温暖化がもたらす北半球の厳しい冬
このところ、割と厳しい冬が多いような気がしませんか?実際、冬に限定すれば、このところ北半球陸域の気温は上昇傾向が見られないようです。地球温暖化が進行しているにも関わらず、なぜなのでしょうか?上段:年間を通した北半球陸域の年間の平均気温推移。年間の平均気温は確実に上昇しているが・・・
中断:冬(12~2月)の北半球陸域の平均気温推移。冬の気温はほとんど変化が見られない。
下段:冬の気温変化の地域別の推移。ユーラシア大陸のほぼ全域と北米南東部では、むしろ寒冷化の傾向が見られる。
Arctic warming, increasing snow cover and widespread boreal winter coolingのsupplementary dataより。
これに対する説明として、「地球温暖化こそがその根本にある」とする、一見矛盾した解釈を示した報告がなされました。
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2012/01/global-warming-may-trigger-winte.html?ref=hp
http://iopscience.iop.org/1748-9326/7/1/014007
どういうことでしょうか?
結論から言うと、「温暖化に伴い雪に覆われる地域が拡大するから」になります。
もう少し詳細に書くと、「温暖化に伴い北極海の海氷面積が縮小→北半球の高緯度地域の大気に供給される水蒸気量が増加→秋から冬にかけての降雪量が増加し雪に覆われる面積が拡大→シベリア高気圧の強大化→北極振動の強化→北極の寒気が低緯度地域に侵入しやすくなる」 という経緯をたどる、となります。
上から順に、北半球陸域夏季の平均気温・9月の北極海海氷面積・秋季に大気中に含まれる水蒸気量・ユーラシア大陸で10月に雪に覆われている面積・北極振動指数の推移。いずれも、よい相関を示す。上記報告より。
なるほど、スマートで納得のいく解釈です。
が、これを読むと、「じゃあ南極でも同じ現象が起きるのではないか?南極でも水蒸気量が増加して積雪が増加し、気温が上昇しなかったり海面上昇が起きなかったりするのではないか?」と思う人も多いのではないでしょうか。このような考え方は、wikipediaにも懐疑論の一例として紹介されています。
これに対する回答は、「南極とユーラシア大陸では状況が異なるから」ということになります。南極は、ほぼ全域が年間を通して氷雪で覆われています。少々降雪量が増加したところで、雪に覆われた地域の面積はほとんど変化しません。これでは、気候を大きく変化させるほどの力はありません。一方、ユーラシア大陸では、氷雪に覆われている地域は狭く、しかも夏には溶けてしまう地域が広がっています。わずかな降雪量の変化が、その地域の気候に大きな影響を与えることがありうるのです。
今後もしばらくは、これまでとあまり変わらない頻度で厳しい冬が訪れるかもしれません。しかし、その間にも年間の平均気温は上昇を続けますし、極域の温暖化は季節を問わず加速していきます。そして、北極海の夏の海氷は溶けきってしまい、秋には雪ではなく雨が多く降るようになるまでに温暖化が進行すれば・・・。その時どうなるかは、あまり考えたくはないものです。
中断:冬(12~2月)の北半球陸域の平均気温推移。冬の気温はほとんど変化が見られない。
下段:冬の気温変化の地域別の推移。ユーラシア大陸のほぼ全域と北米南東部では、むしろ寒冷化の傾向が見られる。
Arctic warming, increasing snow cover and widespread boreal winter coolingのsupplementary dataより。
これに対する説明として、「地球温暖化こそがその根本にある」とする、一見矛盾した解釈を示した報告がなされました。
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2012/01/global-warming-may-trigger-winte.html?ref=hp
http://iopscience.iop.org/1748-9326/7/1/014007
どういうことでしょうか?
結論から言うと、「温暖化に伴い雪に覆われる地域が拡大するから」になります。
もう少し詳細に書くと、「温暖化に伴い北極海の海氷面積が縮小→北半球の高緯度地域の大気に供給される水蒸気量が増加→秋から冬にかけての降雪量が増加し雪に覆われる面積が拡大→シベリア高気圧の強大化→北極振動の強化→北極の寒気が低緯度地域に侵入しやすくなる」 という経緯をたどる、となります。
上から順に、北半球陸域夏季の平均気温・9月の北極海海氷面積・秋季に大気中に含まれる水蒸気量・ユーラシア大陸で10月に雪に覆われている面積・北極振動指数の推移。いずれも、よい相関を示す。上記報告より。
なるほど、スマートで納得のいく解釈です。
が、これを読むと、「じゃあ南極でも同じ現象が起きるのではないか?南極でも水蒸気量が増加して積雪が増加し、気温が上昇しなかったり海面上昇が起きなかったりするのではないか?」と思う人も多いのではないでしょうか。このような考え方は、wikipediaにも懐疑論の一例として紹介されています。
これに対する回答は、「南極とユーラシア大陸では状況が異なるから」ということになります。南極は、ほぼ全域が年間を通して氷雪で覆われています。少々降雪量が増加したところで、雪に覆われた地域の面積はほとんど変化しません。これでは、気候を大きく変化させるほどの力はありません。一方、ユーラシア大陸では、氷雪に覆われている地域は狭く、しかも夏には溶けてしまう地域が広がっています。わずかな降雪量の変化が、その地域の気候に大きな影響を与えることがありうるのです。
今後もしばらくは、これまでとあまり変わらない頻度で厳しい冬が訪れるかもしれません。しかし、その間にも年間の平均気温は上昇を続けますし、極域の温暖化は季節を問わず加速していきます。そして、北極海の夏の海氷は溶けきってしまい、秋には雪ではなく雨が多く降るようになるまでに温暖化が進行すれば・・・。その時どうなるかは、あまり考えたくはないものです。
電王戦
コンピューターが米長元名人に勝利
いずれこの日が来ることは、分かりきったことではありますが・・・。
私、全く幸運ではあったものの、学生の頃に将棋の某全国大会に出場したことがあったりします。が、最近の将棋ソフトには全く歯が立ちません。CPUの棋力を低く設定してすら、全く歯が立ちません。序盤で有利に立ったかと思っても、中盤~終盤にかけて、あっという間に引っくり返されます。特に終盤のCPUの強さは、笑っちゃうほどです。
将棋においてコンピューターが人間を凌駕し始めたことは科学技術が進歩したことの証明であり、喜ばしいことです。が、私の中に一抹の寂しさ(先人達の名勝負すらコンピューターから見ると「凡戦」になる日が来るのだろうか?)と、わずかな恐怖があるのも否定できません。
今後、将棋に限らず、あらゆる点でコンピューターは人類を抜き去っていくでしょう。そして私たちは、人工知能が人間の能力を完全に上回った後の世界の有り様を全く予測できず(技術的特異点)、そこには未知なる物への恐怖が存在します。
人工知能が私たちの能力をまさに抜き去っていくという時代に、私たちは生きています。これは幸運なのか不運なのか。
私個人は、トータルで考えるとなんと楽しい時代なんだと思ってしまいますが。
・・・などと、将棋の記事だけでいらんことを連想してしましました。
01/15追記
棋譜がありました。
http://wiki.optus.nu/shogi/index.php?cmd=kif&cmds=display&kid=74618
これは・・・コンピューター側が圧倒したと言っていい感じです。
コンピューターは定跡通りの展開では実に強いので、米長元名人は初めから、前例の少ない入玉含みの空中戦に持ち込もうとしていますが、それを物ともせず押し切っています。
改めて見ると、本当に強い。
いずれこの日が来ることは、分かりきったことではありますが・・・。
私、全く幸運ではあったものの、学生の頃に将棋の某全国大会に出場したことがあったりします。が、最近の将棋ソフトには全く歯が立ちません。CPUの棋力を低く設定してすら、全く歯が立ちません。序盤で有利に立ったかと思っても、中盤~終盤にかけて、あっという間に引っくり返されます。特に終盤のCPUの強さは、笑っちゃうほどです。
将棋においてコンピューターが人間を凌駕し始めたことは科学技術が進歩したことの証明であり、喜ばしいことです。が、私の中に一抹の寂しさ(先人達の名勝負すらコンピューターから見ると「凡戦」になる日が来るのだろうか?)と、わずかな恐怖があるのも否定できません。
今後、将棋に限らず、あらゆる点でコンピューターは人類を抜き去っていくでしょう。そして私たちは、人工知能が人間の能力を完全に上回った後の世界の有り様を全く予測できず(技術的特異点)、そこには未知なる物への恐怖が存在します。
人工知能が私たちの能力をまさに抜き去っていくという時代に、私たちは生きています。これは幸運なのか不運なのか。
私個人は、トータルで考えるとなんと楽しい時代なんだと思ってしまいますが。
・・・などと、将棋の記事だけでいらんことを連想してしましました。
01/15追記
棋譜がありました。
http://wiki.optus.nu/shogi/index.php?cmd=kif&cmds=display&kid=74618
これは・・・コンピューター側が圧倒したと言っていい感じです。
コンピューターは定跡通りの展開では実に強いので、米長元名人は初めから、前例の少ない入玉含みの空中戦に持ち込もうとしていますが、それを物ともせず押し切っています。
改めて見ると、本当に強い。
あけましておめでとうございます
今年はもう少しまじめに更新したいところです。
1月3日の朝日新聞に、「銃・病原菌・鉄」の著者、ジャレド・ダイアモンド氏のインタビューが1ページに渡って掲載されていました。
http://digital.asahi.com/20120103/pages/shasetsu.html#
私は、氏の著作に強い影響を受けたので、思考が似ているのは当たり前と言えば当たり前ですが、それでも氏の「原子力発電は手放すべきではない」「温暖化は深刻な問題だ」という主張は、私個人の意見ともよく合致します。
相変わらず平明な言葉遣いで実に説得力ある文章でした。みなさん是非お読みくださいませ。
1月3日の朝日新聞に、「銃・病原菌・鉄」の著者、ジャレド・ダイアモンド氏のインタビューが1ページに渡って掲載されていました。
http://digital.asahi.com/20120103/pages/shasetsu.html#
私は、氏の著作に強い影響を受けたので、思考が似ているのは当たり前と言えば当たり前ですが、それでも氏の「原子力発電は手放すべきではない」「温暖化は深刻な問題だ」という主張は、私個人の意見ともよく合致します。
相変わらず平明な言葉遣いで実に説得力ある文章でした。みなさん是非お読みくださいませ。
リン・マーギュリス死す
そうですか・・・。11月22日死去とのことですが、今日初めて知りました。
彼女は、私に科学の楽しさを教えてくれた恩人の一人でもあります。ご冥福を。そして、ありがとうございました。
プロメテウスの罠
朝日新聞で連載中の「プロメテウスの罠」。わざわざ「罠」などとタイトルに入れていることから分かるように、「煽り」を感じないでもありませんが、興味深い連載記事になっています。オンラインでは見られないようなので、ぜひ本紙でご覧下さい。
現在、研究者vs事務方みたいな筆致になっていますが、記事は明らかに研究者よりです。私も、事務方の「頭の硬さ」「事なかれ主義」に辟易している身。正直言って大いに共感できるのですが、まあ当然ながら事務方にも事務方の言い分はあるわけです。
基本的に研究者は似たような研究を長年続けることが多く、自分の研究の意義をよく分かっていますし、「愛着」だってあるでしょう。しかし、事務方は多くの場合数年でその場を去っていきます。深く理解する機会も少なければ、愛着を持つ暇もあまりない。
不正の温床になりかねないので、事務方が長期間同じ部署にい続けるのはよくないという理屈も分かります。しかし、これだけ社会が複雑なものになり、専門性が要求される場面が激増している現在、やはり行政側もある程度の専門性および「愛着」を身につける必要があるのではないでしょうか?
どうしても、私たち研究サイドの人間は、その時々の行政側担当者を「そのうち去っていくお客さん」と見てしまいがちです。逆に行政側担当者も、研究者を「一時的な付き合いになる、ある意味出入りの業者みたいなもの」と思いがちなのではないでしょうか。
このあたりの溝をなんとか埋められないものかなあ、と思うのでした。