今日の一曲!早乙女9姉妹「UP-DATE × PLEASE!!!!!!!!!」
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第二十弾です。【追記ここまで】
今回の「今日の一曲!」は、早乙女9姉妹による「UP-DATE × PLEASE!!!!!!!!!」(2019)です。TVアニメ『戦×恋』(ヴァルラヴ)ED曲。
EDには歌い手の組み合わせが異なる3つのバージョン(「ver 1.7.8」「ver 2.6.9」「ver 3.4.5」)が使用されており、記事タイトルに据えたエクスクラメーションマークが9つの「9姉妹 全員ver.」は、厳密にはアニメ未使用楽曲として各シングルに共通で収録されています。本記事でレビューの主たる準拠とするのは、この「全員ver」であることに留意してください。アーティスト名の詳細は次の通り、早乙女一千花・二葉・三沙・四乃・五夜・六海・七樹・八雲・九瑠璃(CV:内山夕実・原由実・清水彩香・逢田梨香子・加隈亜衣・日高里菜・本渡楓・河瀬茉希・小岩井ことり)です。
僕の同アニメへの感想は「エッッ」が八割方を占めているので敢えてそれ以外を語りますと、戦乙女の固有能力自体は超が付くほどの王道でありながらそれらを概念的に拡大解釈させる使用方法と、レベルという分かりやすい指標の存在は厨二センスをくすぐられて好きでした。例えば二葉の「城」は本来エーテル要塞を召喚出来る能力のはずなのに、エーテル量およびレベル不足の(魂の総量が少なく効率が悪い)せいで外周部までしか顕現させられない制限がある一方、ポテンシャルとしては深部の兵器ごと呼び出せるロマンでバランスが取れており納得の女王陛下ぶりです。また、レベル上げの方法というか主人公と戦乙女達との関係性は、個人的に『魔法先生ネギま!』の仮契約を彷彿させて懐かしく感じました。
肝心の主人公・亜久津拓真(通称アクマ)に対しては当初本気でヘイトを抱いていて、自身の外見が発端の人間恐怖症という不憫な設定には同情こそすれ、それでいて逃げた先の勉強でも実力を出せていないことには結構イライラさせられた次第です。リアルでも代償行動をいつまでも昇華に転じられない人間は嫌いですし、フィクションとしてもハーレムモノ主人公ならもう少し堂々としろよと注文を付けたくなります。声優の広瀬裕也さんの気弱な演技もこれまた癇に障る巧さで(誉め言葉)、近年は主人公にネガティブな資質があると声の演技もリアル寄りのディレクションが主流なのか、台詞が聴き取りにくくなっても或いは投げ遣りな印象を残しても可にしていると推察され、そのせいで気に食わないキャラは尚の事気に食わないことが多いです。とはいえこれは上述の通り当初の話で、作中でアクマのヘタレな性質は主に一千花によって問題視されていたため視聴を切るまでには至らず(特にラブコメと転生モノはこの手の戒めがないと切る方向に傾きがち)、話が進むにつれ男らしさ延いては恋人らしさが出てきたと思えたので、見事制作サイドの掌上に運らされていたのだなと顧みます。
アニメ語りはこの辺りにして、楽曲のレビューに入るとしましょう。EDに使われていた3バージョンはいずれも歌い手が固定の3人で、そのせいかアニメで聴いた限りでは正直あまり意識に留めていませんでした。というのも、本曲の枢機はコーラスワークの美しさにあるとの理解だからで、それに気付いたのは3×3で9人揃った「全員ver」を音源で鑑賞して漸くのことだったのです。加えて、声優陣がキャラに寄せた歌い方をしているせい(口調に合わせて変化する歌詞によって台詞的な節回しになっている;とりわけ「ver 2.6.9」が顕著)もあるのでしょうが、3人だけだとメインメロディのシンプルさが悪い意味で際立っていると感じ、ともすると隙だらけの旋律と誤解していたことを白状します。
…そう、これは誤解ゆえにディスではありません。歌い手が3人から9人になると主旋律の一人あたりの担当分が更に減るので、下手を打つと歯脱けが悪化するリスクを孕んでいるところ、「全員ver」は前述した台詞的な節回しを極力省いて(九瑠璃の"アイにいこー!"を残したぐらい)メロディ性が高められているため、「全員ver」でやっと楽典上想定されるメインメロディに辿り着けた安心感が芽生えたのです。こうして「主」の輪郭が浮き彫りになったことで「副」の真価も発揮され、即ち本曲のコーラスラインの美しさは単に人数が増えたからというよりも、支えるべき主旋律が安定したからこそ周辺を固める副次的な旋律との調和も一段と上手に取れているからとの分析です。
この観点を具体的に言及していきますと、例えばサビは"UP-DATE! DATE! DATE!"~のラインよりも、括弧書きの"(Please, Please up-date my love.)"~のラインのほうが複雑な動きをしていて、後者の旋律を追っていないと単調に響いてしまうかもしれません。しかし、敢えてコーラスをメインに据えて聴いてみると、もっと言えば両者を区別せずに連続性のあるメロディと意識して聴いてみると、多層的で心地好い天上のサウンドスケープを奏でている(クワイアらしい神聖性を有した音運びになっている)と解り、良質な没入感を味わえるのです。別けても"教えてあげるわ 恋は乙女のPOWER!/(Love gave the power to Valkyrie)/十中八九きっともうLovers!/(Please, Please up-date my love.)"の部分は、旋律のリレーが綺麗で惚れ惚れします。
Aメロはもっと込み入っており、"How do you tell me?"から"(Please don't be shy.)"に繋がる英語詞のライン(①)と、"甘い言葉をインプット"と"ぜんぜん響かないけど"による日本語詞のライン(②)、その真ん中に来る"失敗(キャンセル)"の折衷的な働き(③)で、三者が複雑に絡んでいると分解可能です。①がコーラスで②が主旋律なのは理解を得やすいとして、③は"キャンセル"をメインで扱いエコーの"キャン(セル)"をコーラスと二分した点で折衷的としています(表記が漢字でルビが外来語という意味でも)。これも②だけを追っていると物足りなく感じますが、①と③と渾然一体で鑑賞すれば凝った作曲性を捉えられるでしょう。
Aメロ前のフックも役割的にはコーラスで(メロディ区分の説明記事でいうところの『曲によっては「コーラス(β)始まり」との区別が曖昧な場合』にあたる)、個人的にはここのメロディが本曲の中でいちばんのお気に入りです。"NINE"を含んだイディオム使いが鮮やかな"NINE TIMES OUT OF LOVE ON CLOUD NINE"の切なさを経て、"We wanna share your heart!"と流麗に結ばれるラインには高揚感を覚えます。ちなみに、当該部に限らず本曲の歌詞中には「9」が鏤められていて(文字だけでなく音[きゅう or く]としても)、作品に寄り添う作詞スタイルが好感触です。
Cメロの持つ物語性というか展開力にも特筆性があります。2番サビ終わりから託されたようにさり気無く移行した次のメロディ("...信じているの"~)がCメロの全体像かと思いきや、"なにも知らないままなんてNo! No!"~で発展、"Fall in love"~で更に発展と、メロディアスな畳み掛けが素晴らしいです。ラスサビの捲くし立ても実にラブコメらしい賑やかさで、9人のヒロインが"Kiss, Touch, Hug!"・"Gaze, Voice, Feel!"・"And So More!"でローテして、"恋をはじめましょ!"でユニゾンするところはベタですがグッときます。
いつもとは逆の順序で最後にクレジットを紹介しますと、本曲を手掛けたのはTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDです。当ブログでは毎年のアニソン振り返り企画の度に名前を出しているので(2016年|2017年|2018年)、本記事で4年連続となりますね。過去にレビュー済みのラインナップを比較対象とすると、「UP-DATE × PLEASE!!!!!!!!!」は「LoSe±CoNtRoL」(2016)以来に甚くツボだったナンバーです。両曲ともバックトラックの音遣いに近しい部分があるため、自分が同ユニットに求めているサウンドはこれだと再確認出来ました。
バージョン毎に歌詞やメロディが微妙に異なるということは、先に「口調に合わせて変化する歌詞によって台詞的な節回しになっている」との記述で説明したつもりですが、実はアレンジも三者三様で聴き比べの妙があります。僕のおすすめは「ver 3.4.5」で、編曲だけなら「全員ver」よりも好きかもしれません。歌詞上のコーラスとはまた別に聖歌隊の如きコーラスが存在するレイヤードな音像と、ギターとストリングスが感情豊かに振る舞っている点で総合的に優雅です。妄想解釈を披露しますと、四乃の「鎧」が生み出す結界の能力がセイクリッドなコーラス(聖域の表現)に、三沙の「糸」がリズミカルで時にはセンチメンタルなギターに、五夜の「鎖」の束縛による重苦しさが逸るストリングス(逆説的ですが速い動きを止めるイメージ)に、それぞれ変換されているのではと考えています。
本記事はブログテーマを「アニソン(切ない系)」にしてアップしたものの、書き始めた時点では「(格好良い系)」にしていましたし、別に「(可愛い系)」でもおかしくはないとの認識です。9人姉妹の楽曲という中々に独特なテーマ性を持っているだけに、その多様な個性を概して一言には纏められないところも本曲の美点であると結んでレビューを終えます。