A Flood of Music -28ページ目

今日の一曲!岡崎体育「潮風」~超個人的レキシコグラフィーを副えて~(+「私生活」)

 

レビュー対象:「潮風」(2016)

 

 

 今回取り上げる楽曲は、キャッチーなメロディと目覚ましい電子音を引っ提げてコミカルとシリアスのライン上を反復横跳びする作風が特徴的な、岡崎体育の「潮風」です。TVアニメ『舟を編む』のOP曲で、原作を同じくするTVドラマ版が今週から地上波で放送され始めたこのタイミングに乗じて紹介します。

 

 種々の媒体に展開している本品の個人的な鑑賞状況は【済:映画・アニメ|未:小説・漫画・ドラマ(BSP4K)】で、ドラマ(地上波)をリアルタイムしている次第のため係るネタバレの心配は無用です。そも視聴済みの映画版とアニメ版についてもその内容に関して掘り下げるつもりはなく、初見の楽しみを奪わないような音楽レビューに注力します。

 

 ただそれでは「辞書づくり」という折角の興味深いテーマをふいにし兼ねないので、記事の後半には辞書に纏わるコラムないし企画を盛り込みました。その旨を伝えているのが副題の「~超個人的レキシコグラフィーを副えて~」です。詳細は「潮風」のレビューを終えてから説明します。

 

 いつもならこの直下には対象曲のMVないしアートトラックを埋め込む構成のところ、オフィシャルにアップされているのが下掲のショートバージョン音源しかないため代用とさせてください。MVはアニメ本編の映像を利用したものが存在し(監督はZEXCSの福田浩介さん)、シングルCDに付属のDVDで観ることが出来ます。ジャケ写よろしく要所要所にキャラクター化した岡崎さんが闖入し、果たして主人公の立ち位置を挿げ替える内容です。笑

 

 

 

収録先:『潮風』(2016)

 

 

 初出の収録先は1stシングル『潮風』で、自分でも忘れていたのですが2016年のアニソンを振り返る記事の中に本曲への言及がありました。インディーズ時代の作品を除けば当時は未だメジャー1stアルバム『BASIN TECHNO』(2016)が唯一の参照先だったので、リンク先では「元々岡崎体育には手を出そうか迷っていたのですが、こういう真面目な歌詞も書けるんだと知って俄然興味が出ました」と述べています。

 

 本作はその期待を裏切ることなくシリアスに作り込まれており、このディスクでのみ聴けるc/w曲「チューリップ」もまた文学性の強い楽曲です。表題を含む歌詞が、"幽静の星を背にして 黎明の橙に光る/騒音の破片を厭がる繊細なチューリップの如く"ですからね。

 

 

 アルバムとしての収録先はコンピ盤の1st『OT WORKS』(2018)です。前述のMVは本作の初回盤付属DVDにも収められています。自作のプレイリストに照らすと同作からは「潮風」以外に「MEASURE」と「お風呂上がりにパピコを食べる歌」を上位10曲以内に登録しており、当然ながらコミカルな路線もお気に入りです。

 

 こうしてアーティストの単独記事を立てるのは今回が初だけれど、この記事この記事には「Natural Lips」(2017)および「Explain」(2016)への間接的な言及が、この記事この記事には「私生活」(2019)および「MUSIC VIDEO」(2016)の短評が存在します。このうち「私生活」のそれは旅行記に埋もれて日の目を見ていないため、本記事の最後におまけとして当該部をセルフ転載しました。宜しければ併せてご覧ください。

 

 

歌詞(作詞:岡崎体育)

 

 題材に相応しく蓋し辞書然とした歌詞世界が印象的です。それが最も顕著に表れているのは2番Aメロ後半で、"現実\空想 優秀\劣等 賛成\反対 実践\理論"に続け様に"酷評\絶賛 応用\原理 解放\閉鎖 以外\以内 未来\過去"と、対義の関係にある語群のみで畳み掛けるスタンザには圧倒されます。1番A後半にも同様の趣向は凝らされていますが、"硬い思念 柔い思考 近い想い 遠い記憶 髪の毛の癖/狭い視野 広い交遊 長い沈黙 短い挨拶 声のトーン"と語句化されており、アニメに使用されるパートだからか聞こえの上で比較的平易です。

 

 ※ 上記の/(スラッシュ)は当ブログに於ける表記上のルールで元の歌詞の改行位置を示しています。一方でたくさんの\(バックスラッシュ)は縦書きの歌詞に元々印字されているものです。本当は半角なのですが文字コードの関係で円記号になってしまうので全角にしています。

 

 これがサビ前半の歌詞"対義や類義"の前者に相当するなら、後者は先の"思念"と"思考"やサビ後半の"論及 論決"および"根本 根底"と僅かに散在しており控えめです。厳密には類語というか言い換え語と表現すべきかもしれませんね。

 

 より統語構造が複雑なAメロ前半は1番2番共に情景描写力が高くて宛ら小説です。"朝のおぼろげとした静寂 ペンの柄に映る窓越しの東雲/夜の色鮮やかな喧噪 猫のように街と街を往来"に現代ならではの春宵一刻値千金を感じ取ったり、"夏の駅に眩んだ電光 ワイシャツの襟に滴る勤め汗/冬の雨にくすんだ憧憬 薄めた絵の具で線を描いた"のあらゆる対照性(季節・光量・繁閑・夢現)に万感交々至ったりします。

 

 

 辞書づくりの途方のなさに係るフレーズも愛おしく、1番Bメロからサビにかけては作中で刊行を目指す『大渡海』のイメージに沿った言葉選びが見事です。"永久の砂を攫う広い海で/対義や類義の疎らな波に呑まれては沈んで"に言葉の海の蒼茫たるやを知り、"正面衝突 正反対も解いては結んで/論及 論決 幾星霜に散らばる言葉を集めて拾うよ"に倦まず弛まずの用例採集その過酷さが窺えます。

 

 製本された辞書そのものを表していると解せる2番Bの実利的な言い回しも地味に好きで、"裸眼でなぞった普段の景色 片手で掬う現代の用途/当て所なく嵩張る更新の音で"から浮かぶ字引と首っ引きな画が素敵です。我々がこうして辞書を片手に言葉を正しく繰れるのは:即ち編まれた舟に乗り大海を渡って行けるのは、"潮風薫りゆく 浜辺に浮かべた繋がりは一つに"に編纂の喜びを覚えた者達が居たからこそと言えます。

 

 

メロディ(作曲:岡崎体育)

 

 詞先か曲先かに拘らず「この歌詞にはこの旋律しかない!」と声高に主張したいほどに何処を切り取っても韻律が完璧です。別けても挑戦的なのはやはり2番Aメロ後半の対義語群ラッシュで、二字熟語のみを十八個連ねた十三秒間の流麗なフロウに酔い痴れられます。1番同位置のそれが基準となっている以上、拍の取り方の変化が新鮮なお蔭もあるでしょう。

 

 Aメロ前半のナラティブな音運びは「宛ら小説」と評した歌詞の描写力を一段と鮮明にしていますし、Bメロのメロディアスさはアップテンポの中で緩急を付けるのに誂え向きで言葉の意味をじっくりと噛み締められます。サビメロは実に岡崎さんらしい底抜けのポップさを誇り、現実には困難を伴う船路と知りつつも前途洋々たる未来を信じて舵を切る希望に満ちたラインが象徴的です。

 

 

アレンジ(編曲:岡崎体育)

 

 アッパーなビートメイクにプレゼンスのあるシンセリフが耳に残るダンスチューンなので、オケだけを聴くと文学的な歌詞が載ることをまず想定出来ません。しかしピアノの音が巧く空間に鳴り渡っているからか、ただ無機質なだけの軽薄さは感じられずにしっかり血の通った音像になっています。グリッターなシーケンスフレーズには泡沫ないしコースティクスを幻視するため、特に間奏のそれはイマーシブネスが深いです。

 

 

 あとこれは意図したのか偶々なのか微妙ながら、イントロが「MUSIC VIDEO」のそれに似ていてシンセが鳴るまで咄嗟の判別に迷います。笑

 

 

 
 

超個人的レキシコグラフィー

 辞典・事典・女性ファッション誌に見ることば

 

 

 上段:個人で所有している辞典(とそれだけでは味気ないので事典も)の中から、余り一般的でなさそうなものを6冊立てて並べてみました。手前に置いてあるのは『潮風』のCDです。本項ではこのラインナップを基に書籍当たり一・二語ピックアップして音楽と絡めた小ネタを紹介します。際しては成る可く岡崎さんの楽曲を例に取るようにました。

 

 下段:主に2009年の青文字系雑誌(女性ファッション誌)です。僕は生物学的性も性自認も男ですがこれらも自分の物でして、その頃好きだったMEGさんが目当てだったり友人が載っていたりと諸々の理由で結構な数を揃えています。ここでは雑誌が被らないように適当に5冊抜き出しただけです。

 

 今般ドラマ版の『舟を編む』ではファッション誌編集部から辞書編集部へ異動してきたみどりが主人公であることに因み、その界隈で独特のワードや表現を何個か抜き出して語ります。作中年代設定の2017年からですら一昔前になってしまうけれど、リーマンショック後の平成という括りでは同じとさせてください。

 

 

 

出典:小野正弘編『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』(2007)

 

 

■ ごりごり[p.136]

□ 強く力を込めてこすったり、踏みつけたり、かんだりする音。

★ 岡崎体育「Explain」(2016)

☆ "ゴリゴリのイケてるイントロ終わってここがAメロ"

= トラック(オケ)に対するゴリゴリはシンセの力強さに由来しがち。ライザーサウンドに対する"「ううぃーーん」"は流石に見出しがないが「ういーん:機械などがうなりをあげて動くときの音」[p.7]ならあり。

 

■ しゃなりしゃなり[p.178]

□ やわらかな身のこなしをして気どって歩くさま。

★ TRINITYAiLE「Brand new day」(2025)

☆ "くるりくるり ヤマトナデシコ/しゃなりしゃなり 蝶のまねして"

= 前回の「今日の一曲!」に曲名を出していたので例示に抜擢。女三人寄れば姦しいをポジティブに捉えた無敵感の漂う語彙選択か。「くるりくるり:軽やかに何度も回るさま」[p.110]も当然見出しあり。

 

 

 

 

出典:小池生夫編(主幹)『応用言語学事典』(2003)

 

 

■ 親族名称(kinship terms)[pp.217-218]

□ 要約:呼称に用いられる際に話者の対人関係への認識が窺える。例えば子持ちの夫婦に於いて夫が妻を「お母さん」と呼ぶケース(子の目線になっている)。

★ 岡崎体育「家族構成」(2016)

☆ "俺 嫁 息子 娘"

= 歌詞だけでは解り難いので下掲MVを参照のこと。嫁は本来「息子の妻」を指すけれどフランクな場でなら夫が妻を「俺の嫁」と表現することに違和感は少ない。本人(夫)が父の目線になっているわけではないと思うので、敢えて親族名称を使わないことで親しみが込もるのだろうか。横道に逸れるがMVではオタク用語としての「俺の嫁」もカバーしており流石。笑

 

 

 

 

出典:200ロック語事典編纂委員会『200ロック語事典』(1995)

 

 

■ トランス[p.56]

□ 一般にはスペーシーでハイテンションなテクノ系ハウスの通称でもあるが、アンビエントやプログレッシブハウスとの音楽的な区分は曖昧である。

★ Orbital「Remind」(1993)

☆ 下掲ビジュアライザー音源参照

 

 

= 名盤『Orbital』(1993)通称『Brown Album』または『Orbital 2』のリマスター復刻記念で選曲。この動画も投稿から一週間経っていません。事典では関連CDに同アルバムが挙げられているもディスク全体に「トランス」の形容が適切かは疑問符。ゆえに「区分は曖昧」は弁えた良いエクスキューズです。とはいえ本曲はトランス成分が強めなので狭義では適例だと思うとフォローします。

 

 

 

出典:永岡書店編集部『最新情報語小辞典』(1991)

 

■ ペーソス(pathos)[p.459]

□ 哀愁, 悲哀, 感傷.

★ 岡崎体育「普通の日」(2021)

☆ "黄昏れ散りばめたペーソス"

= 「家族構成」のMVに出てくるア○カのフィギュア → 「残酷な天使のテーゼ」(1995) → "ほとばしる熱いパトスで" → 「パトス(pathos):情熱, 情念.」[p.397] → スペル同じで意味のベクトル逆! …と、気付きを得ました。

 

■ 無境界現象[p.497]

□ 学生か社会人か, プロかアマか, 素人か芸術家か, 安物か高級品か等々, 区別がつきにくくなった時代風潮を, 垣根が壊れてしまったとして呼ぶことば.

★ 岡崎体育「おっさん」(2021)

☆ "ズレていく/世間との軋轢が生じてしまって/当たり前のこと解らなくなる前に"

= 全く聞いたことのない用語でした。博報堂生活総合研究所著のずばり『無境界現象』(1986)から来ているのだろうか。上記の説明だけなら「真贋を見極める力が求められる!」的な解釈が可能ですが、以降の説明では従来の男らしさ女らしさが逆転した状況も論われているため(否定ではなく驚きとして)、現代から見れば時代錯誤かも。ただ昭和→平成と同様の世代間ギャップは平成→令和の今にも往々にしてありますよねと、そんな歌がこれです。

 

 

 

 

出典:一般社団法人日本動画協会 人材育成委員会『アニメーション用語事典』(2019)

 

 

■ CLIP STUDIO PAINT[p.146]

□ RETAS STUDIOを開発したセルシス社製の作画ソフト。

★ しぐれうい「Paint it delight!」(2024)

☆ 下掲コラボCM参照

 

 

= 今年の実質初更新が「ういこうせん」(2024)の記事だったのと、そう言えばクリスタのVer.4.0リリース記念で公式アンバサダーに就任なさっていたなと思い出し、イラストレーター兼VTuberのステータスに相応しいテーマ性の選曲にしました(YouTubeアートトラックリンク)。"晴れてなくたって 綺麗なレイヤーで/街は生まれ変わる"の「レイヤー」[p.87]については、セルの解説があった後に「デジタルアニメーションにもこの考え方が継承され、ペイントソフトにレイヤー機能が生まれた」と関連付けられています。

 

 

 ういママのユニークな語彙使用には自分の声質について述べた「ガウスぼかしみたいな声」があり、そのコンテクストが通じるメンバーだけの上掲お絵かきコラボ配信では爆笑を掻っ攫っていました[54:20~]。過去には船長とのマシュマロ読み配信(YouTubeリンク)でも言っていましたね[20:48~]。何方も他枠なので知らなかった方はぜひ。

 

 

 

出典:山北篤監修『魔法事典』(1998)

 

 

■ ホロスコープ[p.252]

□ 西洋占星術において、ある時点の惑星・太陽・月と黄道十二宮の配置をあらわした模式図。[中略] ホロスコープを使わない略式の占いが考案された。これが一般にわれわれが雑誌や新聞で目にする「星占い」である。

★ 岡崎体育「Horoscope」(2017)

☆ "あっもう時間がないや/あとの星座はまとめて占います"

= 略式の省略版なので精度はお察し。5/12が"ラッキーアイテムは模造紙"。そも黄経240度以降の四星座はアイテム不明だから実質5/8。しかしかに座へのアドバイスで飼うのを勧められる"キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル"に曲の最後で襲われる岡崎さんがちゃんとかに座生まれなのは芸細。

 

 

 

 あっもう(外部リンクが多すぎて字数に)余裕がないや、あとのファッション誌はまとめて語ります。…と歌詞に倣いつつ趣旨変更を予告しまして、ここからは16年前の青文字系雑誌に載っていた個人的に気になる日本語表現を紹介するコーナーです。辞典・事典と異なり明確に語意が記してあるとは限らないため、説明文には自分で要約したものが含まれる場合もあるとお含み置きください。

 

 

 

出典:『nadesico』(2009, vol.2, no.6)

■ 不意打ちキュンさせガーリー♥ネイル[p.121]

□ シチュ:突然の雨で彼に傘を差し出す瞬間に指先のネイルでアピール。

= ネイルに関心の薄い男性諸氏にはこれくらい打算的でないといけないのかも。「応用編はスタバでカップを渡す時!」だそうです。笑

 

出典:『mina』(2009, vol.9, no.7)

■ カジュヤセ[pp.35-42]

□ すでに持っている安全服を使って、きっちり着やせするコト!カジュアルなのにヤセる服の略。

= 「痩せ見え」という概念自体は昔からある気がしますがこの語で定着したのはいつ頃なのでしょうね。説明文中の「安全服」とは安全靴のそれではなく、体型を隠すために選び勝ちな服のことらしい。「着ていて楽ちん」だとか「露出控えめ」だとかの。

 

出典:『Soup.』(2009, vol.100 ※通巻)

■ センターパートバング[p.133]

□ 要するに真ん中分け前髪のこと?

= 英語の元々の意味に照らすとセンターパートに態々バングを付す必要がない気がします。bang(s)は切り下げ前髪のことなので。広く前髪全般を指した使用だろうけれど、同じデコ出しのアップバングと混同する元かも。

 

出典:『Zipper』(2009, vol.17, no.7)

■ 光で飛ばす[p.152]

□ 毛穴や黒ずみをパール入りコスメで目立たなくさせること。

= 検索すると今でも普通に使用者の多い表現でした。メイクの文脈で言うレフ板効果もこの周辺語彙ですね。

 

出典:『SEDA』(2010, vol.20, no.11)

■ ローゲージのざっくり感[p.76]

□ ざっくりとした編み目で、リラックスした雰囲気をつくる二ットへの言。

= 普段ニットを着ないのもあってハイだのローだのがあるとは知りませんでした。編み機の密度で5G以下がローと数値基準もあるらしい。ここまで説明を読んで「規格のゲージ(gauge)か!」と遅れて気付き、知っているはずの単語を即座に連想出来なかった悔しさにはぐぬぬ…です。

 

 

 

 以上、超個人的レキシコグラフィーでした。我ながらこんなにメンタルレキシコンが取っ散らかっている人間は珍しいのではと独り言ちます。本記事を読んで「そんな言葉遣っている人初めて見た」と思わせられたなら本望です。

 

 

 
 

旅行記事に埋もれた「私生活」のレビュー

 

 旅行記と音楽レビューを組み合わせたこの記事の中に3rdアルバム『SAITAMA』(2019)収録の「私生活」を対象とした短評があるので、以下に体裁を多少変えて当該部をセルフ転載します。前後の文脈はリンク先でご覧ください。

 

 「旅先にも日常がある」という当たり前ながら忘れがちな面に目を向け、歌詞に"スーパー"と"マーケット"が分かれて登場する、岡崎体育の「私生活」をここでのレビュー対象とします。インディーズ時代のアルバムにも同名のトラックがあり、そちらを初出とするなら2013年の楽曲です。

 

 コミカルもシリアスも得意とする岡崎さんですが本曲は完全に後者で、アンプラグドなイントロから鼓笛隊然としたドラムスと哀感のストリングスが繰り出される[0:32]までのオケだけでも既に良曲の気配、しかしキックとベースはダンサブルでエレクトロなウワモノが重ねられる期待通りの作風も顔を覗かせます。電子音楽畑のミュージシャンがともすれば陥りがちな音圧病(漫画家の空白恐怖症みたいなもの)に罹らず、引き算の美学を弁えたサウンドが好感触です。
 
 "十四歳"にとって学校と家庭のまさに"トワイライト"な狭間と言える"午後五時半"即ち放課後に、母親に連れられてきた"大型スーパー"で"クラスメイトと遭遇"(向こうも親同伴・女子)するというシチュエーション。互いの"私生活"が垣間見えるその瞬間に、可笑しさと気まずさと変な嬉しさが綯い交ぜのソワソワを味わった経験が誰しもにあるのではないでしょうか。

 

 特段意識している存在ではなかったのに、"あのコのことちょっと好きになる 小さな街のマーケット/恋の何歩か手前 私生活"と一人舞い上がるのもありがちです。"それぞれの家族 それぞれの夕飯 レジも段々と混んでいく"いつもの光景が、"そして隣の台にはなんと麗しき女神"で非日常と化したのは"偶然性の一コマ 小さな街の出来事"に過ぎないけれど、"どこの街だってあり得る 私生活"なのは間違いなく、なればこそ確率の問題でそのうちのいくつかが「本物」になるのも道理でしょう。

 

 自分語りながら僕は岡崎さんとほぼ変わらない年齢なので"攻略本読んでる"の時代背景に共感できましたし、中学生の時分に運動部だったので"体操服のままだ/あっ部活帰りか 下だけウィンドブレーカー"の描写を懐かしむと同時に一種のフェチを想起させられました。