彫刻家 片桐 宏典さん(再放送)第2回後編 ~彫刻でコミュニティーと関わってきました~  | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

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生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。

 

今日は素敵な作家をご紹介いたします。

彫刻家の片桐 宏典さんです。

 



片桐 宏典さん
ケイト・トムソンさん
お二人とも彫刻家であり、ご夫妻でもいらっしゃいます。

 

2014年7月に掲載のインタビューを再放送でお届けします。

記事編集保存の都合にて、当時の第2回を前編・後編の2回に分けて、本日掲載いたします。

(※ 以下は 彫刻家 片桐 宏典さん(再放送)第2回 ~彫刻でコミュニティーと

   関わってきました~(前編)の続きとなります。)

 

日下育子からのリレーでご登場頂きます。
     
第1回  第2回  第3回  第4回  第5回  

 

片桐 宏典さん  第1回 ~三陸のリアス海岸が原風景にあります~ 

                  第1回続き 略歴のご紹介


第2回の今日は、片桐 宏典さんが石彫を始められたあと
彫刻でどんな風にコミュニティーと関わってきたかという実践的な体験談を
お聴かせ頂きました。

 

インタビューはお二人いっしょにさせて頂きましたので
ケイト・トムソンさんの言葉も含めて掲載させて頂きます。

どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。

 

************************

 

日下
ここまででも、貴重なお話をありがとうございます。


片桐さんが、たくさんヨーロッパのシンポジウムを経験していらして
そのコミュニティーをアートで引き上げるという時の、

一番上の、一番面白いところというのは具体的にどういうことなのでしょうか。

 

経験の圧倒的な差だと思いますが、私はまだ目指すべき一番いいところというのが、
自分の実感としてはイメージしきれないところがあります。

 

 

片桐 宏典さん
最初の頃のシンポジウムというかアートプロジェクトという位置づけでいけば
彫刻のシンポジウムって結局モノを作って終わりなんですよ。

モノを作って憩いの場にしたり、お客さんに来てもらう観光スポットにしたりという
パターンが9割9分だったんですよ。

 

でも、作家を呼んで、地元の人と交流、まあお酒を飲むのがシンポジウムなんですが、
そういった人と人との直接交流がやっぱりすごく新鮮な訳です。

 

もともと、コミュニティー自体が、行き詰っているところがあるわけでしょ。
基本的にはなんとか上手くいっているんだけど、それが逆に足かせになっているんですよ。

効率はいいけれど、硬直したグループになってしまって、お互いに動きが取れない状況があって。


みんなこうしたらもっとよくなるんじゃないかな、というアイデアは、ぼやっと思っているんだけど、
それがに知らず知らずのうちに、お互いに足の引っ張り合いになってしまって
できなくなっちゃっているんだよね。


そこに改めてアートでも彫刻でも、そういう異質のものを持ちこむと
みんな突然「あっ、なんでもありなのか!?」ということになって
何でも話合いができるようになるし、まさにカンフル剤なんですよ、アートって。
今、カンフル剤なんて古い言葉、使う人いないけど。(笑)

 

アーティストとか、変わった人が入ってくると、いろんなことが喋れるようになるし
現実を新しい視点で捉えられるし、方法論としては確立していないかもしtれないけれど
自然にそういう雰囲気の場が出来ちゃうんですよ。

 

誤解を覚悟して言ってしまえば、ある意味、作品が悪くてもいいわけ。
変な作家が来れば来るほど、面白かったわけ。

彫刻を使ってまちづくり・・・、というのも勿論あるんですけど、
あるところでは、シンポジウムをきっかけに、突然目覚めて、

コミュニティーの中心となるようなギャラリーを作っちゃったりとか、

必ず新しい動きをする人が出てくるんですよ、必ず、一人か二人は。

 

そういう人をたった1人、生み出すために、

10人も20人も変な彫刻家やアーティストが出かけて行って
お酒を飲んで来るわけです、 はっきり言って。

 

 

日下
ええ~っ!? そうなんですか。(驚き)
そのギャラリーを作るような人が出てくるというのは凄いですね!!
でも、アーティストがコミュニティーに入るといろんなことが喋れる場が出来るというのは
私がこれまで参加させて頂いたシンポジウムでも確かに感じました。

 

 

片桐 宏典さん
でも今のアートはもしかすると、もっと効率的です。
先ほど話した、越後妻有アートトリエンナーレなどは、

一過性のインスタレーションを中心にしていて、アート自体がすごくインパクトが強いし、

で、そういう意味ではすごく地元のテーマに寄り添いやすいんですよ。

 

彫刻、特に石の場合は、残るものを作らなきゃいけないので。
極端な話、お地蔵さんとか、魚とか、野菜とか作らないと地元のテーマに寄って来ないんだけど、
イベントとかインスタレーションの場合は、邪魔なら終わったあと捨てちゃえばいいというか。

 

妻有アートトリエンナーレをやっていた人がしみじみと言っていたんですが
終わった後はいつもゴミの山なんだそうです。
だって、モノとしては使いものにならなくて、みんな捨てのちゃうわけだから。

 

そうはいっても、やっている間のお祭りとしてインパクトは強いし、集客力も強いんですよね。
あそこは50万人呼んでいますからね。

 

日下
はい。

 

片桐 宏典さん
で、いま日本中がトリエンナーレとか、ビエンナーレだらけになったでしょ。


だからそういう意味ではアートが持っている力というのは
新鮮な空気を社会に入れるというところなのかな。


でもやっぱり、彫刻としては、

いつまでもみんなに愛される、何か地元の復興のシンボルみたいな、
僕らが作っているのは、結局シンボルだから、

シンボル的なものを入れるのがベストかなと・・・。
という気持ちを僕は持っています。

 

でも、ケイトの場合はもっと、ベンチとかもっとみんなの使う遊び場とか
そういうのをすごく目指している・・・。

 

ケイト トムソンさん
私は、コミュニティー・ライフの舞台装置みたいなのを創るのがいいかなと・・・。
それでみんなリフレッシュするとか。
子供だけでなく大人もみんな一緒に遊ぶスペースと、イベントを
一緒に作るのが私は面白いです。

 

 

日下
片桐さんはシンボル的な彫刻、
ケイトさんは遊び場的な彫刻を創作されているのですね。

 

 

片桐 宏典さん
僕が行ったオーストリアのリンダブルン彫刻シンポジウムというところは
ずっと遊び場やコミュニケーションの場という

パブリックスペースをずっとテーマにやっていました。

 

20年以上続いている彫刻シンポジウムの、

石の作品が立ち並ぶ彫刻公園を持っているんですが、

僕が行ったときは、5人から20人ぐらいの彫刻家のコラボレーションで、

コミュニティスペースや遊び場などを作っていました。

彫刻公園の外でも三つぐらいつくりました。

 

そこでテーブルやベンチは必需品なので、既成のものではなくて、

彫刻家自身の作ったオリジナルなモノを置くことにしていましたから、

イヤと言うほどやりました。
もう、しばらくたくさん、という感じです。(笑)

 

あるときは、2ヘクタールほどの市立病院の庭全部のデザイン、

たとえば噴水と池、植栽計画、歩道とベンチやテーブル。

それですべての制作とかをコラボレーションでやったこともあります。
彫刻の実験としては十分すぎるほどやったと思っています。

 

 

日下
そうですか。それだけアートでコミュニティーに関わることの
素晴らしさと課題点が見えていらっしゃるというのも
圧倒的な実績がおありだからだと思います。
素晴らしいお話をありがとうございました。

 

 

 

 


シクロス1982

シクロス国際彫刻シンポジウム、

マティアス・ヒッツ氏(左)と片桐宏典さん(右)、

1982

 

 


諏訪1978

諏訪湖国際彫刻シンポジウム、

横沢英一氏(右)と片桐宏典さん(左)、

1978
 

※ 作品写真の中で「共働制作」と表記のあるものがあります。

この「共働制作」について、他の「共同」、「協同」との違いを片桐 宏典さんにお伺いしました。

 

片桐 宏典さん 

*「共働制作」としたのは、単にモノをデザインする段階の「共同制作」だけではなく、

 完成までを一緒に考えながら、一緒に作業、労働して進めていくことを強調したかったのです。

 デザインが出来れば、あとはそれを作るだけ、ではなく、

 作っていく過程においても、常にデザインが修正されていく可能性があるので、

 素材と向き合う作業過程もとても大切なのです。

 また、ディテールの中にこそ互いの個性と感性が反映されなければなりません。

 

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編集後記

 私が片桐 宏典さん、ケイト トムソンさんに初めてお会いしたのは、
私が大学の副手1年目の冬に、お二人の住む岩手県岩手町にある㈲浮島彫刻スタジオを
訪問した時でした。 大自然の中の
広いスタジオに姫神産の巨大な原石が置いてあり
「大学の石彫場とはスケールが違う!」と感動したのを覚えています。

 

 片桐 宏典さんは私が学生の頃から、

「宮城教育大学の在学中から、そのままヨーロッパに渡って彫刻家になっている方」として

有名な存在の方でした。
今現在は、1年の半分ずつをイギリスと日本で行き来しながらの活動をされているそうです。

 

 今回は片桐さんがたくさんの国際彫刻シンポジウムに参加されたご経験から、
アートでコミュニティーに関わる実践のお話をお聴かせ頂きました。

 

 特に岩手町での実践は、本当にその町の住人になってこそ出来る

偉大な取り組みだったと思いますし、JR沼宮内駅のモニュメントは

まさに新幹線で岩手町に降り立つ時の町の顔になりました。

 

片桐さんは岩手町国際彫刻シンポジウムの副実行委員長をされていましたが

(実行委員長は浮中保さん)、私が参加させて頂いた第25回ではケイト・トムソンさんと共に

多大なサポートを頂きました。とても感謝しております。


 次回は、複数の芸術家の共働制作プロジェクトで環境彫刻に取り組まれた事例をお話頂きます。

どうぞお楽しみに。

 

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◆片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんのホームページ
 浮島彫刻スタジオ 

 

 

スターリング大学(イギリス)での展示
 片桐 宏典さんの紹介ページ 

 

 スターリング大学 Corridor of Dreams 「夢の回廊」 インタビュー動画)

 (全23分中、お二人と作品が映るのは11:30~15:30頃です。)

 

 

◆開催中の展覧会です。

「詩的抽象」二人展 / ケイト・トムソン+片桐宏典
ケイト・トムソンの大理石彫刻、片桐宏典のスウェーデン黒御影石彫刻、伊達冠石彫刻、ドローイングなどを展示。

■会期:2016年9月23日(金)—10月23日(日)
■会館時間: 午前11時---午後5時
■休館日: なし
■会場Milton Gallery,  Milton of Crathes, Banchory, AB31 5QH, Scotland, UK
tel:Tel: UK (01330) 844 664,

■オープニング:9月23日 午後6時 -9時

※ ちょうどスコットランドにいる、という方はぜひご覧ください。

 

 

日本・石の野外彫刻―ストーンアート写真集
  藤田観龍 著(写真)  本の泉社

 

 片桐 宏典さんの作品写真と手記「石彫というジャンル」(318ページ)
 ケイト トムソンさんの作品写真が掲載されています。


 

彫刻家 片桐 宏典さん 第1回続き 略歴のご紹介

 

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