海に沈まない?島
以前 、海面上昇を一因として、島が沈みつつあることを紹介しました。今回、海面上昇しても島は沈まないという報告が出ました。
http://www.newscientist.com/article/mg20627633.700-shapeshifting-islands-defy-sealevel-rise.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100609-00000042-mai-int
これはどういうことでしょうか?また、ツバルは海面上昇で真っ先に沈む国として、地球温暖化問題の象徴的な扱いを受けてきましたが、それは間違いだったのでしょうか?
・沈む?沈まない?
この論文が対象としているのは太平洋中央部(Central Pacific)の島々です。これらの島々はサンゴ礁から形成されています。サンゴは、海水中の炭酸とカルシウムイオンから硬い骨格を作るという性質があります。普通の島と違い、サンゴ礁の島は、島の材料が無尽蔵に生み出されてくるのです。
一方、先日紹介したニュームーア島の場合、サンゴではなく砂から形成されています。基本的に、決まった量の島の材料しかありません。
サンゴの島の場合、いくら海面が上昇しても次々と島の材料が供給されるので、結果として島が沈むことは無い。普通の島の場合、海面が上がればそれに伴い沈むしかない。そういう違いがあります。もちろん、日本を始めとしたほとんどの陸地は後者に該当します。
「海面が上がっても島が沈むような困ったことは起きないんだ!」と早とちりするのは大間違いです。これはあくまでサンゴからなる島に限定される話です。
・ツバル?
まず、この論文が正しいなら、これは実に喜ばしいことです。ぜひこの論文が正しいものであってほしい、心からそう思います。
ただし、2つ懸念があります。
1.いくら島の材料が供給されるとはいえ、「新しい大地」はサンゴが砕けた砂の大地-すなわち不毛の大地-にすぎません。今ある畑を砂漠の砂が覆い隠してしまうという事に等しいのです。
また、居住地の喪失(砂の上には住みづらい)や地下水位の変化(できたばかりの大地は保水力に乏しい)などの問題もあります。島が沈まなければそれでいい、とうものではありません。
2.この論文は説得力があるように感じます。しかし、まだ「島は沈まない」と言い切れるものではありません。今後の検証が必要です。
サンゴによる回復力の見積もりは過剰かもしれません。現在進行中の海洋酸性化により、サンゴの形成が鈍化するかもしれません。そのとき、ツバルはどうなるのでしょうか?
この論文が正しいものであってほしい。しかし、誤りである可能性も、少なくとも現段階では多分にあるのです。
new scientist誌は、"Good news, but the warnings stand"(よいニュースだ、しかし危機は依然としてある)と纏めています。実際問題として、サンゴ礁の島であっても全住民が移住を余儀なくされた例 は確かに存在しているのです。
時には政治の話をしようか
それでもなお、私はわりと、鳩山政権に好意的だったりします。
戦後長きに渡って、日本は自民党一党体制でした(日本新党はありましたが)。そこで突然政権が変わっても、運営はなかなか難しいでしょう。せめて1、2年は様子を見ないとやりたいこともできないだろう、そう思っていました。もう少し長い目で見てみたかった。
そして、おそらく辞職の最大の要因となったであろう普天間問題。これは、いつか何とかしなければならない問題でした。先の戦争で最もひどい被害を受けた沖縄。その沖縄にいつまでも負担を押し付ける訳にはいかないはずです。
しかし、(私も含め)本土はそれを理解しつつも、どこも受け入れようとはしなかった。典型的な「総論賛成、各論反対」状態にあったわけです。
そのあたりの、いわゆる「根回し」もせずに、安易に普天間問題を解決すると大見得を切ったのは、確かに問題だったかもしれません。しかし、これまでは、その大見得すら切らなかった、切れなかったのです。
現状の改善にチャレンジして失敗した。それは、ただ現状を黙認していたよりも価値があるのではないか、そう思ったりするのです(もちろん、政治は結果が全てという意見もあるでしょうが)。
次は菅さんが首相ですか。これまた判断が分かれるのでしょうが、個人的には薬害エイズ問題の時の菅さんの「科学的に正当な」判断はよかったな、と思っています。これからいろいろあると思いますが、本当にがんばって欲しい、そう思います。
火山の噴火と今後の気候④
アイスランド・エイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火は、5月中旬には噴煙が高さ10kmに迫るほどに活発化しました。しかし、5月の下旬にはかなり沈静化し、今日現在、噴火活動はほとんど見られません。アイスランド気象庁も、噴火情報の毎日更新体制を止め、数日に一度の更新に切り替えたようです。
最も懸念された、他の火山が活発化する気配も、今のところその兆候はありません。火山噴火の予測は難しく、急に活発化することももちろんありますが、とりあえず安心できる状況になったかな、と思います。
5月25日の様子。水蒸気が立ち上っているだけになった。アイスランド気象庁 より。
一方、中米グアテマラのパカヤ火山 と、南米エクアドルのトゥングラウア火山 が、相次いで火山が噴火しました 。 死者がでる痛ましい事態にはなっていますが、これも噴火の規模としてはエイヤフィヤトラヨークトルに比べてもかなり小さなもののようです。
海の顕著な温暖化
NASA 、NOAA によると、1993年以降、世界の海は表層だけでなく深さ700mほどにまで顕著な温暖化が見られることが明らかとなったそうです(元論文はdoi:10.1038/nature09043)。
一般に、地球温暖化がどの程度進んでいるかを評価するのには気温データを用いますが、気温は天気などの影響を受けるため、ばらつきがかなり大きいという欠点があります。その点、海水温は天気の影響などをあまり受けずばらつきが小さいため、よりよい指標となります。欠点としては、全世界で海水温の観測が始まったのは気温観測が始まったのに比べ最近のことなので、過去数十年以上に遡ることができない事が上げられます。
世界で約3200箇所存在するアルゴフロート や、それ以前のXBT からのデータを用いて解析した結果、世界の海に蓄えられた熱量は、全世界67億人が500個の100W電球をつけ続けた場合の熱量に匹敵する、だそうです(この例え、分かりやすいのか分かりにくいのか、微妙な表現ですね・・・)。数値にすると10^22J/年オーダーに達します。
また、これは面積あたりに換算すると0.53~0.75W/m^2に相当します。IPCCによると、人為的な温室効果ガスの増加による放射強制力の増加は、0.6~2.4W/m^2とされていますので、海はかなりの熱量を貯蔵していることが良く分かります。
図1:アルゴフロートの観測点。赤が日本が担当する部分。JAMSTEC HP より。
図2:例えば、南緯35.779°、東経62.688°のアルゴフロートの観測データ。ここでは水温と塩分データを示している。アルゴ計画リアルタイムデータベース
より。
ということで、比較的深い海にまで温暖化の影響は及んでいることが明らかになりました。海の温暖化は熱膨張に伴う海面上昇に直結します。また、その比熱の大きさから、たとえ温室効果ガスの排出を即座に抑制できたとしても、しばらくは温暖化傾向は継続するであろう事を意味しています。
人類は、二酸化炭素を初めとする(特に水溶性の)温室効果ガスだけでなく、熱量まで海に「捨てて」いたことになります。しかし、海とて無限のリザーバーではありません。海の温暖化は、いずれ必ず大きな影響をもらすことになります。
「忘却からの帰還」より
以前、 アメリカでは進化論を否定する人がかなり存在することを書きましたが、温暖化を否定する人も多数存在します。
忘却からの帰還 さんに、アメリカでの温暖化や進化論に関する意識調査結果が紹介されていました。おもしろいですね。高年齢層、低学歴、共和党支持者などの層で温暖化否定論者が多いです。これは、進化論を否定する層と共通します。
これらに代表されるように、アメリカは世論が極端なまでに二分化されているように感じます。それにもかかわらず、なぜアメリカは、相変わらず世界で最も「強い」国でいられるのでしょうね。
・・・さらに、以前紹介した「否認に生きる 」で紹介したnew scientistの記事を抄訳されています 。これもぜひお読みください。
以上、なんだか丸投げ感ただよう更新でした。