狼少年幻想

 本日は、「MSI=みつまめスケプティック委員会」 からの活動報告です本

 古今東西あまた世上をにぎわせた、フェイク科学系の話題を総ざらいする、題して キラキラ「ドイヒー劇場」キラキラ

 今回は、「狼に育てられた子ども」 を特集しますパンチ!

 
 ローマ神話の ロムルス と レムス のような伝承から、近年の アニメ/コミック まで、オオカミに育てられたり、あるいは森の動物たちと一緒に育った少年少女は、よく題材に採られます。

 あまりよくは知りませんけど 「ターザン」 「狼少年ケン」 「未来少年コナン」 「仮面ライダーアマゾン」 などが挙げられるでしょうか、もっとたくさんありそうですが。

 そんななか、リアル事件簿として有名なのが、1920年10月に インド で保護された アマラ と カマラ の姉妹でしょう。

 西ベンガル州・ミドナプール で孤児院を営むキリスト教伝道師 ジョセフ・シング氏 が、ゴダムリ村 というところで狼と生活していた少女ふたりを保護。8歳くらいの姉を カマラ、1歳ほどの妹を アマラ と名付け、孤児院に引き取りました。

 ふたりは言葉を話せず四つんばいで歩行し、まるで狼そのものの生態だったとか。

 アマラは翌年9月、腎臓炎で死に、カマラはその後8年生きて、1929年11月に尿毒症で亡くなったといいます。


在りし日のアマラとカマラとされる写真だが

 このいきさつは1942年、シング牧師によって 「狼に育てられた子~アマラとカマラの養育日記~」 という書物にまとめられ、邦訳もされて有名になりました。

 その後、アメリカの社会学者 ウイリアム・オグバーン氏 やオーストリアの心理学者 ブルーノ・ベッテルハイム氏、日本の心理学者・鈴木光太郎教授 などが詳細な調査を進めた結果、この事件がまったく事実と反することがわかりました。 

 まず、狼の乳は人間と成分が異なり栄養にできないこと、また乳幼児が狼の群れの行動についていくことはとうてい不可能なことなど、生物学的に無理がありすぎます。

 それ以前に、くだんのシング牧師の話にツジツマの合わない点が多く、そもそもふたりを発見した ゴダムリ村 が実在しない土地であったことから、シング牧師が有名になりたい、あるいは孤児院への寄付金を募るための作り話である疑いが濃厚になったのです。

 さらにフランスの セルジュ・アロール医師 が調べた結果はいっそうひどく、シング牧師の日記 と称するものはずっと後年にでっち上げられたものであること。
 また 在りし日のアマラとカマラ とされるシング牧師の著書に載った写真は、シング牧師がお金を払って、近所の子どもに演技してもらったものである可能性が指摘されました。 

 アロール氏は、これはもはや詐欺であると非難しています。

 では、本当のアマラとカマラとはなんだったのか、という疑問については、なんとも悲しい話ではありますが、育児放棄された知的障害児だった という見解が大勢のようです。

 そんな不幸な子どもたちを見て、狼に育てられた、などと思い妄想を膨らませていった世間の目が、いちばん残酷な気がします。


 それではまた、次回の報告会でお会いしましょうMSI