東シナ海流68 生死の境 | 野人エッセイす

野人エッセイす

森羅万象から見つめた食の本質とは

初めての長距離航海、母港まで船を無事に帰港させるのが船長の責務。

入港まで何時間かかろうが操船は自分1人でやると決めた。

技術は最も重要だが、心が折れれば荒天時の操船など出来ない。

 

ボースンに代わり野人が舵を握ったが恐怖もあせりもない。

これからが正念場、脳みそのスイッチがすべて入った。

 

この大波は強風の為に波長が短く波高が高い、つまり波の頂上で船首が持ち上げられ下りで谷の底に突っ込み大量の海水を救い上げるが、浸水量が限界を超えれば船は復元出来ない。

このまま大波に直進すれば最悪の結果が待っている。

 

最悪はそれだけではなく、直進すれば波頭から谷まで落下の衝撃で極端にスピードが落ちる。 風と波がさらに強まる中、一刻も早く屋久島に入港しなければならない。

出来るだけ速度を落とさず、衝撃と浸水を避け、危険な傾斜を避ける必要がある。

 

この窮地を乗り切るには進路変更ではなく、波に逆らわず小刻みなジグザグ航行による直進しかない。

斜めに波を上る時に波に負けないようスロットルを上げ、頂上でデッドスロー、微速前進で落下の衝撃を緩和、斜めに下りながらバランスを保つ。

船が波に押されて大きく傾けば瞬間に傾いた谷に向けて舵を切って遠心力で船を垂直に起こしすぐに舵を反転させて進路を戻す。

横転しそうになった時のオートバイの逆ハンドルのようなものだ。

 

逆ハンドルを間違えて波に負けずに起こそうと反対に切れば間違いなく船は横転する。 それほど凄まじく力強い波だった。

経験と技術がまったく通じなかった鬼ボースンにとっては人生初の恐怖と絶望だったのかもしれない。

 

対応出来ない大波には船を垂直にして向かうのが安全の基本だが、防戦に時間がかかればさらなる危機が待っている。

それを防ぐ為にも新たな航法・操船法が必要なのだ。

 

風をよみ風に逆らわず、波をよみ波に逆らわず、水もまた同じ。

これが痛い目に遭いながら幼少より培ってきた野人の極意であり、誰に教わったものでもない。

幼少から窮地に立つほど脳にスイッチが入り、機能が全開するほど野人の頭は冴えわたり、静かな闘志が湧いて冷静沈着になり本能も研ぎ澄まされる。

 

体力も腕力もあり、船の傾斜にも踏ん張りが効き、舵取りも波との駆け引きがわかれば難しくもない。

逆らわずにかわし続ければよく、船底が割れるような衝撃もなくなった。 スイッチョスイッチョと高波に逆らわず進む航法は船をボードに見立てたサーフィンのようなものだな。

ぶっつけ本番で野人は極限時の大波のいなし方を考案・習得したが、そこからさらなる進化があった。

 

白い波頭が砕ける猛烈な嵐の海にしては、船は大波を縫うように驚くような速度で走り続けた。

大波を超えて落下を防ぐ為の減速は必要なく、直進ではなく重力を利用して斜めに滑り落ち、その惰性を活かしてコースはそのまま波を斜めに駆け上がる。

波頭の上で舵を反転して次は逆方向に滑り落ちる、こうすれば小刻みジグザグだが速度を落とさず目的地へほぼ直進、時間のロスも最低限に抑えられる。

 

最小限の操舵だけでスロットル操作が随分楽になり、時には機関全速で大波を斜めに駆け上がり速度はさらに増した。

GM社の強力なエンジンはパワー十分。

水の流れに逆らわずにスピードを保つアナコンダのような航法が完成、野人泳法と同じだな。

 

大波に恐怖を感じるのは防衛本能がある人間なら当然であり、ボースンの操船技術が未熟なはずもない。

野人にとっても初めての経験だが、乗り切るのは奮い起こす闘志ではなく、物理的な根拠と観察力であり、それを冷静沈着にやり遂げる強い意志が必要なのだ。

頑張ろうが努力しようが理に合わなければ目的は果たせず、現実の難問の答えは心では出せない。

生死の境は道理と手法次第で大きく左右される。

 

春の嵐はさらに強まり、4時間立ったまま操船を続けた。

苦もなく大波をあしらい続けたが、操舵を誤れば終わりだ。

帰港まで1時間以上余分な時間はかかったが屋久島一湊港に無事に入港した。

出航の判断を誤れば乗船客は今回と同じ目に遭うことを肝に銘じた。 恐怖と船酔いの苦痛ははかり知れないだろう。

 

この時からボースンの野人に対する認識が変わり、名前の後ろに「さん」が付くようになった。

 

諏訪之瀬島で諏訪瀬丸を守り通した時の船長は一湊ヤマハ基地の船舶課長だったが、強風に追われて島の周囲を逃げ回る3日間の嵐の逃走劇で、船長ももう一人のクルーも体力の限界で船酔いして寝たきり。

助っ人で島から乗り込んだ野人は、操舵だけでなくアンカリングから食料と水の確保まで孤軍奮闘した。

 

この時も終わってから名前の後に「さん」が付いたからこれで2人目。 ツイン・さんシャインクラッカー・・だな。

しかも大御所2人・・この部門をまとめるという伊藤常務との「ついでの約束」も果たせそうだ。

まだ任務は本格的に始まっていないのだが。

 

かろうじて生き延びたというより、さほど難しくもなかったが、これでは先が思いやられる。

これより強烈な嵐にも出会うだろうが、必ず切り抜けて見せる。

恐怖や絶望など、デリカシーのない野人は幼少から持ち合わせてはいない。

 

「野人以外の船長では あの船は沈む」

 

この判断は間違っていなかった。

 

 

 

ツイン・さんシャイン1号 右端   愛さんさんとクラッカークラッカー

今は輝きがダウン・・汗  怒って電話が来るかも・・叫び

 

 

 

諏訪之瀬島 切石港 港というものでもない突堤

野人は入港出来ない沖の船から泳いで近づき 

突堤の先端でビニル大袋に入れた水と食料を受け取り

大荒れの水路を船まで泳いで持ち帰った

 

 

 

 

 

 

 

思考順路お役に立てたらクリッククラッカークラッカークラッカー

             ダウン

にほんブログ村 健康ブログ 健康法へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 健康ブログへ

にほんブログ