湊かなえさんのデビュー15周年記念書き下ろし作品

 

『人間標本』

 

うわ!題名から危険な香りがしてくる・・!!と思っていたら、内容はさらにヤバイ。蝶博士が自分の子供を含む少年6人を殺して標本にしてしまうだと?!

 

しかし実際に読んでみたら、もっとヤバかった。蝶博士に騙された。蝶博士に騙されたと思ったら子供たちに騙されていた。子供たちに騙されたと思っていたら・・・ハイ、そうです。さすがの湊かなえさん。ただごとでは終わらせてくれませんでした。

 

 

 

 

ネタバレしないためには、どう書いたらいいのか迷う物語。正直にいうと、前半は面白くなく、蝶の話ばかりが続きます。あまりにも読むスピードが上がらないので不安になり、レビューサイトを覗きにいくと、「終盤で一気に面白くなるからそこまで待って」「ラスト数ページでやられてしまう」とのコメントが多い。それなら期待して読んでみよう!と半分くらい読んでみたものの、ここから本当に物語が急展開するのだろうかと再び不安に。ようやく半分を過ぎたあたりから、およよ?実はそういうことだったの?へー気づかなかったなぁレベルのサプライズがあります。しかし、これくらいではまだ湊かなえさんの小説とは言えません。全然かすり傷レベル。まさかこれで終わりじゃないよね?え?

 

そこから再び「嘘?ホントにこれが真実なの?えーっ、それは残念。何かもっとアッと驚くような仕掛けがあると思っていたのに」という時間が続きます。それを覆してくれるのは、さらに先だとは知らずに・・・。そう、さらに先なんです。なので、これから読まれる方は終盤までゾクゾクを我慢してください。読み終わった後は、そういうことだったのかぁとスッキリします。

 

 

以下は、当たり障りのない内容紹介になります。

 

有名画家の父を持つ榊史朗は、幼い頃に父から蝶の標本作りを勧められてから、蝶マニアになってしまいます。史朗は大人になると、趣味を仕事にして蝶博士になりますが、一人息子の至は祖父の血を受け継いだのか絵が上手く、コンクールで賞を取るくらいの才能を持っています。

 

ある日、史朗は友人で有名画家の一之瀬留美から、夏休みの間、至を絵の合宿に参加させてみないかと誘われます。その合宿は留美の後継者を決めるための合宿であり、他にも5人の少年が参加するとのことで、ぜひ才能ある至にも来てもらいたいと頼まれます。

 

当日、至と5人の少年を山奥にある留美のアトリエ兼別荘まで送り届けた史朗。しかし、この後すぐに留美が体調を崩してしまい、合宿は中止となってしまいます。それからしばらくしてインターネット上に、『人間標本』という6人の少年たちの標本画像と、その作り方をまとめた榊史朗による手記がアップされ、日本中がざわめきます。なんと標本にされた少年たちは、それぞれが別種類の蝶に見えるように、胴体や足を切断されたり、体に塗料を塗られたり、装飾されていたのです。

 

ちなみにこの標本は本書にも絵として登場します。それはもうなかなかの気持ち悪さ。絵自体は気持ち悪くないのですが、世界観がグロテスクです。

 

話を戻して、少し留美について説明させてください。実は留美の母と史朗の父は美大時代の友人で、ともに画家。その縁もあり幼い頃史朗は留美に一度だけ会ったことがあります。ちょうどその頃、標本作りをしていた史朗は、大作「蝶の目から見た花畑」を完成させていました。それは赤外線を色で見ることができる蝶の目で見た花畑の絵を描いたカンバスに、蝶の標本を貼りつけた作品でした。留美はこの絵を見た瞬間からとても気に入り、史朗からプレゼントしてもらうのですが、その理由は意外なものでした。

 

なんと留美は四原色の色覚を持っており、他の人には見えていない色まで見えてしまう、まるで蝶のような少女だったのです。そんな留美にとって史朗の絵は心の拠り所になり、コンプレックスだった能力を画家になることで生かそうと思わせてくれるきっかけにもなったのです。

 

史朗が父の才能を受け継がなかったように、留美の娘・杏奈にもその才能は遺伝しませんでした。しかし史朗には学者である祖父の血が遺伝したのか、自身も蝶博士という道を歩みますが、杏奈の場合は母親に認められたいがために、コンプレックスを抱えながら画家を目指しています。

 

この物語には、他にも二色性色覚の少年が登場したり、遺伝に関するエピソードが散りばめられています。ここでは誰がなぜ人間標本などを作ろうとしたのか(真犯人)は言わないのでおきますが、気になった方はぜひ読んでみてください。すべてが蝶とからんでくるので、少しでも蝶に詳しい方なら何か気づくことがあるかもしれません。

 

蝶に魅了された人間に、唯一無二の才能を追い続けるアーティスト。この二つの世界観をお楽しみに。

 

最後に付け加えておくと、ちゃんと少年たちの紹介文に湊かなえさんらしさが漂っているので、イヤミス好きの方はご安心を。安定のドン引きするキャラクターがいるので、そこにもご注目下さい。

 

 

以上、『人間標本』のレビューでした!

 

 

 

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