科学者への信用低下?
Nature climate change のHPで、一部の記事の全文訳が公開され始めています。
http://www.natureasia.com/japan/nclimate/article/003.php
http://www.nature.com/news/2010/100630/full/466024a.html
本当にこういうのは助かります。自分の英語力のなさの確認にもなったり。
今回は、一般の人が気候変動とその研究を行う科学者にどういう感情を抱いているのか、またその結果をどう考えるか、というものです。ぜひお読みください。
科学者は研究成果を広報するほうがいいのは間違いありません。また、研究成果を貶めるような意見には対抗措置を取ったほうがいいのも、たぶん間違いありません。
とはいえ、そんなことは時間的にも金銭的にも人的資源の観点からも、限界があります。まともに研究内容を知ろうともしないのに批判や中傷ばかりする人は、まあ何をやっても聞く耳持たないとあきらめるしかないのかもしれません。そして、そのような批判を目にする人がうかつに批判を信用しないよう、対抗言論としての情報発信を行っていくしかないのかもしれません。
ニコラス・シャックルトン
ケンブリッジ大学第4紀学研究室HP
より
ニコラス・ジョン・シャックルトン(Nicholas John Shackleton)、1937-2006、イギリス
古気候学の発展に大きく寄与
前々回 ・前回紹介した ユーリーやエミリアーニにより、化石を用いて過去の水温(古水温)が再現可能であることが示されました。これはまさに画期的なことで、古気候学のブレークスルーだったことは疑う余地がありません。しかし、まだ問題点は残っていました。
問題点1.試料がたくさん必要である
有孔虫は普遍的に存在する化石ではありますが、だからと言って簡単に採取・分析できるものではありません。有孔虫を用いて古水温を再現しようとすると、数百個ほどの有孔虫が必要でした。顕微鏡下で有孔虫(大きさは1mm以下)を数百個も拾い集めるのは容易ではありません。できたとしても、世界各地から集まってくるサンプルを分析するのに膨大な時間が掛かってしまいます。
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「有孔虫化石を集める」と簡単に言うが、大きいコア(円柱状の海底堆積物)を薄くスライスして、その中から同じ種類の有孔虫化石だけを何百個も集めてくるのは大変な手間。しかも、このようなコアは世界中から多数集まってくる。写真はJAMSETC HP より。
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問題点2.データに矛盾がある
前回も書きましたが、ある海域の古水温を有孔虫に含まれる酸素同位体比より再現してみると、かつてその海域は凍り付いていたという結論が得られました。しかし、地質学的な調査から、そのような事実はないことが示されました。これは、有孔虫による古水温再現の有用性を根幹から揺るがしかねないものであり、問題点1よりもさらに深刻な問題点だったと言えるでしょう。
この2つの問題点に答えたのがシャックルトンだったのです。
回答1.質量分析装置を改良することで、従来の10分の1の有孔虫で古水温再現が可能となった
シャックルトンはユーリーの質量分析装置を改良することにより、感度が10倍に達する質量分析装置を作り出しました。シャックルトンが所属していたケンブリッジ大学の研究室では、顕微鏡で数百個も有孔虫を取り出す余裕がなかった(金銭的にもマンパワーの点からも)という、ちょっと悲しい事情があったようです。
これにより、古水温解析に必要な有孔虫化石の数はずっと少ない量ですむようになりました。これは解析速度を飛躍的に向上させることにつながりましたが、もう一つ重大な意味を持っていました。
有孔虫は海の浅い所に住む種が多いのですが、深い所に住む変わった種も存在します。浅海の有孔虫と深海の有孔虫は、周囲の環境が違うわけですから異なる同位体比を持っています。浅海と深海の有孔虫をきちんと区別して分析できればより詳しく古環境が分かるのですが、残念ながら深海の有孔虫化石は数が少ないという欠点がありました。そのため、エミリアーニは浅海の有孔虫化石を用いざるを得なかったのですが、シャックルトンは深海の有孔虫化石の同位体比を分析することに成功したのです。その結果は、問題点2を解消するものとなりました。
回答2.有孔虫化石の酸素同位体比は、海水温そのものではなく氷床の量を示していると考えれば矛盾は解消される!
地球の水の循環を考えてみましょう。雨は、そのほとんどが、蒸発した海水を起源としています。海水の蒸発は低緯度地域で活発なのに対して、高緯度地域では活発ではありません。大ざっぱに言えば、雨水は赤道域から両極域に運ばれていくのです。
さて、雨水(H2O)に含まれる酸素には同位体16O、18Oがあります。この2つの化学的性質は同一ですが、わずかに重さが違います。そのため。海水が蒸発するとき、軽い水(H216O)は重い水(H218O)より蒸発しやすいということになります。一方、重い水は雨となりやすく、軽い水は雨になりにくいことになります。
このため、雨水は海水より軽い(16Oが多い)水になり、また、同じ雨水でも高緯度地域に降る雨ほど軽い水が多いことになるのです。
この時、高緯度地域に降った雨が海に返っていくのなら、いずれはその水は赤道付近に戻っていき再度蒸発をするというサイクルになるため、平衡状態になります。しかし、両極に氷がある時期だとどうなるでしょう?軽い水は氷として固定されてしまい、海水は徐々に重い水の割合が多くなっていく、ということになるのです。
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「軽い水」と「重い水」の循環を示す図。氷床が発達するほど、海水はより重い水が優越するようになることがよくわかる模式図。山形大学HP
より。
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海水自体の酸素同位体比が変化するのですから、海水を取り込んで生きている有孔虫に含まれる酸素同位体比も変化するのが当たり前です。深海に住む有孔虫を分析することにより、有孔虫化石の酸素同位体比は、水温ではなく氷床の量を強く示唆するものだったことが明らかになりました(注:ユーリーの項 で示したように、水温の影響ももちろん受けます。水温自体の効果より、氷床量の効果が大きい、ということです)
エミリアーニは氷期の海水温は現在より6℃ほど低いと計算していましたが、シャックルトンによりこれは過大な見積もりであり、実際には2℃程度しか低くなかったことが明らかにされました。
有孔虫化石の同位体比は古水温そのものを示すのではなく、その有孔虫が生息していた当時の氷床の量に比例する。これはとりもなおさず、氷期の時期を直接的に示すものになります。結果的にエミリアーニは誤っていたのですが、それはエミリアーニの業績を否定するものではありません。シャックルトンはエミリアーニの業績をよりよい方向に発展させたのです。
科学は一足飛びに正解に達するものではありません。多くの学者達の無数の業績とその修正により、一歩一歩正解に近づいていくものなのです。エミリアーニとシャックルトンの研究は、そのことを如実に示していると思います。
参考HP:
ケンブリッジ大学第4紀学研究室
http://www.quaternary.group.cam.ac.uk/history/directors/shackleton.html
Real Climate
http://www.realclimate.org/index.php/archives/2006/02/sir-nicholas-shackleton/
ガーディアン誌、シャックルトンの死を受けての追悼文
http://www.guardian.co.uk/environment/2006/feb/13/science.guardianobituaries
ブループラネット賞歴代受賞者
http://www.af-info.or.jp/blueplanet/list.html
参考文献
Oxygen isotop analyses and Pleistocene temperature re-assessedhttp://www.es.ucsc.edu/~rcoe/eart206/Shackleton_OxyIso-Paleotemp_Nature67.pdf
タクティクス・オウガ リメイク
http://www.square-enix.co.jp/tacticsogre/
これまでに遊んだゲームの中で最高の物を1つをあげろと言われれば、タクティクス・オウガと即答します。もう15年も前のゲームになるのですか。
15年の時を経てPSPでリメイク。このためだけにPSPを買ってもいいかもしれない、と思案中です。
やる夫は鎌倉幕府を成立させるようです
だいぶ前にも一度紹介した 、やる夫足利2代記。いよいよ承久の乱に突入です。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12973/1279368145/
第2部クライマックス。同時に、もうすぐ終わっちゃうんだね、という思いも。
いやほんと、著者の方すごいです。何種類もの史書に準拠しながら独自の解釈を加えつつ、魅せる魅せる。なにせ頼朝挙兵から始まっているのですごく長いですが、まとめサイトでまとめられてもいます。
http://oyoguyaruo.blog72.fc2.com/category23-5.html
興味のある方はぜひ。
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――時に承久三年六月十四日――
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士ヽ ,ニ、 ┃
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――この日古代が終了し――
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――中世が始まった――
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ぞくぞくしました。
猛暑続く
先日 、各地の猛暑を記事にしましたが、猛暑は続いています。特にすごいのがロシア。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100719-OYT1T00575.htm
http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010071701000447.html
暑さはもちろん旱魃もひどく、過去130年では最悪の被害になりそうだ、との報告が相次いでいます。
もちろんこれらも大変なことなのですが、個人的に一番気になったのはこの記事です。
http://japanese.ruvr.ru/2010/07/19/12707198.html
あまりの暑さと乾燥のため、ロシアの土壌に大量に蓄積されている泥炭層が自然発火している、というものです(2007年の猛暑のときも同じことがあったそうです)。モスクワ周辺は人口も多く消火も急がれるでしょうが、広大なロシアです、全てが消し止められるものではとてもないでしょう。
ロシアをはじめ環北極の泥炭層の火災は極めて深刻な事態をもたらしえます。
・泥炭として蓄積している炭素が二酸化炭素として大気に排出される
泥炭は大量の炭素を蓄えており、その量は550Gt(5.5兆トン)に達するとされます。これは大気中の炭素量(750Gt)と拮抗するほどの量です。これが燃えるのですから大気に放出される二酸化炭素は無視できるものではありません。インドネシアにも、ロシアとは成因の異なる泥炭層があり、これも乱開発も手伝って頻繁に火災を起こしていますが、その際に放出される二酸化炭素は、日本が排出する二酸化炭素を上回る ともされます。
・北極一体に煤を撒き散らす
泥炭が燃えると煤を撒き散らします。これはインドネシアでもロシアでも同じことですが、ロシアの場合「北極が近い」という問題があります。
言うまでもなく煤は黒いですが、黒い煤は太陽光を強く吸収します。北極の氷や雪は白いですが、雪氷は太陽光をあまり吸収しません。ロシアの泥炭火災で発生した煤が北極の氷や雪の上に堆積したら、アルベドは一気に低下してしまいます。泥炭火災→北極の氷融解加速→気温上昇→さらなる火災の拡大という、正のフィードバック加速につながりかねません。
そこまでいかなくても、泥炭は低品位の炭なので窒素や硫黄を多く含み、火災によってNOxやSOxを大量に排出してしまいます。火災がなくても、気温上昇と乾燥で、泥炭から発生する温室効果ガスは激増することを示す研究もあります(doi:10.1038/nature08216)。
個人的にはこのニュースはかなり不安を掻き立てられるものです・・・。