今回は「気がつけば〇〇だった」シリーズより『気がつけば40年間無職だった~もしくは潔癖ひきこもり女子の極私的物語~』をレビューします。
失礼ながら、どうしても興味津々になってしまうこのタイトル。迷わず手に取りました。だって40年間も無職で、しかもひきこもりで、どうやってそこから抜け出せたのだろう?と単純に気になったからです。
結論からいうと、著者の難波ふみさんは、この本を出版すること、つまりは作家デビューすることで初めてのお給料をゲットし、無職から脱出したわけです。(しかし、その後の活躍は仕事のオファー次第なので、無職卒業とはまだ言い切れません)
履歴書の空白は、そのまま人生の空白期間ではないっっ!!書類上に書けない期間も、確かに難波さんは必死に生きていた!苦しんでいた!闘っていた!幼少期の不登校に始まり、潔癖症、強迫性障害と次々に発覚する精神障害を抱えながら、それでも必死に社会復帰を目指して頑張った経緯がここに綴られています。
「働かざる者食うべからず」という言葉がありますが、この言葉に悩まされているひきこもり無職の方は多いと思います。だって働きたいのに働けないのだもの。働きマンでいる時は、「あ~もう仕事辞めたい。ニートになりたい」と言いつつも、いざ失業だー、就活だ―、お祈りメールだーなんて状況が続けば、誰だって社会の一員になれていないプレッシャーに苛まれると思うのです。正直、誰だって自分のお金で稼ぎ、自立した方が気兼ねなく生きられる。
難波さんも無職期間はずっとこの問題と闘ってきました。心療内科へ通院するのもお金がかかって申し訳ない、家族の迷惑になっているのが辛い、働きたいけれど履歴書の空白期間と、中卒という学歴でバイトの面接すら通らない。一体どうしたらいいの?
そもそも難波さんがひきこもりになった原因は、小学校時代に遭ったいじめでした。ただでさえ大人しく、コミュ障だった難波さんは、父親の仕事の都合で引っ越しを経験しているのですが、これがとてもよろしくない方向へいってしまい、結果、不登校になってしまいます。
そこにさらなる拍車をかけたのが両親でした。当時はまだ不登校に対する理解がなく、そんなものはすべて甘えだ!学校行け!という時代。教師たちは難波さんを荷物のように抱えて教室まで連れて行くし、それを見ていたクラスメイトにはバカにされる散々な日々。学校に行きたくないと暴れる難波さんと両親は毎日バトルし、ついに母親が包丁をつきつけて「産まなきゃよかった!」と言ってくる事態にまで発展します。さらに父親はそんな難波さんを暴力や暴言で脅しますが、効果がないとわかると、今度は腫れ物扱いをしてくるようになります。
実をいうと、この父親の切れやすさというのは、難波さん自身も受け継いでいます。むしろ父親以上に怒りのコントロールを苦手としていたように思えます。また父親にはやや潔癖なところがあるのですが、難波さんは見事それも受け継ぎ、悪化させ、強迫性障害まで患います。私もかなりの潔癖なので、人のことを言えないのですが、難波さんは自身の留守中に部屋がどんな状況であるかわからなくなることを恐れ、外出できなくなるほどまでに陥っていました。
ただ、難波さんは臆病でありながら大胆な人でもあります。特に恋愛に関しては好きでもない人と体の関係を持てるし、警戒心もなく付き合えます。時々読んでいてハラハラする場面もあるのですが、当の本人はおかまいなし。逆にこの適当さがなければずっとひきこもりのままだったでしょう。推しのライブに行ったり、お小遣いでお買い物をしたり。なかなか人生をエンジョイしています。こういうことを知ると、「本当に病気なの?」と思う方もいるかもしれませんが、こういうことができないと前には進めなません。難波さんは社会復帰するために、まずは好きなこと(ライブ、コスメを買いに行く)から初めてみることにしていたようです。
そして、なんと難波さんは30を過ぎてから高校生になります!就活をするにも空白期間のせいで落ちてしまうので、何とかそれを埋めたい、それならば学校へ行こうというポジティブな気持ちで受験します。このとき私が凄いなぁと思ったのは、難波さんは困った時に迷わず人に頼れる人間であるということです。過去にお世話になった塾の先生に連絡をして進路相談に乗ってもらったり、入学先の高校の先生に卒業後も困ったことがあったら連絡したり・・・。これ、なかなかできないと思うのですが、難波さんにはピンチの時に頼れる人が多く、わりとパパっと悩みを打ち明けられるところには羨ましさすら感じました。
結局、難波さんは高校時代の教師から社会福祉士を紹介してもらい、障害年金を受給することになります。これでひとまず金銭問題はクリアし、長年両親に払ってもらっていた諸々のお金を返すことにも成功します。その後も何とかして働く術はないかと考えていたところ、「気がつけば〇〇フィクション賞」の応募広告を見つけ、パソコンなんて持っていないけれど手書きで送ったれ精神で、本の出版を目指して原稿を書き上げ投函します。行動力が本当に半端ないですよね。ここにはやはり、どうしても自分の稼いだお金で両親に楽をさせたいという思いがあったのです。
それでも現在はまだ、朝に1種類2錠の薬と、夜に8種類12錠の薬を服用している難波さん。それに加え、怒りを抑える注射と、「もしも」の時の頓服薬も処方されているそうです。
精神病、女性のひきこもり、中年無職、まもなく他人事ではなくなる介護貧困・・・。難波さんの日常には日本の社会問題が一気に詰まっています。これからは高齢の両親を自分が支えなければなりません。まだまだ課題だらけの人生です。
おそらく本書には書けないこともたくさんあったかと思います。できるだけ暗くなりすぎないようユーモアを入れつつ執筆されたことでしょう。本書ではあっさりと書かれた部分も、いつか機会があったら他の本で詳しく書いてほしいですね。
今回、本書を読んでいて改めてわかったのは、自分を守ることの大切さです。働けずに迷惑をかけている・・・。自分なんて生きている意味がない・・・。社会の役に立っていない自分には娯楽など許されない・・。そう考えていると、どんどん負のループに陥ってしまうということです。自分で自分の価値を下げ、誰よりも自分を否定していると、心は塞がったまま。それならば治療期間として、自分のために尽くしてみるのもいいのでは?それで少しでも心が晴れるならやってみる価値はあると思うのです。
やはり人間は大事にされないとダメ。自分を大事にできないと愛情の受け取り方も下手になる。
もし、「ひきこもり無職」と言われ、悩んでいる人がいたら、まずは本書を教科書に自分を労わってみてください。そして思いっきり、好きなことをする!遠慮せずに楽しんでみる!
そうすることで少しでも気持ちがアクティブになってくれたらと思います。
以上、『気がつけば40年間無職だった。』のレビューでした!