほうが強いのかもしれないと思った。親は息子が一番かわいい坂井、市川、藤田、金子の親たちへ。自分の息子を信じることは大事だが、もう少し名倉の死と向き合ってほしかった。シングルマザーで坂井を育てた百合は、名倉を守っていた息子がなぜ悪者にされなければならないのかと憤慨していた。彼女の場合は、息子を守れるのは自分しかいないという使命感から周囲を過剰に敵視しすぎている気がした。一方、市川の母は、息子が13歳で逮捕されずに済んだことに罪悪感と安堵感を抱えていた。また、学校で人気者の息子は教師からの信頼も厚く、いじめをするような人間には思えなかった。同じく藤田、金子の母親も息子がいじめに加担しているとは信じられず、無関係だと思い込みたいようだったが、実際は彼らこそが首謀者だった。※親の都合の良い解釈坂井は名倉と別な意味で見た目で損をするタイプ。知らない人からすると、そのイカつい見た目から自動的に不良よりも悪に見えてしまっている(から無実)。市川は流されやすい性格のため、坂井のいじめに便乗したと思われ、藤田と金子は大人しいから仲間に言われるがままに(だから悪くない)…と言うシナリオがあった。ちなみに教師たちも坂井と市川についてはクリーンな印象しかなかった。こうして見ると、普通の子が普通にいじめをしてしまうのが中学生の怖いところ。むかついた仕返しに歯止めがきかなくなったのも、大人がそれに気づいていなかったのも、両方怖い。私は名倉を殺したのは全員だと思っているので、校長はそれを子供たちや保護者と一緒に考えていってほしいと思った。《おわりに》人をいじめないためにはどうしたらいいか?自分は自分、人に流されない。自分の言葉を持つ、説得力のある人になる。お手本にするのは人格者だけ。悪い人を真似ない。嫌いな人間とは深く関らず、距離を置く。名倉は親の評判が悪く、自身も性格が良いとは言えなかった。しかし、それがいじめて良い理由にはならない。明らかに精神的におかしな兆候が見られていたのは事実なので、教師のフォローが必要だった。実際は嫌われている生徒や、変わった生徒を認知していない教師などいないと思う。そういったことは保護者ですら知っているもの。だからこそ、いじめが発生しないように普段から注視しないとならない。あれだけ校内で暴力行為、危険行為が多発しているのに学校側が気づかなかったのは言い訳でしかない。残念ながら、名倉の死は学校側の職務怠慢が原因の一つであると思った(もちろん学校の責任だけじゃない)。結論|いじめはなくならないので、人を傷つける側にも、傷つけられる側にもならないようにするためには、個人で対策するしかなさそうです。とにかく自分を大事にしてください。以上、レビューでした!あわせてどうぞ『「コメンテーター」奥田英朗』直木賞受賞、累計290万部の人気シリーズ17年ぶりに復活!低視聴率にあえぐワイドショーのスタッフの圭介は、母校のつてで美人精神科医をコメンテーターとしてス…ameblo.jp『普通の子|朝比奈あすか|親も知らない子供の姿』ほとんどの人間が何かしらのいじめの加害者であり、被害者であるということがよくわかる物語。また、誰しもが持つ外の顏というのは、家族だけが知ることのできない顔だ…ameblo.jp↑『沈黙の町で』と少し似たテーマでオススメです