この記事は「ゾンビ」ネタバレ解説1

「ゾンビ」ネタバレ解説2の続きです。

 

モンローヴィル・モール

ヘリは、大型のショッピングモール上空に差し掛かります。広大な駐車場を、ゾンビが歩き回っています。

屋上のヘリポートに、一行は着陸することになります。

 

モンローヴィルはピッツバーグの東24kmに位置する郊外の町。モンローヴィル・モールは1969年に完成した、初期の郊外型大規模ショッピングモールの一つです。

モールは2階建てで125の店舗があり、スケートリンクを含みます。トレードマークは大きな円形の噴水と時計塔で、ピッツバーグ地域の先住民族を表す人形が時間ごとに現れる仕掛けがついていました。

ロメロは、このショッピングモールを案内されている時に、モールがシェルターの機能も備えていることを知って、本作の最初のインスピレーションを得ました。

 

「ゾンビ」の撮影は1977年11月6日、モンローヴィル・モールの駐車場を埋め尽くすゾンビの映像から始まりました。撮影中もモールは営業を続けていたので、主に真夜中に撮影が行われ、朝の開店時間までに撮影を終えなければなりませんでした。

12月に入って、モールがクリスマス仕様に飾られると、モールでの撮影は一旦中断され、テレビ局やアパートなどのシーンが撮影されました。1月になると、またモールに戻って撮影が再開されました。

 

一向が降りた屋上にある大型の天窓は、撮影用に作られたセットです。一行は、電気がまだ通じていることに気づきます。

ピーターは「原子力だからだ」と言ってますが、ゾンビ状況の中で原子力発電所は稼働を続けているのでしょうか…。かえって恐ろしい気が。

 

屋上のシーンで、遠くに見えているアパートの一室には、一時期スティーブン・キングが住んでいたそうです。キングは「ゾンビ」の大ファンの一人。ロメロとは、後に「クリープショー 」を共作することになります。

キングはここで「クリスティーン」を書き、その34章には登場人物がモンローヴィル・モールを訪れるシーンがあります。

 

「これがあの車だとは、とても信じられないわ」アイスクリーム・パーラーの小さな駐車場を出て、モンローヴィル・モールへ向かう車の流れに乗った時、彼女はそう言った。

 

モールはあわただしく行き来する買い物客でごった返していたが、それでも大半の客は、まだ鷹揚にかまえていた。最後のクリスマス・ラッシュが来て、客が目を血走らせ、ときには醜悪ささえむきだしにして商店に殺到するのは、まだ二週間も先だ。

 

ふたりはモールの中央に設けられたリンクを見下ろす位置に立ち、スケーターたちがクリスマス・キャロルのメロディーに乗って、体を低くしたり、旋回したり、両腕を広げて舞い降りるように滑ったりしているのを眺めた。

 

これ、クリスマスの飾り付けがされている時期だから、「ゾンビ」の撮影時期とちょうど合わせてあるんですね。

「客が醜悪ささえむきだしにして商店に殺到する」とか、あえてスケートリンクを描写してるとか、キングは確実に「ゾンビ」を意識して書いてると思います。

 

空から見た(現在の)モンローヴィル・モール。デカイ!

モールへの侵入とゾンビたち

ショッピングモールをうろうろと歩きまわる大量のゾンビたち。

フランが「何をしてるの?」と聞き、スティーブンは「習慣だろう」と言います。「ここは生活に欠かせない場所だから」

ゾンビが「生前の生活習慣をなぞる」という設定が、ショッピングモールと結びついた瞬間ですね。

 

天窓から、店舗と隔離されたスペースと、食料や飲料水の備蓄を目にした一行は、侵入を決意します。

ここで、アルジェント版のみ箱がアップになり、「非常災害用の飲料水だ。食料もあるはず」というセリフがあります。一行が侵入するきっかけなので、ある方が丁寧ですね。

 

一行は3階にあたる事務所スペースに侵入し、モールへの階段に通じるドアを箱で塞いで休息します。ようやく眠れたスティーブン。

ピーターとロジャーは「下にはなんでもある」とモールへの探検に出かけます。止めるフランにピーターは銃を渡し、「引き金は軽いが反動は強いから気をつけろ」と伝えます。

 

階段を降りると長い廊下があり、そこにあるドアから機械室へ。

その中に、モールの設備を制御する警備員室があります。ピーターとロジャーはここで鍵束と通信機を手に入れます。

 

ここで、DC版だけ「一旦モールへ偵察に行き、戻ってくるシーン」が挟まれます。

モール2階へ一度入り、そこをゾンビがうろついていることを確認して、また警備員室に戻ってくる。

米国版とアルジェント版ではカットされています。まあ、確かになくてもいいシーンですね。丁寧だけど。

 

警備員室で地図を確認して、鍵の番号を確認。

足音を消すために音楽をかけることをロジャーが提案して、ピーターは「音楽だけじゃなく何でも使おう」と言います。

 

ショッピングモールのコミカルなBGMが流れ、噴水やショーウインドーが作動する中、ゾンビたちがうろうろとさまよい歩く。これが、ブラックユーモアに満ちた「ゾンビ」を象徴するシーンと言えるでしょう。

ロメロ版とアルジェント版では、流れる曲が違っています。アルジェント版では、ややアップテンポな音楽。

時計台の「きんこんかんこーん」という印象的なチャイムも、アルジェント版にはありません。

 

うろつくゾンビの中には、後でフランを襲うハレ・クリシュナゾンビ、ベストを着こなしたおしゃれなおっさんのベストゾンビ、やたらと目立つ看護婦姿のナースゾンビなどがいます。

ゾンビたちが無個性でなく、それぞれのキャラクターが印象付けられる個性があるのも、「ゾンビ」の特徴です。こんなにゾンビの1体1体が記憶に残るゾンビ映画、他にないんじゃないでしょうか。

 

モールの2階へやってきたピーターとロジャー。うろつくゾンビたちをかいくぐり、モール内のデパート部分へ向かいます。

ここから、アルジェント版ではゴブリンの音楽が勇壮に鳴り響きます。

 

当時、モンローヴィル・モールにはギンベル、ジョセフ・ホーン、JCペニーズの3つのデパートメント・ストアが入っていましたが、そのうち撮影が許可されたのはJCペニーズだけでした。

JCペニーズはモールの中央部分に位置していました。「ゾンビ」のモールでのほとんどのシーンは、JCペニーズで撮影されています。

スライド式のガラス戸を開けて、ピーターとロジャーはデパート内に入ります。この時、ロジャーが銃をゾンビに取られます。

ロジャーの銃を気に入ってずっと握りしめているこのゾンビは、映画の終盤まで登場し続けます。

 

手づかずの商品にあふれたデパートで、「ショッピングだ!」とはしゃぐピーターとロジャー。

アルジェント版のみ、指輪、ラジオ、カバン、テレビ、財布などを持っていくシーンが含まれています。

エスカレーターを駆け下り、マネキンにドキッとするロジャー。

ピーターは手押しカートで略奪物を運びます。「その手があったか」とロジャー。このカートは、後にロジャーになくてはならないものになります。

侵入した2階のガラス戸前に荷物を置いて、二人は再び1階へ。ロジャーがエスカレーターを滑り台みたいに滑るシーンは、無法行為の無邪気な楽しさを象徴してますね。

1階のガラス戸で大騒ぎしてゾンビをおびき寄せ、その隙に2階の出入り口から脱出する作戦です。

警備員、ドライバー、ハレ・クリシュナ

二人を追いかけて、警備員室にやってきたスティーブンは、機械室をうろうろする警備員ゾンビに襲われます。

警備員ゾンビを演じているのはワーナー・シューク。彼は「クリープショー 」の「父の日」で、金持ち一家の息子を演じています。

 

ゾンビに襲われパニックになるスティーブンは銃を乱射し、機械室のパイプに跳ね返ってえらいことになります。

いざという時には、弾切れ。ビビりまくるスティーブンですが、今度こそ自分で警備員ゾンビを仕留めます。飛行場では2人のゾンビを仕留めきれずロジャーに助けてもらっていたので、スティーブンも成長していると言えますね。

 

銃声を聞いたピーターはデパートを出て駆けつけます。口は悪いが仲間を助けるためには危険も厭わない、ピーターの頼れる部分が徐々に見えてきます。ゾンビを抱えて、2階から投げ落とすのが頼もしいですね。

ゾンビを3階への階段に向かわせないために、ピーターはスティーブンを連れてデパートに戻ります。

しかし、一人ハレ・クリシュナ・ゾンビだけは、スティーブンがやってきたドアを開けて、フランの待つ3階へ向かってしまいます。このゾンビ、他より頭がいい…?

 

スティーブンを加えて、再びゾンビを1階に集めるべく一同はデパートを突っ切ります。ここでロジャーがゾンビに捕まられて倒れます。ロジャーは、持っていたスクリュードライバーを耳に突っ込んで、ゾンビを倒します。

このスクリュードライバー・ゾンビを演じているのはジョン・ハリソン。後に「クリープショー 」「死霊のえじき」の音楽を担当することになる人です。

 

ゾンビを連れて行かないように3階へ戻る方法を思案する一同。スティーブンは、エアダクトを抜けていくことを思いつきます。

アクション映画ではつきものの「エアダクト」ですが、「ゾンビ」はそれを印象的に使っている作品の一つですね。マイク・クリストファー。彼は

エレベーターシャフトの中にあるダクトを通って、3人はデパートを脱出します。

 

その一方で、ハレ・クリシュナ・ゾンビは着々とフランに迫ります…。

ハレ・クリシュナ・ゾンビを演じているのはマイク・クリストファー。ポスター・ゾンビを演じていたポール・ムーサと同じく、地元ピッツバーグのバンド"FLUID"のメンバーです。

「ゾンビ」の中でも相当に目立っている、ハレ・クリシュナゾンビ。これは、この当時流行っていたハレ・クリシュナ教徒を表しています。正式にはクリシュナ意識国際協会。インド人のスワミ・プラブワーダが1966年にニューヨークのイースト・ヴィレッジで布教を開始。ちょうどヒッピー・カルチャーと結びついて、欧米の若者の間でブームになりました。60年代後半のビートルズがインドに行ったり、ジョージ・ハリソンがハマったりしてましたね。

ブルーレイ・ボックスのブックレットに掲載のマイク・クリストファーのインタビューによれば、

「60年代後半から70年代初頭にかけて、ハーレー・クリシュナ教徒はそこら中にいたんだ。坊主頭で『ハーレー・クリシュナー♪』とマントラを歌う連中は、街中の交差点や空港、地下鉄の入り口などに必ずいた。タンバリンを叩いて歌い踊りながら、彼らは通行人に近づいてきて、無料のお香はいりませんかと聞くんだよ。無料ならいいかと思ってうなずくと、彼らの教義の書かれた小冊子を『無料』で渡してくる。仕方なくそれを受け取って立ち去ろうとすると、彼らは丁寧に寄付を求めてくる。(中略)だから『ゾンビ』以前に、既にハーレー・クリシュナ教徒は人々に襲いかかっていたということだ」

とのことです。だから、モンローヴィルにたまたまクリシュナ教徒がいても不思議ではないんだけど、あえてこういうゾンビを用意するのが面白いですよね。

 

フランは発煙筒でクリシュナ・ゾンビに抵抗します。クリストファーによれば、発煙筒の火の粉で裸足の足を火傷したそうです。

スティーブンたちが駆けつけて、クリシュナ・ゾンビはあっさりと撃退されます。

作戦会議と、フランの妊娠

3階の事務室で、運んできた食べ物を楽しむ4人。ロジャーとピーターはキャビアを食べてます。それに、ジャック・ダニエル。

スティーブンはテレビをセッティングしますが、緊急放送ネットワークは試験電波しか流していません。

ラジオからは放送が流れています。

「既に防衛手段を講じていても、市民は自宅を退去すること」

これは、冒頭のテレビ局で博士が言っていたことと同じですね。

 

ここで、アルジェント版のみにあるシーンが挟まれます。

ラジオからは、「デトロイト、アトランタ、ボストン、フィラデルフィアとの通信が普通になった」との放送が。

スティーブンは「今頃局の中は地獄だろう」と言い、「みんなバカだ。団結して対処すればやられずに済んだのに。今日の俺たちが、奴らを上手くあしらって生き延びたように」と言います。

ピーターは「調子に乗るな。運が良かっただけだ」と諭します。「奴らには強みがある。増えていくことだ」

スティーブンは「弱点はわかっているからそこを攻めればいい」と言いますが、ピーターが「じゃあ彼女がゾンビになったら首を切り落とせるか?」と聞くと黙ってしまいます。

 

これ、「ゾンビ」の状況の本質に迫るなかなか興味深い会話が交わされるシーンですが、なぜかアルジェント版だけ。ロメロ版にはないんですね。ちょっと残念に感じます。

 

ここからの、フランの妊娠にまつわるシーンは、全バージョンにあります。

ピーターが「彼女は体調が悪そうだ」と言い、スティーブンはフランが実は「妊娠4ヶ月」であるということを打ち明けます。

ロジャーは医者に見せるべきだと言いますが、ピーターはそれは無理だと言います。

ピーターは「始末したいか? やり方なら知ってる」と言いますが、スティーブンは首を横に振ります。

 

奥の部屋で、一人で涙を流しているフラン。スティーブンに「中絶した方がいい?」と聞きます。

スティーブンは「君は?」と聞き返すだけです。

 

それに続いて、DC版と米国版、つまりロメロ版だけにあるシーンになります。

ピーターは「あのヘリを誰かに見られるとヤバイ」とロジャーに言います。

一方、奥の部屋では、フランとスティーブンの会話が続いています。

フランはスティーブンに、カナダに行こうとしていたことを思い出させようとします。「なぜここに固執するの? 刑務所にいるのと変わらないわ」

しかしスティーブンは、すっかりモールに滞在するつもりになっています。「カナダに着くまでに何回給油が必要だと思う? 奴らはどこにもいる。当局に捕まればさらに事態は悪化だ」

ここは、男たちが早々にモールに立てこもることを決めてしまい、その決定から疎外されたフランが異議を表明するシーン。このシーンがあることで、フランの心情や、スティーブンの気分がよく伝わります。

ラウシュ博士と、トラックの計画

画面にはモール内をうろつき回るゾンビが映し出されます。

終盤にもまた登場する、上半身裸のデブゾンビ

青いワンピースのゾンビ。

マネキンを引きずって遊ぶゾンビ。

スケートリンクでホッケーのゴールネットに絡まるゾンビ。

ここでうろつき回るゾンビの中には、本作の助監督で後のロメロ夫人、クリスティーン・フォレストの父親と母親が混じっています。

 

テレビからラウシュ博士の声が流れています。

「この生き物の行為は共食いなのか? 彼らは人間ではない。彼らは互いの肉を食べず、生きた人間の肉しか食べない。だから、共食いではない」

「知能や思考力はほとんどない。生きていた時の記憶で、簡単な動作はできる。道具を使うこともあるが行動は原始的だ」

「彼らは、ただ本能に従って動いているに過ぎない。彼らを同じ人間だと考えるのは危険だ」

「見つけ次第、抹殺しなければならない」

 

眼帯のマッド・サイエンティストっぽい科学者ラウシュ博士を演じているのは、リチャード・フランス。彼は劇作家ですが、ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968)でゾンビを演じ、「クレイジーズ」(1973)でワッツ博士を演じました。

ロメロは当初「クレイジーズ」に登場したワッツ博士をもう一度「ゾンビ」に登場させようと考え、フランスをキャスティングしましたが、直前に考えを変え、別人のラウシュ博士になりました。

ラウシュ博士の名前の紹介は、ロメロ版にのみあります。

 

ロメロ版には、フランが起きてきて、男たちが屋上に出ていることに気づくシーンがあります。

屋上で、男たちは「トラックでモールの入り口をふさぐ」ことを話し合います。ここからの行動を言葉で示す大事なところですが、アルジェント版ではこのセリフはカットされています。

 

その代わり…なのか何なのか、アルジェント版には、ピーターの「エンジンは?」の言葉にロジャーが「俺が始動させる」と答えるシーンがあります。

これは、トラックのエンジンを直結させて始動させることがロジャーの特技であることを示すセリフで、この後の展開的には大事なシーンなんですけどね。なぜか、ロメロ版ではカットされています。

 

テレビでは、「ウィルス性疾病の観点で、この現象の分析が進められ、ワクチン開発のために様々な試験が行われている」ことが話されています。

これも、現実のパンデミックとゾンビ状況のシンクロを感じさせるところですね。

 

屋上から帰ってきた男たちに、フランは「妊娠してるからって特別扱いはやめて。母親役もまっぴら」と告げます。「仲間の一人として計画を知っておきたいの」

スティーブンは止めようとしますが、ピーターは「もっともだ」と言ってフランに計画を話してやります。

ここ、男たちが調子に乗り出すと、得てして女性を無視して突っ走るんですよね。今でも一緒だなあ…。

ピーターは「俺たちは外へ行くが君は残れ。足手まといだからな」とズバリ言います。マッチョですね…。

流れは一緒なんですが、アルジェント版のみ、ここでフランの「銃が使えて戦えないと困る」というセリフがインサートされています。ロメロ版は、次の「だったらヘリの操縦を覚えたいわ。スティーブンに何かあった時のために」に続きます。まあなくても通じるけど、アルジェント版の方が丁寧。

ピーターは「名案だ」と言います。

 

ロメロ版のみ、この後にフランが「ごめんなさい」と謝り、スティーブンを「気をつけて」と送り出すシーンがあります。

 

「その4」に続きます!