この記事は「ゾンビ」ネタバレ解説1

「ゾンビ」ネタバレ解説2

「ゾンビ」ネタバレ解説3の続きです。

 

トラック作戦

スティーブンがヘリでピーターとロジャーをモール近くのトラック駐車場に運び、放置されたトラックのエンジンをロジャーが直結してかけて、トラックをモールの出入り口に運んで停車し、ゾンビが出入りできないように出入り口を塞いでしまおうとするトラック作戦

この撮影は1977年11月17日から19日にかけて、B&P社のトラック駐車場で行われています。B&Pは「ボルチモア&ピッツバーグ」の意味。

 

ここは、アルジェント版でもっとも大きな欠落のあるところ。

トラック駐車場とモールの往復は2回分描かれるのですが、アルジェント版ではその1回目がまるまる省略されています。

まあ確かに、大事なところは2回目ではあるんだけど、これは一連のシークエンスが途中から始まる印象になってしまっていて、かなりわかりにくいです。

 

というわけで、1回目の移動の車中で交わされる、ピーターとロジャーの会話「デカイの」「小さいの」「俺たちが同じチームとはな」「俺はいつだって見張り役だ」という軽口が、アルジェント版ではなくなってしまいます。

ここはピーターとロジャーのいい関係を示しているシーンで、消えているのは残念。

 

1代目のトラックを無事にモール前に置いて、ロジャーはピーターのトラックに乗り移り、また駐車場を目指します。

ここで、ロジャーは興奮してテンションが上がってしまってる。アルジェント版はここから始まるので、なんだかロジャーがいきなりわけもなく興奮してるように見えてしまいます。

 

2台目のエンジンをロジャーがかけようとするところで、駐車場のコンテナに潜んでいた複数のゾンビがロジャーに迫ります。

ここでロジャーに覆いかぶさり、ピーターによって顔を吹っ飛ばされる美人のブロンド・ゾンビは、ピッツバーグ出身のジーニー・ジェフリーズ。彼女も、インタビューがブルーレイ・ボックスのブックレットに載っています。

ピッツバーグのテレビやラジオで、モデルやスタッフとして働いていた彼女は、トム・サヴィーニと出会い、彼のメイクアップ・アシスタントとして「ゾンビ」に参加します。ブロンド・ゾンビをやることになったのはロメロの意向。後にロメロの「ナイト・ライダーズ」にもキャスト&スタッフとして参加しています。

 

ブロンド・ゾンビの血を浴びて更に興奮したロジャーは、モールへの道すがら、うろつくゾンビを跳ね飛ばしていきます。

ここで、トム・サヴィーニ演じるゾンビがトラックに跳ねられています。サヴィーニは後でバイカーとしてがっつり出てくるのだけど、登場はゾンビとしての方が先でした。

サヴィーニ・ゾンビが吹っ飛び、トラックが走り抜けるシーンで、一瞬だけサヴィーニが使ったトランポリンが画面に入ってしまっています。

 

2台目のトラックをモールにつけるシーンで、DC版とアルジェント版のみトラックのタイヤに轢かれた腕を引きちぎるゾンビのカットが見られます。米国版ではカット。

どうにか2台目を成功させたロジャーですが、バッグを落としてきたことに気づいて、戻るようピーターに要請します。

「しっかりしろ。こっちも危なくなるんだぞ」とピーター。

しかし、言う通りに戻ることになります。ロジャーが落としたバッグにはトラックのエンジンをかけるための道具が入っているはずで、作戦を続行するためにはバッグは必須なわけです。

 

戻ってバッグを回収したところで、ロジャーは腕と足をゾンビに噛まれてしまいます。

銃砲店へ

出入り口をトラックでふさいだ後、モール内に残ったゾンビを片付けるため、ピーターとスティーブンはダクトを通って銃砲店に入ります。

"GUNNER'S DENS"というこの店は、モール内ではなくピッツバーグ近郊にあった銃砲店。撮影は1978年2月5日に行われました。実際には、ショッピングモールに銃砲店が入ることはないそうです。

 

ロメロ版のみ、ピーターがスティーブンに「シャッターを撃つな。跳ね返って危険だ」と忠告するシーンがあります。

ピーターはスコープのついたライフルを手に入れ、「この銃で的を外す奴は余程のバカだ」と言います。

 

銃砲店のシーンで流れるアフリカ調の音楽は、ゴブリンのサントラに入っている"Safari"という曲です。ここでは、ロメロ版でも同じ曲が使われています。

ただし、ロメロ版ではこの次のシーンではゴブリンの別の曲に切り替わりますが、アルジェント版では次のシーンでもしばらく"Safari"が続きます。

戸締りとゾンビ狩り

武装した4人は、揃ってモールの2階に現れます。ロジャーはカートに乗っています。

フランも完全武装で参加しているのは、トラック作戦での屋上からの狙撃が認められたのでしょう。

4人が揃ってポーズを決める、カッコいいシーンです。

 

デパート内に入った4人。1階へ向かうのに、スティーブンとフランは階段を、ピーターとロジャーはエレベーターを使います。

ロメロ版のみ、エレベーターの中でピーターがロジャーに「その足だが…」と言いかけ、ロジャーが「何も言うな」と言うシーンがあります。

1階のデパートから、ピーターとロジャー、スティーブンが4箇所の入り口の扉を閉めに出かけます。フランは展示されている自動車に気づき、それを使うことを提案します。

ロジャーに「エンジンを?」と確認するピーター。車のエンジンをかけるのは、常にロジャーの役目なんですね。

 

フランがデパートに残り、スティーブンはデパートのスライドドアを閉めるのに手間取ります。

スライドドアに、シスター・ゾンビの服の裾が挟まれます。

 

ロジャーが車のエンジンをかけますが、そこでゾンビに足の傷口を掴まれてしまいます。

この女ゾンビを演じたのはジョーイ・バフィーコといって、なんとプエルトリコ人のアパートで暴走した太っちょ警官ウーリーを演じたジェームズ・バフィーコの奥さんだそうです。

車が走り出すと、バンダナをした女性のゾンビが引きずられていきます。

…なんだけど、このゾンビは引きずられているカットでは男性に入れ替わっています。安全を考慮したのでしょう。それなら最初から男性でいいやんと思いますが、細かいですね。

 

車を入り口に乗り付け、鍵をかけるシーンでは、ゾンビの手首が挟まれてちぎれるシーンDC版とアルジェント版にあります。米国版はなし。

車で移動しながら、うろつくゾンビを撃ちまくる。このシーンもモール内で撮影されているわけですが、結構やりたい放題ですね。

モール内を車で移動するシーンは、バイクが走り回るクライマックスシーンと同じ週、1978年1月5日から11日にかけて撮影されています。この時に、ダリオ・アルジェントが撮影現場を見学に来ました。アルジェントが「ゾンビ」の撮影現場にいたのは、この時のみです。

 

デパートのスライドドアの向こうで皆を待つフランを、野球のユニフォームを着たゾンビがうっとりと見つめる、ユーモラスなシーン。これはDC版のみにあります。

ユニフォームの背中にはBACH'S ARCO PITCAIRNという文字が。

ARCOはガソリンスタンドのチェーンである模様。なら、BACHはそのオーナーでしょうか。PITCAIRN(ピトケアン)はペンシルバニア州の地名であるようです。たぶん、野球チームのスポンサーを意味しているのでしょう。

 

モール内に残ったゾンビをすべて片付けて、死体が点々とするモールを2階から見下ろす一同。

ここでは、アルジェント版ではいつもの音楽ですが、ロメロ版ではドラマチックな音楽が流れます。ここはロメロ版の方がいいな…。

 

ところで、ここでモール内にいたゾンビはすべて殺されたはずなんですよね。しかし、終盤ではこれ以前からうろうろしていたナース・ゾンビやライフル・ゾンビなどがまた登場しています。

大掃除

苦しむロジャーに、モルヒネを打つフラン。

ピーターは「噛まれた奴を何人か見たが、3日以上生き延びた例がない」と言います。

 

ピーターとスティーブンは大工道具を集め、3階への階段へ通じるドアをカモフラージュする壁を作ります。

ここで、フランがトイレでつわりに苦しむシーンがあります。スティーブンが近づきますが、フランは「あっちへ行って」と言います。

 

「大掃除するか」とピーターが言って、大量のゾンビの死体を冷凍庫に片付けていきます。

このシーンは、ロメロ版ではコミカルなBGMがかかって、ユーモラスなシーンになっています。一貫してユーモアを排除するアルジェント版では、悲しげなシリアスな音楽が流れて、まるっきりニュアンスの違うシーンになっています。

地獄が満員になると…

この後、ゾンビの危険がなくなったモールの中で、はしゃぐ4人の様子が映し出されていきます。

レジの金を取って、監視カメラにポーズを決めるピーターとスティーブン。

豪華なワンピースや帽子を試着するフラン。

上着や帽子を試すロジャー。

スケートやバスケットボール、ゴルフを楽しむ一同。

瓶詰めを味わうロジャー。

コーヒー豆や肉を物色。

美容室でスティーブンの散髪をしてやるフラン。

それから、ゲームセンター。アヒル猟をするシューティングゲーム「クワック」、スタートレックっぽい宇宙船を操る「スターシップ1」、ナムコのF1ゲームなどがプレイされています。

 

窓に押しかけるゾンビを見下ろし、ピーターが「ブードゥー教の司祭だったじいさん」から聞いた話を語ります。

「地獄が満員になると、死者は地上を歩く」

"When there's no more room in hell, the dead will walk the earth."

これは「ゾンビ」を象徴する名セリフですね。この言葉で、一気に黙示録的な色合いを帯びることになります。

ロジャーの死

苦痛に叫ぶロジャー。ピーターに「俺が死んだら頭を撃ってくれ」と懇願します。

ただし、「ダメだと確信するまで撃たないでくれ。蘇らないように、頑張るから」

しかしもちろん、努力でゾンビ化は制御できない。ロジャーは死んで、ゾンビとして蘇ることになります。

 

テレビでは、ラウシュ博士がエキセントリックな意見を述べています。それは、人体の5パーセントをゾンビに餌として与えればいいというもの。

皆が異議を唱えると、「黙れバカどもめ」と一喝します。ラウシュ博士も、徐々に狂気に向かっているようです。

大都市に核爆弾を落とすのはどうだ」とラウシュ博士は言い出します。「感情的になるな」と博士が一喝したところで、銃声。

ピーターがロジャーの頭を撃った音でした。

ラウシュ博士のシーンは、1978年1月4日にピッツバーグのテレビ局チャンネル53で撮影されています。

 

モール内の観葉植物が植えられたゾーンに、ロジャーは埋葬されます。

その後、スケートリンクでフランの射撃練習が行われます。ロジャーの死を受けて、戦力補強のためにフランを訓練しているのでしょう。

レストランでディナー

豪華なレストランで、スティーブンとフランが正装してディナー。ピーターは給仕に徹しています。

「ここは二人だけで」と、ピーターは一人でロジャーの墓へ。シャンパンを土に注ぎます。

 

レストランでスティーブンがフランにプロポーズするシーンですが、アルジェント版のみ、スティーブンが両手を出して「どっちだ?」とやるシーンがあります。

スティーブンが差し出した指輪を見たフランは「今は実感が持てない」と言い、プロポーズを断ります。フラれたスティーブン。

 

レストランのシーンはロウソクの光が印象的ですが、これには暗くても撮影できるツァイス社のスーパー・スピード・レンズが役立てられています。

このレンズは、スタンリー・キューブリック「バリー・リンドン」(1975)を18世紀らしくロウソクの光で撮影するために開発したものです。撮影監督のマイケル・ゴーニックがこのレンズを借り出すことに成功して、「ゾンビ」の暗いシーンは鮮明なものになりました。これも、本作の見応えに貢献していると思います。

安全な日々

DC版のみ、ここにモール内で過ごす日常の描写があります。

カートを押して、育児書を物色するフラン。

タイプライターで書き物をするスティーブン。

服を選ぶピーター。

植物に水をやるフラン。

スティーブンがフランをカメラで撮影し、フランは「あとで現像してね」と気の無いふうで答えます。

 

その他のバージョンはその次のシーン、青いベッドで、物憂げなスティーブンとフランのカットに続きます。

 

夜明けのショットを挟んで、カレンダーにX印をつけるフラン。フランのお腹はすっかり大きくなっています。

 

屋上で壁テニスをするピーター。テニスボールが転がって落ちて、駐車場の腐乱死体が映し出されます。

いまだに、モールの周りを歩き続け、中に入れる日を待ち続けているゾンビたち。ゾンビは死体ですが、本当に死ぬまでは腐ることはないようです。

 

フランが派手な化粧をするシーン。ロリータ風の化粧をして、フランはピストルを弄びます。

ここはロメロ版ではやや長く、「セールでキャンディをプレゼント」という館内放送が流れます。

 

続くシーンもアルジェント版にはなく、ロメロ版にあるシーンです。

スティーブンがレコードをかけ、ギターのイージーリスニングのような音楽をかけます。

食事をしている3人。テレビがついていますが砂嵐。フランは「もう3日間放送していないわ」と言ってテレビを消します。

スティーブンはイラついたように、黙ってテレビをつけます。

フランは「どうしてこんなことに」と頭を抱えます。

 

その5に続きます!