ゴールデングローブ賞を受賞したので勢いがついたと思いますが、録音賞など音楽関係でもノミネートされていて嬉しいですね。
アカデミー賞は、ややエンタメ系には厳しいから受賞は難しいかもしれませんけれど、2/25の発表を楽しみに待ちたいと思います。
米ハリウッド・リポーター誌によると、1月中旬に於いて、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の全世界興行収入が8億ドル(約877億円)を突破。
内訳は、米国で2億100万ドル、日本で8,860万ドル、韓国で7,600万ドル、英国で6,630万ドル、だとか。
日本では100億突破して、2018年興行収入No.1に躍り出ました。
それまでの1位が「コードブルー」だったのには、ちょっと驚きましたが…
アメリカに次いで、日本が世界2位なんて凄くない?!
ご本家イギリスより上ですよ!
公開時の目標額が20億だったそうですから、大化けしましたね!
なんにしても本当にめでたい!
私もしっかり5回観に行きました。
ノミネート記念に、思いついたことを再度つらつらと。
すっごい長いです。
●伝記映画としてのコンセプト
ミュージシャンの伝記モノといえば、ライブやレコーディングシーン、そのオフショット、関係者のインタビューといった内容のものが王道。
でもクイーンに関しては、こういったドキュメンタリーは、すでにやりつくしている感があります。
それにフレディーは亡くなっていますが、ブライアンとロジャーの二人はまだ現役として活躍していて、その上での映画化というのはちょっと珍しい状況です。
この映画の最も大切なコンセプトは、ブライアンとロジャーのコメンタリーでしっかり語られています。
★ロジャー
細かい事実や時系列などは違うかもしれないが、人々の心に触れ、そして観客の気持ちが少し高ぶるような、真実の物語ーーそれを伝える映画であることを僕もブライアンも望んでいた。そのとおりになったと思うよ。事実を犠牲にすることなく、かつ、みんながいい気分で映画館から出てこられるような作品にしたかった。
彼は偉大なミュージシャンであり、作曲家だった。だから映画ではそうした側面がきちんと描かれていることを重視した。新聞が好んで書くような話だけじゃなくてね。音楽は人々が聴くものであって、新聞が書くものじゃないからね。
★ブライアン
僕はこの映画には誠意、心に響くような誠意があると思う。僕にとっては長い道のりだったよ。これはドキュメンタリーじゃなくて、ある人物を描いた絵であり、肖像画なんだ。
(キャスト達は)僕たちの容姿だけでなく、どんなことを感じていたかも見事に表現してくれた。出来事を描いただけでなく、僕たちの心情を伝えてくれたのが、映画が成功した秘けつだと思う。
まさにこの通りですね。
PG13のレーティングを守り「子供たちが親と一緒に見に来れるように」という基準を貫いたのも大きな要因だと思います。
「お父さんの書棚にクイーンのLPがあった」
「お母さんにロジャーの追っかけしていたことを自慢された」
なんてエピソードが一杯流れてきて微笑ましい。
本当に紆余曲折ありながら、この映画を完成させてくれたプロデューサーのグレアム・キングさんに感謝感謝。
●脚本の素晴らしさ
コアなファンや評論家からは、人物の掘り下げが浅いとか、クイーンの上っ面をかすめただけ、といった意見も多かったようですが、世の現状としては、
クイーンの名前は知っているけど…詳しいことは知らない。
え!この曲もクイーンだったの?!
このような人がほとんどだったと思います。
そういう意味で、この映画は「クイーン入門」として秀逸だったのではないでしょうか。
見終わった後、クイーンが、彼らの曲が好きになってしまう!
これが一番大切なこと。
ともかく、この映画を見て感動した人はほぼ全員、帰宅してから本物のライブエイドの動画を見ます。
公式サイトでは、すべての楽曲やPVが誰でも見られるようになっています。
そうしてクイーン沼にハマってしまうのです。
やはりクイーンの魅力はまず楽曲!
それに歌詞自体、政治的なことを歌ったり、思想を押し付けたりするような内容ではありません。
人を愛すること、救いを求める心、辛いことがあっても立ち上がれ!
時を超えて、いつの時代でも私たちの心にある葛藤や喜びを歌っているので、聞く人によってそれぞれ自分に当てはめられる普遍性があるんですよね。
だから、映画を重苦しいストーリーで細かく描きすぎてしまうと、曲とのバランスが取れなくなります。
映画も楽曲と同じように、それぞれの人生にあてはめられるような隙間、緩さが必要だったのだと。
脚本家アンソニー・マクカーテンさんを調べてみてビックリ!
「博士と彼女のセオリー」「ウィンストン・チャーチル」を書いた脚本家さんでした!!
いずれも英国の偉人を描いた伝記映画。
両方とも大好きな映画です。
だからラミさんは、エディ・レッドメインに「ムービング・コーチ」の相談をしたんですね。
彼が演じたホーキング博士は、もう憑依しているというか本人にしか思えないぐらいの凄まじい演技でした。
ホーキング博士も映画を見て涙ぐんでいたそうです。
チャーチルも、ラストのスピーチ 「we shall never surrender!!」へ向かっての高揚感は素晴らしかったです。
この脚本家さんは、事実とフィクションのバランスが絶妙だし、くどくど説明しないところが良いですね。
例えばフレディのお誕生日会のシーン。
雑談をしているだけのようですが、フレディの出自、家族の歴史、フレディ・マーキュリーへの改名、ブライアンとロジャーのプロフィール、ロジャーがプレイボーイなところまでさら~っとわかるようになっています。
バンがパンクしてしまった時も、実際に作業するのはディーキー、口だけ出して手は出さないブライアン、1人だけサンドウィッチ食べながら文句を言ってるロジャー、車を売ってアルバムを作る!と3歩先のことを考えているフレディといった具合に、瞬時にキャラクターが分かるのが楽しいんですよね!
それに女性の描き方が巧いと思います。
いずれの作品でも、主人公を大きな愛で包み込み、支え、なおかつ自分自身を失うことなく、強くしなやかに生きているので、とても好感が持てるんです。
●音楽の使い方
もうこれは、筆舌に尽くしがたいぐらい素晴らしい。
映画そのものが1本のPVのような、ライヴのセットリストのようなテンポの良さ。
このテンポの良さが、何度も映画を見たくなる秘密なんじゃないのかな。
ストーリー重視の映画ってそう何度も見ませんけど、ライヴは何度も足を運びたくなりますもんね。
奇をてらわず、ヒット曲を上手く使い、演奏シーンを再現するのが難しいところはBGMとしてどんどん進めていきます。
「 Somebody To Love 」に関しては前回も書きましたので割愛。
一番好きなのは、「Fat Bottomed Girls」を使ったシーン。
いかにもカントリー風な曲調に乗せてアメリカツアーに出発!
最初は小さいバンで前座、そしてQUEENのロゴが入った大型バス、
最後は大歓声とともに飛行機が着陸する。
これだけでツアーが大成功を収め、売れっ子になって帰ってきたことがわかります。
ミュージカルのように、歌って踊ってる間に3年経ちました、みたいなノリですよね。
その中で、闇に繋がる「男性への視線」「メアリーとの微妙な距離感」もさりげなく入れ込んでます。
ミュンヘンでのポールとの決別に使われる「Under Pressure」
マイアミのオフィスに戻って来たところで、最後のクラップ音が使われていて、まるで静まり返った部屋に響く秒針のような、フレディの心臓の音のような効果になっています。
エイズ検査のシーンに流れる「Who Wants To Live Forever」
こんなのもう、泣くよね。
楽曲が誕生するストーリーも流れが良いです。
「we will rock you」 と 「Another One Bites the Dust」
いずれもメンバーが揉めているシーンから始まりますが、ブライアンが、ジョンが、曲のアイデアを提供することで、みんなスッとプロフェッショナルの顔になり、グダグダ説明するセリフなど一切なく、各々がやるべきことをやり始め、そのままライブシーンなどに流れていくのが非常にカッコイイ!
ボヘミアンラプソディをフルで流してほしかった、という意見もありますが、
映画の中で6分、ベタで流してしまったらダレると思うんですよね。
印象的な部分を断片的に使ったのが、とてもアクセントになっていたと思います。
「これを全曲通して聴いたらどんな曲なのかな?」って興味湧くじゃないですか。
●光と影の演出
「ウィンストン・チャーチル」の時も、窓から差し込む光が印象的だったんですが、フレディーが、バンドのメンバーが上手く行っているときは、とても綺麗な光に満ちています。
フレディ家でのお誕生日会の時
フレディがメアリーにプロポーズ、そしてアメリカツアーを喜び合う時
リッジファームでボヘミアンラプソディを録音している際の、ブライアンのギターソロ、ロジャーのガリレオ
EMI レイ・フォスターの部屋
いずれも、美しい金色の光が差し込んでいます。
本当に希望と暖かさに満ちたシーンです。
でもフレディが闇に落ちてしまってからは、ほぼ室内や夜のシーンで自然光はありません。
ミュンヘンでマイアミに電話を掛けるところ(正気に戻ったところ)で、やっと昼間のシーンになり、エイズ検査の病院、マイアミのオフィス、ライブエイド前のリハーサルなどではまた、元のように柔らかな光が差し込む画面になります。
実際のライヴエイドも、終わるころには夜になっていましたが、映画では昼間でした。
これは「明るいまま」で終わりたかったんだろうな、と思いました。
映画のラストシーン
フレディだけがこちらを向いています。
まるで映画を見ている私たちに「これがクイーンだぜ!カッコいいだろ!覚えておいてくれよ!」って語り掛けているみたい。
そしてメンバーに「あとは頼んだ」って言い残しているみたい。
●キャストの素晴らしさ
なんといっても今回の成功は、バンド4名のキャスティングですよね。
芸歴は様々ですが、良くも悪くも名前を聞けば誰でも知っているような大スターではないです。
だからこそ、変な先入観やイメージがなく、クイーンになりきれたのではないでしょうか。
ゴールデングローブ賞を受賞した際、ジョセフ・マゼロのインスタに
I'm so proud of cast. No egos, no competitiveness, no complaints, no half measures. Nothing taken for granted.
と書いてありました。とても心に響く言葉ですね。
芸歴の長い彼だからこそ、嫌な思いをしたことも沢山あったと思うんです。
年齢的に、彼らも色々考える時期だったと思うんです。
だからこそ「失うものなど…何もない!」の心意気で取り組んでくれたと思うし、そういう「なにくそ!」というガッツが、ブライアンたちにも伝わったんじゃないかな。
そしてなんといっても、クイーンに対するリスペクトですよね。
彼らを心から尊敬し、慕い、真摯に取り組んでいる姿に、ブライアンとロジャーも感銘を受けただろうし、目の前に自分たちの若い頃が蘇って、まるで親子のように彼らと心を通わせることができて、本当に嬉しかったと思うんです。
彼らもこの先、スピルバーグやイーストウッド監督なんかと仕事をする機会はあるかもしれませんが、クイーンのメンバーと仕事をする、直々に楽器を教えてもらうなんてことは、まずありえない貴重な体験だったはず。
ライブエイドのシーンは、オリジナルを流すという手もあったのかもしれませんが(権利的に無理かな)、それをあえて、忠実に再現したのは素晴らしかったですよね。
キャストにとっては、本当に大変だったと思いますけど。
だってご本人を目の前にして演奏するんですよ。
目の前でクイーンのブライアンがスマホで動画撮影しているんですよ。
こわいわー。
ベン・ハーディは、ロジャーから「僕のドラミングの動きを全く同じように再現してくれれば、他にはリクエストはないよ」と優しく言われ、顔面蒼白になったとか・・・。
芸歴50年、ロック界のレジェンドにおびえるベンハくん。
ギターやベース、歌は、マイクをオフってしまえば音は出ませんが、ドラムは音を消せないですからね。
初心者のベンハくんには相当プレッシャーだったと思います。
でも安心して!!
私はベンハ・ロジャーがあまりにもキュートで素敵だったので「ご本人はどんな人なのかな?」と検索したことろ
どーーーーーーん!
こんな人が一杯出てきちゃって、一気に沼に落ちたのですから!
この大変なライヴシーンを撮影して、絆を深めてから本編撮影だったのかと(キャストの面々も)思っていたのですが、実はクランクインが9月で、野外で夏服のシーンを撮影するのはギリギリだった、というのが真相らしい(苦笑)
staffはみんな革ジャンとか着こんでますもんね。
4人が本家クイーンに負けないぐらい仲良くなって、仕事関係なく心から信頼し合える友になったのも運命ですよね。
一番大人しいディーコン役のマゼロが一番弾けてて、やんちゃなロジャー役のベンハが、10歳も年下でみんなからのいじられキャラというのも可愛くていいです。
彼らが来日した際「応援上映で参加者がめちゃくちゃ盛り上がっているのを舞台袖から見て感動して泣いていた」なんてエピソードも感無量です。
東京タワー前でのお茶会撮影を再現し、その写真をブライアンに見せてあげるなんてねぇ…
なんてよくできた子たちなんでしょう。
そしてメアリーはじめ、マイアミもジムも、奇跡のようにみんな素敵なキャストでした。
●SNSの影響
ともかく今回、こんなにTwitterのタグを利用したことはありません。
一番最初にハマったのは
「クイーンがもっと好きになるトリビア」
急場しのぎで作ったテレビ番組なんて足元にも及ばない、貴重なエピソードが満載でした。
次にハマったのが
「細かすぎて伝わらないボヘミアンラプソディ好きなシーン」
映画の中には細かいネタが一杯ちりばめられていて、これを読むと確認しに観に行きたくてたまらなくなります。
このタグは、リピーターを増やすのに多大なる影響があったはず!
これ以外にも「職場クイーン」やら「ボラプボーイズかわいい選手権」などなど、もうあらゆるタグが日々生まれていて毎日追いかけるのが楽しくてなりません。
40年以上経っても、これだけ「写真大喜利」のネタが尽きないなんて、本当にクイーンの4人はキャラが際立っていて、とことん愛されキャラなんだなと。
それにキャストの面々、監督、ブライアンとロジャーまでも、現場の画像や動画をインスタにアップしてくれて、世界中誰でもアクセスできて、直接メッセージを送ったりできるんですから。これぞ時代ですね。
●ブライアンとロジャーの協力
これはもう非常に非常に大きな戦力でした。
お二人とも「クイーン?まぁそういう時代もあったね」と言って、悠々自適に暮らしていてもおかしくないのに、まさに The Show Must Go On を体現している二人。
自分たちがしっかり関わらないと、またとんでもないものができてしまうと、一念発起してくれたんですよね。
ボラプ録音のシーンで、フレディがトークバックのスイッチを入れ忘れたり、ロジャーのドラムにビール?を撒いて叩いたりするのは、ご本人たちからのアイデア提供だったそうです。
他にも最近、キラークイーンの撮影現場に、変装して紛れ込んでいる画像がアップされましたね!
そうそう!キラークイーンと言えば、今回のアカデミー賞ノミネートに関して、BBCは完全に「ボヘミアン・ラプソディ」を無視したんだとか!?
「This is BBC」がお気に召さなかったのでしょうか。。。
国営放送なのに、これもまた凄い話で。
未だに確執があるのかな??
かと思ったら、例のNHKインタビューが英語で全文公開されましたね。
色々情報をチェックしていますが、今回の映画に関してキャストではなく、クイーンの二人にこれだけしっかりしたインタビューをしたのってNHKだけじゃないでしょうか?
やっぱりクイーンと日本は、今も良い関係が築けていて嬉しいです。
このインタビュー、本当に素晴らしいので、リンクを貼っておきます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181226/k10011759981000.html
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181227/k10011760211000.html
こちらは映画.comの記事です。
https://eiga.com/news/20190110/7/?cid=news_20190111_11_1
ブライアンは「ロジャーと始めた旅が、クイーンという素晴らしい大航海を経て、また二人に戻ってしまった」なんて、ちょっと寂しいこと言ってましたけど、彼らもやっぱり、この先いつまで続けられるか、という不安はあるでしょう。
だからこそ今、この映画を残すことができて、さらに凄い結果を残せて本当に良かった。
フレディの魅力を、クイーンの音楽の素晴らしさを、彼らを知らなかった若者たちに、こんなに素敵な形で、届けることができて本当に良かった。
その他のブログはこちらに貼っておきますね。
クイーンのライヴを見ることはかなわなかったけれど、おばあちゃんになったとき、「『ボヘミアン・ラプソディ』 をIMAXの大画面で何回も見たんだよ!リアルタイムで!」ってのは自慢できるかな~(笑)