第8話 「case20 Ripper Dipper」
今回のエピソードは第2話ラスト、そして第3話で語られた話を掘り下げるアンジェとプリンセスの過去回想。
アンジェとプリンセスが幼少の頃に既に入れ替わりを済ませていたという仮説はこれで確定事項となった。これはストーリーを追っていれば比較的簡単に推測できるものであったが、これを見せるドラマがとても良かった。
第三話にて、チェンジリング作戦の隙をつきコントロールを出しぬいたアンジェ。二人で静かに暮らしていこうとプリンセスを誘うアンジェだが、プリンセスはこの時「約束通り女王にしてくれ」と話し、アンジェの誘いを断った。 (※過去においては革命の最中、プリンセスが王女たるアンジェに逃げようと提案したが、アンジェはこれを断り誓いを立てていた。やはりここでも逆の構造になっている。)
実はこのシーンは少し不可解に感じしっくり来ていなかった。というのも、本当のシャーロット王女はアンジェであり、プリンセスは偽物である。そのプリンセスが本物の女王になりたいとする強い動機は何なのか。そこで、プリンセスが王女として過ごしてきた中で見てきた世間の様子を悲しみ、自身の手で統一を果たす決意があるのではないかというように推測を立てていた。
しかし、この推測は外れていた。アンジェは第3話で「まさか・・・あの約束」と言っている。この時はどんな約束なのか不明だったが、今回のエピソードでその内容が明らかになった。すなわち女王になると宣言しプリンセスに約束してみせたのは、かつてのシャーロット王女たるアンジェ自身の言葉だったのである。
この別れ際の言葉をプリンセスはずっと覚えていて、自身の望みではなくアンジェの望みを叶えるべく女王になりたいと言っていた。 (厳密にはアンジェの夢と同化したプリンセス自身の望みも含む)
さすがにこのようなドラマを拵えていられては感嘆せざるをえない。プリンセスがアンジェの誘いを断ってまで女王になるという志を綺麗に説明しきっている。とても綺麗なシナリオだと素直に感動した。
アンジェが女王を志した切っ掛け。それはプリンセスと入れ替わって初めて街へ出た際の街の様子に衝撃を受けたからであろう。英才教育を施され辛いと思っていた事が、実際にはいかに自分が壁の中で恵まれている生活を送っていたのか思い知る事になる。
一歩街に出れば今日を生き残れるか分からないような衰弱している人、そして暴力を振るい子供を食いものにする人間、退廃化した街の様子を見て、この齢にしてアンジェは自分が甘えていた事を痛感する。自分が女王になることでこの国を変えたいという意志を持ったのだと思う。
また革命の日、民衆は女王を殺せではなく国王を殺せと叫んでいる。この日殺されたのはアンジェの父だろうか。女王も国王に違いはないが、少し気になる。以前、アンジェは黒トカゲ星の話として、自分の両親が殺されるのを目の前で見たとも言っている。これが事実なら今回はそのような描写はなかったが、この時の革命で殺されたのはアンジェの父たる国王だろうか。
外の世界を見てきたアンジェは、見えない壁がこの国の色々な人を分け隔てていると感じる。
ここで第三話のプリンセスの言葉を振り返る。「壁がなくなれば私たち晴れて一緒にいられるでしょう」
この壁とは王国と共和国を物理的に分けている壁だと考えていたが、実際にはもっと奥行きを持った言葉であった。即ち見えない壁であり、人々の間に貧富の差を分けるものであったり、身分や地理的なものといった全てを包括する概念としての壁を無くすということを指していた。そうすることで、王女たるアンジェ、そして一介の平民たるプリンセスが一緒に暮らすことができる国を作れるのだという、アンジェの考えに基づく言葉だったと分かる。
もともと街で過ごしていたプリンセスはこの現状を知ってるはずで、王女がこうした現状を見て変えたいと
いう考えを語ったことにプリンセスは感激したのかもしれない。
シャーロット王女たるアンジェにプリンセスと呼ばれることを嫌がるプリンセス。プリンセスの内心では、本当のプリンセスはシャーロットたるアンジェである。そのため、その本物からそう呼ばれると、皮肉や女王の地位を狙うやましい者というように聞こえてしまうのかもしれない。
しかし、シャーロット王女たるアンジェがプリンセスをプリンセスと呼ぶのは、この10年の間にプリンセスが経験してきた過酷な毎日を痛いほど理解し、それを乗り越えてきた事を心から尊敬し、そしてかつてアンジェが志した理想をしっかりと引き継ぎ自分の物として身に纏っていると思ったからこそ、プリンセスをプリンセスと呼んでいた。
それを聞いたプリンセスは離れ離れになってしまっても、自分の事をしっかりと理解してくれていた本物の王女たるアンジェに、本物のプリンセスと認められたことで、張り詰めた緊張の糸が少し緩み目に涙を
浮かべる。
プリンセス「お名前は?」
アンジェ「アンジェ。私とお友達になってくれませんか?」
プリンセス「私はつまらない人間よ。お友達になっても楽しくないと思うわ」
アンジェ「ううん。楽しい」
プリンセス「どうして?」
アンジェ「私たち正反対だから」
やはりこの掛け合いは、幼少のころのアンジェとプリンセスのやりとりをそのまま逆転させたものであった。第8話を見た後で第2話、第3話を振り返ると、大部分の掛け合いの中に潜んでいた本当の意味が見えてくる。つっかえていたものがスっと落ちるような実に心地良い気分となる。
①アンジェとプリンセスに血の繋がりはないのか
アンジェとプリンセスの容姿がそっくりな点について双子説を推していたが、今回のエピソードではその点について確定できる情報は無かった。そのため、もう一度プリンセス側から見た過去回想があるのではないかと考えている。
何故あの日王宮の近くまで来ていたのか、出生に関わる秘密を知る重要人物がいたりなど。偶然にしては似過ぎているアンジェとプリンセス。この点の背景の掘り下げがあるとより楽しくなりそうである。
②アンジェの言葉「私が騙してあげる。あなたも、世界も、そして私自身すらも」
現時点ではこの言葉の真の意味は量りかねる。
③アンジェの言葉 「私とプリンセスは黒トカゲ星から来た姉妹なの」
作中で頻繁に用いられる黒トカゲ星。果たしてアンジェはこの言葉に何かメッセージを持たせているのか。アンジェの思想という側面から考えると壁のない世界を指しているというように解釈できなくもないが、素直に考えるとスパイという組織を指している言葉のようにも思える。どちらにせよ黒トカゲ星との接点を見いだせないので、いずれでもない別の意味を持っている可能性は高いように思う。
④ベアトが最初に会ったプリンセス
これは個人的に興味を持った点であるが、今回のエピソードを見る限りシャーロット王女たるアンジェではなく、プリンセスのほうと見て間違いない。
⑤ノルマンディー公はプリンセスの正体に気づいていないのか?
ストーリーを追う限り、プリンセスの行き先で重要な事件が頻発しているため疑惑を持っている可能性は相当高いように思うが、どの程度怪しんでいるかは不明。
⑥アンジェがスパイになった経緯
邪推し過ぎかとも思うが、現時点ではアンジェが実際にどちらの組織に所属しているかを断定していない。作品のストーリー上は共和国のコントロール側に所属しているが、二重スパイの物語や現時点でスパイになった経緯については触れられていないため、ノルマンディー公がコントロールに送り込んだ二重スパイという可能性も含めて視聴している。
気になる見出し
SPY RINGS IN THE LONDON WALL ロンドンウォールの諜報網(スパイがロンドンの壁を取り囲んでいる?)
アンジェら共和国の諜報活動が露見している可能性。
すりの子供ジュリ
一方、すりの子供ジュリにかつてのプリンセスと自分を重ねるアンジェ。「酷い国ね」そう呟くアンジェの言葉も今回のエピソードを見ると分かる。
スタンフォードヒルの孤児院
みなしごのジュリ達を孤児院に紹介するアンジェ。アンジェの性格を考えればコントロールには隠している独立した施設だと思うが、ならば誰がこの孤児院を運営してアンジェに協力しているのか。少し気になる点である。素直に考えると平等思想のもと学校を設立した女王の息がかかった施設のようにも思えるが。
また、第一話ではアンジェ(プリンセスも)畑違いの保険の知識を持っていたが、そういう点も気がかり。自分が死んだ場合におりる保険金をプリンセス(アンジェ)を受け取り人にしているのではないか等、作品の題材が題材だけにちょっとした不安要素として勘ぐってしまう。
ぐぬぬ
「プリンセスなんかやってるとね、たまに無性に外に出たくなる。アンジェなら分かってくれるでしょう」
アンジェ「ぐぬぬ」
背景が見えてくると、ちょっとした掛け合いに見える景色が変わる。この作品は言葉をとても大切にしている。
プリンセス(アンジェ)
お腹が空くって辛いものねと語るプリンセスの言葉は自身の経験から体験談でもある。作中ではまた失敗したのかとどやされるプリンセスは、うまくいくまで十分にご飯を与えられていなかった。プリンセスがお腹一杯に食べてる様子にアンジェは目を丸くしているが、アンジェはそうした経験がない事から驚いたのだろう。二人の交流は短い時間ながら温かい時間に包まれている。
シャーロット王女に戻ったアンジェ
気まずそうな顔が面白い。
空っぽの器に
短い時間ではあったが、プリンセスの必死な様子が良く伝わった。言葉を大切にしているだけでなく、アニメらしく見せ方や演出も視聴者にダイレクトに伝えるように非常にうまく作られている。このプリンセスの痛々しい様子は、彼女がこの10年で経験したであろう苦悩が伝わりあっという間に彼女の境遇に引きこまれ悲しい気分にさせられた。
ガゼルとオライリー卿
今回は回想をメインにして見ていたため、スパイ活動のほうはあまり分かっていないが、亡命をはかりノルマンディー公の手先のものと連絡をとっていたオライリー卿。結局プリンセスに露見し亡命できるような状況ではなくなったが、プリンセスの口ぶりだと(コントロールとは別に)使える駒として懐柔している可能性も。 ガゼルはフリント警部という名前でも活動しているようだ。
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