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電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

この春から電気自動車の日産リーフに乗り始めました。この電気自動車、夢も感動もない単なる移動手段なのか、はたまた車の未来に福音をもたらす救世主なのか? 車だけでなく、日々感じたことを綴ります。ブログタイトルは勿論、P・K・ディックのあの小説のパロディーです。

電気自動車は仮想現実の夢を見るか?



ワシとマダム・ミエコは、
暮れなずむドレスデンの街を、黙って歩き続けた。


いつからサイキックになったのか?
サイババとはどんな関係だったのか?
聞きたいことは山ほどあったが、黙って歩き続けた。


この見事な夜景を前に、
おしゃべりなど、似つかわしくないと思ったからだ。




電気自動車は仮想現実の夢を見るか?



「ステキ・・・」


不意にマダム・ミエコが言葉を漏らした。
それ以上は何も言わなかった。




電気自動車は仮想現実の夢を見るか?




沈黙とは、なんと贅沢な時間の使い方か。


想いは無尽の言葉となる。




電気自動車は仮想現実の夢を見るか?



暮れゆくドレスデンの街を味わい、

しじまを楽しむうちに、

日はすっかり落ち、

水面に漂う王宮の栄華は、

人間のはかなさを映し出していた。




<つづく>





「やったわ!」


マダム・ミエコは砕けたガラスを操りながら、

藤田関白を弾き飛ばした波動を確かに感じ取っていた。
ミエコは急いでそこに向かった。



現場に着くと、目を背けたくなるような光景が広がっていた。
辺り一面、血の海だった。
金属プレートが散乱し、藤田愛用のバックも転がっていた。
そしてなにより、あの中性子ビーム銃の黒いケースも落ちていた。


ミエコは急いで黒いケースを拾い、中を確認し中性子ビーム銃を確認すると、深く安堵した。


そこに、ダンディ松浦もやっと追い付いてきた。


「無事よ!」


マダム・ミエコがダンディに中性子ビーム銃を手渡すと、

ダンディはそれをしっかり握り締め、深く深く頭を下げた。


しかし、

こんなに大量の血痕が残されているのに、藤田関白はどこにもいなかった。
辺りを捜索しても遺留品があるだけで、行方を辿る手掛かりは何もなかった。
藤田はどこに消えたのか?
見当もつかなかった。
この状況では、追跡を諦めざるを得なかった。


その頃になってワシもやっと、マダム・ミエコに追いついた。
オペラハウスに残された我々は、梅田半休が電磁ショックから立ち直り、

六条ひとまの身柄をМI6に引き渡すと、現場の後処理の指揮を執った。
他の連中は、三々五々に会場を後にした。

ワシはダンディ松浦と共に藤田とミエコを追うべくオペラハウスを出たのだが、

ワシは途中ではぐれてしまった。



ダンディは中性子ビーム銃を手にすると、

「これからもう一仕事だ。では、また明日!」

と言い残して、そそくさと行ってしまった。


そしてワシとマダム・ミエコだけが、ドレスデンの街頭にポツリと取り残された。



ワシはマダム・ミエコに声をかけた。


「マダム・ミエコ、少し、歩きましょうか?」


そう言うワシの眼前に、

まるで万華鏡の世界に入り込んだかのような、

光煌めくドレスデンの夜景が、広がっていた。



<つづく>


藤田は、瞬間的にポケットをまさぐった。
そして手に触れた金属のプレートを取り出すと、

飛んでくるガラス片を金属プレートで弾き飛ばしはじめた。


実は藤田、スパイとしての諜報活動の傍ら、

表向きの商売としてプレート制作を生業としているのだ。

金属プレートは、いわば商品の一つである。

こんなときに商品に命をすくわれるとは・・・


まず手にしたプレートは、ナースステーションだ。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


日本語にすると看護師駅。なんのこっちゃ。


しかし迫りくる大量のガラス片を防ぐには、このプレート一枚ではキツイ。
彼はさらにポケットをまさぐった。


出てきたのはボイラー室


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

ボイラー室はいかん。
ナースステーションとの相性が悪すぎる。
次に出てきたのは、駅長室


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


これだっ!
看護師駅には、駅長が必要だ!
この2枚で防ごう。


そして必死にガラス片を弾き飛ばしていると、

今度は巨大なガラスの塊が襲ってきた。
いったい、誰がこのガラスを操っているのだろう?
なんて、今はそんなことを考えている暇はない。


ここはもっと大きなプレートじゃないと防げない。

彼は慌ててバックから大きめのプレートを取り出した。
そして手にしたのは、進路指導室五年五組

五年五組といえば魔法組。あれ?五年三組だったかな?


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?

電気自動車は仮想現実の夢を見るか?



完璧な取り合わせだ!

が、進路指導室がちょっと小さすぎる。
今、残っている大きいプレートは消火器だけだ。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


「消火器」と相性がいいのは「たけし」だけなんだけどなぁ
なんて考えながら巨大なガラスを迎え撃った。


グワッ すごい衝撃だ!

は、弾かれる!


そう思った次の瞬間、プレートもろとも藤田は遠くへ飛ばされた。



<つづく>



そのワンブロック先で、藤田関白は後ろを気にしつつも、逃走に成功したと確信していた。


「六条のヤツめ、ドジを踏みやがって!」


藤田関白、彼こそが正真正銘のロシアスパイ、ヒモツグ・ドロナワコフだ!
六条は、単なる彼の傀儡に過ぎなかった。
全ての指示は、藤田が出していた。


しかし六条がコケた今、

藤田自身がこの超小型中性子ビーム銃を持ち逃げするしかない。


藤田は、六条がフライパンによる痛打で失神して、港野ヨーコが大暴れしている隙に、

六条の腕から黒いケースに入っていた中性子ビーム銃を抜き取り、逃走したのだ。
梅田半休がいち早く気づき、追いすがってきたが、電磁ショックガンで痙攣させた。


この日本が開発した中性子ビーム銃さえあれば、

ロシア軍はすべての地上戦で勝利することができる。

これさえ持ち帰れば、俺は黒海に面したソチのリゾートで、

一生涯遊んで暮らせる!


今回、日本が中性子ビーム銃を持ち込んだ理由は、地殻爆弾の無力化にある。
中性子ビームを核爆弾に照射すると、核変換を起こさせ核を無力化
できるのだ。
各国は競って中性子ビームの強力化、小型化に力を注いだが、

強力で小型な加速装置の開発は難しく、ロシアは断念していたのだ。

それをわざわざ日本が東欧に持ち込んできた。

まさに飛んで火に入る夏の虫、鴨葱


これをロシアに持ち帰れば、俺は英雄だ!


「やったぜ! ザマーミロ!!」


そう、藤田関白が叫んだ、その瞬間、
目の前のビルの巨大な窓ガラスに突然ヒビが入り、

ガラスがメリメリと剥がれだした。
そして剥がれたガラス片が刃となり、

藤田めがけて飛んできた。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?



<つづく>

その時マダム・ミエコは、闇に沈むドレスデンの旧市街を疾走し、

必死に、藤田関白の後を追っていた。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


彼を絶対に逃がすわけにいかなかった。


彼というより、彼が持ち逃げした黒いケースに入った例の機器を、

必ず取り返さなければならない。


彼女はMI6極東支部の女性エージェントである。


彼女は、内閣官房特命捜査官である梅田半休を側面から支援するようにと、
MI6の本部から指令を受けて動いていたのだ。



今回のロシアの地殻爆弾破壊に、

日本の防衛省が開発した超小型中性子ビーム銃を使うことを総理が決めた時点で、

防衛省内は大騒ぎになった。


何を考えているんだという声も上がったが、内閣官房はそれを前提に動き出した。
問題は、防衛省内に深く入り込んでいる中国やロシアへの内通者の存在だ。
日本はスパイ天国である。政府機関の中枢にも他国の秘密工作員が潜入している。
六条も以前から言動が怪しいとマークされていたが、決定的な証拠は挙がっていなかった。


そこで内閣情報官の上末は、

警視庁公安部長時代の部下であった梅田半休を監視役で派遣することにした。
あわせて旧知のMI6幹部に、ヨーロッパ内での支援を要請したのだ。


MI6内部で適任者を検討した結果、

白羽の矢が立ったのが日本人でサイキックチームのマダム・サイババ・ミエコだ。

サイババの力を受け継いだと自認する彼女は、確かに超能力を使うことができる。
今こそ、その力を使う時であった。

そして西側陣営の命運をかけて、

黒いケースに入っていた中性子ビーム銃を取り返さなければならない。



彼女はワンブロック先を逃走する藤田関白の逃走経路を、正確にイメージすることができる。

更に、彼女はテレキネシスが使える。
かなり遠くのモノまで、念を送り込み動かすことができるのだ。


マダム・ミエコはリビドーを集中して、

藤田関白の逃走経路先にあるビルの大きなガラス窓に念を送り続けた。

ガラス加工ならお手のものよっ! 彼女は心の中で叫んだ。



<つづく>


「カット!」


ワシが港野ヨーコの逃亡を阻止しようとした瞬間、天井から大きな声が響いた。


「ミッションさん、ヨーコさんはそのまま新潟に帰してもいいですよ!
 あ、わたし、今回の監督を任されているSK‐Ⅱ・伊東です。
 いや、ヨーコさんから、今回参加できなくて残念だから、

 チョイ役でいいから出させてよ! って執拗に頼まれまして・・・
 じゃあってんで、急遽、出演してもらっただけですから・・・ 」


何だよ、いきなり監督!
じゃあ、沼津のサルバトーレは?


「あ、彼は単なるヨーコさんのカバン持ちですよ!」


えっ、そーなの?


じゃあ、多田ちゃんはどうして参加したのよ?
ワシは、男なのにセニョリータ多田に向かって聞いた。


「いや、僕は茶屋さんに、

 JTBが企画した『あなたもスパイ気分で東ドイツを巡ろうツアー』

 っていうのがあるから、一緒にいかへん?って誘われたんで、

 おもろそうやから、会社に黙って参加しただけですよ。

 いや~ でもこのツアー、本物のスパイ映画みたいで、良くできてるわ~」


え? 君、JTBのツアーだと思って参加したの?相変わらずJTB、ミキに丸投げだなぁ


その時、六条がうわごとのように 「JTBはいかん。JTBだけはいかん」 と呟いた。


多田はさらに続けた。


「いや、茶屋さんだけじゃないですよ。たしか、関白さんもそうですよ・・・」


え、関白もそうなの・・・ 関白・・・ ワシは周囲を見渡した。



あれ、関白がいない!!


それに、マダム・ミエコも!





<つづく>




六条は、ポケットから黒いケースに入った機器を取り出すと、

ダンディ松浦の顔に近づけて、見せびらかすように言った。


「ダンディ君、そう云えばこれをお探しだったのかな?」


「六条、てめ~~~~~っ!!」


いつも冷静なダンディ松浦が、飛び掛かかろうとした瞬間、
六条は驚いたような、おどけた
顔でこう言い放った。


「おっと、それ以上わたしに近づくと、全員ハチの巣になっちゃうよぉ」


それを受けて、港野ヨーコが縄をブチブチと千切りながら口を挟んだ。


「だからミッションには気をつけなさいと最初に警告したじゃない。
 御茶久美なら、日本で缶総理と一緒にネットTVに出て、はしゃいでいるわよ!
 大好きな御茶久美じゃなくて、残念だったわね~」


うぬぬヨーコ、お前も六条とグルだったのか!


六条が、頼みもしないのに得意げに解説を始めた。


「いやいや、皆さんしぶといんで苦労しましたよ。
 旅の途中で一人ずつ殺そうと思ったんですが、なかなか上手くいかない。
 池に落としても、機械を倒しても、熱湯の入った金ダライを落としても、
 誰一人として大した怪我さえしない。
 特に茶屋さん、あんた運があるというか、しぶといねェ。
 結局、ダンディ君に促されるままにドレスデンまで来てしまいました。
 まぁ、最後は全員ここにおびき寄せて、一網打尽にするつもりでしたがね。」


そう言うと、ブワハハッ と笑った。
やっぱりワシの思った通り、嫌味な奴だ!
そして六条は話を続けた。


「そうそう、皆さんに自己紹介をするのを忘れていました。」


そう言うと、六条はポーズをとった。


「ある時は、経営コンサルタントの六条ひとま。
 またある時は、防衛省情報本部に所属するエージェント。
 しかしその実態は・・・

 ロシアの二重スパイ<キューティ・チョロスキー>さっ!
 (き、決まったぁ~~~~)


六条、左手は腰、右手は人差し指を立てて天に突き上げている。
衣装まで、いつの間にかキンキラキンのスパンコールの上下に着替えている。
結局、これがやりたかったのかっ!


そして勝ち誇ったように、ディスコの回転テーブルの上でゆっくりと回る六条!

そして、彼が指をパチンと鳴らしたとき、我々の命運は尽きるのだ。


ああ、南無三!



ダダダダダダダ! ダダダダダダダ! ダダダダダダ!


そして、凄まじい銃声が響き渡った。

周りに人間がバタバタと倒れていく。


ワシも倒れるのか・・・・  あれ? 倒れない。
茶屋団子も、何事もなかったようにボーと立っている。(ところで、いつもどこ見てんの?)


なんと、次々と倒れていくのは、
我々を取り囲んでいたドイツ人達ではないかっ!!


「そこまでだ、六条!」  そ、その声は梅田半休!


「惜しかったわね、六条さん」  それにマダム・ミエコ!


いや~ん、待ってたわよぉターさぁーん!


梅田とミエコが部下を引き連れて助けに来たのだ。
グッ・タイミング!


ドイツ人はすべて倒れ、残るは、腕組みをしたまま凍り付いている港野ヨーコと、
未だ回転テーブルで腕を突き上げて回っている六条だけとなった。



ダンディ松浦が回転テーブルの電源を抜き、六条に詰め寄る。
「さっきはよくもバカにしてくれたなっ!」


「いや、これにはわけが・・・」 後ずさりする六条。


その時、ばちーんという音がして、六条がフラフラっとしながら倒れこんで失神した。
港野ヨーコが、後ろからフライパンで殴ったのだ。


「冗談じゃないわよっ、話が違うわよっ、帰らしてもらうわ!」


そして、銃撃で倒れたサルバトーレ小林に、
「あんたもヤラレたフリしてないで、さっさと起きなさいよっ、行くわよ!」
と声をかけ、小林に荷物を持たせてスタスタと行ってしまった。


おい、おい、ちょっと待て!
お前たちも犯人の一味だろう!!



<つづく>



コンサートの開演まで、落ち着かない気分で待っていると、

最後に六条ひとま氏が息子の大麦君を連れて着座した。


ひとま氏、大麦君、セニョリータ多田、サルバトーレ小林、藤田関白、

茶屋団子、それにダンディ松浦にワシの総勢8人が並んだ。
いよいよ我々も開演だ!


みんなの表情は極限の緊張で、恐ろしく強張っている。
とてもジャズのコンサートを聴きに来た人たちとは思えない


コンサートが始まり一曲目が終わると、ひとま氏と大麦君が、

二曲目が終わるとセニョリータとサルバトーレが席を立った。
そして三曲目が終わる8時25分、茶屋、関白、ダンディ、そしてワシが席を立ち、

素早く地下への階段へと急いだ。
後は一直線、地下4階を目指すのみ!


薄暗い手提げカンテラを手に、秘密工作員8人が地下4階の扉の前に集結した。
ワシは超高周波銃のダイアルを、発狂モードに切り替えた。
準備はOKだぜ。


5、4、3、2、1、、、
六条氏の「よし、踏み込むぞ!」の掛け声とともに、
仕掛けておいたIED(即製爆弾)でドアを爆破して中に突入した。


思ったより中は薄暗く、人影もない。
しまった、もぬけの殻か?
遅かったのか?


その時だ!


机が高く積み上げられた壁際に、

椅子に縛り付けられた東洋人らしき女性がいるではないか!


「御茶久美かっ?」 六条氏が叫んだ。


「御茶久美、無事か?」 ダンディも続けて声を掛けた。


六条氏は手で他のメンバーを制して、自分だけ御茶久美にソロソロと歩み寄る。


 あれ?
 御茶久美、太ったんじゃない?
 それもかなり。
 あの華奢な首から肩にかけたラインは、立派に盛り上がり、
 あのカモシカの様にスラリと伸びていた足は、力強く大地を踏みしめている。
 あの腰のくびれは? 細面の顔は?

 どうしたのだ?


六条氏は恐る恐る声をかけた。
「だ、大丈夫ですか?」


「あたりまえよっ!」


そ、その声は・・・

六条氏が顔にかかった黒い布を取ると同時に、みんなが同時に叫んだ!


「み、みなとのヨーコ!?」


次の瞬間、六条氏がこちらを振り返ってニヤリと笑った。


「皆さん、だいぶ驚いたご様子ですな!」


その言葉を合図に、カーテンの影から赤い戦闘服を着た屈強なドイツ人7、8人が現れ、

我々の周りをぐるりと囲んだ。
手には赤いサソリマークの機関銃を抱えている。
赤い騎士団だ。


それだけではない!


なんと、我々の仲間のサルバトーレ小林が、突然銃を我々に向け、こう言った。


「みんな、手を上げるんだ! 早くしろっ!」


大麦君が慌てて手を挙げた。


我々はあまりの事に声もでず、茫然と立ち尽くしていた。


<つづく>





「みなさん、 先ほどロンドンの本部から私の通信機に、
 『予定通り今夜、敵のアジトに踏み込み御茶久美を救出し、

 地殻爆弾を破壊すべし』
  との連絡が入りました。

 で、その敵のアジトですが・・・」


そこで六条ひとま氏は少し躊躇った。


そして一呼吸置くと、右手前方の建物を指さし一段と声を潜めて言った。


「あのザクセン州立歌劇場、

 そう、世界的に有名なゼンパーオペラハウスこそ、敵のアジトです!」


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


その瞬間、どよめきが起きた。
そ、そんなバカな! ワシも驚きを隠せなかった。


六条氏は説明を続けた。


「いいですかみなさん、段取りはこうです。
 オペラハウスには正面玄関の他に裏口が3つ。
 敵のアジトは、地下4階の最低層階にあります。
 今夜は都合がいいことにジャズのコンサートがある。
 我々は観客に紛れて場内に入り、20時30分丁度に作戦決行です。」


ワシは慌てて質問した。


「コンサート中に作戦決行って、観客を巻き添えにしないんですかっ!」


六条氏はワシを一瞥すると、またお前かという顔をして少し馬鹿にした表情でこう答えた。


「人が沢山いて騒々しいから作戦は上手く行くんですよ。
 それに地殻爆弾の破壊といったって、起爆装置を壊すだけだから心配無用。
 赤ん坊さえ起きやしませんよ。フン!」


すると皆もアハハと笑った。
六条、嫌みな男だ。


六条氏は続けて更に詳しくオペラハウスの構造や我々の配置について丁寧に指示を出した。
そして最後に「全員揃っていますか?」とみんなに声を掛けた。


「梅田と・・・・・・・・   マダム・サイババもいないっ!」


ダンディ松浦が、目を吊り上げて叫んだ。


六条氏は表情を変えぬまま「やっぱりな」とぽつりと言った。
そして、全員にオペラハウスの中に入るよう促すと、自分は通信機を取り出し、

厳しい顔でどこかと連絡をとりはじめた。


我々は入場口を通り、

あらかじめ六条氏が用意してくれていたチケットで難なくコンサート会場に入り、指定席に着座した。


現在、19時50分。
あと40分後に作戦決行か。


そう思った途端、心臓がバクバク音を立てて頭蓋骨に響き渡った。


なんでワシ、こんなことに巻き込まれちまったんだろう。




<つづく>

ひとしきり市街の視察をしてから、少し買い物をして、
旧市街のレストランで昼食にすることになった。


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


ここでガイドさんともお別れである。
サルバトーレ小林、「あれ、もう帰っちゃうの?」なんて呑気なことを言っている。
君も帰っちゃえば?


さて、腹も膨れたし、夜までどうするの?


「まだ夜まで時間があるので、ザクセン州で我々の活動を支援してくれている経済団体の

 取りまとめ役、クエント社のドクター・クエント氏に会いに行きましょう。
 ロンドンからも時間があったら会いに行って欲しいと言われています。」 by 六畳ひとま


了解しました。
ということでクエント社へ



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


うわっ クエント社って立派な会社ですねぇ。
(今までお邪魔したスリッパ屋さんや錫工房とはちょっと違うゾ!)

それに、どこからともなく甘くていい匂いが~ !(^^)!
え?ここって、お菓子工場なの?
クッキー焼いているの?
「チャーリーとチョコレート工場」ならぬ「ミッションとクッキー工場」ってか?
いいね~
さぁ、早く入ろう!



もうワシ、超ご機嫌である。テンション上がりまくりである。
早速工場に入ると、ミーティングルームに案内された。
そこにドクター・クエントが登場!
うわっ 頑固そうな親父。



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


では語ってもらいましょう!創業社長の苦労話。 拍手!


「皆様、よくクエント社にお越しいただきました。
 私がここの商品の開発者であり、創業者のドクターーーークエントでーす!」


知ってる知ってる、続けて続けて。


「思い起こせば、ベルリンの壁が崩壊した20年前、私は50歳でした。
 社会主義時代、単なる一職員であった私が、社会体制がひっくり返る中で、
 責任ある立場でお菓子作りをしていくかどうか、

 大きな岐路に立たされたのです。
 しかし当時、私には前しか見えなかった。

 たとえ倒れても、前のめりに倒れたかった!
 だから、私は140万マルクの借金を背負って、

 このクエント社を立ち上げたのです。」


やんや! さすが一国一城の主、偉い! 城(じょう)は城でも、六畳ひとまとは違う!


「もともとこのドレスデンには菓子作りの伝統があり、

 特にシュトーレンというお菓子は、つとに有名です。その歴史は14世紀にさかのぼり、

 12月の第1土曜日には巨大なシュトレンが街中をパレードするお祭りが行われます。
 他にもローマ字をあしらったロシア風のお菓子や、ゴーフルなど、
沢山の商品を開発しました。

 どうぞ、テーブルの前のそれらのお菓子をお召し上がりください。」



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?
ドレスデン銘菓 シュトーレン


電気自動車は仮想現実の夢を見るか?
ロシア風クッキー


じゃあ、遠慮なくいただきまーすって、もう勝手に食べてましたぁ(汗)


そこに息子の現社長登場!



電気自動車は仮想現実の夢を見るか?


どうですか、親子仲は? 会社の後継はスムーズにいきましたか?


すると、息子いきなり苦笑いして

「今はとても仲がいいですよ! 私も父もお互い愛し合っていますし。」


あ~ その前振り大好物です。ていうことは、昔は相当やりあったんでしょ?


「あはは、そうですね。
 2003年頃、この会社を他の人に譲るくらいなら、私が父の跡を継ぎたいと言いました。

 でも、すぐにはそうはいかない。父には父のやり方があります。

 ただ、ずっとそのままで良いわけがない。

 2006年になって、このまま父のやり方で行くか、

 私に経営権を譲るか父に迫りました。しかしそれも上手く行かなかった。

 そんなこんなしているうちに、

 2009年になると、父の世代と若い世代が対立するようになったんです。
 これはまずいと思いましたね。

 そこで私はある決断をしました。
 それは父から会社を買うことです。

 そのかわり白いシューズをプレゼントして、

 『いつでも工場に入っていいよ』 と、父に伝えました。」


するといきなりドクター・クエント、息子の方を睨み、
「嘘をつけ! お前、ワシに会社に来ないでくれと言ったやろうが!」

なんだとこのクソ親父!って、二人とも胸倉つかんで喧嘩が始まった!

やっちゃえやっちゃえ!!
お菓子片手に観戦だ!


そこに社員が割って入って、事なきを得た。
「ノーサイド! どうどう。」


外野からは、「もっとやらせろ!」とヤジが飛ぶ。


いや~ 洋の東西を問わず、会社の後継は難しいんですなぁ。

(喧嘩したのは冗談です)


ということで、クエント社を後にした我々は、いよいよ決戦の時を迎えるのである。


次回を括目して待て!



<つづく>