今日の一曲!OGRE YOU ASSHOLE「フラッグ」 | A Flood of Music

今日の一曲!OGRE YOU ASSHOLE「フラッグ」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第十四弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」はOGRE YOU ASSHOLEの「フラッグ」(2007)です。ミニアルバム『アルファベータ vs. ラムダ』収録曲。なお、wikipediaでは本作は通常のアルバム扱いになっていますが、歌詞カードの中に入っているアンケート紙片には「ミニ」と書いてあるため、本記事ではそれをソースとしています。

 過去にもフェスレポツアーレポ音楽番組感想記事で曲名を出したことはあるのですが、楽曲レビューという形できちんと言及したことはなかったので、今回を好機として紹介することにしました。ちなみに「レインコート」(2009)と「タンカティーラ」(2010)「同じ考えの4人」(2011)も候補曲であったため、ここには名前だけでも出しておきます。後2曲は一応レビュー記事もあるので、リンク先もあわせてお楽しみください。


 この頃のオウガは未だAORクラウトロックの路線に移る前なので、過去の自分の言葉を引用するならば「ツインギターが絡み合って進行するオウガサウンド」の頃のナンバーです。メンバーの変遷的には、ベースの平出さんが在籍していた頃の作品だと言えます。また、プレイヤーではなくDrawings.としてですが、西さんもメンバーとしてクレジットされていますね。




 仮に路線変更していなくても10年以上前の曲となるため最早懐かしいですが、この頃の比較的わかりやすいオウガも変わらずに大好きです。終始ギターの音に耳を傾けてしまうというか、ギターに聴き惚れると表現するのがぴったりのサウンド。特にアウトロの格好良さは一級品だと思います。

 リズムを着実に演奏しているところはまさに雨っぽいアレンジですし(テーマ「雨」の過去記事で幾度かふれている「規則的な~」と同趣旨)、メロディアスな旋律を奏でているところも情感を溢れさせるのに一役買っているので、本曲の音作りには確かに雨が意識されていると言ってもいいのではないでしょうか。


 歌詞にも"雨"が登場しますし、それが何か意味深な機能を果たしているんだなということは察することが出来る内容なので、以降はここを中心に掘り下げることで歌詞解釈をしていきます。

 オウガ楽曲の歌詞は、わかりそうでわからない或いはわからないようでわかるといった曖昧で抽象的な感覚に陥るものが多いので、理解も千差万別になると思いますが、いちリスナーの妄想まがいの考察だとして気負わずご覧いただければ幸いです。


 直接"雨"という言葉が登場するのは序盤だけで、"みんなの来ない雨の広場でつまずいた"と、"でも もう遅い雨の雫で溶けていた"の二つのみですね。後者に於ける雨の性質を考えると、後に出てくる"溶ける音も耳にあたる"も雨関連の表現としていいと思いますが、何れにせよこの雨があまりポジティブなものではないことを伺わせるような内容となっています。

 "雨の広場"のくだりは"朝にはもう決めたあなたがぐらついた"に、"雨の雫"のくだりは"疲れた手 君の足音つかまえた"に続く一節で、前者には戸惑いと裏切りが、後者には徒労と失望がそれぞれ滲み出ているといった趣です。そこで、本曲の主人公(複数人かも?)はなぜこんなにも切羽詰まった感じなのかと理由を考えてみたところ、「周囲からの指図によって常に心をかき乱されているから」という解を思い付いたので、この点を詳しく見ていきましょう。

 "ぬけろ ぬけろとばかり言う"、"乗せろ 乗っけろとばかり言う"、"想像指され手探りで進む僕らは指差され"、"ぼーと立って目の前を進むあなたに指差され"、これらのフレーズの具体的な意味は正直よくわかりませんが、どれも他人からの煩わしいアクションであると僕の目には映ったので、ぐらついてしまうのも無理はないなという印象を受けました。これらを無視出来ない性格という点で、神経質で根本的にはお人好しであろう人物像が頭に浮かびます。


 先に「本曲の主人公(複数人かも?)」と謎めいたことを書きましたが、これはぶっちゃけこの曲が一体誰の目線で描かれているのかもよくわからないのでこう書いた次第です。というのも、ここまでに引用した歌詞には"あなた"と"君"と"僕ら"が登場していますし、後には更に"でも もう遅い彼の頭は溶けていた"という形で"彼"まで出てくるので、視点があちこちに飛ぶんですよね。

 よって複雑な全体図を想定してしまうのですが、"朝にはもう決めたあなたがぐらついた"から始まり、"あなたに指差され/ぐらついてそっと元に戻す"と結ばれることを考えると、関係性が循環的になっているというか、人称や視点は異なれど全て自分自身のことを指しているのではないかという気がします。煙に巻いたような主張ですが、彼我の境界が曖昧になっていく様が描かれているのではないかという意味です。"溶ける"というのもそういうことかなと。


 最後はタイトルが「フラッグ」であることの謎に迫っていきます。外来語として通りがいいのは'flag';つまり「旗」のことだよなぁとは思うのですが、'flag'自体が多義語で他にも「題字」「ふさふさした尾」「空車標識」などの意味を持ちますし、ホモニム(日本語で言うところの同音異義語)も多く、「だれる」や「萎れる」という意味の自動詞だったり、'flagstone'の省略形で「敷石(の道)」のことだったり、植物学の専門用語で「刀状葉の単子葉植物の総称」だったりもするので(いずれも大修館書店『ジーニアス英和辞典』第3版より)、思わぬところから曲名が付けられている可能性も否定出来ません。「フラグ」と表記するほうが多いでしょうが、「伏線」も考えられますね。

 …なんですが、とりあえずシンプルに「旗」のことだとして、且つ「ぐらつく」という言葉を重視して考えると、たとえば砂上の旗のような不安定な土台に根差しているものがイメージ出来るのではないでしょうか。その場合は"雨"で"溶ける"のは土台のことだとする解釈も成り立つと思うので、それを前述の主人公のメンタリティに絡めて、自分の基本や指針がなくなっていく様を表現しているのではないかとまとめます。




 ついでなので路線変更後にリリースされたリアレンジアルバム『confidential』(2013)収録の「フラッグ (alternate version)」も紹介しましょう。シュールなMVもおすすめです。

 ミニマルに生まれ変わったことで陶酔感が増し、妙な中毒性を宿した独特のナンバーに進化していますね。オリジナルで印象的だったギターのフレーズはマンドリン?に取って代わられ、その音だけがいやに鮮やかですが、ギャップに心地好さを見出せるようになると一層好きになれるアレンジです。