今日の一曲!avengers in sci-fi「Two Lone Swallows」 | A Flood of Music

今日の一曲!avengers in sci-fi「Two Lone Swallows」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:春|卒業/別離】の第五弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」はavengers in sci-fiの「Two Lone Swallows」です。4thアルバム『Disc 4 The Seasons』(2012)収録のナンバー。

 実は過去にも一度レビューしています。4th以降のアヴェンズについて網羅的に紹介した記事の中で言及したのですが、記事の性質上一曲あたりの文字数をセーブして書いたため、本記事ではもう少し突っ込んだ内容にして差別化を図ります。参考にはなると思うので、リンク先の記事とあわせてお楽しみください。

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 まず『Disc 4 The Seasons』というアルバムについてですが、ディスク名の通り「四季」がテーマのひとつと言っていいと思います。上の記事では「季節感あふれる」「"和"の要素」「四季を通して聴ける」などと曖昧な書き方をしましたが、本記事では理解しやすくするためにこれを主題として扱い、楽曲の位置付けや解釈等もそれに基づく形で表現されているとご理解ください。


 さて、この「Two Lone Swallows」ですが、歌詞にダイレクトに"春"が登場するので、これを「春の曲」とすることに対しての異論は少ないかと思います。個人的な理解としては、01.~03.が春、04.~06.が夏、07.~09.が秋、10.~11.が冬をそれぞれ反映した楽曲になっているとの認識なので、春セクションの中でトリにあたる(=3曲目)本曲は、「春の訪れ」を描いているという解釈です。

 「トリなら春の終わりでは?」と疑問に感じた方のために補足しますと、上で出した「春夏秋冬」は体感としての季節というよりも、「二十四節気で表す季節」をイメージしています。二十四節気で言えば、春は立春~立夏まで、つまり2月初旬~5月上旬までですね。それに従い、01.を2月~、02.を3月~、03.を4月~の曲だと捉えているという意味です。


 この曲に於いて"春"というワードは、サビの"春はふわりふわりしてるか?"という可愛らしいフレーズの中に登場します。続く歌詞は二種類あり、"伝えてよまだ来ないでと"に加え、"会いにまだ来ないでよ"と、どちらも表面上は拒絶を提示するものです。これは直接的には"あなた"に対するものだと思いますが、間接的には別離を齎す"春"そのものに対しての抵抗心の表れとの理解でいます。"あなた"="春"の擬人化解釈をすれば、実質同じと捉えてもいい気もしますけどね。

 従って、意味の上では言葉通りに「まだ春が来ていない状態」が描かれているのだとも取れなくはないのですが、個人的には「もう春は訪れている」ものと解釈しており、その上で"会いにまだ来ないでよ"と歌うことで、時間の残酷さや自身の覚悟の足りなさ、もっとざっくり言えば「春に心をかき乱されている現状」を、切なく表現しているのだと感じます。


 Bメロの"3D舞うフリーキーな四季祝う日々は/真昼淡く滲んだシティー洗うVTR"というフロウの良いユニークな歌詞も好きで、文章としての意味は正直よくわからないのですが、どのフレーズも実に「春っぽい」と思えるところが芸術的です。

 "3D舞う"は換言すれば「情報量が多い」という意味で、冬と比較した場合に於ける春の色彩の豊かさや芳香の馨しさを、"フリーキー"は"四季"に係っているため春に限定するのは恣意的ですが、春の解放感や多幸感を、それぞれ表現しているように感じられます。後者に関しては、英単語としての'freaky'の意味も考慮すると、「春は変人が増える」というイメージに結び付き得る言葉選びだという気もしますが、「フリーク」が「マニア」的な使われ方をするように、或いは続く歌詞が"祝う日々は"であるように、季節感(特に春)の危うさをネガティブに寄せずに表現しているところが実に技巧的であると絶賛したい。


 "真昼淡く滲んだシティー洗うVTR"はこれで一語として扱いますが("滲んだ"で切らずに)、"シティー"に係る前半の修飾語は「春霞」の表現だと思います。こう書くと風流ですが、最近は黄砂やらPM2.5やらで手放しで喜べるものではありませんけどね。だからこそ"洗う"という語が一層引き立つとも言えますが、続く"VTR"が最も解釈を難しくしているワードだと感じるので、ここを更に掘り下げていきましょう。

 先に書いた「情報量」の話と絡めて、「現在主流ではなくなった映像媒体」を出すことで"3D"と対比させているのかなとも思いましたが、それよりも僕が主張したいのは『この"VTR"は「嵐/雨」のメタファーである』という理解です。「春霞を洗うもの」と考えたのを取っ掛かりにして、VTR時代によく見られたようなテープノイズが視覚的には嵐っぽい(cf. スノーノイズ)のと、聴覚的には雨っぽい(ザーッという音)というのがその根拠となります。

 耳敏いアヴェンズファンであれば気付いたかもしれませんが、「There He Goes」(2010)に登場する"スノーノイズ洗う波が"というフレーズがこの解釈のヒントになりました。奇しくもこの曲にも"VTR"が登場するので、何らかの関連が妄想出来るのではないでしょうか。


 Cメロの歌詞の素晴らしさについては過去にレビューをした際にも言及したので、それをそのまま引用しますと…

 "ダンスビート絶えた枝の/侘びに添いもう休もう/愛の絶えたこの枝の/寂びに添う2人でいよう"という歌詞を見た時は、木幡さんの文学的なセンスに惚れ惚れしてしまいました。侘び寂びと横文字が同居していいんだ…!という衝撃。

 …となります。これが簡明な感想なので補足は蛇足ですが、タイトルの「Two Lone Swallows」が補強されるような一節であり、春の渡り鳥として有名な燕が持つ情感が鮮やかに切り取られているところが雅に思います。英語の諺に'One swallow does not make a summer'というのがありますが、未だ夏は遠いとわかる綺麗な曲名に感動です。


 歌詞解釈でかなり長くなってしまったので、最後にアレンジとメロディの面を雑多にまとめてレビュー。

 春テーマの「今日の一曲!」第一弾及び第三弾でもふれているように、僕は「春にダンスミュージックはよく馴染む」と考えています。ダンスはアヴェンズの得意とするところですし、先述の通り歌詞に"ダンスビート"が出てくるぐらいですが、この曲に関してはダンスミュージックのマナーよりも、ギターの激しさに代表されるようなハードロックのスタイルが優勢であり、その路線で春を華麗に表現しているところが素敵です。春の暴風もしくは感情の奔流、そういった暴力的な切なさをはらんでいるところに魂を揺さぶられました。

 メロディに関しては特にCメロが顕著ですが、非常に日本的であるのがどうしようもなく魅力的です。春セクションの三曲に対する共通の感想でもあります。和の旋律が場を支配していることで、ドラムもベースもギターもシンセも全て、和楽器のような儚さと力強さを同時に醸しているとさえ思えるほど。アレンジとの兼ね合いでとりわけ気に入っているパートはBメロとCメロで、前者はギターが1番では切なく/2番では尖って演奏されているところが、後者はメロに入る前のフェードしていくシンセ?が鳥の鳴き声のように聴こえるところが、それぞれ主旋律を補強していて素晴らしいと評します。


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