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これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『そして僕は途方に暮れる』(2023)

原作は三浦大輔作・演出の戯曲。

 

監督・脚本 三浦大輔(『何者』『娼年』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』他)

音楽 内橋和久

エンディング曲 大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」

 

藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司、他。

 

フリーター菅原裕一(藤ヶ谷太輔)鈴木里美(前田敦子)と5年も同棲している。一度は母親に会わせたこともあるが、具体的な進展はないままほぼヒモ的な自堕落生活を送っていた。

初冬を迎えようとしているある日、裕一の浮気が発覚する。冷静に話し合おうとする里美に裕一は家を出るという行動に出る。逃げだ。とりあえず同郷のよしみ、親友の今井伸二(中尾明慶)のところに転がり込む。しかし裕一の暮らし方は里美と同棲してた時とひとつも変わらず、その怠惰さを責められ1週間で伸二のもとも去ることになる。次に大学時代に所属していた映画サークルの先輩でありバイト先の先輩でもある田村修(毎熊克哉)を頼る。今度は気を利かせて先回りをするような行動を取るが、逆に甘く見られ、やはり1週間でそこも去ることになる。その次はやはり映画サークルの後輩で今現場にも携わってる加藤勇(野村周平)と連絡を取る。けれど後輩のリスペクトの眼差しに、これまでの経緯を話すことはできても泊めてくれの一言がプライドが邪魔して言えない。事の行く末は必ず教えるとだけ約束して別れる。

里美にはもちろん、伸二にさえ再度連絡することをやめている裕一。移動のために使ってた自転車も盗まれた。スマホには多くの人の連絡先が連なっているが、本当に頼れる人は少ない。ついに身内、姉香(香里奈)を頼るも、金の無心を母親智子(原田美枝子)にしていたことがバレていて、それが自分のところへ飛び火していることをなじられる。たまりかねて勢い飛び出した裕一は、北海道で一人暮らしをする智子のいる実家に帰ることにした。

リウマチを患いながらも懸命に世話をやこうとする智子。近い将来実家をたたむことなども話す中、裕一は実家に帰ってくる意向を示す。すると智子が新興宗教まがいのセールスに首を突っ込んでいることが判明。恐ろしくなったのか、裕一は逃げ出すように実家を後にする。

さていよいよこの先どうしようか行くあてもなくバス停に座り込んでいると、浮気が原因で離婚になった父親浩二(豊川悦司)と再会する。拾われる形で裕一は浩二としばらく暮らすことになる。その暮らしの中で、浩二の生き方と自分の生き方の共通点に本気でこの後の生き方を変えなければならないと焦燥感を持つも、居心地は悪くなく、具体的に何かするわけでもなく過ごしていた。が、電源を切っていたスマホを立ち上げてみると、里美からの電話が4日前から立て続けに入っていた。留守電を聞いてみると、母親が倒れ入院したとのこと、慌てて向かうその途中で、里美と伸二と鉢合わせになる。幸い母親はすでに自宅に戻ってるという。

実家に行くと香もかけつけていて、しばらくして父親もやってくる。香、里美、伸二、父と母とで新年を迎える形になり、そこでこの一か月ちょっとの間逃避行していた裕一は初めて心の奥底を吐露する…。

さて、新しい気持ちで人生を生き直そうとする裕一は、里美とのやり直しから始めるつもりだった。けれど、里美に思わぬ事態を告白される…。

 

舞台演劇だったのがわかる。そしてやはり生舞台と映像は違うなと思った。生舞台で観たら面白かったろうなと思った。

 

母親とのくだりで、母としてはしっかり生きろとメッセージしたつもりなのだろうが、逃げ癖のついてる裕一にはうっすらわかってはいても素直に受け止められない。そこで、ああ本当に裕一はダメ人間、クズ人間なんだなと思った笑。さらに父親の生き方を見るに、遺伝子かと諦念した笑。

裕一はみんなの前で自分の至らなさ、情けなさ、そして改心を涙ながら語るのだが、おそらく、それは本気、本当に今そう思ってるしそうしたいと思ってきた人生だろう。でも、実行には移せず、これからもたいした変化もなく生きていくんだろうな。性質だから。


そんな裕一でも、誰かにとっては愛らしく守ってあげたくなる、そこに居るだけでいい存在になると思う。いろんな人間がいるから。

 

藤ヶ谷太輔はいいと思ったことはなかったけど、このキャラクターは良かった。

 

★★★(★)

 

 

 

 

配給 ハピネスファントム・スタジオ

 

 

 

 

『天狗の台所』(2023)BS-TBS 全10話

原作は田中相の漫画。

 

監督 長嶋翔下田彦太林田浩川川井隼人

脚本 岨手由貴子(『あの子は貴族』他)、山田能龍天野千尋(『ミセス・ノイズィ』他)、熊本浩武(『直ちゃんは小学三年生』他)、ナラミハル

音楽 VaVa

主題歌 折坂悠太「人人」

 

駒木根葵汰、越山敬達(こしやまけいたつ)、塩野瑛久、浅茅陽子、原田泰造、渡辺真起子、本田博太郎、村山輝星(むらやまきらり)、角田晃広、市村優汰、白鳥晴都、他。

 

父母(原田泰造、渡辺真起子)とニューヨークで暮らす少年飯綱オン(越山敬達)は、14歳を迎えるにあたり、実は飯綱家は天狗の末裔であり、14歳の1年間隠遁生活をするしきたりがあると告げられる。嫌々ながらも日本の自然豊かな農村地で生活する兄飯綱基=いづなもとい(駒木根葵汰/少年期:白鳥晴都)のもとへ行くことになる。

基はオンがまだ赤ん坊の頃隠遁生活に入り、背中に羽が生えたことからそのままその地で暮らすようになったので、14年会ってないことになる。もともと性格がクールで必要最低限のことしか話さない。そして食にしか興味がいかない基。一方、田舎の不便な生活は都会っ子のオンは退屈極まりない。互いに兄弟としてどう接していいのかわからない。さらに天狗の末裔といっても、羽が生えてるといっても、何か特別な能力があるわけでもなく、淡々と日々食を中心に据え過ごす生活。ただ、基もオンも、基の愛犬むぎ(声:角田晃広)の声が聞こえる。隠遁生活をしにくる天狗の末裔たちはその間だけはむぎの声が聞こえるのだ。

ぎこちない二人の間に入るのが、基と一緒に隠遁生活を送った愛宕有意=あたごゆい(塩野瑛久/少年期:市村優汰)で、有意はその後通常の生活に戻り、今は週末だけ基のもとへ通ってる。有意は明るく、フランクで、オンも一番に心を開く。

基と生活していく中で、自然の恵みを知り、生命の偉大さも知り、オンも食べることが好きなことが幸いし、基を「兄ちゃん」と呼ぶなど少しずつ兄弟の形が出来ていく。

また、去年隠遁生活を送った比良山珠緒(村山輝星)と接することで、人の心に寄り添う気持ちも育まれる。

そうこうして順調に転じた隠遁生活も期限の1年が来ようとしていた。オンの背中には羽の紋様が現れ、隠遁生活が終わった後の選択が重くのしかかる。ニューヨークから父母も訪れ、親の気持ちも知る。そして「隠遁納め」の行事後、オンの出した答えは…。

 

面白かった。

手間のかかる料理を毎回作り、食の大切さを教えられる。本当に自然の恵みによって生かされてると感じる。有意の社会生活をも描くことで、自然と暮らすことの贅沢さ、それは心の栄養にもなる、ということも説得力をもって説かれる。でも、だからといって田舎への移住ブーム(もう落ち着いたかな?)へ飛びつくのは危険。合う合わないの前に、これはフィクションだ。

 

ところでなぜニューヨーク在住かって、そもそも父親がエリス・ウィルソンという日系人で、母親飯綱一乃が留学中に知り合ったという設定だった。そして一乃は弁護士でエリスがその秘書という職業だった。そのせいかどうか、14年ぶりに一家団欒する回があるのだけど、基への愛情表現が淡々としてて、日本人としてはもう少しウェットであって欲しいなぁと思ってしまった。

 

これはシーズン2もあるようで、そりゃあるだろうなと思うくらい良い作品だった。2も見たいな、配信来ないかな。

 

駒木根葵汰はハマり役。こういう落ち着いた雰囲気のあるキャラクター合う。

越山敬達、等身良く、足も長いので180センチくらいには育ちそう。演技もうまいので将来有望かと。

 

★★★★(★)

 

 

 

 

 

 

 

テアトロコントspecial『惚て並み拝見』(2025)惚てってるズ 第二回公演 ユーロライブ

 

脚本 田川啓介(水素74%)、石黒麻衣(劇団普通)

演出 石黒麻衣(劇団普通)

 

惚ってってるズ:金子大地前原瑞樹三村和敬

ゲスト:中尾有伽

 




①「希望の島」(脚本・演出:田川啓介、石黒麻衣)

リーダー気質の馬場(金子大地)と友人の佐藤(三村和敬)は船が座礁し、無人島にたどり着く。他に同船していたソロキャンプが趣味でサバイバル能力に長けた山田(前原瑞樹)とで、最初は仲違いもあったものの、救助船が来るまでの間、協力し合い命を繋ぐことになる。しかし半年たっても島の前を船は通らない。そこへウニ獲りをしていた海女(中尾有伽)が漂流してくる。一人の女が入ることでまた状況が変わっていく…。

 

 

②「遠出」(脚本・演出:石黒麻衣)

プロポーズこそまだだが、結婚を前にした男(前原瑞樹)女(中尾有伽)、男と友達でありながら、女と何やらあるっぽい男(金子大地)、同じく男と友達かつ女の妹と交際している男(三村和敬)とで、映画を観にやってきた。映画の後は夕飯を共にする予定だが、それぞれの思いが錯綜し、ヒリヒリした会話、かみ合わない会話が続く…。

 

 

③「スローライフ」(脚本・演出:田川啓介、石黒麻衣)

田舎のスーパー。廃棄品など持ち帰りが許されていないもの、商品の紛失などトラブルがあり、退勤時に従業員のかばんをチェックすることになる。さっそく木村店長(金子大地)の妻ゆい(中尾有伽)が週6で働く森田(三村和敬)のかばんをチェックし、とんでもない趣味が発覚…でも、ゆいは大目にみる。次に町の有力者の息子米原(前原瑞樹)のかばんをチェックしようとするが固辞され、やりとりが複雑化する。やがて人間関係が新展開をみせ…。

 



 

シニカルコント。

今回は幕間ムービーはなく、一話が長めで5分間の休憩をはさんだ構成だった。

やはりあてがきかと思うくらいナチュラルさがあり、芝居臭さがない。1年前より演技に磨きがかかっており、惚てってるズ全員から目が離せないくらい、クセ強で良かった。

 

中尾有伽の役柄がどれも同じようなキャラクターだったのが残念だった。とはいえ、一貫性があるとも見え、表現したいことだったと言われればそうとも思えなくもなく、演劇の解釈の難しさを感じた(リピートできないし)。

 

「希望の島」が一番馴染みが良く、毒も弱く笑いに転換しやすく面白かった。

「遠出」、「スローライフ」といくにつれ、重くなっていった感じだ。「遠出」では普段の会話の曖昧さ、無意味さが露呈された感じ。「スローライフ」に至ってはそのタイトル、皮肉かと思うくらい緩い生活から生まれる鬱憤、トゲが見えた。

どれも都会的ではなく田舎臭い印象で、それがなんともいい風味だった。

 

 

(観劇日 20250430)

 

東京 ユーロライブ 20250425〜0430 全9公演

 

 

 

 

 

第一回公演の幕間ムービーが公開されました。

 

 

 

 

 
惚てってるズによるオリジナル脚本演出で作品を観たいと思ってきたけど、変に色がつくよりは他から作品をもらってきたほうがいいような気もしてきた。三人とも演技力は素晴らしいから、どんなキャラクターでもこなせると思うし、そこで贅沢を言うなら、想像もしなかったキャラクターを演じて見せて欲しい。それを、繋ぎ合わせられる映像作品ではなく、生で一発勝負の舞台で観てみたい。

 


 

『ゴールドボーイ』(2024)

原作は紫金陳(ズー・ジンチェン)の小説(「悪童たち」)。

 

監督 金子修介

脚本 港岳彦(『あゝ、荒野』『ぼくが生きてる、ふたつの世界』『正欲』他)

音楽 谷口尚久

主題歌 倖田來未「Silence」

 

岡田将生、羽村仁成(はむらじんせい)、黒木華、星乃あんな、前出燿志(まえでようじ)、松井玲奈、北村一輝、江口洋介、花澄(かずみ)、中村久美、矢島健一、三浦誠己、東恩納瑠花(ひがしおんなるか)、グレート-O-カーン(グレート・オーカーン)、他。

 

沖縄で幅を利かせている東ホールディングスの代表取締役夫妻(矢島健一、中村久美)が崖から落ちて命を落とす。たまたま浜辺で写真を撮っていた中学生の安室朝陽(羽村仁成)上間浩(前出燿志)上間夏月(星乃あんな)の動画にその様子が映っており、それは婿養子の東昇(岡田将生)が突き落とした様子だった。朝陽は東昇に動画を売りつけることを思いつく。

朝陽と浩は幼馴染みだったが、父親(グレート-O-カーン)の再婚で浩は地元を去った。しかしこの度、再婚相手の娘夏月が父親に手を出され、刺し逃げて来たのだった。母子家庭で母親(黒木華)は忙しく、朝陽もまた離婚した父親(北村一輝)再婚相手(花澄)に連れ娘のアキ(東恩納瑠花)を殺したと執拗に追われている事情から、事の次第を聞いた朝陽は二人を受け入れる。13歳という年齢から罪には問われず最終的には施設へ行くことになろうから、その前に浜辺で写真を撮ろうということになったのだった。

さて、昇は婿養子の立場から、妻の静(松井玲奈)をも亡き者のしなければ財産を手に入れられない。昇とはうまくいってなかった静は不信感を持っており、親類縁者でもある刑事東巌(江口洋介)に相談、自分に万が一のことがあったらそれは昇に殺されたということだと残し、亡くなる。

完全犯罪を企てた昇だったが、朝陽らの登場で更なる犯罪に手を染めざるを得なくなる。朝陽らも利を取るために行動を止めない。そうして重なる新たな計画犯罪の先には…。

 

クライムサスペンス。子供ながら観察力の鋭さ、その観察力は純真な気持ちから生まれていること、推理も混ぜ、巧妙で、面白かった。

これはサスペンスなのでネタバレするのはもったいない。手口はともかく流れが良く、記録しときたいところだが。

 

岡田将生の神経質な感じ、羽村仁成の滔々とした雰囲気、前出燿志のあどけない年相応のやんちゃさ、星乃あんなの思春期を迎えようとしている女の子の甘さ、など、演技がとても良かった。

 

ところで全体を観て何か違和感を覚えて、よくよく見てみれば、原作者が中国の作家だった。それが悪いとか良いとかいうことではなく、日本人の感覚と違うなと感じたということ。日本の制作陣にアレンジされていてもだ。

 

★★★(★)

 

 

 

制作 チームジョイ

配給 東京テアトル、チームジョイ

 

 

 

 

 

でもひとつだけ。日本は性善説ありきで、法治国家というお国柄のせいか、こういう犯罪ものはほぼ法で裁かれる結末になる。原作がどうラストを描いているのか、未読なのでわからないけど、私的にはラストにもっと煮えたぎる思いを残してもいいかなと思った。

 

 

『ブルーピリオド』(2024)

原作は山口つばさの漫画。

 

監督 萩原健太郎(『サヨナラまでの30分』他)

脚本 吉田玲子(『のぼる小寺さん』他)

音楽 小島裕規 “Yaffle”

主題歌 WurtS「NOISE」

 

眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、兵頭功海、秋谷郁甫(あきやいくほ)、中島セナ、薬師丸ひろ子、江口のりこ、石田ひかり、三浦誠己、やす、他。

 

成績は優秀、だけどちょっと不良の部類、つるんで楽しくやる友達はいる、そんな矢口八虎(眞栄田郷敦)だが、特にやりたいこともなく、与えられた目の前の物事に取り組んで流すように毎日を送っている。両親(やす、石田ひかり)は共働きで決して余裕があるわけではなく、大学に進学するなら国公立に限られている。能力から当然のように東大を目指していたが、ある日美術室で一枚の絵に魅せられ、その描き手の先輩森まる(桜田ひより)、思いがけぬ評価を得た授業で描いた青く染まる渋谷の絵、その美術教師であり美術顧問の佐伯(薬師丸ひろ子)、日本画を目指す美術部員であり腐れ縁の同級生トランスジェンダーの鮎川(高橋文哉)の存在が影響して美術部に入部する。すぐに絵画に夢中になり、スタートが遅い分は持ち前の解析・分析力、そして並々ならぬ努力でカバーし、東京藝術大学を目指す。

美大予備校にも通い、そこで天才肌の高橋(板垣李光人)に出会う。また、共に受験を戦う仲間(秋谷郁甫、中島セナ)も得る。合格までのおよそ2年間の話。

 

ある程度の素地は必要であるにしろ、努力でなんとかなる場合もある、と言っているような作品だった(原作未読)。努力というのは基礎であり、感性が素地。この感性は誰にでも備わっているはずで、自分の中へ入り込むことが出来るかどうか、のような気がする。だいたいの人は入口1メートルくらいで扉を閉じてしまう。そんな気がする。

 

八虎が魅了される森まるの絵の魅力がまったくわからなかった。そもそも絵はわからないのだけど。デッサンの上手い下手はわかる。その上での「目を引く」というのがわからない。

よく、絵画好きは絵と会話が出来るらしいと聞くのだが、音楽や映像と同じことなのかな?

 

眞栄田郷敦はハマり役だった。高橋文哉も板垣李光人も良かった。パティシエを目指すことになる友人恋ヶ窪晋兵頭功海も良かった。予備校の教師大場江口のり子も良かった。どんな役でもこなすすごい。

 

★★★

 

 

 

 

制作 C&Iエンタテインメント

配給 ワーナー・ブラザース映画

 

 

 

 

 

『PERFECT DAYS』(2023)

 

監督 ヴィム・ヴェンダース

脚本 ヴィム・ヴェンダース高崎卓馬(『ホノカアボーイ』他)

 

役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和、田中、甲本雅裕、長井短、犬山イヌコ、モロ師岡、あがた森魚、松金よね子、安藤玉惠、松居大悟、芹澤興人、研ナオコ、水間ロン、他。

 

都内数カ所のトイレをまわる清掃員の平山(役所広司)のルーティン化された日常をたんたんと撮し、何も変化や目新しいことがないようで、実は細かく昨日と違う事、数日前と変わった今、が描かれる。それは自然の恵みだったり、人とのわずかな、一瞬の触れ合いだったり、自分以外の人間も動いてるからこそハプニングが起こり、そこからの心の機微だったり、退屈な繰り返しに見えて実は大きく人生に影響して、一日一日が息づいているのだと教えてくれてるような作品だった。

また、平山の過去や親族関係(実妹ケイコ麻生祐未)も描かれるのだけど、すべては描かず、語りもしない。観ているこちら側が過去から今へつながる関係性を想像するだけ。でも実際、他人の事など一から十までわかるわけもなく、知ることもできないのだから人物を描く上では正しい。もちろんわずかなりとも接触する人々の詳細も、言葉での説明ではなく、行動や表情、景観から観てるこちら側の経験値をもとに読み解き情感に浸るスタイル。平山に関していえばプラスして、車内オーディオで聴くカセットテープの音楽で、その日、その時の気持ちを表しているかのようだった。

そしてラスト、「パーフェクトデイ」を聴きながら半笑いで平山は涙をこらえる。言葉ではなく、物語でもなく、感情が伝染する。素晴らしい映像表現だった。

 

行きつけのスナックのママ(石川さゆり)の元夫友山(三浦友和)と話すシーンがある。友山はガンだと告白し、元妻に会いたくなったのだと言う。そして初めて会う平山に泣き言を漏らす。

「なんにもわからないまま終わっちゃうのかなぁ」

と。

グッと胸を掴まれた。

世の中はわからない事だらけ。健康な時は考えもしない時間は限りがあるということにやるせなさでいっぱいになる。なぜ、もっと知ろうとしなかったのか、なぜ、もっと懸命に生きなかったのか、なぜ、もっと大切な人を大事にしなかったのか、なぜ、生きるのか死ぬのか。

 

住んでる古いアパートはメゾネットタイプで、居室となる2階は趣味の鉢物と寝床、わずかな着替え、文庫本にカセットテープとラジカセくらいしかなく、まるで世捨て人かせいぜいコンパクトに生きるミニマリストみたいだ。でも、姪のニコ(中野有紗)が泊まりに来た時、平山は1階の物置となった一部屋で寝る。その部屋にこれまで使ってきたであろう家具や家電、雑貨がたんまりと納められている。過去があって今がある、人生は捨てたくても捨てられないものなのだと言ってるかのようだった。

 

実は最初あまりにたんたんとしてるのでつまらないなと思いながら見てた。でも休日がやってきて再び勤務日になる頃にはだいぶ入り込んでいた。小さな摩擦に平山は何を思ったんだろう、何が起きるんだらうと、少なすぎる情報から探るように観ていたのだ。

 

キャスティングが面白い。おおかたがワンシーンしか出ていない。平山の勤める清掃会社員(電話の声だけ)に片桐はいり。猫とじゃれるたまたまいるお婆さんに研ナオコ。酔って朝を迎えたサラリーマンに水間ロン。トイレに駆け込むタクシー運転手に芹澤興人。同僚のタカシ(柄本時生)と訪れたレコードショップの店長に松居大悟。辞めたタカシの代わりに配属された清掃員サトウ安藤玉恵。駐車場の係員に松金よね子。昼食を取る境内で居合わせるOLに長井短。ホームレスに田中泯…これが舞踏パフォーマンスをする。ならではの配役に唸る。これだけではない。エキストラ的にもっといる。人と人が出会う、居合わせる、接触するってこういうことかもしれない。

 

★★★★(★)

 

 

 

 

挿入歌

「THE HOUSE OF THE RISING SUN」The Animals

「PALE BLUE EYES」The Velvet Underground

「(SITTIN’ ON)THE DOCK OF THE BAY」Otis Redding

「REDONDO BEACH」by Patti Smith

「(WALKIN’ THRU THE)SLEEPY CITY」 The Rolling Stones

「青い魚」金延幸子

「PERFECT DAY」 Lou Reed

「SUNNY AFTERNOON」The Kinks

「朝日樓(朝日のあたる家)」浅川マキ

「BROWN EYED GIRL」Van Morrison

「FEELING GOOD」 Nina Simone

「PERFECT DAY」 Patrick Watson

 

 

 

 

『体感予報』(2023)毎日放送 全8話

原作は鯛野ニッケの漫画。

 

監督 加藤綾佳船曳真珠安村栄美

脚本 髙橋名月(『左様なら今晩は』他)、船曳真珠

音楽 渡辺亮希小内喜文

オープニング主題歌 GANG PARADE「Träumerei」

エンディング主題歌 Absolute area「ノスタルジア」

 

樋口幸平、増子淳貴、村松沙友理、水石亜飛夢、他。

 

大学時代、学食で出会った漫画家を目指してる人付き合いの下手な棚田葉(増子淳貴)とイケメンで人好きのする瀬ヶ崎瑞貴(樋口幸平)。互いに惹かれたものの具体的な言葉で表すこともなく、共にいることが少しずつ増える。そして、卒業を前に、気象予報士としてそこそこ稼ぐ予定の瑞貴は漫画では生活できない葉にある提案をする。衣食住の面倒は見る、漫画を描くこと以外は自分の言うことを聞け、というものだった。そして言った通り、瑞貴は天気予報番組「エブリデイウェザー」の人気キャスターになった。

誰にも秘密で始まった同棲生活、いざ一緒に住んでみると、約束通り漫画執筆と衣食住の心配はないが、瑞貴はとんでもない暴君で、いちいち高圧的なうえ、晴れの前日にセックスを約束づけされた。そんな生活の中で、気象予報士としての瀬ヶ崎瑞貴推しの漫画仲間の万さんこと松平可奈美(村松沙友理)の存在は心のオアシスになっていた。しかし、そんな万さんとのリモート会話も許されない…。とはいえ、梅雨に入り晴れの日がなくなっていくことと、新しく若手キャスター日吉(パピコ)が配属されたことで、葉は瑞貴を求めてる自分に気づきジレンマに陥いる。

葉の連載が打ち切りになったり、万さんとの同人誌共同制作を始めたり、万さんの夫の漫画家松平篤弥(水石亜飛夢)の存在が誤解を生ませたりと、外的要因からも二人は自身の気持ちが相手に伝わってないことに思い悩む日々が続く。けれど、瑞貴にとって本当の自分を見せられるのは葉一人だけだし、葉は学食で初めて瑞貴を見た時に恋に落ちたのが事実…。

 

確かリアタイしたのかどこかの配信で見たのか、1話切りをしたドラマだった。それがここ数ヶ月、友達があまりに推してDVDまで買うというので、改めて見てみることにした。

 

結果、なかなか良かった。笑。

 

お話は言葉足らずが巻き起こすこじらせ両思い。内心を語るモノローグはいい感じの台詞で出来ていて、すべてわかりやすい。現在軸から過去を描き、話を補完してもなお8話という話数に収めたのはすごい。だいたい冗長になり、無駄が出る。でもこのドラマはきちんと伏線を張り、すべて尺内で回収していった。原作は読んでないのでわからないけど、構成のしっかりさが見て取れる。カレーのくだりなどとても微笑ましい。と思うくらい各エピソードが固められてる。

そして、葉役の増子淳貴のいちいちの表情が素晴らしい。また、オタク仲間の万さん役村松沙友理が魅力的で、独り言は当然ながら葉との掛け合いがまさにオタクで面白い。万さんの夫役水石亜飛夢もハマってて良かった。

作品とは関係ないけど、樋口幸平は田中樹に似てるなぁと思いながら見ていた。ちょっと痩せすぎかなぁと思ったけど、原作キャラには合っているんだろう、そんな感じ。

 

一度は切った作品も改めて見てみると案外良かったりと、けっこう気づかない。またはその時の気分と合わなかっただけ、とかの理由で「つまらない」としてしまってるのも多いだろうと自覚した。一応体調も気力も整えて見るようにしてるけど…もうちょっと真剣に作品を見ていかねばなぁと思った次第。現場の人間は精魂込めて製作しているのだものね。

 

★★★(★)

 

 

 

 

 

 

 

『フランケンシュタイン』(2025)東京建物 Brillia HALL

 

2014年韓国初ミュージカル。原題『프랑켄슈타인』(フランケンシュタイン)。

日本では2017年、2020年、に次いで3回目。

 

脚本・歌詞 ワン・ヨンボム

音楽 ブランドン・リー

 

潤色・演出 板垣恭一

訳詞 森雪之丞

振付 黒田育世当銀大輔

 

ビクター・フランケンシュタイン/ジャック:中川晃教、小林亮太

アンリ・デュプレ/怪物:加藤和樹、島太星

リトル・ビクター:鈴木琉音、下永龍正

リトル・ジュリア:森田みなも、杉山穂乃果

(ダブルキャスト※太字は観劇日のキャスト)

 

ジュリア/カトリーヌ:花乃まりあ

エレン/エヴァ:朝夏まなと

ルンゲ/イゴール:鈴木壮麻

ステファン/フェルナンド:松村雄基

 

アンサンブル:笠原竜司、栗山絵美、石川新太、松村曜生、三木麻衣子、齋藤桐人、宇部洋之、山田裕美子、宮野怜雄奈、半澤昇、 荒木啓佑、りんたろう、伊宮理恵、吉田萌美、松田未莉亜、江見ひかる、杉山真梨佳、荒川湧太、田中真由

スウィング:高木裕和、大川永





 

19世紀。戦時中もう一歩のところでビクター・フランケンシュタイン(小林亮太)に命を救われたアンリ・デュプレ(島太星)。幼少期、医者の父をもってしても母親をペストで亡くし助けられなかったことをきっかけに、命について考えるようになり、生命を創造することに夢中になった科学者ビクターと、軍医として活動をしていたアンリが意気投合するには時間がかからなかった。アンリはビクターの助手として共に研究実験を進める。

しかし戦争が終わると新鮮な死体、特に欲していた脳が入手しづらくなった。そこで葬儀屋を通して頭部を手に入れる手はずを整えるが、その葬儀屋に金のために殺人を犯され、ビクターがあらぬ疑いをかけられる。ビクターの考えに心酔しているアンリは、研究を続けて欲しい一心でビクターの身代わりになり処刑される。ビクターはアンリの意志も汲み、またアンリを復活させたい思いで実験室に籠る。そうして生まれた新しい生命は、見た目はアンリでも中身はビクターのことはおろか、自分のことさえわからない怪物(島太星)だった…。

怪物がビクターのもとを去って3年の月日が流れる。ビクターは幼馴染みのジュリア(花乃まりあ)と将来の約束を果たし、怪物(アンリ・デュプレ)は行方知れず。ただ、ここ最近森のあちらこちらで動物の死骸が発見され、人々は恐怖を抱いていた。

怪物はこの3年間、まさしく怪物として扱われ、闘技場を営むエヴァ(朝夏まなと)ジャック(小林亮太)夫婦によって拾われ見世物にされる。ここで同じく人間以下の扱いを受けているカトリーヌ(花乃まりあ)と出会い、言葉を覚え、人間のいない地に行きたいというカトリーヌに心を寄せる。しかし、金貸しのフェルナンド(松村雄基)にそそのかされ、雇い主のエヴァ、ジャック、そして唯一心を許し合えた怪物を裏切る行動に出る。カトリーヌを失い、居場所もなくなった怪物は再び彷徨うことになる。

昨今の不穏な状況に、とうとうジュリアの父ステファン(松村雄基)の刺殺体が見つかる。その犯人にビクターの姉エレン(朝夏まなと)が仕立て上げられ、処刑されてしまう。エレンの遺体の前でまたも命の復活を施したい思いに駆られるビクター。そして前後して全てを思い出したかのような怪物が現れる。ビクターへの復讐を誓って…。

怪物として命を与えられ不遇の道を歩むことになった者、命を繋ぎ留めたい純真な思いから怪物を造ってしまった者、怨恨と贖罪、復讐と後悔、二人は対外的には分かり合えないまま、その一生を終える…。

 




 

一幕の始まりが一幕の終わりで説明づけられる。そして新たな展開となる二幕へ続く構成はとても良かった。同じく二幕の始まりも、一幕がビクターの記憶を中心に語られるのに対して今度は怪物の記憶で語られるのもわかりやすい。ざっくり言うと、一幕はビクターのそれまでの人生、二幕はその後の怪物の人生だった。

この作品の見どころとしては、一幕と二幕とで、メインキャストが、キャラクターが正反対の二役を演じるところらしい。なるほどそうで、比べてみるとどちらのキャラクターが合っているかとか、魅力的かとか考えてしまう、そういう楽しさがあった。ちなみに、ビクターよりもジャック、ジュリアよりもカトリーヌ、ルンゲよりもイゴール(しゃべらない)の方が役者が魅力的に見えた。特に小林亮太の声質がジャックにピッタリのように思えた。

 

ビクターとアンリの友情がひょっとするとBLのノリにも見えて、邪ながら萌えポイントも多かった笑。それがカーテンコールでのお互いやりきったという喜びにあふれたパフォーマンスで昇華された感じだった。キャスト陣のそういった高揚感が見られると、やはりこちらも満足度が上がる。


笑いもあるし―主にビクターの執事ルンゲ(鈴木壮麻)とのやりとり―、話の流れもスムーズだし、中盤までは良かったが、ラストへ向かう流れが冗長。しつこい。その上、ビクターが救われないし、アンリの気持ちも救われないで終わる。ただの逆恨み物語になっての終焉はどうなんだろう? 必要な言葉がなく、余計な言葉が重なっていく。せっかくの友情、生命の冒涜ではあるけど理想に燃える思い、人間愛がすべて潰された印象。そしてラストは北極の地という設定だと思うのだが、すでにその設定が無理があるんで陳腐。北極は怪物とカトリーヌが辛く悲しい人生を共有し合うシーンで楽園として出てくる。その流れ上持ってきたのだろうけど、その地を実際に使う必要はない。目指すだけで充分伝わる。


見どころはあるし、ミュージカルを堪能するには充分な歌唱が続くので、それなりに楽しめる。

 

ブリリアホールは音響いいと思う。席は遠かったり色々だけど、だいたいいつも真ん中で観られてるせいか?

 

 

(観劇日20250416)

 

 

 

東京:東京建物Brillia Hall 0410~0430

愛知:愛知県芸術劇場大ホール 0505~0506

茨城:水戸市民会館グロービスホール 0510~0511

兵庫:神戸国際会館こくさいホール 0517~0521

 

 

 

 

 

 

 

 

『BLUE GIANT』(2023)

原作は石塚真一の漫画。アニメーション映画。

 

監督 立川譲(『モブサイコ100』シリーズ、他)

脚本 NUMBER 8

音楽 上原ひろみ

 

絵コンテ 立川譲寺岡巌望月智充木村智

キャラクターデザイン・総作画監督 高橋裕一

アニメーション制作 NUT

 

地元宮城県仙台編と東京上京編、その後渡欧、渡米編があるようで(原作未読)、この映画は東京編をメインに登場人物のこれまでの経緯を描きつつ、東京での成功をおさめた主人公宮本大の輪郭を周囲の人間らが語る形で構成されてる。

 

宮本大(声:山田裕貴/演奏モーションキャプチャー:諸星翔希/サックス奏者:馬場智章)は高校生の時にジャズに出会い、半年教室に通ったもののあとは独学でテナーサックスを体得、世界一のジャスプレイヤーになるために上京する。

東京では大学に通っている玉田俊二(声:岡山天音/ドラム奏者:石若駿)のアパートへ転がり込み、バイトをしながら橋の下でサックスの練習に勤しむ生活を始める。そしてジャズライブハウスをはしごする中で魅力的ななピアニスト沢辺雪祈(声:間宮翔太郎/ピアノ奏者:上原ひろみ)を見つけ一緒に組もうと誘い、上京時最初に入ったジャズバー「TAKE TWO」のオーナーアキコ(声:木下紗華)の好意で店が練習場所となる。さらにドラムが必要と探し始めた時、ちょうどサッカーとお別れした玉田に打診、三人でジャズバンド「JASS(ジャス)」を組む。目標は都内でも一流のジャズを聴かせる「SO BLUE」でのライブ。しかも十代のうちに…!

無謀とも思えた目標だったが、様々な出会いをステップに、ついにその場を踏むが、雪祈が事故に遭ってしまい…。

 

と、この「SO BLUE」でのライブへ行きつくまでの東京時代の思い出語りようになっていて、この1作品では宮本だけが夢に近づくべく羽ばたいていっている「今」で終わってる。玉田は別職についてるし、雪祈は右手を複雑骨折しているのでこれまでのようにはいかないだろうことも予想づく。もちろんジャスは解散している。

 

天才の話だった。

これ、アニメではなく実写の方が表現しやすかったように思う。モーションキャプチャー使ってるし。

あと、音楽に長けてないとついていけない。殊更ジャズに精通…とまではいかなくとも多少の知識があった方が楽しめる。ただ、この音の世界を文章や漫画やで表現することには毎度感心させられる。文字や絵だけでは、物理的に音は鳴らせない。でも聴こえてくるのが表現で、毎度そこに感心させられるのだ。そう考えると、アニメでやる必要性が感じられない。実写でいい。

 

BLUE GIANTは火が最も高温になるとその炎は青色になることから、最高に熱い演奏を例えており、世界一輝くジャズプレイヤーになることをも意味しているとか。
 

★★(★)

 

 

 

 

配給 東宝映像事業部

 


声、始まってしばらくして「あれ?これ山田裕貴?」と気づく。間宮翔太郎、岡山天音はまったくわからなかった。特に岡山天音、素晴らしいな。

 

『GOLDFISH』(2023)

 

監督 藤沼伸一

脚本 港岳彦(『ぼくが生きてる、ふたつの世界』『正欲』『とんび』『MOTHER』『宮本から君へ』『あゝ、荒野』他)、朝倉陽子

 

永瀬正敏、北村有起哉、渋川清彦、町田康、有森也実、増子直純、松林慎司、篠田諒、山岸健太、長谷川ティティ、成海花音、うじきつよし、PANTA、まちゃまちゃ、他。

 

1980年。1970年代後半、イギリスはロンドンでパンクバンドセックス・ピストルズが誕生したことに影響されたアニマル(北村有起哉/若年時:篠田諒)イチ(永瀬正敏/若年時:長谷川ティティ)ハル(北村有起哉/若年時:山岸健太)テラ(増子直純/若年時:Johnny)ヨハン(松林慎司/若年時:Sena)は「ガンズ(銃徒)」というパンクバンドを組み、瞬く間に人気バンドになる。しかし活動が進むにつれ他ジャンルの音楽にも触れロックそのものに惹かれ始めるギターのイチと、パンクロックを譲れない同じくギターのハルの間で齟齬が出る。バンド内での不協和音にハルは酒と女にのめり込んでいく。そしてついにハルが恋人への傷害事件を起こし、ガンズは活動休止になる。

それから30年が経ち、イチは離婚こそすれ高校生になる娘ニコ(成海花音)がいるしスタジオミュージシャンで生計を立てていたし、テラもヨハンも別に仕事を持っていた。アニマルはいまだフラフラとパンキッシュな面白おかしい日常を送っていて、マヌケな事故を起こしお金が必要になったのを機に、イチにバンド再結成を持ちかけてきた。当時面倒をみていた原田(山村美智) を訪ね、4人は久しぶりにハルとコンタクトを取る。ハルには女雅美(有森也実)がいて、ヒモ状態でだいぶ様子が変わっていた。音を鳴らしてみても奏でることもままならない。それでもライブを目指してガンズは進むが…。

 

事前情報なく見始めて、「あれ、これ、アナーキー?」と思ったらそうだった。監督がそうじゃん(アナーキー=亜無亜危異のギタリストで初の監督作品とのこと)、と。

昔話をすれば、アナーキーが出てきた当初、その嘘っぽさ(というか日本の伝統的ヤンキーにしか見えず、なんでヤンキーがパンクなのよ、YAZAWAじゃないんかい、と)にまったく注目しないばかりかコピーバンドじゃんとバカにしていた。

私もパンクはピストルズから入り、クラッシュへ行くというお手本のような道を辿った。だから、あのイギリスのロンドンの土壌だから生まれた音楽であり、社会にアンチテーゼを掲げる若者たちの叫びなんだ!と興奮し、日本のパンクなんか嘘っぱちだと密かに息巻いていた。アナーキーが出てくる前にジャパニーズインディーズにハマっていたからなお。

実はピストルズもエンタメだったんだけどね。そして社会風刺は青さ。若さゆえの左翼志向もある。でもね、映画の中でファッションパンクであることは当事者たちがわかっていたんで、私の感性も捨てたもんじゃなかったなと思ってみたり笑。

 

閑話休題。

 

ハルはパンクに憧れ、翻弄され壊れていく。バックドアマン(町田康)が現れ、ガンズ休止から30年も経っても何者にもなれなかったことをつきつけられる。自分を探し、ただただ生きながらえていたことに絶望感がはっきりしてしまったのだろう、ハルは死ぬ。(伝記映画の様子だが、実際がどうだったのかは知らない)

曲がりなりにも音楽を続けられてるイチはどうなのか、破天荒に見えてアニマルはどうなのか。違う道、生活を送っていたテラはヨハンは。確かなことはバンドを再結成しようと動き出した時、心の底からワクワクして高揚感に包まれた。それは郷愁でしかないかもしれない。でも我が身を振り返り怒りたっただろう、ジレンマに苛まれただろうと思う。一方で、イチの娘の変わった行動に焦点が当てられる。思うままに絵を描く。明るい未来を信じて。未来のある年代と未来が過ぎた年代の隔たりを如実に感じた。

 

思ったのは、結局ハルの気持ちはわからないということ。イチの見たハルでしかないということ。主人公はイチなのでそれでかまわないのだけど、ならばハルはなんだったのか。以前シド・ヴィシャスのドキュメントを見た時と同じ思いが残った。私たちはどんなに親しくも自分以外の人間の一面にしか触れられず、経験や学習からくる想像でしかとらえられない。それなのに創作をするのだから、クリエイターは尊敬ものだ。

 

ところで、なぜバックドアマンが町田康だったのだろう。単に時代性なのか(友情出演)、それとも恣意的なものがあるのか、勘繰ってしまう。

 

★★★(★)

 

 

 

 

配給 太秦