■有名建築家でめぐる県庁・市役所①

 

今回は菊竹清訓、山本理顕、妹島和世、隈研吾、新居千秋の5人が手がけた県庁・市役所を、ご紹介します。

 

有名建築家に設計を頼んだ市役所や県庁は少なくありません。

 

市役所や県庁は大学キャンパスにくらべれば、あっという間に見終わってしまうのですが、駅からの道のりや近くの繁華街、そばにある図書館や文化会館、市民公園なども合わせて散策するとすれば、なかなかの見応えになるものです。

 

というわけで、そんな庁舎見物を、ご提案させていただきます。ぜひ、行って見てください。

 

①菊竹清訓(1928-2011)

 

読み方はきよのり。早稲田出身の建築家で、丹下健三の一つ下の世代。黒川紀章らと共に「メタボリズム建築」を提唱した、鉄とガラスとコンクリートで作る「モダニズム建築」の大物です。

 

日本中に色々建てているのですが、典型的な菊竹デザインといえる代表作が、旧館林市役所(現・中央公民館)です。

 

空に向かって、がつんと柱がそびえ立ち、それに色々と部屋がくっついている。

 

黒川紀章の中銀カプセルタワーに相通じる物がある、いかにもなメタボリズム建築であると共に、天空を目指していく、空に向かって発進していきそうなメカメカしさもあります。

 

そんな作風の人でして、「スカイハウス」という名前の代表作もあるぐらいです。

 

とはいえ、最晩年の江戸東京博物館(両国駅前)は、賛否両論、どちらかと言えば、否が多かったらしい。

 

宙に浮いてはいたんですけどねえ・・・。

 

 

筑波学院大そばにある公園のタワーも、有名です。

 

 

 

②山本理顕(1945-)

 

菊竹清訓のさらに下の世代。このあたりからポストモダンがかってきます。

 

超ざっくり言うと、鉄とガラスとコンクリで作るのは変わらないんだけれども、なんだかよく分からない出っ張りやら引っ込みやら曲面がついている。

 

モダニズム建築が機能性・合理性・コストパフォーマンスを(少なくとも建前上は)追求したのに対し、見るからに坪単価が高そうだと感じるのが、ポストモダンの特徴です。

 

それはさておき、市役所で言うと、東京都福生市。

 

確かにかっこいい。素敵。でも、お値段は?

 

こういう言い方もあれですが、例えば山本理顕は複数の自治体で新庁舎のコンペに勝ったはいいもの、残念なことに契約破棄の憂き目に遭っている。

 

どちらの案もすごく素敵なんだけど、やっぱり。お値段が、なのかしら。

 

 

横浜市立大の校舎も手がけています。 

 

 

 

③妹島和世(1956~)

 

さらにその下の世代。

 

菊竹清訓「スカイハウス」に憧れて建築に興味を持ったというのが、妹島和世です。

 

この人もポストモダン時代の日本を代表する建築家の一人で、ガラスと金属板、曲面を使いこなし、軽く柔らかな作風です。

 

出身地は茨城県の日立市で、そこの市役所も手がけています。

 

奥まった場所に位置するコンクリ庁舎から、ボールを放り投げてきたときのバウンドするような軌跡を描いて迫ってくる屋根が印象的。

 

いかにも、な妹島建築です。

 

でも本当は、奥のビルは全面ガラス張りで、透明な箱の中から金属屋根が外へ向かって飛び出してきているようなデザインだったとか。

 

しかし予算超過から、現在の作りに変更されました。

 

正直、妹島建築はどれもデザインとしてはおしゃれですが、坪単価がただ事でなさそうで、しかも施工不良が心配になりそう。

 

実際、別の県の建物でもそういったトラブルがあったり無かったり。

 

 

岡山大にも妹島物件が。

 

 

 

③隈研吾(1954~)

 

東京2020で、一気に国民的建築家にブレイクした感のある隈研吾。

 

ここ最近は、日本中を隈物件で埋め尽くす気か、という勢いで仕事を受けています。

 

妹島和世とは対照的に、木や石などのナチュラル系素材を多用するのですが、それ以上に重要なのは、「ご予算なり」の提案をしてくれるところ。そこが人気の秘訣なんでしょうか?

 

元々は超ぶっとび系ポストモダン建築家だったのですが、バブル期にちょっとやり過ぎてしまった結果、東京で仕事にありつけなくなり、その後の経済氷河期、地方の少額案件で食いつながなくてはならなくなってしまいました。

 

その結果、コスト面への目配り(も)が出来るようになったそうです。

 

というわけで、手がけた物件はいろいろあるのですが、例えば豊島区役所と長岡市役所。

 

共に2020でブレイクする前の作品ですが、いかにも隈。

 

複雑なパネルを向きをそろえず並べ立てることで、視線を集中させず、全体像を捉えさせない。

 

意識は部分部分に向いてしまうのだけれども、その部分部分は、なにやら写真映えする。不思議な建物です。

 

なんだか、迷彩塗装みたいな。

 

 

 

ちなみに、バブル時代にやり過ぎちゃった建物は、こちらの一番最後に。全然作風が違います。

 

 
 

⑤新居千秋(1948~)

 

おまけに、といっては何ですが、新居千秋もご紹介。

 

正確に言うと、市役所は手掛けていなくて、やったのは市民会館とかなんですけどね。

 

まあとにかく、これまでの4人に比べて一般的な知名度はイマイチですが、業界の有名な賞をたくさん取っている有名どころです。

 

広くなじみがありそうな物件だと、横浜赤れんが倉庫のリニューアルとか、手がけています。

 

その特徴というかモットーというかは、ワークショップを通じて関係者の声を建物化するということ。

 

今でこそ、住民ワークショップと言えば当たり前に開かれていますが、日本では「何それ?」だった80年代からやっていた人です。

 

そして21世紀に入り、コンピュータを駆使した3Dモデリングによるデジタル設計を本格導入。

 

そして、住民の声をデジタルで表現した結果が、この建物。

 

 

どうしてこうなった?

 

ちなみに、全体のモチーフは「宇宙戦艦ヤマト」だそうです。

 

 

  その②はこちら