マクロスシリーズのₙC₅「Diva in Abyss」「時の迷宮」「突撃ラブハート」ほか | A Flood of Music

マクロスシリーズのₙC₅「Diva in Abyss」「時の迷宮」「突撃ラブハート」ほか

 

はじめに

 

 自作のプレイリストからアーティストもしくは作品毎に5曲を選んでレビューする記事です。第6弾は【マクロスシリーズ】を取り立てます。普通に読む分に理解の必要はありませんが、独自の用語(nの値やリストに係る序数詞)に関する詳細は前掲リンク先を参照してください。

 

 これまでに当ブログで同シリーズをメインとした記事は8本あるものの、リスト管理の都合で菅野よう子さんがプロデュースした楽曲は別枠扱いにしているため、ブログテーマ上でも「マクロスシリーズ」に4本「菅野よう子」に4本と一つ所に纏まっていません。前者は実質的に『マクロスΔ』が、後者は『マクロスF』が対象です。このうち作品との出逢い方にやや特殊な背景があることを説明した記事と、放送当時も更新当時もともすれば今でもあまり知られていない制作秘話にふれた記事へのリンクカードを代表的に貼っておきます。

 

 

 

 加えて、下掲の複合記事ではアプリ『歌マクロス スマホDeカルチャー』に託けた『超時空要塞マクロス』および『マクロス7』の楽曲への言及があるので、こちらも目立たせておきましょう。なお、2017年の同記事内では「初代も7も観たことがない」と述べていますが2024年の現在では何方も視聴済みです。

 

 40周年の際にCSの幾つかのチャンネルで、初代のTVアニメ・劇場版・OVAと7のTVアニメ・未放映3話を録画出来ました。『超時空要塞マクロスⅡ-LOVERS AGAIN-』と『マクロスプラス』と『マクロス ダイナマイト7』と『マクロスFB7 オレノウタヲキケ!』は円盤入手の機会があったため現物で所持しており、現時点で手元のディスクで観返せないのは7の劇場版と『マクロス ゼロ』とFの劇場短編とΔの劇場版2作目です。視聴履歴および円盤の所持状況を確認したい方はこちらへ。

 

 

 その他関連のある言及をした記事や単に名前を出しただけの記事も読みたいという方は、当ブログのID指定ありの検索結果ページを以下にリンクしておくので辿ってみてください。なお、本記事の選曲に於いては過去にレビュー済の楽曲をなるべく除く形にしました。

 

 

 前置きは以上で、ここからマクロスシリーズのₙC₅を書き始めます。リストないしテーマの運用的には菅野さんの手に成る楽曲を本記事で扱うのは振り分け違反だけれど、この記事タイトルで+とFを省くのは意地悪な気がするため例外的に対象とさせてください。現時点でのnの値はマクロスシリーズが30/3[=10*3]、菅野よう子が45/3[=15*3](内マクロス関連は21曲)で、レビューするのは「Diva in Abyss」「時の迷宮」「VOICES」「突撃ラブハート」「SUNSET BEACH」の5曲です。作品が被らないように選曲しました。

 

 

「Diva in Abyss」(2021)

 

 

 Δに関しては映画1作目『劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ』の感想および関連楽曲のレビューを最後にまともな言及が途絶えていたので、穴埋めとしてまずは映画2作目『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』の『オリジナルサウンドトラック』(2021)から「Diva in Abyss」をメインに紹介します。敵サイドであるYami_Q_ray(ヤミキューレ)のナンバーですが、音楽のみを評価するなら*1新曲群の中で最も好みでした。次点も「綺麗な花には毒がある」なので、善性のワルキューレからは出てこないタイプの楽曲が新鮮で良かったと言えます。作中設定的にもメタ的にも同じ歌声であるからこそ両者の差異は歌詞とオケの性質に委ねられ、結果チャレンジングな仕上がりになっている点が味方を差し置いてまで敵にフォーカスする理由です。

 

 *1 ストーリーも込みなら「ワルキューレはあきらめない」に「ALIVE ~祈りの唄~」と感動的なものを上位に据えるけれど、ヒットパレード的な側面もあった本作に於いては過去曲のパワーが強くて相対的な物差しを持ってしまったことは否めません。とはいえ「唇の凍傷」はスケートの演出も含めて強く惹かれるものがあり、序盤でこれを見せられた時にはとてもワクワクしたとフォローしておきます。

 

 

 重々しいストリングスと物悲しいハープとがらんどうな風音が織り成す空虚な幕開けからして闇の歌い手らしさ露で、美雲の星の歌い手としての宿命も大概重かったと言えるのにそれよりも非人道的に作られた闇雲が、"羽をなくして堕ちていく やっと自由になれたの/正義を名乗る神様には 断罪を 今 あぁ"と歌うのも無理からぬことです。荒々しいドラムを合図にオケが勢い付き、過激に改変された決め台詞と共にメンバーが勢揃いし、"「歌は歓喜」/「歌は絶望」/「歌は欲望」/「歌は狂気」/「歌は闇。逝かせてあげる。堕天使の歌で」"と宣戦布告する。この序盤の1分だけで掴みはばっちりです。

 

 5人で矢継ぎ早にメロディを乗り熟していく進行は本家宛らで、平歌部では徐々にボルテージが高まっていくのが感じられます。サビは前後半に分かれているものとして"始まる -Destroy-"からと規定しまして、前半の流麗なラインと後半の痛切なラインの目覚ましい対比が本曲の聴き所です。特に後半はオケと一体化した叩きつけるような旋律("Evil"~)と感情の波に乗せて切なくも激しく展開する旋律("本当は"~)が交互に来るアグレッシブさが魅力で、アタックの強いリズム隊のキメも焦燥感を掻き立てる小刻みなストリングスも渾然一体となって激情の程を高めています。ラスサビでは更にコーラス("全てを今"~)が追加され歌声は一段と多層的になり、ハーモニーとユニゾンとソロを自在に往来する複雑性はワルキューレを良く学習出来ていると腹落ちです。とりわけ最も層が厚くなる"止まらないの 堕天使の歌は"の部分には圧倒され、その間隙を縫う闇カナメの"覆い尽くす"の病んだ慈愛を感じさせる歌い方にもゾクゾクしました。

 

 歌詞および歌唱については闇フレイアの"でも 嫌、嫌 嘘つき"(1番サビ後半)に心を抉られるものがあり、実際にフレイアが酷く闇落ちしたら…というか何処かには抱いているであろう種族の短命を呪う気持ちが最大出力されたら表れそうな取り乱し方でグサっと来ました。しかし本物のフレイアがここまで直截的にならないのは過去に描かれている通りで、その証拠に作中では本曲に対抗する楽曲として「風は予告なく吹く」(2016)が歌われています。仲間の窮地を救おうと;別けてもハヤテのために命を削って紡がれる歌詞内容は、"Don't tell me now 次の流星がいつか 知りたくもない/(ねえ私今生きているわ)/Don't tell me now これが最後になっても 悔やみたくない/(ねえ私たちここにいるわ)"と、過去の何処かを振り返っていません。

 

 

「時の迷宮」(2021)

 

 

 続いては絶対LIVEと同時上映の『劇場短編マクロスF ~時の迷宮~』から表題曲「時の迷宮」をピックします。Fの新曲は10周年記念盤『Good job!』(2018)の収録曲以来、レビューもそれが最後だったのでこちらも穴埋めでの選曲です。制作を手掛けたのは勿論菅野さんで、上映時間13分半に対して8分近い曲長を誇る作品の主軸たるナンバーです。例によってプロトカルチャー絡みの遺跡「魂の井戸」に呼ばれたランカが、記憶のプロジェクションにより現出したアルトのビジョンに強く呼び掛け、その想いは今尚眠り続けるシェリルにも作用し彼女のビジョンも色濃いものへと変化、二人で共に歌い掛けることで遺跡から強力なフォールド通信波が発生し、それはアルトの居場所を指し示していると解釈されます。

 

 歌詞もこのプロットに沿っており、"025-8- and S04"および"021-5- and F09"がそれぞれアルトとシェリルの電話番号であることや、シェリルからの反応として「ダイアモンド クレバス」(2008)が一部引用されているのは、映像と併せれば納得です。宛先を明確にしているのは理解に親切で、冒頭のスタンザのみ遺跡に飛び込んだランカの独白と除外すれば、【1番はランカからアルトへ, 2番と落ちサビはランカからシェリルへ, ラスサビはランカとシェリルからアルトへ】と、伝えんとするメッセージの内容と方向を読み解けます。

 

 1番では"あれから 毎日たのしくて/かなしくて/少しだけさみしい"にランカの恋心の素直な変遷が窺え、映像の多幸感と相俟って何だか堪らない気持ちになりました。歌詞通り明るくポップに入ってからちくっと刺すように着地するお喋りな旋律も流石菅野さんの作曲だと絶賛します。2番では"別々の道を歩きながら/同じ夢を見てた/だからひとりじゃなかったよ"にグッときて、憧れでありライバルでもあるシェリルへの信頼を隠さない姿勢がエモいです。今度は"あれから 毎日美しくて"と形容詞が変化し、合わせてオケも「ゴ~~ジャス」な感じになる表現力の高さに遊び心を垣間見ました。

 

 ラスサビではというかサビに対する全般的な所感としては、数字のコールから始まる点が独特なフックになっており新鮮な聴き味を供していると言えます。チアリーディングっぽいリズミカルさを有し、それはつまり「想いを届ける」のに適した響きです。アルトの番号は譜割りが少し難しく、オトゥファイ|ヴェイテン|エスオーフォーと切ればリエゾンは大丈夫でしょう。

 

 

「VOICES」(1994)

 

 

 ヴァーチャロイドという共通項から闇雲誕生の背景に存在を匂わされていたシャロン・アップル。加えて菅野よう子×マクロスはFだけじゃないぞということで、お次は+から「VOICES」を取り立てます。歌っている新居昭乃さんに関してはこれまでにも幾度か名前を出しており、その全てが菅野さんにもふれている文脈上にあって今般で四度目です。本曲*2が満を持してED位置で使われるのは最終話だけれど、バージョン違いの「Acoustic」と「A cappella」またはインストの「MYUNG Theme」の形で全話を通じて都度披露されるため、本作のテーマソングと言って差し支えないでしょう。クレジットではMYUNG'S SONGと位置付けられ、設定上でもミュンが過去に作ったものとされています。

 

 *2 ディスク上の初出は『MACROSS PLUS ORIGINAL SOUNDTRACK』(1994)ですが僕はこれを持っておらず、しかし『〃 Ⅱ』(1995)はマクロスのマの字も知らない頃に偶々ディスクユニオンで見かけて購入済みだったので(以前から菅野さんのファンではあったため)、初めて聴いたのは「Acoustic」のほうでした。その後に菅野さんとSEATBELTSの記念盤『SPACE BIO CHARGE』(2009)でアウトロが少し短いテイクを聴き、マクロスにハマってから(=2015年以降に)手を出した新居さんのアルバム『空の森』(1997)およびCOLEZO!シリーズの『MACROSS -SONG SELECTION-』(2005)にて漸く初出と同一の音源を入手するという、遠回りながら折に触れて鑑賞してきたナンバーです。更に時を経て+のレンタル落ちDVDを買ったのが2021年で、Vol.4の英語音声もしくはインターナショナルVer.クレジットを視聴し、本曲に英語版が存在することを知って驚くダメ押しもありました。そちらはMichelle Flynnなる方が歌唱を務めているようです。

 

 

 後にマクロスに限らず数々の作品に神曲(例)を提供し続けることになる菅野さんのキャリアに於いて、アニメ劇伴の分野では本作がデビュー作になります。シャロンの歌が無国籍ないし未来的な趣を纏ってカオティックであるのに対して、ミュンの歌としての本曲は古くから歌い継がれてきた民謡のような素朴さを携え比較的シンプルなつくりです。基本の型は四行から成るスタンザで、"言葉"を数えて優しい旋律が繰り返され、展開する部分("とけていった"~)にすら派手さはありません。

 

 しかし"たどりつく場所"を契機に場面転換が表現されてか、以降は作編曲ともナラティブに変化します。幻惑的なシーケンスフレーズをバックに紡がれる魔術めいた旋律には次第に覚醒の感が芽生え、続く英語詞のセクションに聴き解けるサウンドスケープは意識が風に乗り鷹揚たる心持ちを得た時の万能感です。鳥の囀りを目覚ましに舞い上がった意識が戻り、"みっつめの言葉は hum."でその正体をハミングの中に隠し、神秘性を保ったまま曲は終わります。

 

 

「突撃ラブハート」(1994)

 

 

 同じく1994年から7の人気曲「突撃ラブハート」にもスポットを当てましょう。第1話から象徴的に扱われて、TV放送最終話の特殊EDにも弾き語りのアレンジで登場する定番の一曲です。変わり種にはTV未放映話「オン ステージ」での使用が挙げられ、「Coffee Break」なる怪しい来歴紹介番組(コーナー?)のOPにFBとしての演奏シーンと、工事現場の盛土の上で若きバサラが歌うシーンがあります。ともあれ真相はアキコの台詞「あれがFire Bomberです。過去も未来もわからない。でも、今あそこにいる」で推して知るべしでしょう。

 

 その現時性も要因かFBのナンバーは何れも魂で聴くのが正解としたく、本記事にここまで記述してきたような分析的な文章はあまりそぐわないとの認識です。従って非常に個人的且つ感覚的な表現をご寛恕願いまして、シャワーを浴びている際に口遊んでいるマクロスソングはFBのものである確率が高いという経験則を、楽曲が魂に刻まれていることのひとつの顕れとさせてください。特に本曲は気付けば歌っている気がします。笑

 

 2045年リリースという設定のコンピ盤『MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART』(1995)のライナーノーツにはアキコによるミュージックシーン評が載せられており、曰く「ここ数年銀河チャートは低迷している」でその根底には「安定=低迷」との考えがあるようです。そんな中でFBは「安定する銀河チャートに爆弾を落とす存在」と期待されていて、熱く愛を哮る本曲はその痛快な青写真をまさに体現していると言えます。ストレートなロックに心を真正面に捉えられ、キャッチーなラインで"おまえの胸にもラブハート まっすぐ受け止めてデスティニー/何億光年の彼方へも 突撃ラブハート"と、大き過ぎるスケールで"俺の歌"を浴びせられたならもう虜です。

 

 

 
 

「SUNSET BEACH」(1984)

 

 

 ラストは更に10年時を戻して、初代の劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』に使用された「SUNSET BEACH」へと案内します。ミンメイの楽曲ではいちばんのお気に入りです。映画に於いてはデートの最中にご機嫌で歌っていたところ未沙からの通信で強制終了となる使われ方で、あと"BEACHの昼下がり"だけだったのに…と音楽的にはモヤっとします。作劇上は大尉の嗅覚が流石だと言っておきましょう。笑

 

 80年代前半まで遡ると生まれる前の話になるので、次の内容は全く的外れかもしれないと先んじて言い訳しておきます。飯島真理さんが結果的にアイドルらしい売れ方をした事実を考慮するなら、本曲の現実的なステータスは「アニメソング」であると同時に「80年代アイドルソング」です。しかし本曲から受ける印象はもっと古い「70年代アイドルソング」で、たとえ切ない内容であろうと明るくポップに仕上げる感じは80sより70sのほうが優勢だと区分しています。

 

 中華風の鳴り出しから直ちにビーチサウンドへ移行するイントロはミンメイのキャラクター像にぴったりで、オケは陽気なまま"つれなく歩く あなたの後を/ふくれっつらして 追ってゆく"とすれ違いの内容が歌われるのが軽妙です。楽想はAメロ-サビ形式ではなくヴァース-コーラス形式で説明したいコンパクトさで、雰囲気が翳る"潮風吹いて"から"昼下がり"までを大きく展開するコーラスと見做します。心象風景を述べてメランコリックなメロディとアンニュイなバックコーラスが、"あいつ"の振る舞いに観念してか奔放気味になって"波乗り 太陽 ペンダント"と構成要素に分解され、"SUNSET BEACHの昼下がり"と時間感覚に矛盾のある一節で以て2番の"夢の中"を匂わせているのが上手いです。"あなた"と"あいつ"と"私"で三角関係なのもマクロスらしさ全開で高評価します。

 

 

おわりに

 

 以上、マクロスシリーズのₙC₅でした。本記事を書くために一応は楽曲が使用されている本編だけでも振り返ろうと意識した結果、未だ円盤を買っていない絶対LIVEと時の迷宮はプライムビデオでレンタル視聴、+は全4話と短いので円盤で通して観て、7は録画から数話を抜粋で観直した序でに同じく全4話ならとダイナマイトを円盤でフル鑑賞、愛おぼは「SBってどういう使われ方だっけ?」と思って録画から当該部のみ参照することになりました。各作品の繋がりを念頭に置くとあれもこれも観たくなってしまうのがマクロスシリーズの醍醐味で、執筆に時間が掛かったと内情を明かしておきます。