黒い死の大母神
シヴァ神の最初の妃サティは、父ダクシャのシヴァにたいする冷遇を悩み苦しみ、焼身自殺をしてしまう。シヴァは悲しみのあまり正気を失い、サティの亡骸を担いで放浪の旅に出る。そして行く先々の街を破壊しつくした。それをやめさせるために、ヴィシュヌは円盤を投げて、サティの遺体を切り刻んでしまう。51に刻まれたサティの遺体の破片はインド各地に散った。サティのヨーニ(女陰)が落ちたところがニーラチャーラの丘、すなわち現在カーマーキャー寺院のある丘である。
この寺院はシャクティ(性力)信仰のメッカである。毎日多くの参拝者が訪れる。ここに祀られる女神は、黒い死の大母神カーリー女神と同一視されている。カーリーはシヴァ神の妃でもある。
カルカッタにカーリー女神を祀る寺院(カーリー・ガート)がある。ギロチンがあって、毎日羊の首を切って、その首をカーリーにささげている。カーマーキャー寺院でも同じ儀式が毎日行われているが、ゲイトの『アッサム史』よると、以前は羊ではなく、人間の首がささげられていたという。何日か前に犠牲となる男が選ばれる。選ばれた男は最期の日までどんな贅沢も許され、食事でも女でも好きなだけ与えられた。カーリーは人間の血の犠牲を要求していたのだ。
タグという秘密殺人集団があった。「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のモデルにもなったタグだが、彼らは旅に出て、カーリー女神にささげるために人間を殺しまくった。獲物に狙いを定め、相手を油断させてから瞬時に黄色いハンカチーフで絞め殺す。遺体は前もって掘っておいた穴に埋め、身につけていた財宝は代償として得た。14世紀から500年で2千万もの人間をカーリーにささげたという。(山際素男『カーリー女神の戦士』)
この黒く恐ろしい女神にはダーキニーという使いがいる。タントラ仏教の主役である。ダーキニーはカーストの最下層のアンタッチャブルの女たちで、マジカルな能力の持ち主と考えられている。チベットでは「空行母」といって、空を飛ぶ。異様な性的能力をもち、うまくなだめてヨーガすれば、この世ならぬ快楽を得られるが、怒らせると、頭から喰われてしまう。
ダーキニーはグループをなしていて、グループ全体がカーリー女神の実在性をになっているという。この実在性というのは暗く恐ろしい原理、仏教でいうところの「無明」だというのだが、俺の理解はまだまだそこまでおよんでいない。
ダーキニーのカルトというのがおどろおどろしい。森の奥にある死体遺棄所、日常の対極にあるもっとも厭うべき暗黒と汚穢の場所で、特定の日に集まって、飲めや歌えの饗宴を催す。
儀式においてはダーキニーは8人一組になって、シヴァと目される男のヨーガ行者を真ん中に囲んでマンダラをつくり、一人一人性的ヨーガを行うのだが、そのとき8人の輪(チャクラ)に欠損ができるので、完全なマンダラにならない。そこで臨時の女性が外部から導入される。それがマハームドラー、16歳の生理中の美しい処女である。
まず第一座において、マハームドラーが中央の導師とヨーガして、マンダラ全体の実在性を一身に託される。それから8人のダーキニーが交代に導師とヨーガし、マンダラの実在性を分担する。
別座では、集会のスポンサーである在家信者のためにイニシエーションの儀式が行われる。マハームドラーと導師のヨーガによって生じた男性=方便の精液と女性=般若の月水の混合物、その滴を菩提心と同一視するのであるが、その滴を親指と薬指でつまんでイニシエーションの受者の口に落とす。これで受者に菩提を求める心が植えつけられたことになる。
次に、その受者はマハームドラーとヨーガする。そうすると、こんどは受者の下腹部に菩提心が生ずる。それを、導師の教えにしたがって身体の中央の脉管の中を上昇させ、頭頂に達すると、大楽を得られる。それが菩提そのものということになる。
これは、あくまでシンボリックな表象にすぎない。
この寺院はシャクティ(性力)信仰のメッカである。毎日多くの参拝者が訪れる。ここに祀られる女神は、黒い死の大母神カーリー女神と同一視されている。カーリーはシヴァ神の妃でもある。
カルカッタにカーリー女神を祀る寺院(カーリー・ガート)がある。ギロチンがあって、毎日羊の首を切って、その首をカーリーにささげている。カーマーキャー寺院でも同じ儀式が毎日行われているが、ゲイトの『アッサム史』よると、以前は羊ではなく、人間の首がささげられていたという。何日か前に犠牲となる男が選ばれる。選ばれた男は最期の日までどんな贅沢も許され、食事でも女でも好きなだけ与えられた。カーリーは人間の血の犠牲を要求していたのだ。
タグという秘密殺人集団があった。「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のモデルにもなったタグだが、彼らは旅に出て、カーリー女神にささげるために人間を殺しまくった。獲物に狙いを定め、相手を油断させてから瞬時に黄色いハンカチーフで絞め殺す。遺体は前もって掘っておいた穴に埋め、身につけていた財宝は代償として得た。14世紀から500年で2千万もの人間をカーリーにささげたという。(山際素男『カーリー女神の戦士』)
この黒く恐ろしい女神にはダーキニーという使いがいる。タントラ仏教の主役である。ダーキニーはカーストの最下層のアンタッチャブルの女たちで、マジカルな能力の持ち主と考えられている。チベットでは「空行母」といって、空を飛ぶ。異様な性的能力をもち、うまくなだめてヨーガすれば、この世ならぬ快楽を得られるが、怒らせると、頭から喰われてしまう。
ダーキニーはグループをなしていて、グループ全体がカーリー女神の実在性をになっているという。この実在性というのは暗く恐ろしい原理、仏教でいうところの「無明」だというのだが、俺の理解はまだまだそこまでおよんでいない。
ダーキニーのカルトというのがおどろおどろしい。森の奥にある死体遺棄所、日常の対極にあるもっとも厭うべき暗黒と汚穢の場所で、特定の日に集まって、飲めや歌えの饗宴を催す。
儀式においてはダーキニーは8人一組になって、シヴァと目される男のヨーガ行者を真ん中に囲んでマンダラをつくり、一人一人性的ヨーガを行うのだが、そのとき8人の輪(チャクラ)に欠損ができるので、完全なマンダラにならない。そこで臨時の女性が外部から導入される。それがマハームドラー、16歳の生理中の美しい処女である。
まず第一座において、マハームドラーが中央の導師とヨーガして、マンダラ全体の実在性を一身に託される。それから8人のダーキニーが交代に導師とヨーガし、マンダラの実在性を分担する。
別座では、集会のスポンサーである在家信者のためにイニシエーションの儀式が行われる。マハームドラーと導師のヨーガによって生じた男性=方便の精液と女性=般若の月水の混合物、その滴を菩提心と同一視するのであるが、その滴を親指と薬指でつまんでイニシエーションの受者の口に落とす。これで受者に菩提を求める心が植えつけられたことになる。
次に、その受者はマハームドラーとヨーガする。そうすると、こんどは受者の下腹部に菩提心が生ずる。それを、導師の教えにしたがって身体の中央の脉管の中を上昇させ、頭頂に達すると、大楽を得られる。それが菩提そのものということになる。
これは、あくまでシンボリックな表象にすぎない。
アッサムの想い出2
アッサムを訪れたときは、モンスーンがあけきらない9月だった。比較的晴天に恵まれたが、終日バケツをひっくり返したような土砂降りの日もあった。雨期のさなかはこんな日が続くのだろうと思うと、安宿にこもっていた俺は陰鬱な気分になった。アッサムは世界一の降雨量記録をもつ。
アッサム州の北側はアルナチャルといって、鬱蒼たるジャングル地帯だ。ベンガル湾からの湿気を含んだ気流がヒマラヤにさえぎられて上昇し、多量の雨をもたらす。このジャングルにはさまざまな少数民族が細々と暮らしている。いまはインドが実効支配しているが、中国はチベット自治州の領内と主張している。
アルナチャルの北辺がヒマラヤである。そこにカントという山がそびえる。当時写真がなかった。この山はどんな相貌そしているのか、どうしても目の当たりにしたくて、アッサムを訪れたのだ。
いまは世界遺産になっているカジランガ国立公園で、はじめてカントに対面した。曇り空であったが、白い山容をはっきり見せていた。そのときこの山にいかれてしまった。この処女峰を必ず登ってやる、と思ったものだ。10年あまりでその思いはかなう。
アッサム州の北側はアルナチャルといって、鬱蒼たるジャングル地帯だ。ベンガル湾からの湿気を含んだ気流がヒマラヤにさえぎられて上昇し、多量の雨をもたらす。このジャングルにはさまざまな少数民族が細々と暮らしている。いまはインドが実効支配しているが、中国はチベット自治州の領内と主張している。
アルナチャルの北辺がヒマラヤである。そこにカントという山がそびえる。当時写真がなかった。この山はどんな相貌そしているのか、どうしても目の当たりにしたくて、アッサムを訪れたのだ。
いまは世界遺産になっているカジランガ国立公園で、はじめてカントに対面した。曇り空であったが、白い山容をはっきり見せていた。そのときこの山にいかれてしまった。この処女峰を必ず登ってやる、と思ったものだ。10年あまりでその思いはかなう。