ハンドルを放す前に / OGRE YOU ASSHOLE
OGRE YOU ASSHOLE(以降オウガと表記)の7thアルバム『ハンドルを放す前に』のレビュー・感想です。ライブアルバム『workshop』(2015)を挟んでいるのでそれほど待った気はしませんが、オリジナルアルバムとしては6th『ペーパークラフト』(2014)以来2年ぶりの新作です。
ハンドルを放す前に/Pヴァイン・レコード

¥2,808
Amazon.co.jp
当ブログにおける前回のオウガ記事は4thアルバム『homely』(2011)のレビューで、その記事を最後に長らくブログの更新を停止していたため、作品に意味深な印象を与えてしまっていたかもしれませんがたまたまです。笑
オウガは4thで路線変更をして以降、シーンに左右されない独自の世界観を築いたバンドになりましたね。ミニマルでサイケな感じといいますか、陶酔感や浮遊感のあるサウンドが魅力です。AORやクラウトロックなどのジャンル名も形容に用いられていますね。
4thの段階では平出さんを欠いて3人体制になったゆえの一時的な方向転換かとも思いましたが、その後5th『100年後』(2012)で過去のオウガには戻らないんだと悟り、清水さんを正式メンバーに加えてからの6th『ペーパークラフト』で更に確固たるサウンドになったなという印象です。
4thを気に入った旨のレビューしたことからもわかると思いますが、以降のオウガも好みです。アルバムとしての完成度はより高まっていると思います。曲単位でみても「素敵な予感」や「ムダがないって素晴らしい」など、異様に中毒性があって繰り返し聴きたくなる曲というのは4thからのオウガのほうが巧いと感じる。昔のオウガの曲が色褪せたということではないけどね。
長めの前置きでざっと空白期間を埋めたところで『ハンドルを放す前に』のレビューに入ります。全10曲、英題(副題?)も横に載せておきました。
01. ハンドルを放す前に everythingsomethingnothing
幕開けは表題曲。着実にリズムを刻み徐々に力強くなっていくというサウンドは一曲目って感じ。基本的に演奏はシンプルですが、最後のサビはコーラスワークが綺麗にハマって色鮮やかに聴こえます。右chでだけで鳴っているSFっぽい音もなんだか可愛い。
歌詞はまさに「ハンドルを放す前に」あれこれ思いを巡らせる内容ですね。最終的には"放そう"という結論に達しますが、"こうなるなら"いっそこうしちゃおうかと一度達観してみるというのは大事ですよね。
02. かんたんな自由 Free-dum
"freedom"ではないのか。今度はのっけからノリが良くてご機嫌な感じがするナンバー…といっても明るいというよりは怪しい空気が支配している感じ。雰囲気とか場の流れみたいなものがテーマだと思いますが、心地好いようにも急かされているようにも感じるサウンドとテンポはまさに場の空気の危うさを表現しているかのようです。
集団の中でひとりだけ、ヤバい事態が進行していることに気付いているのに言い出せない…というような歌詞だと思いました。英題にある"dum"は"バカ(な)"って意味の口語らしいですが、集合的無知の発生に気付きながらも傍観者をやめられない苦悩みたいなものを感じます。
03. なくした Lost, Sigh, Days
MVがあるからリードトラックかな?確かに印象に残りやすい比較的キャッチーな曲だと思います。反復の美学に沿った中毒性の高い演奏でとても僕好みなのですが、それだけで突き進むというわけではなく、サビは前向きな歌詞も含めて柔らかい印象なのが新鮮に響きました。
終盤で登場するサックス、楽器の特定ができないのでまとめて膜鳴楽器としますが…そういう民族系打楽器の音、シンセだと思うけど電子音のバランスとか、4th~6thの良いとこ取りをしたよう(換言すれば集大成的)な曲だと思いました。前述した中毒性+浮遊感の両方があるところも含めてね。
歌詞は能動的に手放した01.「ハンドルを放す前に」とは逆で、「なくした」というタイトルからもわかるように自分の意志とは反する内容ですね。ただ、それにも意味を見出そうとポジティブに昇華させているので、つらいけれど峠は越している感じ。諸行無常や時が解決するという言葉が浮かんできます。
04. あの気分でもう一度 That Feel When
タイトルからして前向きで好きなのですが、内容も素敵で素直にいい曲だと思います。歌詞につられている可能性もありますが、"朝"および"海"を感じるサウンドです。海辺の白い家のテラスで新しい朝日を浴びているかのよう。
"同じ朝は一度もない"、これだけだと陳腐に響きますが、"二度目も一緒/認めるけど"と前置きされていることで、ぐっと現実味が増し説得力のある歌詞になっているのは流石です。
05. 頭の体操 Crossword
英題の通りクロスワードがモチーフの曲ですね。ぐちゃぐちゃになった頭を切り替えるという役目を持つからか、演奏もシンプルでメロディにもあまり派手さはありません。
対象を別の視点や方法で捉えるためのTipsを"たり"で列挙してくれている親切な歌詞。そして改めて思うと"頭の体操"って面白い表現ですよね。頭が体操している姿を想像したら。笑
06. 寝つけない Sleepless
この流れだと頭の体操のやりすぎか?と思っちゃうタイトルですが、12inchで先行販売されていた曲です。確かにこの曲も通して聴いた時に印象に残ったのでシングルにしたのも頷けます。
シンセ?の単純な繰り返しに乗せてじわじわと盛り上がりを見せる曲で、まさに僕の好きなオウガサウンドです。03.「なくした」よりも一貫性のある中毒性で陶酔感も大きい。歌詞の内容も相俟って催眠的とも表現できそうですが、"寝つけない"のでつらいですね。
特に"あと少しがいつまでも"以降は、眠りたい欲求と寝られない焦燥が鬩ぎ合っているかのようで不安になります。右へ左へ行ったり来たりする綺麗だけど少しひずんでいる音(弦楽器?)は脳波(睡眠の波)のよう。4:17~で最低限の音だけになるところも狭間感があって好きです。
07. はじまりの感じ That Brand New Feeling
ギターの主張が大きくハッとさせられます。懐かしいオウガの感じが見え隠れする曲。ボーカルやメロディも他の収録曲に比べると明瞭な印象。このアルバムの中でいちばんお洒落なサウンドじゃなかろうか。
タイトル的にも04.「あの気分でもう一度」と少し重なる要素のある歌詞だと思いました。"はじまりのあの感じ"こそが"あの気分"だってこともあるだろうから。
08. ムードに moodsinmood
1分ちょっとしかなく、歌詞も"ムードに"だけの不思議な曲。このアルバムで"ムード"というと02.「かんたんな自由」が浮かびますが、この曲はネガティブではないと思う。"ムードに"の後にどう続くのかわかりませんが、任せてもいいんじゃないかなって風に聴こえます。
09. 移住計画 The Million Year Picnic
ノアの方舟の話を思い起こさせる内容の曲。英題の"Million Year"や"次の星"という歌詞からもわかるように目指すは宇宙だと思いますが、サウンドもどこか宇宙を思わせる感じ。フロンティアスピリットもちゃんとある。
"草", "虫", "動物"の順で乗せるようで、1番と2番ではそこで終わっているので不安になりますが、"最後に人が"乗れるようなので一安心。ただ"ちょっとでも 置いてこう/みんなが 乗れるように"という歌詞は怖い。"みんな"に入らなかった方はどうなっちゃうんでしょうね。
10. もしあったなら Loose End
ラストは美しいフルートの音色とボコーダー?を通した"もしあったなら"が印象的な、優しい光の中を揺蕩っているような心地好い曲。
これというものが"ないままで", "ここまで"来たからこその"もしあったなら"ですが、どうやら"この先"でも"このままで"だそうです。これというものを見つけようという方向へ舵を切らないのが素晴らしく、凄く共感できます。見つけようじゃなくて、いずれ見つかるからってスタンスですよね。
以上全10曲でした。4thのレビューでも似たようなことを書いたと思いますが、路線変更後のオウガのアルバムは、初めに一回通して聴いたときは数曲印象に残る程度でも、作品全体に感じた不思議な魅力を耳がしっかり覚えているのか、その後また通して聴きたくなるんですよね。そうして聴き返す度に全ての曲の印象が鮮明になっていき、最終的にいいアルバムだなって思うのが常です。
しかし今作は通し聴き一回目の段階で割と全体的に際立っていたんですよね。アルバムとしての完成度が高いということか、あるいは曲単位で見て粒揃いだったということかもしれませんが、とにかく耳馴染みがいちばん早かった。
いちばん好きなのは06.「寝つけない」で、次点は03.「なくした」です。やはりミニマルで中毒性の高いオウガサウンドがドンピシャみたい。04.「あの気分でもう一度」と07.「はじまりの感じ」もいいですね。こういうゆったりとしたメロディアスな曲もオウガの魅力が存分に出ていると思います。02.「かんたんな自由」も歌詞の世界観やコミカルな感じが気に入っています。
そして何より今作は前向きな歌詞が多いのが印象的でした。直接的に励ますというよりは、まぁ何とかなるだろってスタンスだったり、やってみたら?っていうサジェストだったり、一定の距離感を保っているところが素敵です。
とりあえずレビューは書き上げましたが、まだ聴き込みが浅いのでこれからじっくり深めていこうと思います。オウガの作品は深め甲斐があるので。
ハンドルを放す前に/Pヴァイン・レコード

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オウガは4thで路線変更をして以降、シーンに左右されない独自の世界観を築いたバンドになりましたね。ミニマルでサイケな感じといいますか、陶酔感や浮遊感のあるサウンドが魅力です。AORやクラウトロックなどのジャンル名も形容に用いられていますね。
4thの段階では平出さんを欠いて3人体制になったゆえの一時的な方向転換かとも思いましたが、その後5th『100年後』(2012)で過去のオウガには戻らないんだと悟り、清水さんを正式メンバーに加えてからの6th『ペーパークラフト』で更に確固たるサウンドになったなという印象です。
4thを気に入った旨のレビューしたことからもわかると思いますが、以降のオウガも好みです。アルバムとしての完成度はより高まっていると思います。曲単位でみても「素敵な予感」や「ムダがないって素晴らしい」など、異様に中毒性があって繰り返し聴きたくなる曲というのは4thからのオウガのほうが巧いと感じる。昔のオウガの曲が色褪せたということではないけどね。
長めの前置きでざっと空白期間を埋めたところで『ハンドルを放す前に』のレビューに入ります。全10曲、英題(副題?)も横に載せておきました。
01. ハンドルを放す前に everythingsomethingnothing
幕開けは表題曲。着実にリズムを刻み徐々に力強くなっていくというサウンドは一曲目って感じ。基本的に演奏はシンプルですが、最後のサビはコーラスワークが綺麗にハマって色鮮やかに聴こえます。右chでだけで鳴っているSFっぽい音もなんだか可愛い。
歌詞はまさに「ハンドルを放す前に」あれこれ思いを巡らせる内容ですね。最終的には"放そう"という結論に達しますが、"こうなるなら"いっそこうしちゃおうかと一度達観してみるというのは大事ですよね。
02. かんたんな自由 Free-dum
"freedom"ではないのか。今度はのっけからノリが良くてご機嫌な感じがするナンバー…といっても明るいというよりは怪しい空気が支配している感じ。雰囲気とか場の流れみたいなものがテーマだと思いますが、心地好いようにも急かされているようにも感じるサウンドとテンポはまさに場の空気の危うさを表現しているかのようです。
集団の中でひとりだけ、ヤバい事態が進行していることに気付いているのに言い出せない…というような歌詞だと思いました。英題にある"dum"は"バカ(な)"って意味の口語らしいですが、集合的無知の発生に気付きながらも傍観者をやめられない苦悩みたいなものを感じます。
03. なくした Lost, Sigh, Days
MVがあるからリードトラックかな?確かに印象に残りやすい比較的キャッチーな曲だと思います。反復の美学に沿った中毒性の高い演奏でとても僕好みなのですが、それだけで突き進むというわけではなく、サビは前向きな歌詞も含めて柔らかい印象なのが新鮮に響きました。
終盤で登場するサックス、楽器の特定ができないのでまとめて膜鳴楽器としますが…そういう民族系打楽器の音、シンセだと思うけど電子音のバランスとか、4th~6thの良いとこ取りをしたよう(換言すれば集大成的)な曲だと思いました。前述した中毒性+浮遊感の両方があるところも含めてね。
歌詞は能動的に手放した01.「ハンドルを放す前に」とは逆で、「なくした」というタイトルからもわかるように自分の意志とは反する内容ですね。ただ、それにも意味を見出そうとポジティブに昇華させているので、つらいけれど峠は越している感じ。諸行無常や時が解決するという言葉が浮かんできます。
04. あの気分でもう一度 That Feel When
タイトルからして前向きで好きなのですが、内容も素敵で素直にいい曲だと思います。歌詞につられている可能性もありますが、"朝"および"海"を感じるサウンドです。海辺の白い家のテラスで新しい朝日を浴びているかのよう。
"同じ朝は一度もない"、これだけだと陳腐に響きますが、"二度目も一緒/認めるけど"と前置きされていることで、ぐっと現実味が増し説得力のある歌詞になっているのは流石です。
05. 頭の体操 Crossword
英題の通りクロスワードがモチーフの曲ですね。ぐちゃぐちゃになった頭を切り替えるという役目を持つからか、演奏もシンプルでメロディにもあまり派手さはありません。
対象を別の視点や方法で捉えるためのTipsを"たり"で列挙してくれている親切な歌詞。そして改めて思うと"頭の体操"って面白い表現ですよね。頭が体操している姿を想像したら。笑
06. 寝つけない Sleepless
この流れだと頭の体操のやりすぎか?と思っちゃうタイトルですが、12inchで先行販売されていた曲です。確かにこの曲も通して聴いた時に印象に残ったのでシングルにしたのも頷けます。
シンセ?の単純な繰り返しに乗せてじわじわと盛り上がりを見せる曲で、まさに僕の好きなオウガサウンドです。03.「なくした」よりも一貫性のある中毒性で陶酔感も大きい。歌詞の内容も相俟って催眠的とも表現できそうですが、"寝つけない"のでつらいですね。
特に"あと少しがいつまでも"以降は、眠りたい欲求と寝られない焦燥が鬩ぎ合っているかのようで不安になります。右へ左へ行ったり来たりする綺麗だけど少しひずんでいる音(弦楽器?)は脳波(睡眠の波)のよう。4:17~で最低限の音だけになるところも狭間感があって好きです。
07. はじまりの感じ That Brand New Feeling
ギターの主張が大きくハッとさせられます。懐かしいオウガの感じが見え隠れする曲。ボーカルやメロディも他の収録曲に比べると明瞭な印象。このアルバムの中でいちばんお洒落なサウンドじゃなかろうか。
タイトル的にも04.「あの気分でもう一度」と少し重なる要素のある歌詞だと思いました。"はじまりのあの感じ"こそが"あの気分"だってこともあるだろうから。
08. ムードに moodsinmood
1分ちょっとしかなく、歌詞も"ムードに"だけの不思議な曲。このアルバムで"ムード"というと02.「かんたんな自由」が浮かびますが、この曲はネガティブではないと思う。"ムードに"の後にどう続くのかわかりませんが、任せてもいいんじゃないかなって風に聴こえます。
09. 移住計画 The Million Year Picnic
ノアの方舟の話を思い起こさせる内容の曲。英題の"Million Year"や"次の星"という歌詞からもわかるように目指すは宇宙だと思いますが、サウンドもどこか宇宙を思わせる感じ。フロンティアスピリットもちゃんとある。
"草", "虫", "動物"の順で乗せるようで、1番と2番ではそこで終わっているので不安になりますが、"最後に人が"乗れるようなので一安心。ただ"ちょっとでも 置いてこう/みんなが 乗れるように"という歌詞は怖い。"みんな"に入らなかった方はどうなっちゃうんでしょうね。
10. もしあったなら Loose End
ラストは美しいフルートの音色とボコーダー?を通した"もしあったなら"が印象的な、優しい光の中を揺蕩っているような心地好い曲。
これというものが"ないままで", "ここまで"来たからこその"もしあったなら"ですが、どうやら"この先"でも"このままで"だそうです。これというものを見つけようという方向へ舵を切らないのが素晴らしく、凄く共感できます。見つけようじゃなくて、いずれ見つかるからってスタンスですよね。
以上全10曲でした。4thのレビューでも似たようなことを書いたと思いますが、路線変更後のオウガのアルバムは、初めに一回通して聴いたときは数曲印象に残る程度でも、作品全体に感じた不思議な魅力を耳がしっかり覚えているのか、その後また通して聴きたくなるんですよね。そうして聴き返す度に全ての曲の印象が鮮明になっていき、最終的にいいアルバムだなって思うのが常です。
しかし今作は通し聴き一回目の段階で割と全体的に際立っていたんですよね。アルバムとしての完成度が高いということか、あるいは曲単位で見て粒揃いだったということかもしれませんが、とにかく耳馴染みがいちばん早かった。
いちばん好きなのは06.「寝つけない」で、次点は03.「なくした」です。やはりミニマルで中毒性の高いオウガサウンドがドンピシャみたい。04.「あの気分でもう一度」と07.「はじまりの感じ」もいいですね。こういうゆったりとしたメロディアスな曲もオウガの魅力が存分に出ていると思います。02.「かんたんな自由」も歌詞の世界観やコミカルな感じが気に入っています。
そして何より今作は前向きな歌詞が多いのが印象的でした。直接的に励ますというよりは、まぁ何とかなるだろってスタンスだったり、やってみたら?っていうサジェストだったり、一定の距離感を保っているところが素敵です。
とりあえずレビューは書き上げましたが、まだ聴き込みが浅いのでこれからじっくり深めていこうと思います。オウガの作品は深め甲斐があるので。