5.3本目から16本目の牛乳瓶について

牛乳瓶の中身は、昨日と同じように、ほかほかと湯気をたてていました。そして同じように、濃い牛乳の匂いがしました。トモカさんはもう、誰が何の為にくれたのか、なんて考えずに、いそいそとマグカップに牛乳を注ぎ、飲みました。今度は涙はでませんでした。そのかわりに口のよこをすこし持ち上げました。微笑んでいたのです。

お昼すぎになると、トモカさんはいつものように窓を半分あけて、中庭を眺めました。桜のつぼみはたった一日しか違わないのに、昨日よりもっとふくらんだように見えました。
そこへ402号室のトモくんがやってきました。
「おはよう」
トモくんがいいました。
「おはよう」
トモカさんが答えました。
トモくんは何かがいつもと違う気がしました。でもそれが何かはわからなかったので、トモくんは何もいいませんでした。
二人はぼんやりと中庭を眺めました。トモくんのお腹が、ぐうとなりました。
「牛乳、飲む?」
とトモカさんがおそるおそる、といった様子でたずねました。
トモくんはただ
「うん」
と言いました。トモくんは昨日と同じように牛乳がドアの前においてあったのかどうか、とてもたずねたい気持ちでしたが、どうやらそれを聞くとトモカさんはとても居心地が悪いらしい、ということだけわかっていたので。今度はそれ以上何もたずねませんでした。
トモカさんもそのことに関しては何も話すつもりはなかったので。ただトモくんを部屋に招き入れると、コップに牛乳を注いであげただけでした。
二人は窓際のソファの背に座って、またぼんやりと窓の外を眺めました。

それから二週間の間、毎朝トモカさんがマグロストリートのお店から帰ってくると、ドアの前には湯気のたっている牛乳瓶が置いてありました。
最初のうちは飲む度に、誰が何の為に置いているのか、ということが頭の端をかすめましたが。だんだんそんなことを考えなくなりました。
考えても答えはわからなかったからです。そしてなによりその牛乳がとてもおいしかったので、考えても考えなくても、結局トモカさんは牛乳を飲んでしまうのでした。
そして二週間目の朝、トモカさんはいつものように、お店から帰ってきました。もしそのときトモカさんの横を通り過ぎた人がいたなら気づいたでしょう、トモカさんが小さな声で歌を歌っていたことに。
そしてトモカさんが、部屋の前までやってきた時。
ドアの前に牛乳瓶はありませんでした。