Kさんの尊敬していた叔父が、

五十代で病気を思いました。

煙草を片時も離さない叔父が、

Kさんに

「煙草はやめたよ」と言ったのです。

Kさんも叔父ほどではありませんでしたが、

煙草が大好きでした。

Kさんは叔父の言葉を聞いたその時から、

禁煙を決心しました。

禁煙して初めて気づいたことは、

指先に染み付いた匂いでした。

自分の嗅覚が麻痺していたのでした。

それから数日のうちに、

食事が美味しいと感じるようになりました。

味覚が甦ってきたのです。

それでも、

いつも口寂しい思いがあり、

煙草を吸っている人に近づいて

匂いを嗅いでいたりしました。

ある日、

Kさんは妻に

「もう一度煙草を吸おうかな」

と告げました。

すると今までKさんのすることに、

一度も反対をしなかった妻が、

「それだけはやめてください」と言ったのです。

Kさんの禁煙を、

家族が喜んでいたと知ったのでした。

家族が不平を言わず、

好きなようにさせてくれていたと

気づいたKさん。

改めて家族に感謝し、

家族が喜んでくれることを

しようと決意したのです。

 
江戸前期の元禄元年、

町人の富をテーマにした浮世草子

『日本永代蔵』がベストセラーとなりました。

作者は井原西鶴で、六巻三十話からなります。

「人間とて死んでしまえば一片の煙。

そうなってしまえば金銀は瓦石と同じ」

とする一方で、

「人にとって金銀にまさる宝があるはずがない」

と語るなど、

人間の持つ二面性を興味深く描いています。

当時の経済事情にからむ人間模様と、

西鶴の庶民に対する深い洞察は、

現代にも通じるところがあるようです。

金銭に執着するのが人間の性であると

言ってしまえばそれまでですが、

金銭本来の役割は何かを忘れてはならないでしょう。

私たち社会人にとって、

金銭を得ることは日常生活の基本です。

金銭を得るために働くことは当然ですが、

あまりに執着心が強いと自らの身を滅ぼします。

金銭の意義とは、

それ自体の獲得が目的ではなく、

あくまで生活の中で活かすことにあります。

西鶴が追い求めた揺れ動く人間の性には、

今も昔も変わらぬ真実があるのかもしれません。

普段使用している言葉や慣用句の意味を、

誤解している場合があります。

 単なる間違いですめばよいのですが、

そのために全く異なる意味が相手に伝わり、

思いもよらぬ弊害が出ることもあります。

例えば

「流れに掉さす」という言葉があります。

これは「時流に逆らうこと」ではなく、

「流れに棹をさして水の勢いに乗るように、

時流に乗って物事が好調に進むこと」を言います。

夏目漱石の

「草枕」の冒頭にある

「情に棹させば流される」は、

「自分の感情に逆らって行動すると流されてしまう」ではなく、

「感情のままに動けば自分が流されてしまう」

という意味合いです。

 パソコンが普及し、

辞書や事典から縁が遠のいた人も多いことでしょう。

しかし、

言葉の意味をしっかり理解して使わなければ、

思わぬ誤解を招きます。

 本棚の奥にある辞書などを開き、

言葉の意味を調べ、

日本語を正しく使いましょう。

それが円滑なコミュニケーションの基本です

環境保護活動家として

初めてノーベル平和賞を受賞した

故ワンガリ・マータイ女史。

かつて国際会議の場で、

日本語の

「もったいない」を

環境保全の合言葉として提唱したことが、

世界的に大きな反響を呼びました。

「もったいない」には、

自然や物に対する敬意と愛が込められており、

日本語以外の言語には該当しない言葉だとして、

マータイ女史は注目したといいます。

「いただきます」

「ごちそうさま」という言葉も、

他の言語では表現しにくいといわれます。

こうした言葉には、

多くの命によって人が

「生かされている」という、

日本人独特の価値観が表われているのです。

世界から日本語が注目される事実は、

非常に光栄なことです。

一方で私たちは、

普段そのような意識を

持って生活をしているでしょうか。

当たり前のように食事を残し、

電気や水などのエネルギーを

浪費していないでしょうか。

日本人の美徳である

「もったいない精神」

を見つめ直し、

謙虚な気持ちで今日一日を過ごしたいものです。
Mさんが新入社員だった頃の話です。

ある先輩に対する非礼を

強く悔やんでいたMさんは、

思いつめた末、

直属の上司に相談しました。

上司は、

自分自身の同じような失敗談を、

赤裸々に話してくれたのです。

そして「心の中で悪いことをしたと悔やんでも、

それだけでは本物ではない。

その思いを言葉として発することが大切だよ」

と諭されました。

それを聞いたMさんは、

鉛のように重かった心がすっかり軽くなりました。

上司の語ってくれた失敗談によって、

Mさんはスッと背中を押されました。

この人も同じ道を通って来たのだという安心感が、

心の重石を取り去ったのです。

Mさんは先輩のもとに出向き、

心底から詫びることができたのです。

以来、

Mさんと先輩とは強い絆で結ばれた間柄となり、

それは現在でも続いています。

 どんな人であっても、

失敗を経験することで成長します。

後輩育成のポイントの一つは、

先輩としての失敗談を彼らの肥やしにしてあげることです。

失敗談は聞く人に共感を与えます。

こんな背中の押し方もあるのです。