「401号室のロンさんのお話。」
6.トマトの缶に描かれている絵について夜になっても、まだ雨はやみませんでした。ですので、ロンさんは相変わらず窓から外を眺めていました。気がつくと部屋の中はうっすら寒くなっていました。ロンさんは、わざとぶるっと身震いすると、キッチンへ行きました。豆の缶詰とトマトの缶詰とがあったので、スープをつくることにしました。トマトの缶詰に描いてあるトマトの絵をみながら、ロンさんはつぶやきました。「俺の方がうまいじゃないか。でも俺はこんなところに絵を描く絵描きにはならないぞ」それは、もしかすると本心ではなかったかもしれません。なぜなら缶からトマトの絵が描かれた紙をはがすと、そっと大事そうに冷蔵庫にマグネットで貼り付けたからです。(ロンさんの部屋の冷蔵庫はそんなふうにして、缶詰の紙や、何かの包装紙などの切れ端がめいっぱいはられていて、さながら小さな美術館のようでした。)トマトスープがぽわんといい匂いをさせると、ロンさんは鍋をコンロからおろし、火を止め、マグカップにスープを注ぎました。そしてマグカップを持って、窓際のソファまでやってくると、腰をおろし、窓の外を眺めながらスープをすすりました。空は暗く、雨は強まってきました。窓に水滴がいっぱいあたっては、流れ落ちていきました。ロンさんは、それをみつめながらスープをすすっていました。