『ふつうの子ども』(2025)
監督 呉美保(『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』『ぼくが生きてる、ふたつの世界』他)
脚本 高田亮(『そこのみにて光輝く』『銀の匙』『きみはいい子』『オーバー・フェンス』『猫は抱くもの』『まともじゃないのは君も一緒』『さがす』『死刑にいたる病』他)
音楽 田中拓人(『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』『オーバー・フェンス』『Red』他)
嶋田鉄太、瑠璃、味元耀大、蒼井優、風間俊介、瀧内公美、少路勇介、大熊大貴、長峰くみ、浅野千鶴、菊池豪、金谷真由美、荻野みかん、他。
上田唯士(嶋田鉄太)は会社員でごくふつうの父親(少路勇介)と子育てに真摯なごくふつうの母親(蒼井優)とマンションで三人暮らしのごくふつうの小学4年生10歳。昆虫に詳しい友達の颯馬(大熊大貴)と虫取りしたり、ちょっと変わったクラスメイトメイ(長峰くみ)と遊んだり、塾通いもあったりとごくごくふつうの小学生生活を送っている。ある日の作文「私の毎日」の発表の時、誰もがたわいもない作文を発表する中、三宅心愛(瑠璃)が二酸化炭素が及ぼす環境問題について意見を発表した。唯士はその凛とした姿に恋してしまう。
まずは心愛と近づくべく、唯士も環境問題について学び始める。図書館で偶然を装いさも同じ問題意識を持っているかのように接近成功。心愛にオススメの本を教えてもらうなど親しくなれたかと思ったところで、心愛はクラスでも活発で問題を起こしがちな橋本陽斗(味元耀大)に気がある様子で、仲間に引き入れる。唯士はちょっと不満だったが、三人は環境問題に取り組むべく活動を始める。しかし、その活動がエスカレートし、負傷者が出るなどテレビニュースにも取り上げられて問題化してしまう。学校に呼び出された三人の親と、担任の浅井先生(風間俊介)、校長先生(金谷真由美)の前で、三人が答えたこととは…。
面白かった。
環境問題で有名な子供(当時)といえばグレタさんで、劇中動画は彼女がモデルになってるんだろう。子供は興味が向けばあっという間に吸収し、簡単に影響を受け、すぐさま行動に移す力がある。そんな自由な発想が形になると、時に大人をハッとさせることもあるが、たいがいが思慮の浅さで事件事故に繋がってしまう。大人は後片付けに追われる。でも、子供の心の中にも深くこの経験が刻まれ、その後の人生になんらかの影響を与えるのだ。そういうもんなのだ。という意味で、ふつうの子どもだったし、普通に子供の映画だった。
心愛の母親(瀧内公美)は子供らしい子供、ちょっと前の心愛にもう郷愁を持っており、大人びてきた心愛には大人としての態度をとる。自我を認め、代わりに自己責任力も備えようとしてる感じだ。
陽斗には弟が二人いて家では面倒見のいいお兄ちゃんとして母親(浅野千鶴)に信頼されている。そのせいもあってか母親は"うちの子に限って"派だ。それに陽斗は存外甘えん坊だ。弟たちの手前、普段甘えられないのだろう。
唯士の母親は自由に伸び伸びと真っ直ぐに育てようと格闘中だ。
三者三様の子育て、子供との向き合い方を見せ、その子供がこのように育っていたのかと、およそ意図しないところで成長してるのがなんとも…うまくいかないものだなぁと、自分が子供の頃を思い出すと、なるほど、だから今こんな大人になってるわけか、と納得もする。
親の立場で見るか、子供の立場で見るかで作品の印象が変わるかもしれない。
そういえば、颯馬の母親(荻野みかん)は親子を意識させるこれまたよくいそうな普通の母親だった。ついでに陽斗の父親(菊池豪)は尻にひかれるタイプの子煩悩な人だった。浅井先生も作文の評がさもありなんで、子供の気持ちを的確に受け止めてたり、ハズレてたり、先々を考えてのものだったりと、設定がきめ細かい。その浅井先生の風間俊介、一言一言がナチュラルですごく良かった。いや、子役まで、みんな素晴らしい表情、演技だった。
メイの存在が面白かった。天真爛漫というか、みんなより少し遅れているのかもしれない。でも唯士はふつうに接するから、どっちだろうと思ってしまった。これが大人所以かもしれない^^;。
ところで最後に心愛が唯士に「ハウデアユー」(「How dare you」なんてことしてくれるの!)と言うのだが(もともとはグレタさんの大人を非難する言葉)、それは志を持って行動していたのは自分だけで、唯士は単に自分を好きだったからついてきてたな過ぎなかったという失望感なのか、それともその想いに応えたくなった心愛の変化なのか。だいたい強く頼もしく見えてた陽斗が母親の胸の中で泣くざまを見せつけられ幻滅してるだろうし、子供が大人になる過程においては後者の芽生え始めんとする恋心がなせたことと思いたい。笑顔だったし。それが普通の子供だろう。
一方で陽斗の弟が脱力する陽斗に「はうであゆー」と投げる。ラストにも弟のその言葉が響く。意味なんかわかる年齢ではない。おそらく陽斗が教えた言葉を、語感で言ってるだけなのだ。実に普通の子供。
何重にも普通の子供がかぶさっている。大人になった自分には深い作品だった。
★★★★★
配給 murmur
あ。カメラがハンディなのか、細かく揺れていて気になったけど、でもそれがあたかも自分で記録をとってるような気になって(ドキュメンタリー的な)、リアリティの表現なのかもしれない。




