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われわれはどこまで気温上昇に耐えられるのか

 地球温暖化は、海面上昇・生態系の脆弱化・水資源の変化・農業等への影響などが起きることが問題なのであり、気温上昇それ自体が人類に悪影響を及ぼすことは、それほどないと思われていました(熱中症増加の恐れはもちろんありますが)。
 PNASに、本当に気温上昇それ自体が人類に悪影響を与えないか、評価した論文が発表されました(doi:10.1073/pnas.0913352107)
 人間を始め多くの哺乳類は、湿球温度(以下Tw)が35℃を上回ると、体温の維持が困難になります。地域によってはすでに産業革命前に比べTwが2℃ほど上昇していますが、、それでもなお現在の地球上ではTwが31℃を上回る環境は存在しないのだそうです(乾燥地帯では時に50℃を超えますが、水分の蒸発が活発なのでTwは低くなります。多湿な熱帯雨林などでは、気温が35℃を超えるようなことはめったにありません)。
 温暖化に伴い、Twが35℃を上回るような地域が地上に現れることはないのでしょうか?著者らのシミュレーションによると、
・地球温暖化により地球平均気温が7℃上昇すると、Tw=35℃を超える地域が出てくる。
・平均気温が10℃上昇すると、常時Tw=35℃を上回るような地域が出てくる。
・平均気温が12℃上昇すると、南米・北米東部・アフリカ北部・中東・インド・オーストラリア・東南アジア・中国沿海部など、広範囲でTw=35℃を超える(日本は地図では潰れていて見にくいですが、長江沿いやアメリカ東部が超えている以上、おそらくTw=35℃を超えることになるのでしょう)。

 IPCCの予測では、今世紀末までの気温上昇幅は、1.1~6.4℃とされており、今世紀末までに7℃とか12℃とかいった上昇があるとはちょっと考えにくいです。この論文を読んだ私の感想は、「気温上昇それ自体が、居住不能地域を増やす心配はしばらくはなさそうだな」というものでした。ちょっと安心、でしょうか。むしろ寒い地域で居住可能地域が広がるのでしょうね。


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図1:今世紀末までに予想される気温上昇範囲。温室効果ガスの排出シナリオによって差があるが、最悪のケース(A1F1シナリオ)でも今世紀末までに7℃の上昇が起きる可能性はかなり低い。IPCC AR4 Synthesis Report Fig.3.2より。 ただし最近の研究では、CO2濃度倍増で今世紀末までに7℃の気温上昇も起こりうる(確率は5%ほどか?)との報告がある。


 とはいえ、何の規制も無く化石燃料を燃やし続ければ、いずれ7℃の気温上昇も現実のものとなりえる数値です。現在埋蔵が確認されている化石燃料を燃やし尽くしたときの大気中温室効果ガス濃度なら、12℃上昇もありえるとされます。
 この報告をもとに「温暖化で人類が生存できない場所が地球上に出現するんだよ!」と主張するのは先走りすぎですが、このままではマズいということの理由の一つになる研究ではないかと思います。



5/17追記
 日本語記事が出ていました。
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2725789/5743289/

2010年4月の気温


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 気象庁速報によると、2010年4月の世界平均気温は、1971~2000年の平均気温に対し+0.42℃とのことです。これは、4月としては観測史上第2位の高温記録です。

 2010年に入り4ヶ月が経過しました。ここまでの4ヶ月間の平均気温は、1971~2000年の平均気温に対し+0.40℃。これは、観測史上最も高温だった1998年(+0.37℃)を上回ります。イギリス気象庁は、2010年の年平均気温は、50%程度の確率で観測史上最高気温を更新するだろうと予想していました。今のところこの予想はかなり正確であったと言えそうです。

二酸化炭素濃度、観測史上最高に

 気象庁によると 、2009年の日本付近の二酸化炭素濃度は観測史上最高となりました。


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図1:綾里・南鳥島・与那国島の二酸化炭素観測データ。全地点において二酸化炭素濃度は上昇している。



 NOAAによると、 ハワイ・マウナロアでも観測史上最高となっています。


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図2:ハワイ・マウナロアでの大気中二酸化炭素濃度の測定データ。過去の二酸化炭素観測データは、マウナロアのものが最も古い。つまり、この図が、人類が知りうる過去の二酸化炭素濃度の最も良いデータとなる。無論、実測ではなく推定なら数億年前にまでさかのぼることが可能だが。


 これらの地点だけでなく、WMOデータを見ると 多くの観測点で2009年の二酸化炭素濃度は観測史上最高を記録しています(全データを自分で確認したわけではありませんが、おそらく全観測点で観測史上最高でしょう。大気はよく混合されています)。


 二酸化炭素濃度は着実に上昇を続けています。

火山の噴火と今後の気候③

沈静化していたエイヤフィヤトラヨークトル火山ですが、一週間ほど前から再び活動が活発化しているようです。 $さまようブログ

 現地時間5月8日の噴火の様子。アイスランド気象庁 より。


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 テレグラフ紙 より。こちらの写真では噴煙が真っ黒ですね。噴煙の中に固形分が多く含まれることを示し、噴火が活発であることを示唆しています。



 噴煙は高さ5~6kmほどに達しているそうです。大規模とは言え、4月の噴火(噴煙柱は高さ11kmに達した)に比べるとかなり小規模なようです。気候に影響を与えるほどのものではなさそうという予想は、今のところ変わらないと思います。VEIは対数で表されます。気候に影響が出る目安といわれるVEI=6に達するには、4月の噴火の100倍近い規模の噴出がある必要があります。


23:45追記

エイヤフィヤトラヨークトルのライブカメラ がありました。サーマルカメラとか何とも言えない迫力です。

気候変動と科学の完全さについて

 Scienceに、すごい数の共著者がいるLetterが掲載されていました。DOI: 10.1126/science.328.5979.689 です。数えるのが大変ですが、ざっと200人以上共著者がいます。共著者リストだけで半ページ占有しています。でも本文は1ページちょっと。

 共著者は全員、米国科学アカデミー会員。ただしアカデミーを代表して投稿しているわけではない、だそうです。学術的な論文というよりは、意見表明もしくは広告のような要素が強いのかもしれません。ちょっと興味深いので、私なりにまとめてみました。


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Climate Change and the Integrity of Science(気候変動と科学の完全さについて)

・最近の科学者(特に気候科学者)への「政治的な」攻撃には困っている。

・科学は必ず不確実性が付きまとう。気候変動を完璧に理解することは決してできないことを市民には理解してほしい。もし、完璧に理解できるまで行動すべきではないというのであれば、それはいつになってもどんな行動もできないことを意味する。

・確かに、定説に反論することで科学は進歩してきたが、それは反論が多くの検証を受け正しいと認められた場合のみである。(注:いわゆる懐疑論は、多くの検証を受け正しいと認められてはいないということでしょう)

・人間活動により気候変動が起きていることは、すでに、進化論の確かさなどと同等の確かさに達している。

・いくつかの間違いはあったが、以下に示す5つの基本的な知見を揺るがすような間違いはない。

(1)地球は大気中の温室効果ガスの濃度上昇により温暖化している。ワシントンのこの冬の大雪はこの事実を否定する類のものではない。

(2)20世紀における温室効果ガスの濃度上昇のほとんどは人間活動によるものであり、特に化石燃料の燃焼や森林伐採の影響が大きい。

(3)自然要因も地球の気候変動に影響を与えるが、現在起きている気候変動は人間活動に起因する変動が圧倒的に大きい。

(4)温暖化は、海面上昇や水循環の変化など、他の気候変化の要因ともなるであろう。しかも気候変化は近年では例のないほどの早さとなる。また、二酸化炭素の濃度上昇は海洋酸性化をもたらしている。

(5)これらの気候変動が複合して、沿海部の都市・食料や水の供給・水圏の生態系・森林・山岳部の環境など

が脅かされることとなる。

・他にも多くの知見があるが、これら5つの知見だけでも、このままでは気候変動が将来の世代に悪影響を与えることが分かる。そのよう事態を避けるための提言を行いたい。

・政治家には、科学に基づかない政治的な理由から科学者を攻撃することを慎むよう求めたい。

・私達は、現状を見なかったことにするか、それとも気候変動の脅威に立ち向かうか、二者択一を求められている。しかし決断までにあまり時間はない。

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 まあ、私の英語力の無さを満天下に晒したようなものです。タイトルからして、科学の「完全性」とするのがいいのか「誠実さ」とするのがいいのか・・・。

 膨大な数の共著者の割には、なんというか、普通の内容です。科学になじみがある人にとっては、言われるまでもないという内容かもしれません。このLetterの目的は、新しいことを主張することではなく、言ってみれば科学者の決意表明なのではないでしょうか。今後、気候変動問題について、科学者は今より積極的に行動し政策に関わっていくつもりだ。そういうことなのかもしれません(言うまでもなく、私の勝手な推測です)。

 なお、Letterはガーディアン紙で 全文読めます。こちらによると共著者は255人ですか。



5/9 23:20追記

おこじょの日記 」さんが私なんかより上手く全訳してくれています。こちらもぜひ。

おこじょの日記の管理人様、私ははてなユーザーではないのでコメントできませんでした、勝手にリンクすみません・・・。