『雑魚どもよ、大志を抱け!』(2023)
原作は足立紳の「弱虫日記」。
監督 足立紳(『アオグラ』『百円の恋』『お盆の弟』『14の夜』『デメキン』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』他)
脚本 松本稔、足立紳
池川侑希弥、田代輝、白石葵一(しらいしきいち)、松藤史恩、岩田奏、蒼井旬、坂元愛登、新津ちせ、臼田あさみ、浜野謙太、河合青葉、永瀬正敏、田中美晴、吉岡睦雄、鶯上丈太(おうがみじょうた)、他。
1988年、小学校6年生になった高崎瞬(池川侑希弥)は5年ラストの成績がひどかったので、これを機に母親(臼田あさみ)に塾通いを強要されていた。妹のワコ(新津ちせ)はまだ優秀だし、父親(浜野謙太)は仕事第一で子育てはなあなあだった。
仲のいい友達は肉体的にも精神的にも強く頼りになる村瀬隆造(田代輝)。でも隆造の父親(永瀬正敏)はヤクザで、そのDVに耐え切れず母親(河合青葉)は出て行ってしまっていた。それから吃音症で不登校気味、のろまのトカゲこと戸梶元太(白石葵一)。トカゲの母親は宗教にハマっている。そして、頭が良く真面目でゲーム好き、母子家庭の星正太郎(松藤史恩)。ただ、姉は不良だ。瞬たちはよく「地獄トンネル」と呼ばれてる廃トンネルを話題にして遊んでいた。「地獄トンネル」は遊びでは肝試し的なものだが、願かけや誓いを立てたり勇気を得る特別な場所でもあった。
他に、トカゲをいじめたり、隆造をライバル視して敵対してるのが玉島明(蒼井旬)率いるいじめっ子グループ。また、近所に引っ越してきた日和見主義でエアガン好きのいきり野郎小林幸介(坂元愛登)がいる。幸介は転校早々隆造にも明にも取り入り、いいとこ取りをする。そんなだから瞬は疎外感を覚えるようになる。
結局母親に押し切られて塾通いすることになった瞬は、そこでクラスメイトの西野聡(岩田奏)と一緒になる。西野は映画好きで将来映画を作りたいと思っていて、なんとなく意気投合した瞬との関係から、隆造とも仲良くなり、クラスを巻き込んで映画作りで盛り上がる。しかし明たちにカツアゲにあっていたことが瞬とトカゲにバレて以降、学校をしばらく休んでいたなと思ったら、父母の離婚と転校が決まって会わないまま去っていってしまう。トカゲは勇気を出して西野がカツアゲにあっていたことを担任の内田先生(吉岡睦雄)に言ったのだが…。
やがて明がカツアゲするのは先輩の政ちゃん(鶯上丈太)ら不良グループのせいだと判明し、瞬はトカゲに倣って勇気を振り奮起する。同時期に隆造に家庭問題が起こり離婚のため転校していくことになる。二人は共に政ちゃんらと戦うことを決め、また、友情で繋がったトカゲや正太郎も助っ人にかけつけ、ついには明たちも仲間になって…。
子供なりの社会がそこには存在し、そこで出自や家庭で違いが出ること、だけど友情や友への好意は別次元にあること、子供時代おそらく誰しもが似たような経験をしたであろうことが散りばめられてて、共感が半端ない。主軸はいろんな出来事に感化された瞬の成長物語になってるが、仲間みんなそれぞれの成長もうかがえる。また、母親、父親の些細な、でも本人的には大きな変化も描かれてる。
とても面白かった。足立紳は『14の夜』も最高に良くて、ノスタルジーという点で通ずるところがある。
坂元愛登、まったく気づかなかった。池川侑希弥はジュニア(Boys Be)とのことだが、演技力もしっかりあり期待できる。田代輝も良かった。子役なんで、どの子がどれだけの歴があるのか知らないが、これから出てきて欲しい。
成長期なのか、本来耳障りになる声のかすれ具合もまた味となってた。
カメラワークが面白く、ワンカメ、ハンディでの長回しが多かった。その場に居合わせる臨場感というか、覗き見してるというか、ドキュメンタリー要素が感じられる。
キャラクターも特徴、差別化がしっかりあり、つかみやすい。こんなやつおらんだろ、なのが幸介なんだが、80年代の田舎町の子供と思えば有りかもしれない。
また、ふつうこんな演出いらないだろうに、この作品では必要で、内田先生と人気の祥子先生(田中美晴)の関係が良い緩和剤になっている。これを始めとしたちょいちょいのカットに緩みがあって物語を包み込んでいる。全部必要で、まとめてひとつの作品であることが実感できる。
原作が監督自身のものだし、きれいにまとめられて当然。本当に、こういう監督や脚本家の色が出る作品が見たい。
★★★★★