今回は普段あまり選ばないジャンルの本を読んでみました。
『好きなひとができました』加藤元
題名だけ見ると、甘々な恋愛系かと思いますが、中身は”次から次へと女性と付き合い、すぐに「他に好きなひとができた」と別れを告げる男”の物語だということで、それなら読んでみようと思ったのです。どういうことや!というツッコミが聞こえてきそうですが、甘々恋愛小説は読んでいるとこっぱずかしくなってくるので、基本はごめんなさいしています。どうせ恋愛小説を読むなら、パートナーの片方が狂ってる系や、そこに歪な関係があるという一癖ある系を求めています。変なことを言って申し訳ありません。ちょっと一癖ある人物が登場する本には、彼らがどういった心理状態にあるのか気になってしまうのです。
というわけで、今回わたしにマークされてしまった人物は、本書に登場する神崎登吾さんです。神崎はその美しい容姿でこれまで数々の女性(たまには男性も)を虜にしてきました。もちろん本人は無意識です。毎回いつのまにか相手が自分に惚れているというパターン。モテる男も大変ですね。
しかし神崎は相手から告白されるとすぐに「いいよ」と承諾しますし、つき合ってからも何でも「いいよ」と言って合わせてくれます。あれ?どうでもいい女からもモテることに嫌気が刺しているわけではないのか。あからさまな好意に対し嫌悪感はないタイプ?そう思いきや、神崎は付き合ってしばらく経つと突然「好きなひとができた」と言い、どこかへ行ってしまいます。謎。いったいどういうことなのでしょう?
★★☆☆☆
簡単なあらすじは以下のとおり
神崎にフラれた萠という女性が突然の別れに納得できず、神崎の職場や幼い頃に住んでいた家、さらに元カノや従姉妹のもとまで調査に行きます。私たち読者は萠が行く先々で聞いた話から神崎の過去をたどっていくことになります。
萠がまず最初に訪れたのは神崎の職場です。しかし、その頃にはすでに神崎にとっての元職場になっていました。もちろん辞めた理由は「萠がしつこく追ってくるから」ということではありますが、他にも店長の自己愛が気持ち悪いという理由がありました。
店長はイケメンの神崎にメロメロで、それはそれは親切にしていました。そこまでするか?というくらい不自然な親切を振りまくものですから、神崎の警戒心は常にMAX状態。モテ男の人生論としては「親切にしてくるやつは、絶対に見返りを求めてくる」が鉄則なので、できるだけ優しくされないようにしなければなりません。恩というのはそれくらい厄介です。その言葉を武器にすればいくらでも人を操れる。自分目当ての店長は、最初からそれ目的で優しくしてくれるのだと、神崎は心得ています。また、店長は一般的にも美人に属していることから、自信過剰で、何でも自分のいいように解釈してしまいます。男という男は自分のことを好きになると思い込んでいることも、神崎には鬱陶しいところでした。
こうして二つの悩みが重なった結果、神崎は仕事を辞め、消え去ってしまったわけですが・・・
次に萠が調査に向かった元カノや、学生時代の同級生からの証言では、さらなる神崎の闇が暴かれていきます。
酷いいじめをしておきながら、「俺らは神崎のことが好きだよ」といい、あくまでもこれは遊びだと言い張る奴ら。自分から「好き」だと言って優しくしてきたくせに、神崎が自分の思うような彼氏になってくれないとわかった途端、矯正しようと支配してくる女。自分都合なのに「好きだから”あなたのために”言っているんだよ」と言う女。
神崎に「好き」といってくる人間たちは、誰もがその言葉を利用して自分を支配してくる悪魔ばかりだったのです。
<まとめ&感想>
神崎の周りには歪んだひとたちが集まります。そのため、神崎は「優しい人」が苦手になっています。信用できるのは、自分に冷たくしてくれる人だけ。「好き」と言ってこない人だけ。それ以外は「好き」という言葉で釣って、結局は自分のエゴを押し付けてくるに決まっている。
そのため神崎は誰とも長続きしません。みな、神崎を通して自分の咽喉を潤すことしか考えていないからです。それが見えた瞬間、神崎の中で恋が終わってしまいます。「好き」とたやすく言ってくるひとは、少しでも神崎の欠点を見つけると、おかしい部分を変えようとしてきますが、それがとても苦しいのです。どうして自分を好きなはずのひとたちは、自分を傷つけることばかりするのだろうと。
それなのに神崎は恋愛をやめません。黙っていてもモテてしまうので、すぐに次の女性から求められてしまいます。「好き」が重荷になるなら、やめておけばいいのに、誰かを「好き」でいたいのです。神崎の中にもまた、今度こそこの「好き」は嘘ではないかもしれない、信じてみたいという気持ちがあるようで・・・。
うーん。神崎は恋愛に失望しているものの、それなしでは精神を保てないのですね。だから次こそはと愛を求めますが、最終的には同じ結末になるので、完全に打ちひしがれる前にキープしていた女のもとへ慰めにもらいにいくようです。
助けたい、守ってやりたいと相手に思わせる。そういうひとたちはたいがい『悪』いものなんですよ。当人たちにその気はなくても、相手をのみ込んでしまう。他人の人生を支配する。悪女であり悪い男なんです。P225
そう考えると、神崎もなかなかのワル。確かに生い立ちは気の毒だし、母親は最低最悪だし、女嫌いになってもおかしくない経験をたくさんしているので、穏やかな恋愛はできないでしょう。しかし、神崎にとっての「好き」もまた軽く、それは恋愛感情ではなく、相手の行為を搾取しているだけなのかもしれない・・とも思いました。
ちょっと私には難しい心情でしたね。正直、従姉妹の話と元カノの話くらいしかよくわかりませんでした。
ちなみに、本書は短編形式になっています。しかも謎に各章のタイトルが「口裂け女」とか「のっぺらぼう」などの妖怪名になっています。全体的によく理解できないまま終わってしまいましたが、まぁ恋愛なんてエゴとエゴのぶつかり合いで、キレイじゃないよ~ということでおわりにします。
以上、『好きなひとができました』のレビューでした!
※神崎に執着している男のストーカーがやばいので、そこにも注目を!