「うつくしが丘の不幸の家」町田そのこ
今回ご紹介するのは町田そのこさんの連作短編小説です。『うつくしが丘の不幸の家』そこは名の通り、海を見下ろせる美しい住宅街「うつくしが丘」に建つ、築25年三階建ての一軒家です。本書はこの家に住む歴代の住人5家庭が紡いでいく物語となっています。見どころは、章が移るごとに主人公が前章の一代前の入居者となり、時間を遡る形で進んでいくところです。前の住人が何を思ってこの家を売ったのか、なかなか人がいつかないのはこの家が不幸で呪われているからなのか?読んでいくとそんな疑問が浮かんできます。さっそくですが、簡単なレビューをご覧ください。うつくしが丘の不幸の家 (創元文芸文庫)Amazon(アマゾン) Amazon(アマゾン)で詳細を見る 楽天市場で詳細を見る ${EVENT_LABEL_02_TEXT} 第一章『おわりの家』築25年の家を購入し、一階を夫婦が経営するヘアサロンにリフォームした美保理と譲。本来なら譲の実家の理容店を継ぐ予定でしたが、諸々の事情があり、自分たちで店をオープンすることになったのです。そんな矢先、実家から人手が足りないので店を手伝ってほしいと要請があり、譲はかり出されてしまいます。ただでさえ開店準備で多忙だと言うのに、それを急きょひとりでやることになり、腹を立てる美保理。それもそのはず、なんと美保理は舅から譲と結婚するにあたり「夫婦で店を継いでもらうために美容師になってほしい」と言われたため、わざわざ24歳で美容学校に通い、免許を取っていたのです。それなのにいざ結婚したとたんその話は流れ、自分たちで店をオープンさせることになったのにもかかわらず、今度は実家を手伝えという傲慢な舅。そんなとき、美保理は近所の住人から「この家は不幸の家」だと言われ・・・。第二章『ままごとの家』こちらは美保理たちの前に住んでいた家族のお話。多賀子は夫の義明と、大学受験を控えた長男の雄飛と三人で暮らしています。実をいうと、もとは四人家族でしたが、この家に越してきてからすぐに長女の小春が家出しています。問題はそれだけではありません。なんと義明は若い女と不倫中で、雄飛にいたっては高校生の分際で彼女を妊娠させていたのです。何も知らないのは多賀子だけ。おまけに家のクローゼットには前の住人の落書きとみられる「おんなのおはか→じごくいき」という不吉なメッセージがあり・・・。第三章『さなぎの家』こちらは例の落書きを残した住人のお話。叶枝は結婚詐欺に遭い、全財産と住まいを失います。一方、友人の紫は夫に離婚を言い渡され、幼い娘の響子とともに放り出されます。困った二人は、偶然にも高校時代の先輩、蝶子を頼り、彼女の持ち家を一年間だ貸してもらうことになります。こうして三人での共同生活が始まったのですが、叶枝は響子と過ごすうちに、彼女が父親から酷い扱いを受けていたことを知り困惑します。ひょっとしたら響子は自分が過去に受けていたことと同じような目に遭っていたのではないか。そう思った叶枝は何とかして響子の心を救おうとしますが・・・。第四章『夢喰いの家』こちらは蝶子の夫、忠清が主人公のお話。十歳以上年下の蝶子と結婚したものの、自身が男性不妊であるため妊活が上手くいかず、罪悪感に苦しむ忠清。思い悩んだ末、一方的に離婚届を渡してしまいますが、勝手に結論を出した忠清に怒った蝶子は出ていき、ひとり広い家に取り残されてしまいます。しかしその後、蝶子にはカフェを開く夢があることを知り・・・。第五章『しあわせの家』こちらは初代住人のお話。真尋は二年前に出会った須崎健斗と、その息子の惣一と一緒に暮らしています。健斗には別れた妻がいますが、その原因は100%健斗にあると言っていいほど彼はどうしようもない男でした。ある日、真尋は幼い自分を置いて出て行った実父が亡くなったという報せを「妻」を名乗る女性から受け、線香を上げにいきます。そこで真尋は父が再婚していたことや、まだ小学生の娘がいたことを知ります。真尋は自分そっくりの妹が父からとても愛されていた事実を目の当たりにし、もの凄い怒りと絶望に駆られ・・・。<感想>最低な男ばかりが出てくる本。読み終えてすぐの感想はコレでした。まずは高校生の分際で彼女を妊娠させた雄飛。彼女は年上の社会人ですが、まだ十代。けれども親になるからには自分の力で育てる覚悟を持っています。それに対して雄飛は「彼女とは結婚したいけどぉ、大学にも行きたいしぃ、そのほうが将来的にも家族のためにもいいと思うし~、子育ては母さんが手伝えばよくね?てか父さんもそう言ってるし」というクズ。次に紫の夫。腹が立ってもう名前は忘れました。けど、ソイツ。実の娘に「ぶさいく」と暴言を吐いたり、気に入らないと頭を叩くような最低人間。そもそも紫を追い出した理由も「男の子を産めないから」とか意味不明。それで勝手に新しい女を連れて来て、その女が男児を産むから紫も響子もいらないよ~というわけです。江戸時代にカエレ。一番ヤバイのは健斗。年齢も職業も嘘をつき、バツイチ子持ちなことも隠して千尋と付き合ったホラ吹き野郎。すぐに仕事はサボるし、仲間から借金しては借りパクするし、最後は息子を置いて出ていくし、もう無責任放題。父親に捨てられた真尋と惣一はどちらも気の毒すぎて・・・。個人的に真尋の境遇が一番切なかったです。おっと感想がダメ男紹介になってしまったので、これはここまでにしましょう。気を取り直して、真面目にいきます。えっと、そうそう。本書にはどの章にも隣人の荒木信子さんという老女が登場します。この癒し系おばあさんの存在が「不幸の家」の住人たちにとって救いになるのですが、実は彼女にも暗い過去があるのです。それは第四章を読むとわかるのでお楽しみに。さらに信子さんは名言を披露してくます。それは「不幸の家」が本当に不幸を呼ぶ家なのか、住人が悩んでいたときにかけてくれた一言でした。「あなたはしあわせがどうこう言うけれど、しあわせなんて人からもらったり人から汚されたりするものじゃないわよ。自分で作りあげたものを壊すのも汚すのも、いつだって自分にしかできないの。他人に左右されて駄目にしちゃうなんて、もったいないわ」ですよね~。本当にそのとおりなんですよ。実際に歴代住人たちは皆、ポジティブな理由でここを去っているのですから。「不幸の家」なんてネーミングした人の心こそが「不幸」なんですね。あぁ残念!さらにですね。本書にはエピローグで、あるサプライズが用意されているんですよ!それは過去に「不幸の家」に住んでいた住人が大人になり、庭に埋めた枇杷の木が無事に成長しているかを見に来た時に判明します。読者はすぐにピンときますよ!この子ってもしかして、と。ということは、今この家に住んでいる子って、あの子?みたいな。他にも「もしかして」なエピソードが待っているのでお楽しみに。まさか枇杷の木にあんな秘密があったとは驚きでした。うつくしが丘の不幸の家は、全然「不幸」ではありません。強いて言えば、不幸なのは家ではなくて、交通の便が悪い土地なんじゃ・・(笑)それなのに近くにスーパーがないのは不便です。この問題が解決すれば住人たちのストレスも少しは減るのではないかと思われます。同じ場所でも住む人次第で感じ方は全然違ってくるのでしょうけれど。私もいつか心から幸せを感じられる家に住んでみたいと思いました。理想は大型犬を放し飼いできるほど広い庭付き一軒家。理想です。以上、『うつくしが丘の不幸の家』のレビューでした!あわせてどうぞ『傷ついたあなたへ「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ』チェルミー図書ファイル③今回ご紹介するのは、町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」です。こちらは2021年本屋大賞ノミネート作品になります。 BO…ameblo.jp『町田そのこ「星を掬う」と一穂ミチ「砂嵐に星屑」を読んだ』こんにちは。今回はタイトルに「星」がつく小説を読んでみました。まず一冊目はコチラ星を掬うAmazon(アマゾン)1,672円 Amazon(アマゾ…ameblo.jp