今日の一曲!gabriela robin「トルキア」 | A Flood of Music

今日の一曲!gabriela robin「トルキア」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」Ver. 2.0の第八弾です。【追記ここまで】

 本日の出目は【1, 5, 7, 4】だったので【1stの581番】の楽曲、gabriela robinの「トルキア」を紹介します。作編曲は菅野よう子によるもので、作詞とボーカルを務めているgabriela robinというのも菅野さんの変名なので、ブログテーマは「菅野よう子」です。

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX O.S.T.3/ビクターエンタテインメント

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 「トルキア」(2005)は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX O.S.T.3』の収録曲で、このアルバムはTVアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 2nd GIG』のサントラ(2作目)としてリリースされました。

 当ブログのプロフ欄の「好きなアニメ」にも真っ先に名前を出していますが、僕は『攻殻機動隊』が大好きです。設定、世界観、背景美術、ストーリー、キャラクター、音楽のどれをとっても僕の精神性にマッチしているので、総合的に考えるとトップの座に君臨して然る可き作品であると思っています。

 円盤は揃えていますが、色んな意味でヘビーな作品のため頻繁に観返すことはしていません。従って言い訳になりますが、以降の記述には間違いとは言わないまでも情報として不足しているものがあるかもしれないです。特に「作中で説明(明言)されていた」ということを忘れていて、意味もなく推定の表現を使ってしまっているかも…という懸念があります。


 ということで楽曲のレビューに入る前に少しだけ作品についてふれますね。押井守監督の映画版も好きですが、僕が最も好きなのは神山健治監督のTVシリーズ(『攻殻S.A.C.』)です。『2nd GIG』はタイトル通りその第二弾にあたる作品で、西暦2032年の未来の世界を舞台としています。

 『2nd GIG』の初放送は2004年で、現在は2017年…つまり13年が経過したわけですが、現実が作中年代に追いつくまであと15年あるとはいえ、時が進むにつれてこの作品の内容は予言めいているなという思いが強くなっています。

 「電脳化」の実現可能性は扨措いても、「(招慰)難民問題」に端を発したテロは日本国内でも起こり得るでしょうし、もし「日本の奇跡」(確立された放射能除去技術)が実現したなら、核抑止理論がどう変質していくかあれこれ想定出来ますよね。まあ今の日本にとっては核兵器に関係無く現実化して欲しい技術になってしまったのが笑えないですが、「新宿大深度地下原発」も描かれていましたし予想はしていたのかも…

 こうして語り出すといつまで経っても音楽レビューが始まらないのでこれ以上は割愛としますが、今後の世界情勢のシミュレーションとして公的に参考資料としてしてもいいのではと思うくらいにリアルに肉付けされた内容が素晴らしいとまとめ、以降は「トルキア」の魅力に迫っていきます。



 まず最初に歌唱に使われている言語について処理してしまいます。聴けば日本語ではないことは勿論、英語でもないということはすぐにわかると思いますが、現在でもこの言語が何なのかについて僕は確実なことを言えないでいます。

 まず疑うべきは「造語(オリジナル言語)」説で、菅野さんお得意の作詞法と言っても過言ではないため、そう思うのも自然でしょう。しかし調べていくと、個人ブログに止まりますが「ラテン語(+ロシア語)」説がちらほら目に入るんですよね。

 どちらの言語もさっぱりなので(ロシア語っぽい響き程度ならわかりますが)僕の耳では判断しかねますし、『攻殻S.A.C.』シリーズの他の曲の情報と混ざっているのでは?という気がしないでもありませんが、何れにせよ歌詞カードにはその和訳?(後述)のみが載っているので、内容は理解出来るようになっています。


 その和訳によれば「トルキア」というのは場所の名前で、"トルキアの地に/砂となりし言葉の降りつむという"という一節から読み取ることが出来ます。和訳の全文を見れば、これが作品のストーリー或いはキャラクターの思想とオーバーラップしているとわかりますね。作中で提示される構造論に関わる表現だと解釈するのが据りがいいと思います。

 実際使用される頻度も多いですしここぞという場面で流されるので、作品を象徴する一曲と言っても差し支えないのではないでしょうか。楽曲単体で見ても非常にインパクトがあるため、人気曲にならないほうがおかしいですね。

 前情報はこのくらいにして、以降は曲の内容を詳しく見ていきます。一言で形容するのが難しいぐらいジャンルがクロスオーバーしているため、部分部分で少しずつ言及するとしましょう。


 まず緊張感のあるイントロから。鋭利なシンセの音が特徴的で、立ち上がりは『攻殻』らしいエレクトロニックでサイバーな質感を思わせるものに。しかしそれも束の間、菅野さんの楽曲ではお馴染みの民族調のうねったボーカルが挿入され、ビートもトライバルな感じに変貌し趣も変わっていきます。

 そして歌唱開始。先述の通りメインボーカルはgabriela robinによるもの。実際に多重録音にしているのか空間系エフェクトの使い方が巧いのか或いはその両方か定かではありませんが、揺蕩うようなボーカルラインがビートによく馴染み、儀式的な恍惚感が漂っているヴァースであると言えます。歌詞に"トルキア"が登場するのもここ。


 サビへ。歌詞カードで言えばインデントされている"海ヲ見タカ"の部分だと思います。ボーカルの神聖さが増し、儀式で例えるなら「降臨」の感がある。しかしバックのアレンジはイントロと同じサイバーテイストに戻っているので、時代感覚が崩壊していくような印象です。

 続く間奏は引き続きシンセがリードしているので電子の趣は残っていますが、左で鳴っているギター(スパニッシュギター?)のおかげで生っぽさや艶っぽさも感じられます。更にその上空を漂うようにクワイアが挿入されているので、ますますジャンルレスとなり形容が難しくなっていく。

 2番は基本的に繰り返しとなっていますが、サビ終盤から続く間奏にかけてのギターが堪らないですね。哀愁はあるけれど昇天していくかのような安心感もあって、終わりに安堵する気分はこんなだろうかと思う。これは日本語詞にある"その魂が乾いていく"というのを表現しているのではと解釈しています。


 まだ間奏は続き、暫くストリングスとビートが場を支配していくのですが、僕はこの2番サビ終わりからラスサビ始めまでの長い間奏部こそが、日本語詞で言うところの"高き魂は"~"乾いていく"に対応しているのだと捉えています。「和訳?」とクエスチョンをつけたのはそのためです。

 なぜそう思うのかと言えば、これだけ長いフレーズに対応しているボーカルトラックを曲中から見つけられないからです。明らかに"トルキア"と発音している部分はそのままヴァースの詞に対応し、同じフレーズが繰り返されているサビは"海ヲ見タカ 海ヲ見タカ"のパートだと推測出来ます。インデントされているのもサビの証だと思いますしね。

 しかし2番後の間奏よりあとに出てくるボーカルトラックは、ラスサビ(サビの繰り返し)とヴァースだけ…つまり既出フレーズのリピートのみなので、"高き魂は"から始まるスタンザを丸々内包するほどの情報量を持っているのは、間奏部を措いて他にないと言えませんか?という主張です。


 …ともかく、意味を多分に伴っている長い間奏を経てクライマックスのラスサビへと突入します。ここからがまた一段と凄くて、合唱曲の様相を呈してくるというプログレッシブさを見せるのです。

 クレジットを見ると、gabriela robinの他にコーラスとしてwarsaw chorus(ワルシャワ・コーラス)とilaria glaziano(イラリア・グラツィアーノ)の名前が載っているので、アレンジャーとしての菅野さんの持ち弾を総動員した感じですね。

 それはまさに圧巻としか言いようがなく、数の力の美しさと怖さが同時に襲い掛かってくるというのには作品自体の展開を思わせるところがあるので、『2nd GIG』を象徴するドラマチックな一曲であるとまとめることが出来ます。