ゴールド・ボーイ(2024 日本)
監督:金子修介
脚本:港岳彦
原作:ズー・ジンチェン
撮影:柳島克己
編集:洲崎千恵子
音楽:谷口尚久
主題歌:倖田來未
出演:岡田将生、黒木華、羽村仁成、星乃あんな、前出燿志、松井玲奈、北村一輝、江口洋介
①キング調のダークな夏のジュブナイル
沖縄で母(黒木華)と暮らす中学生の朝陽(羽村仁成)は、父親を刺して逃げてきたという夏月(星乃あんな)とその兄の浩(前出燿志)をかくまいます。3人は偶然、崖から人が落ちるところを撮影。それは実は、資産家の婿養子である東昇(岡田将生)が遺産目当てに義父母を殺した現場でした。そのことを知った朝陽たちは、昇から金を脅し取る計画を立てます…。
平成ガメラ三部作の金子修介監督による、クライム・サスペンス。
中国のズー・ジンチェンの小説「悪童たち」を元に、舞台を日本に置き換えた作品です。
これはネタバレ厳禁!の、二転三転する面白いストーリーでした。
主役は3人の中学生。少年たちがサイコパスの殺人犯を相手に、危険な駆け引きを繰り広げていく…。
…というシンプルなサスペンスの時点で面白い。でもそれだけじゃないんですよね。
まだ幼さの残る中学生たちが夏の沖縄を走る、疾走感ある青春のストーリー。
それぞれ、家庭の問題を抱えていて、大人に振り回されている子供たちが、大人たちの知らないところでイキイキと走り、一矢報いようとあがく。そんな抵抗の物語。
子供って、大人の身勝手に巻き込まれるもので。「保護されている」は「支配されている」と紙一重で、思うようにならない鬱屈が蓄積していく。
でもその一方で、良識やルールに縛られず、思わぬ冒険に飛び込んでいける自由さは、子供ならではのもので。
それだけに、非常に危なっかしいのだけど。
いとも簡単にダークな世界に落ちてしまいそうでもある、暗さと明るさがないまぜになった日常。
そのトーンはスティーヴン・キングの世界を思わせます。「スタンド・バイ・ミー」や「イット」の世界。
実際、本作はキングを意識した作りにもなっていて。タイトルの「ゴールド・ボーイ」はキングの「ゴールデンボーイ」をオマージュしたものですね。
キングの描き出す、エネルギーに溢れた子供たちの世界、それと裏腹に「死」が潜んでいる不穏な感じ。
そんな世界観が、夏の沖縄なのに常に薄暗い、「ソナチネ」を思わせる抑えたトーンの撮影で描かれていきます。
非常に強い、魅力的な世界観を持った映画。まずはそれだけで、強く惹きつけられました。
②役者たちの魅力も!
岡田将生は、本当にサイコパスがよく似合う。
イケメンで優しそうなんだけど、なんか実は心がない感じ。
保険のCMですら、サイコパスに見えるもんな。車に乗せた家族を崖に連れて行って…とか。
本作は本当に、そんな印象から膨らんだみたいな役ですね。ぴったり。(書けば書くほど失礼な気もするけど)
本作において、大人は常に子供にとっての対決の対象として描かれていて。
「子供たちと価値観がぶつかるもの」としての大人たちの中で、ひときわ怪物性を際立たせるのが岡田将生演じる東昇です。
通常の大人のセオリーが通用しない。当たり前の常識に縛られず、思い切った行動をとることができる昇。それはつまり、良心という縛りが欠けているということなんですが。
この欠落、サイコパス性によって、昇は逆に子供たちと近い存在とも言えるんですよね。
大人社会の常識に縛られないという点では、東は子供みたいなものなので。
だから、脅迫〜取り引きという駆け引きを通して、昇と子供たちが意外な親密さになっていく。
関係性が、どう転がっていくかわからない。そのスリリングな面白さもあります。
そんな男に、1対3の対決を挑んでいく子供たち。朝日、夏月、浩を演じた羽村仁成、星乃あんな、前出燿志の3人も素晴らしかったですね。三者三様で。
中盤からすべてをさらっていくのは羽村仁成なのだけど、15歳の星乃あんな。彼女の魅力が弾けていました。
ダークな物語の中でも、夏月がどうにもキラキラしてしまう。よくある、わざとらしいキラキラ青春モノとは違う、鬱屈した薄暗い風景の中であるからこその、溢れ出る輝きでした。
③転調が導く驚きの結末
…という物語が、終盤でクルン!と転調します。
見え方の様相が変わる。それまでの思い込みが裏切られ、描いていた人物像がガラッと変わって、思わぬ地点へ連れて行かれてしまう。
という訳で、本作は終盤以降完全にネタバレ厳禁案件です。
公開から結構経ってるし、どうしようか迷ったのですが。これから観る人も多いだろうから、ここではネタバレなしで行こうと思います。
という訳で、終盤以降の展開については、ほとんど何も書けません!
ネタバレにならない範囲でちょっとだけ書くと(それさえも知りたくない人はここで閉じていただきたいですが)、転調以降は映画のジャンルが微妙に変わる。
サスペンス映画から、ホラー映画の様相へ。
「えげつなさ」がエスカレートしていくのを楽しむ映画になっていきます。
最悪な後味を堪能する「イヤミス」であるとも言えますね。
キングの「ゴールデン・ボーイ」を思えば、タイトルで既に予言されているとも言えますが。
なかなか鮮やかな転調でした。東昇というサイコパスの存在が、ある種の伏線になってるんですよね。
意外性ある面白いサスペンスを楽しみたい人は、観る価値のある映画だと思います。
「人怖」ホラーが好きな人、イヤミスが好きな人にも、オススメしたいですね。
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