電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

この春から電気自動車の日産リーフに乗り始めました。この電気自動車、夢も感動もない単なる移動手段なのか、はたまた車の未来に福音をもたらす救世主なのか? 車だけでなく、日々感じたことを綴ります。ブログタイトルは勿論、P・K・ディックのあの小説のパロディーです。

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「ありがとうございました!」


自動ドアが開き、二人組のお客様が出て行くと、店内には一時の静寂が訪れた。


「今年はいろいろあったなぁ」


ガラス越しに遠ざかるお客様の背中をぼんやり見つめながら梅田半休がポツリと呟いた。


大晦日というのに、いつもの日常と何も変わらない時間が、ゆっくりと過ぎていく。
あと1時間で来年だというのに、去年の今頃はこたつに潜り込んで紅白を見ていたっけ。
そんなとりとめのないことを考えていた。



「店長、お正月はどっか行くんですか?」


不意にカウンターの後ろから、誰かが声をかけてきた。
我に返って振り向くと、そこにはバイトリーダーの二条たけしが立っていた。


ああ、二条さんか・・・
うーん、特には予定はないなぁ。お正月の特売もあるし、ゆっくり休んじゃいられないよ」


「ですよね。私もやることないから、お正月中ずうっとシフト入れちゃいましたよ」


ま、稼ぐに追いつく貧乏なしって言うからね。
今や、正月におせちを食べない人も多いっていうし、頑張って稼ぎましょう!」


「ええ、そうします」


そういうやりとりの後、また沈黙が店内を支配した。


年の瀬に中年の男2人が佇むコンビニの店内は、

侘しくもあり、懐かしくもあり、昭和の匂いがした。



ここは、練馬区は光が丘パークタウンの一角にあるコンビニ『ホーソン光が丘サンチョ目店』
梅田半休がオーナー兼店長をしている24時間営業のお店である。
場所は光が丘公園脇の住宅街の一角にあり、夜ともなれば仕事帰りのOLやサラリーマン、

出勤前のバツイチのキャバクラ女、塾帰りにたむろする中学生などでいつもは込み合うものだが、

大晦日の今夜は静かなものであった。


梅田半休がここにコンビニ店をオープンして早三か月が経つ。
梅田は半年前、内閣官房特命捜査官として防衛省情報本部の松浦に協力して、

ロシアの地殻爆弾破壊に一役買った。
しかし、六条ひとまと藤田関白に扮したヒモツグ・ドロナワコフを取り逃したことで、帰国後、
上長の上末内閣情報官に詰られる羽目になった。

危機を回避させたにも関わらず評価が低いことに失望し、
やるせない気持ちを募らせた梅田は、上末に辞表を叩きつけ、潔く退官した。


さて、辞めるのはいいとして、次は何をしよう?


あれこれ考え抜いた末に、身寄りのない二条たけしの就職も考慮して、

退職金を元手にコンビニを開業することにした。


二条は二条で、なんでもあちらの次元では「中小企業診断士」という聞きなれない資格を

持っていたそうだが、こちらの世界では勿論そのような資格もなく、

慣れないこの世界で出来る仕事といえば、コンビニのバイトぐらいであった。

二条は梅田の配慮に心から感謝し、コンビニで一生懸命働いた。
そう『ホーソン光が丘サンチョ目店』は、そんな中年男たちが再出発を期する、

愛の巣であったのだ。オエッ



その時だ。


突然、自動ドアが開いて数人の男女が雪崩れ込んできた。


「お、やってる、やってる」

サルバドーレ小林が半年ぶりの再会にも関わらず、

昨日も立ち寄った風情でレジカウンターに寄りかかってきた。

「へー 結構広いじゃん」

港野ヨーコが腰に手を当てたまま店内を見渡しながらうそぶいた。


「ほんまやな~」

セニョリータ多田が夜だというのにオレンジ色に反射するオークリーのサングラス越しに

店内を物色している。


「なかなかイイ店じゃない!」

マダム・サイババ・ミエコが、トイレの芳香剤をいじりながら、その奥の入浴剤に目をやった。


「いやいやいや、梅田さんもお元気そうで」

藤田関白がニヤニヤしながら馴れ馴れしく梅田に握手を求めてきた。


その後から、ダンディ松浦、SK‐Ⅱ・伊東、六条大麦君も続いて入ってきた。


勿論、マンゴーファイターこと私ミッションもはせ参じた。


「天井から金ダライとか落ちてきませんよね?」

そう言いながら、一番最後に茶屋団子が恐る恐る店内に入ってきた。



「おおっ 皆お揃いでどうしたの?」


梅田の顔から笑顔がこぼれた。


「どうしたもこうしたも、さえない2人組がコンビニ始めたって噂で聞いたから、

 わざわざ新潟から来たわよ」


そう港野ヨーコが言うと、それを合図に全員が声を合わせて、


  「おめでとう!」


と叫び、手に持っていたクラッカーを鳴らし、祝福の紙吹雪が舞う。


梅田が顔をくしゃくしゃにしながら「みんなありがとう!」と声を震わせる。


それを見た港野ヨーコが、


「バカね。何泣いてるのよ。2012年をみんなでお祝いしただけよ!」


慌てて梅田が後ろの壁の時計を見上げると、時刻は深夜0時を5分ほど回っていた。


「あ、ほんとだ・・・あけおめ・・・だね」


梅田が涙を手で拭いながらニッコリと笑う。


後ろから二条氏も、


「あけましておめでとうございます!」


と声をかけてきた。そして続けて、


「今年の目標は、元の世界に戻ること!早く本物のお母ちゃんに会いたいよ~」


と叫んだ。


それを聞いた六条大麦君が一言、


「じゃあ、うちに居候したら?

親父が行方不明になって以来、二段ベッドの下が空いていますから」


それを聞いたサルバドーレ小林が目を丸くして、


「え~ 六条ひとまさん、二段ベッドに寝ていたの? ありえね~」


と言うと、みんながドッと沸いた。


二条氏だけが、真顔で複雑な表情をしているのをワシは見逃さなかった。


ワシは苦笑しながらふと、ガラス越しに店外を見た。


「あれ?」


今たしか、六条ひとまと藤田関白に扮したヒモツグ・ドロナワコフが居たような・・・


目の錯覚か? それとも新たな事件の幕開けか?


急に背筋がゾッとする。


窓越しに寒月が浮かび、2012年の新風が吹きぬけて行った。



<完>

ポエジ社を後にした我々は、ライプチヒ市内に向かった。


今日ライプチヒで一泊しして、明日いよいよ帰国の途に就く。


長いようで短い、一週間であった。
これで冒険に満ちたこの旅も終わる。


その時、ワシの携帯が鳴った。
またもや組合の理事長からだ。


「どうだった? 収穫はあったかね?」


ワシは、ポエジ社での視察報告を一通りしてから、最後にこう付け加えた。


「私自身は大きな気付きを得ましたよ!」


理事長は勢い込んで聞いてきた。


「それはいったいなんだね?」


ワシは少し考えてから、こう続けた。


「それは、この道を突き進むにしても、

 未開地に分け入って新しい道を切り開くにしても、
 今、それを判断することが大事だということです。

 決断の先延ばしは許されない。
 今はもう少し状況を見極めたい、という判断でも構いません。
 腹決めすることが大事なんです。
 何とかしなくちゃと思いながら、日々を無為に過ごすことが一番の罪です。
 将来のことは考えず今できることをやる、

 というのも一見正しいように感じますが、
 現実からの逃避であり、所詮、思考停止です。
 今、楽をするものは必ず後で後悔しますよ。

 以上です。 ガチャ!」


今度は、こちらから一方的に電話を切ってやった。


ちょっと気分が晴れた。


その後、ライプチヒの有名なワイン酒場アウアーバッハス・ケラーで昼食をとることにした。


このレストランはゲーテの『ファウスト』にも登場する。



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

レストランの入り口にはファウストとメフィストフェレスの像が建つ

電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

歴史と格式を感じさせる店内の様子

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クリームスープに見えるが、中は濃厚なトマトベースだ。美味

電気自動車は仮想現実の夢を見るか?
野菜を肉で巻いてビーツと煮込んである。ドイツらしい料理だ。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?
このデザートも旨かった!



<つづく>

たしかに、ポエジ社の社長が言う、


「皆が将来を悲観しライバルが離脱すれば、逆にそこに生き残る余地ができる」

という 逆張りの発想 も、戦略の一つだ。


しかしそれは、業界全体に光が射す方法ではない


卓越した技量や、頭抜けた資金力のある、一部の企業だけが生き残る方法 に過ぎない。


ノアの方舟に乗れないものは、滅亡すればよいのか!



では、どうする?


ワシはポエジ者の社長の話を聞きながらも、頭の中では


『最も強いものが生き残るのではなく、

 最も賢いものが生き延びるわけでもない。
 唯一、生き残るのは変化できるものだけである』


というチャールズ・ダーウィンの言葉を反芻していた。


あの地球上に君臨した恐竜の末裔でさえ、生き残ったものはトカゲの親玉みたいなものだけであった。


万物は流転するのだ。すべては常に変化しているのだ。

天も、地も、生物も、人も。その営みも。

更に決定的なことは、我が業界には、電子化エコロジーという、

氷河期にも匹敵する劇的な環境変化が訪れている。


そして、そこから導かれた答えは、


今の印刷の延長線上には、業界全体を救う手立てはもう無いということだ。


日本がお得意としてきた「改善」や「改良」では

もう通用しないところに来ていると痛感した。


それは「革新」であり「革命」でなければならない。
イノベーションであり、レボリューションでなければならない。


今日の延長線上に未来がないのであるならば、
我々は、今までの成功体験を捨てなければならない。
後ろを振り返らず、リスクを取って、果敢に挑戦するしかない。
怖気づいた途端、時代という津波に飲み込まれ沈没してしまう。



イノベーションとは、新たなる価値の創造である。

それは新たなる富を生み出さなければならない。
それは新しいライフスタイルの創造であり、

新しい市場(マーケット)の創造である。
ドラッカー風に言えば「顧客の創造」である。



諸行無常、諸法無我、全てが変化する摂理の中においては、

既存のものはすべて陳腐化する。


よって、我々は
常に新しい価値を創造し続けなければならない。


そのためには沢山のアイデアを出し続けなければならない。


馬鹿馬鹿しいアイデアと素晴らしいアイデアは、

それが成功するまでは見分けがつかない。


だから、イノベーションを成功させるためには、
沢山のアイデアを実際的、現実的、効果的なものにするよう、

どうしたらよいのかを問い続け、大切に育てていくしかないのだ。



では具体的にどうするのか?


幸いにも、この続きは大阪で講演できることになった。


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帰り際、ワシが熱心に写真を撮っていると、ポエジ社の社長が語りかけてきた。


「今回の当社の工場見学の写真をいただけませんか? 

 業界誌にレポートを書くのに使わせてほしいのですが。」


「もちろんです。メールで送りますよ。」


そして、日本流の名刺交換を厳かに執り行った。


10年後、お互いの歩みはどんな結末を迎えているのか?


是非、再会したいと強く願った。



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?             

                                          中央の背の高い方がポエジ社の社長



<つづく>



工場の見学を終え、我々は2階のミーティングルームに通された。


社長は柔やかな表情で会社のあらましをあらかた説明すると、
質問はありますかと聞いてきた。


待ってました!


いよいよ我が業界を救う機密情報が明らかになる。


早速、質問が飛んだ。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


「我が日本では、長期不況の影響もあり、

 この20年で印刷物の出荷額の3割強が失われました。
 世界的に見ても、

 電子情報端末の普及、世界同時不況、エコの推進という時代の流れの中で、
 紙への印刷物は、
製品ライフサイクルにおいて完全に衰退期に入ったと

 思われますが、御社にその打開策はありますか?」


社長は少し苦笑しながら、静かに語りだした。


「そうですね。我がドイツでもその傾向は顕著です。
 この数年でドイツ国内の印刷物の総出荷額は激減していますし、

 将来的にもこの潮流は続くでしょう。
 しかし、しかしですよ!

 最後に印刷物がゼロになるかというと、それはない。
 我が社の戦略は、最後の1社になろうとも、淘汰の果てに生き残ることです。
 そのためには顧客のニーズを徹底的に聞く。
 我が社では、お客様ととことん話し合います。

 そして我が社にできることを丁寧に説明します。
 我が社は、印刷品質については絶対の自信がありますが、

 それでも顧客には夫々好みがありますから、

 印刷時にはできるだけお客様に立会いをしていただきます。
 そして納得していただいてから本格的に印刷をします。
 品質的に顧客の要望に100%応えて、指名買いしていただく。
 これが我が社の方針です。
 その結果、お客様が新規のお客様を紹介してくれるようになり、

 新規顧客は着実に増えています。
 ですから我が社は、新規営業活動をあまりしません。」


ライプチヒ大学で印刷を学んだ英才は、

最後まで自社の印刷技術と共に生き抜く決意であった。

強みを生かす経営という視点でいえば、

印刷技術に絶対の自信を持つ企業の選択肢としては確かに正しいと思う。


  逆風で荒れる大海に漕ぎ出し、嵐を抜けると、

  そこはオンリーワンの楽園であった。


美しい話であるが、その過程で多くの船が難破するだろう。
すべての船が生き残る話ではない。


はたして、これが理事長が欲する印刷業界全体を救う秘策となりえるのか?



<つづく>


「工場の中に入る前に、皆さんにお見せしたい興味深いものがあります。」


案内役を買って出た社長はそう言うと、
工場に向かう廊下に飾ってあった一つのチャートを指さした。



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


「これ、何だと思います?」


何だって言われてもねぇ。
縦軸にゼロから160までの数字が、横軸に1月から12月までが書かれている。
あっ わかった!社長の血圧管理表
だろう。
売上が少ない月は血圧が上がるから注意しろ!と、社員に警告しているに違いない。
上手いやり方だ。日本にも輸入しよう。


すると社長が説明を始めた。


「これはですね。東独時代につくられたもので、計画経済に基づいて生産を行うための表です。
 当社が創業した1979年当時、企業を興すことはとても困難なことでした。
 なぜなら1972年以降、東独政府はより社会主義を徹底させるために、5人以上の私企業を

 すべて国営化し、基本的に私企業は認めない方針を打ち出したからです。
 私の一族は、祖父は製紙、母は植字と、皆が印刷関連企業で働いていたということもあり、

 父は印刷会社を創業したいとの夢がありました。
 そこで、この計画経済に基づいた生産計画表をつくり、社会主義に合致した会社であることを

 アピールして、起業を認めてもらったのです。」


フム、お父さん苦労して起業したんですね。


社会主義は、基本的に人間の「もっと働きたい!」という意欲認めない
働きすぎてはいけないのである。競争してはいけないのである。儲けてはいけないのである。

計画以上に作ってはいけないのだ!
自由主義の経済原理は、市場における需要と供給という神の見えざる手に委ねられるが、

社会主義の経済原理はあくまで国家による計画に基づいて企画される。

所謂、レーニンによるゴエルロプランであり、スターリンによる5カ年計画である。

結果的に重工業や宇宙開発は進展したかもしれないが、人々の生活は豊かにならなかった。
皮肉にもこの計画経済に着目し取り入れたのは、戦前の日本、ドイツ、イタリアという

全体主義国家だけであった。


まあ、能書きはこのぐらいにして、工場内を案内していただくことに。



最初は、印刷用のデータをつくる作業である。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  ページを面付けする作業


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  出力用データを書き出す作業




次に、そのデータを印刷できるような版にする作業である。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  印刷用データーを大判プリンターから出力して確認


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  コンピューターから印刷用板を出力する機器(日本製)



そしていよいよ印刷。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  ドイツハイデルベルグ社製 カラー(4C)印刷機



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  ライプニッツ大学で印刷を学んだという若社長



最後に仕上げの加工である。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?  梱包作業中の社員。後ろにドイツMBO社製バインダー



驚いたことは、ここにある機械や機器のほとんどがドイツ製か日本製だということだ。
ここにある機械と同じものが当社にもあるし、製造方法もほとんど同じである。
対照的なのが、昨年、中国大連で見た印刷会社である。

中国の印刷会社は、外資との合弁企業を除けば、恐ろしく古めかしくインチキ臭いものであった。

(使っているソフトや機械がどれもバッタもの)


このあと、社長の話を聞くことに。


いよいよ我が業界を救う機密情報が明らかになるのか!?
期待と不安が交差した。



<つづく>



バスはアウトバーンを西北西の方向にひた走った。
途中、黒煙を上げ炎上するバスを追い抜く。
事故ではなく、故障のようだ。
走行中に火を噴くなんて、ありえない!


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


暫くして、バスはライプチヒ郊外の長閑な工業団地のような場所に到着した。
そして、シンプルなデザインの瀟洒な工場の前で停車した。
壁面には大きく社名らしき文字も書かれている。


Poege Druck


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


多分、ポエジ社という名前の印刷会社なのだろう。


ここライプチヒは、出版社、印刷会社にとっては聖地ともいえる場所である。
ドイツ国内で2番目に古い大学であるライプチヒ大学を擁するライプチヒは、

古くから学問、そして本の街として栄えた。
1445年、マインツのグーテンベルグが活版印刷技術を発明すると、

1481年にはライプチヒでも本が印刷されるようになる。

1530年までに1300種類もの本が出版され、

1594年からは本の見本市のカタログまで出版されるようになった。

それ以降も次々と新しい印刷所と出版社が生まれ、

ライプチヒは今日に至るまで有名な書籍、印刷の街として発展してきた。

よってライプチヒの印刷会社は、世界に冠たる歴史と伝統を有している。


ワシは組合の理事長が言った「我が業界を救う機密情報を入手せよ」

という意味がやっと理解できた。

ここに、衰退著しい印刷業界を救う何らかのヒントがあるに違いない。


ワシらは、ポエジ社の社員の方に導かれ、社屋に足を踏み入れた。
その玄関にあったものは・・・



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


うわっ、手動の印刷機に、石版ではないか!
未だにこんなものを使っているのか?
そんなわけねーか。これは単なるオブジェのようだ。


そこに若社長のアンドレア・ポエジ氏が登場。
彼が工場内を工程順に案内して下さると言う。


ドイツの印刷工場にはどんな秘密が隠されているのか?
ワシはわくわくしながら工場の奥に歩を進めた。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?
                                                         巨○の受付嬢



<つづく>


「で、今日はどうしはりますか?」


いきなり、茶屋団子が後ろから京都弁で話し掛けてきた。

おっと! 茶屋さん、いたのね。


いや、どうしはりますかって言われても、
ワシら今まで六条の指示で行動してきたからに、主体性ゼロやねん。
どないしましょ?


「あの、よろしければ、私が案内しましょうか?」


その時、二条氏が突然、名乗りを上げた。


「いや、皆さんのお話をうかがっていると、私が来たのとまったく同じ行程なので、

 驚いているんです。

 もしかしたら、私のいた世界と、こちらの世界は、ほんの少しずつ違うだけで、

 ほぼ一緒ではないのかと思います。
 えーと、今日の予定は・・・」


二条氏はそう言うと、なにやら鞄から日程表らしきプリントを取り出し、調べ始めた。


「えーと、今日は・・・あった、あった、そうそう、
 今日はライプチヒに移動して、印刷会社の工場見学をします!
 みなさん、どうします?」


は? 他の次元から来た人が何を言っているのだ。
とは思ったが、もしこれから行った先で、何事もなかったように工場見学ができたなら、

それはそれで世紀の発見である!
ええい、毒を食らわば皿までよ! 地獄の先まで行ってやる!
ワシは行くで。


一応、問題ないよね?と天井を見上げたら、SK‐Ⅱ伊東が首からメガホンを下げたまま、

頭の上に両手を掲げ、大きな丸サインつくっている。
OK、ノープロブレム。
じゃあ、行こう!


荷物をまとめて外に出ると、なぜか昨日と同じようにチャーターバスが待っていた。


至れり尽くせりやんか。 ねぇ、茶屋さん。


あれ、茶屋さんがいない。
茶屋団子、どこ行った?


すると、梅田半休がうんざりした顔で、
「今しがた茶屋さん、みんなが半袖だから、わても半袖に着替えてきますわ!
 って言って、みんなを待たせてどっかに行っちゃいましたよ。」


もう茶屋の旦那、協調性があるのか自分勝手なのか、よーわからん。


しょうがないので、皆でバスに乗って茶屋団子を待っていると、ワシの携帯の着信音が鳴った。
慌てて表示を見ると、組合の理事長からではないか!
にゃろーワシをこんな事に巻き込みやがって!
すぐさま電話に出ると、


「ミッション君、首尾は上々のようだね。
 ミッション成功の連絡を受けているよ。
 そこで今日は組合を代表して、
 いよいよ我が業界を救う機密情報を入手できるそうじゃないか!
 ちゃんと情報を入手してくるように!
 成功を祈る。ツーツーツー」


おいおい、勝手に話して勝手に電話を切るなっつーの!
せやけど、予定通ってことか。


定刻を過ぎバスが発車すると、

トイレットペーパー片手に、茶屋団子がホテルから飛び出してきた。


「運転手さん、加速してください!」


全員の声が響いた。



<つづく>

「僕が助かったのは、そんなに重要じゃないんだ・・・」


先ほどから黙っていた藤田関白が、不機嫌そうにポツリと言った。


ワシと梅田は慌てて、


 いやいやそうじゃないよ、無事で何より!
 ゴメンゴメン、いろいろあって頭が混乱しているだけなんだよ。
 いやー 助かって良かったね~
 それより朝食に行こう。
 お腹空いてるでしょ?
 二条さんもよかったらご一緒にどうぞ!


と、藤田関白のご機嫌をとりながらレストランに向かった。



レストランには、ダンディ松浦とマダム・サイババ・ミエコがいて、
二条氏と藤田関白を見た途端、目を剥いて驚いた。


ワシと梅田が状況を説明すると、二人は明らかに困惑の表情を浮かべながら聞いていたが、

最後は半信半疑ながらも、一応事態を受け入れたようだった。


「それより、昨夜はあの後どうなった?」

ワシは話題を変えようと、ダンディ松浦に昨夜の首尾について質問した。


「ばっちりさ!」


ダンディは、いきなりご機嫌になって、昨夜のMI6との共同作戦について自慢げに話し出した。
核爆弾を中性子ビームで無力化し、ロシアの地殻爆弾施設を破壊した顛末をこと細かく説明した。

ダンディが、同じことを繰り返し強調し始めると、


「まあ、どっちにしても、

 すべて上手くいったということだよね!」


梅田がタイミング良くダンディの話を途中で遮るように口をはさむと、

やっと我々の間に、やれやれという空気が流れた

そして、


「みなさん、お疲れ様でした!」


マダム・ミエコがそう声をかけると、

みんなの顔にやっと笑顔が戻ってきた。



<つづく>

ワシがあまりの話に状況が飲み込めず唖然としていると、
梅田半休が足早に目の前を通り過ぎようとした。


ワシはすかさず彼を呼び止め、
「どうなってんだっ!」
と詰め寄った。


すると梅田も目を吊り上げながら、
「おれ自身が一番驚いてんだよ!」
と怒鳴り返してきた。


そしてイライラした素振りでこう続けた。
「それよりも今、このホテルの地下にあるリネン室で

 藤田関白が発見されたらしい。
 これから行くけど、君も来るか?」


「もちろん!」


ワシは小走りで梅田に続いた。

なぜか、二条氏までついてくる。


我々はホテルの非常階段で地下まで降り、リネン室へと向かった。


 藤田はどんな状況で発見されたのだろう。
 死んでいるのか?
 私は血みどろの藤田関白を想像して、急に気分が悪くなった。
 いくらロシアのスパイであろうと、一時は行動を共にした仲間だ。



恐る恐るリネン室の扉を開けると、すでに梅田の部下が実況見分を行っていた。


その奥に・・・
あれっ?
藤田関白、血みどろじゃないぞ?
それどころか、首を押さえながらうつむいてイスに座っている。


我々がビックリして彼を見つめていると彼も我々に気付き、
いや、まいったよ! という顔をしながら、首を回しながらやってきた。


そして開口一番、


「いや、参りましたよ。
 ドレスデンに着いた2日前の夜、19時ぐらいかなぁ?
 突然ボーイが部屋をノックするからドアを開けたら、ガツンですわ。
 気が付いたら、この部屋でイスに縛り付けられていまして・・・
 商売道具のサンプルも、バックも服も、すべて身ぐるみ持っていかれまして」


すると、梅田の部下が後ろから補足するように言った。


「彼の言うことは本当でしょう。

 昨夜のガラスが散乱していた現場から採取した血液と、

 彼の血液を簡易検査器で照合したところ、一致しませんでした。
 だいたい、かすり傷一つしていません。」


我々は藤田をあらためてマジマジと見つめたが、手に傷なども見当たらなかった。
ワシは、あまりにも理解しがたいことが次々に起きて、少々頭の中が混乱していた。


その時、勝手に付いてきた二条氏が言った。


「藤田さんも少し僕と似た状況じゃないんですか?
 即ち、パラレルワールドから来た、ロシアのスパイと入れ替わったとか?」


ちょ、ちょっと待ってくれ!
それ以上言うとワシの頭がパニクル!


その時、梅田半休が「それはちょっと違うな!」と口をはさんだ。


「僕の仮説はこうだ。
 藤田関白に変装したロシアのスパイが、

 六条ひとまの手引きでこのホテルに潜入して、

 本物の藤田関白を監禁して藤田になりすました。
 そして彼は六条に細かい指示を与え、

 今回のオペラハウスでの作戦を実行した。
 ところが六条がしくじり、

 自分で中性子ビーム銃を持って逃走する羽目に陥り、
 さらにはマダム・サイババ・ミエコの攻撃で瀕死の重傷を負い、

 六条と同じように異次元瞬間移動装置で向こうの世界に逃げた。」


するともう一つの世界には、「六条ひとま」という偽物の二条氏と、

怪我を負って変装した藤田関白の偽物がいるということか?

だいたい、本当に異次元瞬間移動装置なんてあるのだろうか?


ワシはあまりの展開に、ため息をついた。



<つづく>

翌朝、目が覚めると、まだ昨夜の酒が残っていた。
極度の緊張から解放された安堵感から、
部屋にあったウヰスキーのボトルを一本空けてしまったのだ。


とりあえず喉を潤しにレストランに行き、
深酒でガンガンする頭を抱えるように、テーブルに立肘をついてボーとしていると、
向こうから駆け寄ってくる見慣れた顔が・・・


ああっ!
ろ、六条ひとま!
貴様、なんでここに!
ワシはアドレナリンを分泌し、即座に臨戦態勢に入った。


すると六条、いきなり頭を下げて謝りだした。


「今まで私の分身が大変なご迷惑をおかけしたようで・・・
 本当に申し訳ございません
 私、六条ひとまとは別人の、二条たけしと申します。」


ええっ!
分身?
何言ってんだ?
じゃ、
な、なんで、苗字が違うんだ?


「ええ、そのあたり、私もよくわからないのです。」


はぁ?


まぁ、それにしても瓜二つだ。

で、別人の二条さんが何故ここに?


「ええ、実は・・・ 
 ここからの話、たぶん信じてはもらえないかもしれませんが、
 私もまったく同じ日程で、ドイツに来ていたのです。」


ええっ? ますます意味がわかりませんが・・・


「ですよね。
 私自身、これからお話しする事実をにわかに受け入れ難いのです。」


そこで二条氏は一息つくと、一気に話し始めた。


「実は、先ほどお話したように、

 私も同じ時期に同じルートでドイツに来ていたのです。

 私の場合、経営者の方々を海外研修に引率してきたのですが。


 と、ところが、

 今朝、目が覚めると、みんなどこかに消えていた。
 そこに、梅田さんの別人がやってきて、
 こう言ったのです。


  ここはもう一つの現実、パラレルワールドだ。
  この世界では、あなたはロシアのスパイ。
  昨夜、この世界でのあなた、六条ひとまを逮捕したが、
  我々が目を離したほんの一瞬のすきに、
  異次元瞬間移動装置であなたと入れ替わったようだ。
  あなたが気を失って寝ている間に、
  申し訳ないがいろいろ調べさせてもらったが、
  確かに、あなたは六条ひとまではない。
  一番の特徴である右腕のあざがないし、身長や頭のサイズも少し違うようだ。
  なにより、瞳の虹彩が違う。
  バイオメトリクス識別装置での照合も試みたが、結局は別人だった。
  まったくの別人であるあなたを逮捕することはできない。
  そうはいっても、このままではあなたも困るだろうから、
  我々と一緒に日本に帰りましょう。


 そう言うんですよ。
 別人の梅田さんが・・・」


そこまで話すと、二条氏は頭を抱えてしゃがみこんでしまった。



<つづく>