バスはアウトバーンを西北西の方向にひた走った。
途中、黒煙を上げ炎上するバスを追い抜く。
事故ではなく、故障のようだ。
走行中に火を噴くなんて、ありえない!
暫くして、バスはライプチヒ郊外の長閑な工業団地のような場所に到着した。
そして、シンプルなデザインの瀟洒な工場の前で停車した。
壁面には大きく社名らしき文字も書かれている。
Poege Druck
多分、ポエジ社という名前の印刷会社なのだろう。
ここライプチヒは、出版社、印刷会社にとっては聖地ともいえる場所である。
ドイツ国内で2番目に古い大学であるライプチヒ大学を擁するライプチヒは、
古くから学問、そして本の街として栄えた。
1445年、マインツのグーテンベルグが活版印刷技術を発明すると、
1481年にはライプチヒでも本が印刷されるようになる。
1530年までに1300種類もの本が出版され、
1594年からは本の見本市のカタログまで出版されるようになった。
それ以降も次々と新しい印刷所と出版社が生まれ、
ライプチヒは今日に至るまで有名な書籍、印刷の街として発展してきた。
よってライプチヒの印刷会社は、世界に冠たる歴史と伝統を有している。
ワシは組合の理事長が言った「我が業界を救う機密情報を入手せよ」
という意味がやっと理解できた。
ここに、衰退著しい印刷業界を救う何らかのヒントがあるに違いない。
ワシらは、ポエジ社の社員の方に導かれ、社屋に足を踏み入れた。
その玄関にあったものは・・・
うわっ、手動の印刷機に、石版ではないか!
未だにこんなものを使っているのか?
そんなわけねーか。これは単なるオブジェのようだ。
そこに若社長のアンドレア・ポエジ氏が登場。
彼が工場内を工程順に案内して下さると言う。
ドイツの印刷工場にはどんな秘密が隠されているのか?
ワシはわくわくしながら工場の奥に歩を進めた。
<つづく>